第43話 戦後処理

 フタマタ商業国家との戦いはあっけなく終わった。だが戦後交渉はできていない。フタマタ商業宇国家軍の兵士が全滅したため誰一人捕虜に出来なかった。相手国と損害賠償金の交渉をしようにも死体すらないから証明できない。



 転移門(戻り門)前の人骨と落石はダンジョンの修復力で元通りになっている。安全地帯は魔物が来ないが修復力も弱い。シラユリの残したゴミが残っていたのも安全地帯に捨てていたからだ。


 フタマタ商業国家軍から斥候せっこうがたくさん送りこまれてきたが魔獣の餌となっていた。魔獣はよいえさ場をみつけた。

 A級の軍人もいたが、斥候数人では大量に発生した魔獣にかなうはずがない。

 10万人の餌は魔獣たちを大型化させた。

 今日も腹を空かせた魔獣達が我先にと口を開けて待っている。


 餌の発生場となったため安全地帯の回りは魔獣だらけとなった。

 安全地帯から出てくる者を襲えばいい。

 水辺のそばで潜んで口を開けていればいい。

 魔獣達は餌場の発現に微笑んでいる。


 フタマタ商業国家は初めから2日後に派兵する予定だったのだろう。

 部隊の武器類は簡素なものだった。

 初期部隊の武器が重武器だったから第2派兵部隊は王都の治安を担うための部隊なのだろう。アーメリア王国を征服できることを前提とした作戦だ。


 あのとき、まさか2日後にやってくるとは……想定していたけどね。

 正月ぐらいゆっくりすればいいのに。

 王都は地獄絵図でアーメリア王国民の死体の山と判断したのだろう。

 なぜすぐ転移門(戻り門)を使って1階層に転移しなかったのだろうか。

 何方道どっちみち1階層は軍で固めていたから無駄だったけどね。


 また転移門(戻り門)前で訓示をしていた。

 軍のお偉方えらがたは自分を強く見せるために訓示が好きだ。

 フタマタ商業国家軍5人人には前回と同じく岩石の下敷きになってもらった。

 100階層にまた魔獣が増えるじゃないの!

 ここに魔牛はいないのよ!

 どうせなら魔牛がたくさんいる場所に転移してきてよ!


 2度の侵攻はフタマタ商業国家政権をガタつかせた。軍部は兵士の半数を失い、弱体化した。

 国家最高機関最高指導者イレキ・シタワはクーデターが起こりそうだったから非常事態を宣言した。



 クーデター首謀者を公開処刑し、軍人15万人を失った張本人とした。

 クーデター首謀者には国会議員・商団連・軍部がいた。

 イレキ・シタワにとってはグッドタイミングであった。

 すべての責任をこれらの者に負わせることで、自らの政権を安定させた。


 国家最高機関最高指導者イレキ・シタワは二度と幽霊ダンジョンを利用することはなかった。

 2度目の進軍でも情報すら得られなかった軍部は幽霊ダンジョンを閉鎖した。というか閉鎖せざるを得なかった。


 マリアンナ以下アーメリア王国魔法団が総戦力で幽霊ダンジョンの各階層の入口を徹底的に破壊した。ダンジョンの中は自然復旧するが入口は復旧しない。



 ドキュメント王は緊急回線でフタマタ商業国家最高機関最高指導者イレキ・シタワに正月が明けたらインキナ共和国・神聖キツソウ国・フタマタ商業国家・アーメリア王国の四カ国でこれからの国家間の貿易協定について具体的に取り決めまることを提案した。


「貴国との貿易協定もこの際見直したいのですな。我国は弱小国家ですから他の2カ国とも見直したいと思っております。

 特に金の交換比率ですが、我国との金貨の交換比率を現状の10:1から1:1にしたいと考えております。

 金の含有量と重さが同じで模様が違うだけですから1:1が本来の形ではないでしょうか。


 会議が終わったらいっしょに“アノヤマノボレ”をしませんか。

 15万人で登れば爽快そうかいでしょうな。

 では、まずはそちらの政権の安定を願っています。

 交渉相手が変ると挨拶から始めないといけませんからな。詳しくは我国の官僚を派遣しますので、トップ会談は今月末日でいいでしょうか。よいお返事を待っています」


「ガチャ」



 フタマタ商業国家との戦後処理は割とスムースだった。表面上アーメリア王国に侵攻していないことになっている。これを表に出すと現政権は崩壊する。国も混乱するだろう。我国の被害は全く無かった。あえて挙げるなら軍人と魔法使いへの臨時ボーナスくらいだ。


 イレキ・シタワが失脚すると戦後賠償を話し合う相手がいなくなる。神聖キツソウ国のようにいつまで経っても交渉相手が存在しないことになると困る。


 両国は戦争をしていなことになっているため賠償金という形は取ることができなかった。


 世間には次のように発表された。


【幽霊ダンジョンでは魔物退治に軍人15万人を派遣したが全滅した。魔物の正体はは宇宙怪獣のアンデッドだった。宇宙怪獣など見たこともない。そのアンデッドなど誰も知らない。光魔法を使える魔法使いはこの国にもいる。軍にも国内最強の魔道士が所属している。だが宇宙怪獣のアンデットを浄化する魔法使いはメンドウ大陸にはいないというか、そもそも宇宙怪獣など聞いたことがない。

 アーメリア王国の国王から直接フタマタ商業国家最高機関最高指導者イレキ・シタワに対して連絡があり、我国に宇宙怪獣のアンデットのみを浄化できる魔法使いがいます。その者は軍の超機密該当者です。しかしこの度貴国が困っていること、このままいけば宇宙怪獣アンデッドが外に出てくるかもしれない。そうすると貴国だけでなく我国の国民の命も危ない。我国としては苦渋の選択でしたが、貴国にその者と我が国の魔法団を派遣します。】


 こんな話を誰が信じるだろうか?

そんなことはない。政府が発表するのだ、疑う者はいない。

フタマタ商業国家には洗脳機関MHK放送局がある。毎日のように魔道ラジオで流したから問題ない。


 宇宙怪獣アンデッドの浄化と幽霊ダンジョンの破壊はうまくいったがその魔法使いは魔力を消費しすぎて絶命した。

 アーメリア王国としてはフタマタ商業国家のために世界に一人いた宇宙怪獣アンデッド専門の魔法使いを失った。


 フタマタ商業国家としては宇宙怪獣アンデッドの浄化謝礼金と死亡した怪獣アンデット浄化専門魔法使いに対する弔慰金としてアーメリア王国金貨1,000枚を支払うことになった。


 一番の成果は今回から金貨の交換価値が1:1になったことだった。

 幕末の日本と同じような状態であったものを正常な状態にすることができた。

 アーメリア王国の金貨10枚でフタマタ商業国家の金貨1枚と交換していたのである。おかしいと感じるのがあたりまえである。模様が違うだけで、金貨1枚の金の含有量と重さが全く同じなのに。

 これは列強3カ国から暗黙の強迫を受けていたアーメリア王国にとっては悲願の達成であった。


近隣諸国のアーメリア王国に対する態度が変わった。たとえどのような言い訳をしようと他国のスパイは真実を本国に報告している。これまでクズ国と思われていたアーメリア王国は超特級魔道士を複数名かかえ国民は王女を信頼している。しかも王女の廻りには影と呼ばれる存在が見え隠れしている。迂闊な手出しは火傷をする。火傷ですめばいい、国が滅ぶかも知れないほどアーメリア王国は力を付けている。


姫様もう人前で魔力を使うのをやめてください。魔道契約の紙がもうありません。

「えへへ。ごめん。またやっちゃった」

「今日はここにある1万枚すべてに魔力を流し終わるまでおやつはありませんからね」

コサミメイド長は腕を組んで見張っている。

私は自分のやったこととはいえ今日から1週間は魔力を流すから何処にも行けない。自由がない。ふと、この大陸をすべてアーメリア王国にしたら私は正々堂々と他人の前で魔力を使うことが出来るのでは?

そうよ。それがいい。「ガハハ、敵兵はいなくなった」

私はメンドウ大陸を支配した。

ははは、これで魔法の使い放題だーーーー。

「Zzz……」

「姫様、まだ100枚しかできてませんよ。寝ている時間はありませんよ。ご飯抜きになっちゃいますよ」


夢のようにはいかないか。

改めて魔力を流す。

夢のようではないけど、魔道契約書を作成しないですむような世界になったらいいと思う。くるかな。くればいいな。



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異世界で伯爵令嬢に転生した俺は魔法が使えた。毎日のことだけどメイドの巨乳はうれちい。 まとゆく @sumi6479

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