第15話 巨大魔牛

 わたしは毎日趣味と実益を兼ねる冒険者生活が体に合っていた。

 1月後には11歳の誕生日だ。今年の誕生日プレゼントは何かなあ?

 ”今後頬ずりしない”というのはどうかな。


「今日もダンジョンに潜るよ。今日は15階層に行くよ。みんなわたしの回りに集まってね。」

「ねえ、マリアンナ、宿屋の部屋で集まってどうするんだい?」

「ヒンセイ、わたし転移魔法が使えるって言ったことなかったっけ!」

「いや、聞いていたけど。そんなの信じられないよ」

「とにかく私の回りに来て。できれば身体が触れるぐらいに来てくれる。先生、まだ食べてるんですか。早くしてください」

「ごめんごめん、このシュールストレミングって臭くておいしいのよね~」

「先生他の人が迷惑するからそれ食べるのやめてください」

「あら!マリアンナなんでも慣れよ」

「……」


「はい、15階層に着きました。この時間帯はまだ誰も来ていません。さあ、行きましょう」


樹海を抜けると草原地帯に出た。


「私は、魔牛でいいです。大和王国から醤油を輸入できたから毎日すき焼きでいいです」

「すきやきは、お前の発明の中で一番だぞ」


 わたしが発明した訳ではないのだけどね。前世の知識だよ。大和王国には私と同じ日本からの異世界転生者がいそうな気がする。


「おい、なんで俺の大好きな14階層を抜かすんだ。それに昨日23階層だったじゃないか。普通次は24階層だろ」


「ビリット、あなた昨晩の打ち合わせを覚えてないのですか。

 8階層から10階層はD級が1人でいける場所ですしさほどおいしい肉は出ません。

 14階層はおいしい肉たちはほとんど出ないのですよ。鉱物化した魔物がほとんどで食べられないから行かないと決めたではないですか。私は鉱物に興味はないのですわ。魔牛さんいないし!」

「……」


「ちょっと小耳に挟んだのよ。大きな肉、いえ、魔牛が出たって。資料によれば、この階層は10キロ四方あるようです。湖のほとりに安全地帯があります。とりあえず安全地帯に移動しましょう。人はいないと思ったけど、テントが数張りあるようですね。みなさんまだ就寝中なのでしょうか」


「ねえマリアンナ、なんか、うめき声がするみたい。ちょっと様子を見に行ってみない?」

「そうね、キレイナ、苦しそうな声だしね」


 テントの中を覗くと体中に包帯を巻いた女性が息も絶え絶えの状態で、その回りを数人の冒険者が囲んで一人の女性が涙を流しながら手を握っている。

「ごめんね。ごめんね。私たちのせいで」


「あの~。ちょっといいですか」

「あなたたち、何!この状態を見ればわかるでしょう。遠慮して!」

「お子ちゃまには関係ないことよ」


 確かに王立魔法学校を卒業したから成人とみなされるけど世間的には10歳のお子ちゃまだ。

「あの~。わたちがなおちてあげまちゅけど~」


 初対面の巨乳姉さんには上がってしまって幼稚語になってしまう癖は直らない。


「この誓約書にサインをしていただければ治しますけど」

「馬鹿馬鹿しい」

「子供の言うことを真に受けられるか!」

「待って!私の姉なのです。助けてください。みんなもお願い。急がないと姉さんが死んでしまう。私はわらにもすがりたい。どこにサインすればいいの?」

「え~と、全員サインしましたね。お姉さんにはあとでサインしていただけるようにお願いします」

「ではいきまちゅよ」


 彼女はかなり重症のようで一部傷が壊死しかけている。治癒魔法と解毒魔法と回復魔法を同時発動した。

 注意深く魔力を込めて……気持ちが出てしまい、「にゃおりぇ!」と唱えた。


 金色のシャワーが彼女に降り注ぎ、傷が消えていき、紫色に腫れた腕はきれいな肌色に変化し、青白い顔はピンクに変った。


 「治ったみたいでちゅね」と言うと同時にさっきまで死にそうだった彼女が起きるなり、お腹がすいたと言って、豚組も含めて全員が口をポカンと開けている。


「なんだ、こんなの見たことない」

「ねえ、あなた私たちのパーティーに入ってくれない」

「私どうしていたの。みんな集まってどうしたの」

「あ、彼女、元気になってよかったね。これにサインして!

 これで全員からサインをいただきました。この誓約書は魔力拘束の効果があります。他の人に喋ると心臓が溶けて死んじゃいます。くれぐれもご注意くだちゃい」


「私たちはC級冒険者なんだけど、資料になかった魔牛が出たんだ。ただの魔牛ならば私たちで対処できるんだけど、10メートル位の体長で、角はのこぎり型になっていて、しかもあの巨体なのにとても素早くてリサが私たちを逃がしてくれて犠牲になったんだ。

 ありがとう。なんとお礼を言っていいか。いくら支払えばよいでしょうか。ここまで治してもらって、相場がわからない」


「いいえ、いいでちゅよ。こんどわたちたちがこまっていちゃらたちゅけてくだちゃい」


 またやってしまった。巨乳のお姉さんを見ると緊張してしまう悪い癖が出てしまう。


「私たちは、これからその魔牛を狩りにいきます。これで失礼します」


 豚組はテントを出た。


「ねえ、あの子かわいかったわね。特にカミカミがね」

「朝ご飯の準備をしましょうか」


「おい、あの子昨日重体じゃなかったか!……?」



 ~数時間後~


「いたわよーーー」


カネヨが魔牛を発見した。

「じゃあ、火炎弾の準備をしておいて!」


「キレイナもいつでも土壁を発生できるようにして!」

「ヒンセイ!ビリット!欠伸あくびしてると食われるわよ」

「先生、また食べてるんですか~」


 前衛2人が左右に分かれて、土手っ腹を攻撃する。剣を交換した効果が出ている。

 魔牛が苦しんでいる。


「カネヨ!魔牛の顔めがけて火炎弾をぶち込んで!!」

「キレイナ!壁で囲んで動きを止めて!!」

「すぐに破られるわよ」

「いいの、ちょっと時間を稼げれば」


 わたしは動きの止まった魔牛めがけてウインドカッターを放って首を切断した。


「今日は豊作だったわ。帰りましょうか」

「もう宿に帰るのか?」

ビリットはまだ戦いたいようだ。

「そうですわ。だって、早く巨大魔牛のすき焼き食べたいですもの」

「ギルドにもっていかなくていいのか」

「ん~。今回はいいかな。だってこの魔牛を見て!霜降りがたくさんあるわよ。今のところお金はあるし、食べ尽くしたら魔石と牛革と角は売却しましょう」

「宿に戻ったら風呂に入りたいぞ」

「あ、宿には帰らないわよ。今から私がチェックアウトの手続をしてくるからここで待ってて!」


 ~5分後~


「手続終わったわよ。それでねえ、わたしのジジイが週に1回は帰って来いて言うのよ。そうしないと冒険者をさせないって。

 うるさいから週末に帰るって約束したの!。

 今日週末でしょ。今から帰るけど、みんなも紹介したいから、いっしょに行かない!行くよね!」


 全員 「はいはい……」


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