第20話 マリアンナの就職

 わたしは11歳になったのを区切りに、冒険者オンリーの生活を辞めることにした。


 だって豚組が就職したから続けられなくなったの。

 一人で潜っても面白くないのよ。一緒に喜び合える仲間がいて初めて満足感がある。


 温泉と王城での会食やパーティー。

 1週間に一度豚組の休日にダンジョン潜り。

 それだけでは体がなまるのよ。お腹が少しプクッとしてきたわ。


 わたしは軍部が腐ったからクーデターが起こったと考えた。

 前国王ゴッソリ・ソンシタは決して傑出した王ではなかったが、少数派閥なのによくやっていた。

 ただ、軍部の王族派が少数だったのがいけなかった。やはり王族が各軍部にいなければいけない。現在王都軍本部は特務軍団を中心に編成している。


 王都軍本部にわたしの顔は知れ渡っているので、親には内緒で地方の軍隊で体を鍛えることにした。


 ダンジョン潜りと温泉は続けている。ちがう、温泉は続けさせられているのだ。母に。


 トッテル駐屯地に入隊したことは軍部のちりめん問屋の爺ちゃんことヨツエモンに知られないようにしないといけない。

 日常を演じることが大事だ。



~トッテル駐屯地~


 ここは南部の辺境地で、隣国との国境線の前戦基地だ。

 わたしは看護兵として医療班に配属されている。

 わたしが入隊した日の翌日に医療班は7名追加された。


 昨日から国境の動きが激しくなったので負傷者が増加することを想定して本部からの異動らしい。


 この駐屯地の最高司令官は元々大尉レベルだったのだが、急に大佐が本部から来て就任した。

 大佐は軍医も兼ねていた。

 わたしの軍の評価は傷口しか塞ぐことができないくそ治癒魔道士だ。

 ただ辺境の地においてはこの程度でも治癒魔道士は重宝されているのだ。


「マリアンナ上等兵、こっちの兵士を診てくれ。斥候中に敵軍と鉢合わせしてしまったようだ。肩口にやじりが食い込んでいる。早くしないと壊疽えそする」

「わかりました。消毒薬の準備をします」


 わたしは駆け足で軍医でもあるミサコ大佐のもとに行く。


「肩を押さえて、歯に布を噛ませてくれ、鏃を抜くけど痛いからがまんしろよ」


「ウギャアー」


「マリアンナ上等兵、痛み止めを患者に飲ませてくれ。包帯で巻くように!」

「アイアイサー!」


 治癒魔法を使ったらすぐなんだけど、これ使うと身元がばれちゃうから、皆の前じゃ使えないの。あとで、こっそり治療してあげるね。



 ~夕方になった~


 「よく我慢したね。痛み止めを飲ませたけどその薬あまり効かないから、今から治してあげるよ。

 バレるから表面の赤みはそのままにしとくね。

 それも家に帰るころには消えてるよ。

 腫れは治しとくからゆっくり寝てね。聞こえてないみたいだけど今日中にあなたの出身地に戻れるように手続しておくから、名誉の負傷だから昇進よ。休暇中は親孝行してね」


「あ!今日は温泉に行く日だったわ」


 今日の勤務時間は終わったから王城の自室に帰ることにする。

 夕食を済ませて行くか~。

 部屋を出るとドアの前でみんなが待っていた。

 飯ぐらい食わせてくれよ~。

 いつものことだから森の温泉にいつものメンバー全員で瞬間移動した。

 お腹すいてるんだよ。しょうがないダンジョンリンゴでもたべよう。ダンジョン45階層に瞬間移動してダンジョンリンゴ20個を狩ってくる。


「みんな、風呂上がりに食べてね」


 ダンジョンでは虫がつかないから農薬ゼロだ。

 わたしはダンジョンリンゴをかじりながらお風呂に浸かる。


 「あ~人生最高」


「王女様こちらは男湯です」


「おい、マリアンナ、また男湯にきたのか。この前間違ったばかりだろ。わざとか」


「イヤーーーーーー!!」


転移魔法で女風呂に行く。女風呂は巨乳でいっぱいだ。幸せな時間だ。



 ~そのころ薬風呂では~


 王様、姫様の外泊先が判明しました。南部トッテル村国境沿いの駐屯地です。

 看護兵として勤務しているようです。本名を名乗っているようですが、まさか姫様とは誰も思っていないようで、身元はバレていません。

 まあ、おかげでこちらはすぐに分かりましたが。

 一応姫様にはわからないように影の者を護衛につけています。


「おい、プリット大将、昔のようにドキュメントと呼べよ。お前が影の頭領でいてくれたから俺の命もここにあるんだからな」


「頭領は息子に譲りましたからなあ。今は軍部でのんびりしてますよ。姫様にはおっさん呼ばわりされてますがな。ははは」


「あの子には伸び伸び育って欲しいのだ。此度のクーデターではあの子にたくさん殺しをさせてしまった。あの子の能力を利用してしまった」


「そうですな。あの純粋な姫様に殺しをさせてしまいましたからな。思い出しますなあ。姫様の回りは危険でいっぱいでしたから。姫様を狙った暗殺だけでも両手両足では足りないほどでしたからな。

 何度王都のドンマイ川に通ったことか。

 毒殺にあっては毎日ですからな」


「お前の息子にも感謝してる。

 執事のビータン・チョットとして娘の世話を甲斐甲斐しくやってくれている」


「姫様はおてんばなところがかわいいんですな」


「悪いが、シラユリが生きてるようだ。影メイドを増員してくれ」


「桃の木事件から姫様のメイドは全員影ですが、いまでは王城のメイドはすべて影になってしまいました。

 姫様は影から人気あるんですよ」


「くれぐれも娘に感づかれないようにな!」

「楽しいですなあ」

「はははは」

 二人の怪しい会話は続く。


 風呂上がり。

「マリちゃん、私りんごを噛り付くのはいやですわ」

「ダンジョンオレンジジュースが飲みたいですわ」


 わがままな母親を持つと苦労するのはいつも子どもだ。


「はいはい、ダンジョンオレンジをとってきますね。……35階層……はい採ってきました。わたしは氷のコップに空中のオレンジを搾って入れる。


「お母さん、できたよ」

「風呂上がりの一杯は恍惚だわ」

「わたしも欲しいな」

「俺もほしい」

「儂にもええかの」

「はいはいダンジョンオレンジは沢山採ってきましたから」その日も和やかに過ぎていった。


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