第16話 6人の冒険者

 ~王都軍本部にて~


「プリット中将、タービン少将からお電話が入っております。」

「繋げ」

「あ、お父・・いえ、プリット中将、例の6人ですが姫様といずれ接触すると思われます。昨日手の者が大怪我をしてしまいました。6人を始末するのは簡単なのですが、まだ利用価値がありそうなのでそちらで処理していただけますか」

「わかった。姫様にひとつご協力願おうか」


 ドキュメントジジイの知り合いという爺ちゃんが宿を訪ねてきた。


「私は越後のちりめん問屋の隠居をしておりますヨツエモンと申します。昨日魔牛のことを教えてやってくれと昔から親しくしていただいているドキュメント様からご依頼がありまして、尋ねてきた次第です」


 助さん・格さんは一緒ではないの?


「それはわざわざご苦労さまです」


むふ!すき焼きができるわ。


 「それで何処にいるのですか」


「15階層の湖の近くに出没するようです。それもお昼の1時間だけです。お役に立てたらいいのですが」


 ヨツエモンさんは胸元から数枚の紙を出した。これは私がビータンにおやつと交換に毎日魔力を流した紙だ。


「これを使ってくだされ。ドキュメント様からお連れの方以外の前で魔法を使うときは必ずこの“誓約書”にサインさせるよう言われたので持ってきました」

「治癒魔法も入りますか?」

「それこそ、もちろんです」

「内容を確認ますね。え~と」


「”私マリアンナ・イイナが(   )魔法を使うことを知らない他の者に喋った場合にはあなたの心臓が溶けて死亡します。なお、私はあらかじめこの書面に印刷されている全事項を守らない場合にも同様の効果があることを承諾します。 署名    印”」


「少し内容が怖いですが、これだけしか書いてなくていいのですか」

(  )の中に使った魔法を全部書くのですか?」

「いいえ一つでいいですよ。もし(  )の中に書くのを忘れたらどうなりますか」

「それでも大丈夫です。効果は変わりません。

 署名と血判さえ忘れなければいいのですよ。血判をすると契約が成立します。

 フワッと光ると魔力が署名した者の心臓を縛ります」


「何も心配しなくて大丈夫ですよ。誓約書を作成したものが性善説の権化ごんげのような男ですから抜け穴を探して誓約を破る人がいるなど想定していません。双方がサインして血判を押すと終わりです」


「この用紙ですが、A3紙なのに下側と右側が空白なのですが紙がもったいないですよ。半分に切ってA4にすれば倍になりますよ」


「いいえ、この手の誓約はA3紙でなければいけないのです。

 裏面も決して汚してはいけません」


「血判だけでいいと思うのですが、印はどうして必要なのですか」


「それは誓約書らしい雰囲気です。創世紀イイナ伯爵が採用した書式なのです。それで我国には印鑑文化が発達したのです。

 慣例というやつです。

 まあ無くても血判があれば誓約効果に影響はないのですが印鑑のない誓約書は本物らしく見えないのですよ」




 ~C級冒険者6人のテント内~


 各自テントの中で夜を過ごしていた。

「リサ姉さん、あの子がいてくれて助かったわ。私本当に覚悟したんだから。

 でも、この誓約書を見てふと思ったのだけど、喋った場合だけが対象よね。

 私たちは命の恩人に感謝しているから他の人に知らせるようなことはしないけど、この誓約書穴だらけよ。


 たとえば書面で知らせることができるし、(  )の中には“ちゆまほう”としか書いてないわ。あの子いろいろな魔法を使ってたみたいよ。それにまだ考えつくことたくさんあるわよ。他の人は大丈夫かしら」


「そうね、あの4人とは1階層で初めて会ったからどうかしら。

 マナあなたはどう思う」


「男性2人もなんとなくだけど、もう2人の女の子は問題あるかもね。

 名前が怪しいのよね」


「名前で判断するのおかしいでしょう?」


 二人がロウソクの光で照らされる誓約書を見ていると、沢山の文字が浮かんできた。


 さすがね。私知らなかったわ。リサ姉さん私も初めて知ったわ。

 噂には聞いていたけど諜報部は恐ろしいところね。




 ~その頃名前が怪しいと言われてしまったもう一人の女の子イパスは~


「ふふふ、この誓約書、“ザル”だわ。

 これを作った人はよほど正直者かバカね。なんとでもできるじゃない。

 それにこのガラ空きの誓約書。もっと小さな紙でいいのに。

 私は助けてもらったわけではないから、治癒魔法だけは喋らないわ。

 ほかの魔法のことは喋ることができるし、暗号で知らせることもできるし、堂々と文字で書いて知らせることもできるわ。


 明日も早いし、早く魔道ドライヤーをかけないと風邪を引いてしまうわ。

 せめてお湯で洗いたいわね。

 王都ではやりのシャンプーも使ってみたいし。

 この誓約書、置く場所がないわ。

 まあいいわ、持ったまま髪を乾かしますわ。

 早くお風呂で髪を洗いたい。

 水魔法の水はチョロチョロしか出ないから時間がかかるのよ。

 それにこの階層は少し気温が低いから頭が寒いわ」


「もう寝よう。

 誓約書はカバンに入れておこ-と!

 ギャーーーーーー。何これ!

 この浮き出た文字!

 虫眼鏡で見ないとわからないぐらい小さな字でビッシリ印刷してあるわ。

 裏面にもビッシリ印刷してある。全部読むのも辛いぐらい。

 うっわ~!!

 これではあの子のことは一切他の人に知らせることができないばかりか、あの子に協力しなければならないじゃない。やられたわ。血判の後で書き足したものではないからここに書いてあることは全部有効だわ。もうスパイ活動しても本国に知らせることができないわ。裏切ったら殺されるし、どうしよう」


 他の3名もロウソクの明かりで誓約書を見ていた。

 イパスと同じようなことを思っていた。この誓約書は”ザル”だと。

それぞれこのパーティーからすぐに抜けて明日にでも本国に帰国しようと考えていた。

 だがロウソクの熱に反応して文字が表裏にビッシリ出てきた。


「ギャーーーーー!」


 ここでも同じことが起こった。


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