第17話 嵐の前の温泉三昧

~イイナ伯爵城に帰還~


「お帰りー。儂のマリちゃーん」

「まあ、マリちゃん、約束を守ってくれたのね」

「あれ、お母さん今日はマメマメ村の紅茶園に行く予定ではなかったの。どうしてここにいるの?」

「私だけ、除け者はよくないわよ」

「昨晩ドキュメントが挙動不審だったから、白状させたの。

喋らないと太陽が昇るまで眠らせないわよってね。

簡単に白状したから3回戦で許してやったわ。ほほほ」


おい。爺さん口笛吹いてもごまかされないぞ。


「私は母親よ。わからないと思って!」

(本当はドキュメントがあれに集中しないから不審に思ったのだけどね)


「だってお母さんすぐチビット辺境伯領に行けと言うもの」

おい、お母さん口笛吹いてもごまかされてやらないぞ。


「ところでお母さん。私の仲間を紹介するね。

同級生は知っているわね。先生も一緒だよ」


「1年生のときに豚組の担任をしていましたミラージュ・シンキロウです」


「あ~、先生、とってもよくして頂いたのに、転校されて。お聞きしましたわ。ご苦労されたんですってね」


「いいえ、おかげで又みんなと一緒になれて毎日が楽しいです」


「お母さん、すき焼きにしようよ。上霜降り肉よ。いくらでもあるから」


「そうね。あなたの発明したすき焼きは美味しいからね」


「お母さんが大和王国の醤油を輸入してくれたからできたのよ」


「それじゃあ、50kgほど私の魔道カバンに入れておいてくれる?」


「ちょっと貸して、入れといたよ」

「ほんとうにあなたの作った魔道カバンは便利ね。でもちょっと野暮ったいのよね。次帰ってくるときにもっとコンパクトでおしゃれでデザインが優れていてこの屋敷が入るぐらいの魔道バッグを作ってね。好きなもの沢山入れたいから」


「お母さん、こき使うわね。わかったわ。火炎竜の炎のように真っ赤な皮が今のお母さんには似合うと思うわ。最近イケイケギャルだもんね。来週まで作っておくわ」


「お肉は明日ビータンにマリアンナが取ってきた肉だからみんなですき焼きにするように言っておくわ」

(屋根裏がゴトゴト騒がしい)

「チュゥ」

「ニャーオー」


「そうかそりゃいいな。このいい匂いだけをいでここを警護するのも大変だからな。それにマリアンナが狩った肉ならなおさらだな」


「ここは離れなので、誰もこないわ。今日はメイドもここには来ないから、さあ、すき焼きを食べましょう」


「おいしいな。この肉は……おいしい。儂は毎日でも食える」


「舌でとろけるわ。マリちゃんタレと玉子追加ね」


「先生、肉ばかり食べないでください。私の分がなくなっちゃうじゃないですか」

「キレイナさん、年上をうやまいなさい」

「何言ってるんですか。私たちと3つしか違わないじゃないですか」


「カネヨさん、肉に関してはその3つが大きな差なのですよ」


「あ~玉子を直接鍋に入れないでーーーカネヨやめてーー」


男3人はあえて話に入らず黙々と肉を頰張っている。


「あ~お腹いっぱい。お母さん、片付けが済んだらみんなで温泉に行かない?」


「温泉って?チベット辺境伯領温泉?」


「あ!言ってなかったわね。寮は時間制限があってゆっくり入れないから、毎日一人でイイナ伯爵領の森の奥にある湖の近くで掘削をしていたら、1週間前に60度のお湯が出たから土魔法を使って温泉場を造ったの。お風呂もチビット辺境伯のものよりさらに大きなものよ。しかも掛け流しだからいつもお湯が満杯よ。

 それに私が再現した石けん・シャンプー・リンスも作って置いてあるわ。魔物が襲ってこないように二重の外壁で囲んでいるから安全よ。天井はチベット辺境伯領温泉と違って強化ガラスで作ったから、太陽も月も見られるよ」


「私はあなたの言ってる意味がわからないわ」


「はいはい、着替えは持ってきてね。私の下着は準備してあるけど、みんなはもってこないとスッポンポンだよ。まだ増築中だから洗濯槽の準備ができていないから。早く私の近くに来てね」


「着いたよ。あ、混浴じゃないからね。男子は向かって右ね。女子は左ね。真ん中はまだ建設中だから入れないよ」


「なに、このシャンプーって、すごい汚れが落ちるわ」


「お母さん、洗い終わったらリンスを使ってね。しっとり仕上がるから」


「こんなものいつ作ったの」


「へへ、グッドライフを送りたいから、がんばったんだよ」


「材料は自然のものだから取り放題だよ。ほとんどこの森にあるしね。体にもいいよ」


「来週帰ってくるときにフルセットお願いね。必ずよ。城の中に無いのは残念だけど、歩いてくるわけではないからいいわ」


「お母さんこれ渡しておくね。ここの湯量すごく多いの。この岩竜の皮で魔道袋を作ってこれにお湯を入れといたから。これをお風呂に入れて楽しんでね」


「今度お母さんとメイドさんのためにお城の庭にチベット辺境伯領みたいに温泉を造るから。あそこはお湯が出ないから魔道袋から出してね。掛け流しはここで味わってね」


「あ~、いい子に育ったわ。私何もしてないけどね」

温泉を満喫した一同は、幸せいっぱいの顔で眠りに就いた。


時々聞こえるお母さんの声が五月蠅うるさかった。

こんな夜中に「行くーーー」って?

どこに行くのかな?

どこかに行きたいのかな?

治癒魔法かけようかな?


と思っていたらミラージュ先生が「あの~。ここ雑魚ざこ寝で聞こえるんですけど。私の……始末……どうしてくれるんですか。外でお願いします」


先生、外は魔獣だらけですよ。



~朝がきた~


8名は執事もメイドもいない空間で朝食を楽しんだ。

「ジイジイの目の周りにクマができてるよ。昨日お片付けしていたの?ずっとギシギシ音がしてたよ。」


「治癒魔法をかけてあげるね」

「あれ、お母さんなぜ顔赤くしてるの?」


「このハムエッグは私が早く起きて作ったんだからね。味わって食べてよ」

「マリアンナはハムエッグだけは上手だな」

「ビリット、当たり前じゃないの。エッヘン」

「儂はうれしい」

「はいはいあなたは泣かないで」

「お母さん、なんでジイジイをあなたって呼ぶの……?」


ミラージュ先生が

「ねえマリアンナ、まだ増築中ですわよね。

次回までに壁の囲いを広げて外に安全な空間を作ってちょうだい。あの二匹を放り出してちょうだい。安眠したいの。

盛りの付いた犬は犬小屋で飼わないとね」

「あの、それお願いします」

マナさんがもじもじしながら頷いた。

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