第42話 アノヤマノボレ

 私イレキ・シタワはアーメリア王国魔法学校留学中は生徒会副会長をやっていた。

 そこでシラユリ様にすべてを捧げシラユリ様の女になった。それからは毎日料理を作って食べさせてあげた。私の人生の中でも至福の日々だった。


 あの三年間は私に夢のような時間をくれた。

 私はシラユリ様とある約束した。


「私は卒業したら2年以内にアーメリア王国を手に入れるわ。それまでイレキも出身国の最高権力者になっておきなさい。最終的には私が世界統一国家”シラユリ帝国”を作るから。あなたのところにはときどき遊びにいくわよ。楽しみにしていてね」

「必ず来てくださいよ」

「あなたが言いつけをきちんと守ったらね」




 私の父は軍人だった。

 フタマタ商業国家軍最高司令官が彼の役職だ。

 帰宅後毎日のように商団連の連中が横やりを入れてくる。議員は買収されていてこの国は腐っている。

 いつかなんとかしなければと語っていたが、何もできないまま父は退官した。父も口だけの人だった。


 私も軍人になった。

 父の在任中は親の七光りを存分に利用し入隊後半年で少将まで昇進した。

 だが父が退官した後は誰も私の進言を聞かなくなった。


 この国の軍人は皆クーデターをする甲斐性かいしょうなどないようだ。

 私は子飼の将校に命令し、彼らの始末と商団連の幹部の首を切った。

 首をねたのではない。

 イタレカダ中佐は有能だった。商団連の幹部の不正を暴き、軍幹部の汚職を暴いた。


 クーデターで取った政権は又クーデターで倒される。

 私の目の上のたんこぶさえ除けば私が自然と最高司令官になる。


 商団連の幹部には私の部下をあてがった。

 彼らはベッドでペラペラと不正の数々を喋った。

 証拠は揃った。


 国会議員も同じようにハニトラにあわせた。

 世論は既成の指導者にそっぽを向いた。


 そこで私は合議制度から共同指導者を選び権力を与えることを提案した。

 商団連は猛反対したが

「私は半年で降りるわ。あとは二人で決めたらいい」

 と提案したら簡単に承諾した。


 誰も譲るとは言ってない。

 約束通り私は半年後共同指導者から降りて、新たに最高指導者に就任したわ。

 譲る気などないわ。


 すでに1年半だ。彼らは文句を言ったがハニトラに簡単に引っかかった。

 もう私の僕だ。

 今では毎日交代で私のイスを志願する。キモイやつらよ。


 今日は首相の番ではないだろ!お前だよ・商団連会長の番だ。

 涙を流す程嬉しいのか?ほんとうは私は男が虫唾むしずが走る程嫌いなのだ。

 政治家も経済人もロ〇〇ンか変態の集まりだった。




 アーメリア王国侵攻の号令がかかる少し前、侵攻軍の片隅でひそひそ話す声がした。

「いいか、いいことを教えてやる。間違っても、国王の首だけは取らないことだ。イタレカダ大将に手柄をゆずれ。俺のようになるな。俺のように二度と使い物になりたくないのならばな!」



「いいか、これから転移門(戻り門)を使って1階層に行く。

 今日は正月だ。王都ダンジョンも元旦は入口を閉鎖してある。

 11階層からは上級冒険者のみだからそのまま潜っている冒険者が多数いる。

 いいか、間違っても魔物を狩ろうとして違う階に行くのではないぞ。ここの冒険者に遭遇する前に魔物と遭遇する。深層の魔物はお前たちでは一口で餌になるだけだ。

 それに深層の冒険者は強いからな」


「イタレカダ大将、イレキ最高指導閣下より連絡がありました。作戦名“アノヤマノボレ”を実行しろと」


「諸君手柄は立て放題だ。アノヤマノボレ!!!」


 突然上空から瓦礫がれきの山が降ってきた。

 転移門(戻り門)の前はギュウギュウ詰めだった。

 一瞬のことだった。誰も逃げることができなかった。


 上空に少女が現れると同時に瓦礫の山が頭上から降ってきた。

 イタレカダは情報が間違っていたことを知った。

 王女が転移魔法の使い手だった。

 しかも人害級をしのぐ超人害級。

 イレキ様に伝えなければと思ったがすでに頭上30センチには2メートルもあろうかという岩石があった。


 餌がたくさんあるのだ。

 100階層は魔物の群発する場所となった。


 王女が転移魔法使いと露見したが報告者はいない、全員魔物の餌となった。

 10万人分もあるのだ。

 正月は魔物にとっても特別の日となった。




 ~年末:アーメリア王国王都軍本部~


 プリット大将が円卓の真ん中に座って、作戦会議を宣言した。


「おほん。これからどうしたらよいか作戦会議を行う。本日から“ヨセアツメ”の諸君は姫様の私兵となった。これから姫様のためにがんばってもらおう。

 私兵といっても給料は軍部から出されるからな。

 それに給料は大佐並だぞ。


 まあもうアーメリア王国軍人みたいなものだ。

 それと君たちは本日死亡したことにした。

 君たちの出身国には我国の軍劇団が間者の目の前で君たちに扮した役者を殺害したことにした。

 儂のサービスでいつもの倍の血糊を用意してやったぞ。


 君たちの名前が本名でないことはわかっている。

 これからは今名乗っている名前で過ごすがいい。

さてこれからが本番だが」


ミラージュ先生が手を挙げて

「はいはい!私すごいこと思いついちゃいました。せっかく年末はみんなでドンチャン騒ぎして年越しをするつもりだったのに、こんなことになって。早く済まして、温泉に行って、すき焼き食べてダンジョンオレンジジュースを早く飲みたいです」


「おお、ミラージュ先生何か名案が浮かびましたかな?」


「100階層はわりと天井が低かったのよ。ときどき水滴が降ってきたから割ともろいのではないかと思ったのですよ」


「先生、何が言いたいのです。天井のこけでも食べたいのですか?」


「キレイナ、なにバカ言ってるの、学年主任に降格するわよ!!」


「幽霊ダンジョンの安全地帯から転移するのは王都ダンジョンの100階層安全地帯です。安全地帯は魔法学院の運動場くらいの広さです。

 10万人が武器を持って待機できません。

 敵軍が集合するのはまあ誰が考えても転移門(戻り門)の前だと思うんですよ。

 あそこはり鉢状になっていて割と狭いでしょ。

 軍ならば魔物よけの魔道具は持参するでしょうから、あそに送ると思うのです。

 それにあそこに集まる程度の軍隊しか送れないはずです。

 武器の持参も考えると10万人から12万人くらいでしょうか。


 午前中に敵軍はいなかったので本日夜中に移動すると思われます。

そうですねー、前もって1個が1~2メートルくらいの大きさで天井の岩石を“さいの目切り“のように縦に切れ目を入れときます。

 明日敵軍がきたらマリアンナに転移してもらって真横にウインドカッターで切れ目を入れてもらいます。そしたら岩が落ちるでしょう。全員丸潰れです。

 サンドイッチのできあがりですよ」


「ミラージュ先生表現が怖い」

「いいのカネヨ、敵には容赦しないの。私の年末を壊したのだから」

「先生質問です」

「何ですか、マリアンナさん」

「私、転移の瞬間は一瞬回りを認識できないんですよ。敵軍に斬られちゃうではありませんか」

「私が何年教師をやってると思ってるんですか。まあほんの3年ですけど。あそこは目測ですが天井までは30メートル程度でしょう。

 転移して1秒間に自由落下で5メートルくらい落下します。

 そこでウインドカッターを使います。

 念のためすぐに火炎魔法も使って爆破してください。あなたなら一瞬でしょうから。まあ予備にもう1秒かかると仮定しましょう。そうすると最高でも20メートルしか落下しません。そこで瞬間移動すれば楽々ですよ」


「岩が崩れた瞬間に敵が気づきませんか」

「大丈夫よ。天井が隙間無く落ちるのよ。見えるわけないじゃない。たとえ見えても気づいたときは岩石とお友達になっているわ」


「ミラージュ殿は名作戦参謀さんぼうですな。その案でいきましょう。

 姫様明日は寝坊しないようにお願いします」


「違いますわよ。先生は早く温泉に行きたいから頭を絞っただけです。

 いつもはカラッポなんですから」



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