第19話 戦後処理

 ~2日後~


 豚組は、王都の処理が終わったのでイイナ伯爵領に戻り魔法学校と王都軍隊のことをイイナ伯爵に報告した。


 伯爵領は落ち着きを戻しつつあった。

 それでも死者は123名だった。

 一般人にも死者が出た。


 あちらこちらの城壁が崩れている。

 城の前に遺族が白布がかかった兵士の側で嗚咽おえつしている。

 少し離れたところには小さな布に包まれた小さな子が横たわっていた。


 私は自分の不甲斐ふがいなさを……悔しかった。

 涙が止まらない。


 小さな布の回りには放心した人々がれていた。

 わたしは逃げたい衝動にかられた。


 わたしのせいだ。

 もっと早く瞬間移動してシラユリを殺せばよかったと思った。

 だからジジイに悔しさをぶっつけた。


「お前のせいではない。相手は絶対多数だ。奇襲戦でしか勝利できなかった」


 確かに戦いが始まらなければ敵本部の守りは薄くならなかった。

 わたしだってわかっている。これがギリギリの判断だったことぐらい。だけど死んだ人は生き返らない。


 仮に戦闘前に奇襲をかけても成功したかわからない。たとえ成功しても豚組が無事に帰還できたかは怪しい。

 悔しいけど、これが戦争だと知った。


 いやテレビニュースでは見ていた。

 教科書にピューなんとか賞を受賞した“爆撃から〇〇〇”は白黒写真のせいか現実感がなかった。

 そのときわたしは写真撮るより早く助けろよと思った。


 現実の戦争を体験した。ドローンを使う現代戦とは違う。

 でも人が死ぬのは一緒だ。

 もう泣くのはやめよう。

 これから人々の安寧あんねいを目指して魔法を使う。


「お母さま、これからどうなるのですか」

「王都の王族はすべて殺されました。誰かが王位に就いて戦後処理をしなればならないわね」

「あ~あ、私の優雅な伯爵生活も終わりかなあ」




 ~1週間が経過した~


 わたしは王都にいます。いえ「王城にいます」


 クーデターが終結して5日後にドキュメントが王位に就いた。

 ジジイはモンシロ婆ちゃんと離婚して、クドレイナと結婚した。


 わたしは二人の子どもだったことを知った。

 今回のクーデターの終結をイイナ伯爵・ドキュメント・そしてわたしが中心となって行ったことで、ジジイを軍の王族派が全面的に王位に推挙したからだ。


 この国をこれ以上混乱させないためにはドキュメントが早急に王位に就く必要があった。

 ジジイをお父さんとは絶対に言いたくない。

 今でも呼ぶときは、ジイジイだ。

 ちなみにジジイは意外と若くて46歳だった。髭を剃ったら確かに若い。

 白髪頭と思っていたけど、きれいな銀髪だった。

 いつも手入れしていなかったから白髪に見えただけだった。


 ジジイはドキュメントⅠ世となり、イイナ伯爵領は王族直轄地となった。

 クドレイナとジジイは毎週温泉に行けと強請ねだる。

 二人には連れて行く条件を呑むのなら連れて行くけどそうでなかったら連れて行かない!と言ったら渋々承知した。


 だって雑魚寝している側で「行くーーー、ソコソコ……」止めて欲しい。

 わたしだって本当は何をしているかぐらい知っているわ。

「みんな国王だから我慢しているのよ。やるなら王城の自室でやりなさい」


「だってな、クドレイナがイイナ伯爵領を復活しないといけないから早く妹を作るといって攻めるんだ」

「お母さんも盛りのついた猫じゃないんだから」

「女の33歳は盛りなのよ。でも温泉は手放せないから、少しの時間くらい我慢してね。あなた」

「我慢するのはお母さんでしょ!!」


 今ではマーメイダも一緒に温泉に行く。

 わたしが転移魔法を使えることは機密にしているが、今では王直轄の軍部の一部とマーメイダと執事長のビータンには知られている。

 なんで?越後のちりめん問屋の隠居だった爺ちゃんも温泉に行くメンバーに入っているの?



 魔法学校は解散させられて、新たに冒険者ギルドと王族の共同出資で魔法学院と騎士学院を設立した。


 国内の各地から身分にかかわらず、魔法学園と騎士学園を卒業した者は入学資格を与え、冒険者は編入試験に合格すれば入学できるようにした。定員は300名としたが、どんどん増えているので定員を600名にする予定だ。王都では校舎の建築ラッシュが続いてる。


 ちなみに豚組といえば、ミラージュ先生は魔法学院の校長に就任し、キレイナとカネヨが副校長に就任した。


 騎士学院の校長は伯爵領で先頭にたって戦ったミランダ・カツイの父親のグンジン・カツイ中佐が校長に就任し、ヒンセイとビリットが副校長に就任した。

 ちなみにミランダは少尉に昇進した。

 みんな落ちこぼれ豚組だけど大丈夫かな~。


 ミラージュ先生のたっての願いで、平民で所得の少ない者も才能さえあれば入学できるようにした。

 財源には苦労したが、今回のクーデターで王族に加勢しなかった貴族からは罰金と称して金貨100枚を徴収した。

 反逆者の出身貴族にはそれ相応の厳しい負担をしてもらったが領民からは決して徴収しないように厳命してある。


 お前たちが賄賂をたくさん貯めていることは調べ済みだ。

 お家断絶にならないだけましだぞ。


 地方貴族は家族を人質に取られていたとはいえ王族に味方しなかったことで、チビット辺境伯以外はその地位を子に譲り隠居させられた。


 わたしは卒業後1週間に1度は豚組の面々とジジイとお母さんとマーメイダと軍部の爺ちゃんと温泉に行ったり、豚組の休日にはダンジョンに潜るようにしている。

 最近は王族付のメイドもいっしょに来ている。


 ちなみに温泉はいまも拡大中で、ジジイとお母さんのために防音二重壁で部屋を作ってあげた。

 王都に帰るまで待てないらしい。


 それから宿泊用の部屋も20部屋用意した。

 温泉後は当地で星を見ながら睡眠したいしね。

 真ん中の風呂も完成した。

 あとは洗濯槽だけだ。

 もう疲れたから寝る。


 今日もダンジョンに潜っている。

 やっと昨日11歳になった。

 わたしは髪を長くロングウェーブにしている。

 マーメイダが王族は華やかさが必要ですと言って勝手に変えやがった。長い髪がうるさい。


 わたしたちはダンジョンの到達記録を塗り替えた。誕生日に64階層に達した。

 忘れられない。新記録達成記念だ。その日は6人が森の温泉でドンチャン騒ぎをした。


 今日は70階層をうろついている。この階層に魔牛は見当たらない。カニの魔物が向かってきた。エアーカッターでハサミを切る。前衛2人が胴体を十字に切断した。さすが2人ともミスリル製だ。よく切れる。お~! カニはこの階層の主だったのか……。


 宝箱がある。50階層で初めて宝箱を発見したけど、キラキラ輝いていたので、ヤッターと飛び跳ねたよ。ただのガラス玉だったけど。この世界では高級品かもしれないけど、わたしはもうガラスを製造しているから、もっといいものが欲しい。かあさんの実家がガラス製造業だったからアルバイトに行ってたんだ。工場長にいろいろと教えてもらったから魔法使いとなった今はいくらでも自分で作ることができる。だけどカニ鍋はおいしかった。


 わたしは……~「今回はあまり期待しないぞ」

 顔はむふふと期待しながらも宝箱を開けた。

 あれ!なにやら手紙が入ってる。


【「あなたは私を殺したと思っているでしょう。残念でした~。転移魔法は私も使えるのよ。私の転移距離は短いですが。それにしても、今までよくもだましてくれたわね。しょぼい治癒魔法しか使えない思ってたわ。無能のふりをして!!あなたが転移魔法を使えることを知らなかったから、こっそりイイナ城の様子をうかがうために転移したのよ。本部から3回も転移しなければならなかったからヒヤヒヤしたわ。本部が襲撃されて、私の部下たちが殺害されてしまったけど影武者を置いていてよかったわ。あと少し時間がずれていたら私の首と胴体は離ればなれになっていたわ。命からがら王都のダンジョンまで逃げてきたら、ダンジョンに守衛が大勢いたから、転移魔法でちょびちょび見つからないように移動したわ。屈辱よ。

 50階層でダーリンに会ってから、この1月間70階層で暮らしていたの。そろそろほとぼりも冷めたし、ここの暮らしも飽きたしね。それに魔獣って臭いから嫌なのよ。それではまたね。

 あなたへの復讐は死んでも忘れないわ。楽しみにしていてね」

 シラユリ・ビッターレより 愛を込めて♡


 追伸:宝箱の中味はシャンプーだったわ。あなたにはあげないわ。ホホホ悔しいでしょう。シャンプーはまだ数が少なくてなかなか手に入らないのよ。あとリンスが欲しいけど。それから遅くなったけど誕生日おめでとう。これから復讐の始まりよ。ふふふ。】


「昨日までここにいたのか。結婚したんだ。”ビッターレ”ねえ。確かにビッタレな女だ。

 70階層の安全地帯はゴミだらけじゃないか。

 食べたらゴミを片付けろ。

 このゴムの伸びたのは……使ったらちゃんと始末しろ」

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