第22話 トッテル村

 ここが最後の家だ。

 トッテル村は170軒の家がある。

 全部の家を回って健康状況を聞いたが、今のところ急を要するような人はいなかった。

 ぎっくり腰で歩けない人が1人いたが、

「わたし、マッサージの資格を持ってますの。それもぎっくり腰専門ですよ。そこに横になってください。とりあえず10分ほど揉んでおく。子どもの手なのでくすぐったそうだが。


 最後に治癒魔法をかけた。

 金色のシャワーが出る。

 まずい。


「あ、あっちにUFO!」なんとかき切り抜けたはずだ。


 村長宅を訪ねて全軒を訪問したこと、ギックリ腰の人が1人いたけどあとは概ね健康でしたと報告する。


 村長が「今晩は泊まってくだされ。

 何もないところですが松茸が沢山採れますから今晩は松茸三昧の料理を用意してあります。最近温泉が出るようになったのでゆっくり休んでくだされ」と勧めるので泊ることにした。


 あまりにも強く勧めるので怪しい宗教の誘いかと少し警戒したわ。


 「今夜は温泉を囲んで村民総出でキャンプファイヤーをして夜更ししましょう。

 明日は朝から村人とフォークダンス大会をして一緒に昼食をとりましょう。

 ここは、内陸部ですが昨日上空を海魚が泳いでおりましてな、大漁でした。

 海魚料理も楽しんでくだされ。

 楽しい1日を過ごしてくだされ。絶対に帰ったらだめですぞ。昇進がパーになってしまう」



 ◆ヤットコのつぶやき◆


「村長!これがミサコ大佐の命令書です。

 本日1日村長として赴任しましたヤットコ中尉であります。

 部下も3名連れてきました。


 手土産といってはなんですが、これが王都の王族御用達ホテルの家族1日宿泊券です。ご息女にはそれぞれ別の部屋を準備しています。


 しかも部屋はすべてスイートルームです。

 特に奥様との夜のためにベッドはふわふわの超高級羽毛布団を用意しております。

 むふふでうふふな夜をお楽しみください。


 料理は王城の食事と同一のものです。しかも貴族用の馬車にて送迎します。そして道中の宿泊施設はすべて貴族御用達です。

 おみやげも用意しています。

 小遣いもお一方ひとかた金貨5枚です。


「高級ブティックの洋服仕立て券もついていますので、奥様ご息女にプレゼントしてください。内緒ですが、もしよかったら『あなたの心と体を癒やすアロマサービス店(マル秘 あんなことやこんなことをしてくれる若い子がたくさんいますよ)』の入場券もどうぞ」

 そろそろみかんの生る季節ですから、道中で“みかん狩り”も用意しています。みかんは肌によいですからな。村長だけのために『みかん娘狩り』も用意しています。いえいえ気になさらず。その間は奥様たちには本当のみかん狩り楽しんでいただきます」


「最後にとっても重要なことを話しますから、聞き漏らさないようにお願いします」


「今回のことはくれぐれもご内密に。ドンマイ川に浮きたくなければ!!」


「はい、村人には通達しておりますじゃ。今日一日、村起こしのために1日村長をドンマイ駐屯地から迎えたからくれぐれも粗相のないよう従ってくれと」


「母さん、観光がてらもう一人つくるかのう?儂は今度は息子がいいのう。女子おなごもいいが儂も年だし跡取りが欲しい」


「何言ってるんですか。もう上がってますよ」


(そうか、まあいい。『みかん娘狩り』と『あなたの心と体を癒やすアロマサービス店(マル秘 あんなことやこんなことをしてくれる若い子がたくさんいますよ)』でひさしぶりに若返るぞ)


「ウリ一等兵、ハナ上等兵、カナ軍曹、今から温泉を堀りに行く」

「ヤットコ中尉殿、お湯はどうするのでありますか」

「お湯は今から各村人の家で沸かしてもらう。お湯1回につき銀貨1枚を渡すように。夕方までには温泉を掘って、石を敷く、回りは岩で囲む。カナ軍曹お前は土魔法が得意だったな。今日は活躍してもらうぞ。ウリ一等兵お前は近隣の店に行って松茸を片っ端から買ってこい。ハナ上等兵は隣町の港町に行って新鮮な魚を片っ端から買ってこい」


「俺は村人と温泉の仮小屋を建てる。終わったらキャンプファイヤーの準備をみんなでするぞ」


 やっと終わった。


 ミサコ大佐は「マリアンナ上等兵が治癒魔法の使いすぎで疲れているようなので私の権限で1日感謝デーをすることした。お前を男と見込んで頼む。うまくいったらお前を本部と交渉して大尉に任命してもらおう。まかせておけ。お前もマリアンナ上等兵の治癒魔法を受けたことがあるだろう。しょぼい治癒魔法で傷口しか塞がないが、あの少女が一生懸命やっている姿にみんなで感動したじゃないか。お前泣いていたぞ」


「見ていたのですか。私は少女が一生懸命にがんばってがんばってといいながら言って小さい手で治癒魔法を使う姿が……一般の治癒魔道士は1回使うと翌日は筋肉痛でトイレに行くのも辛いと聞きました。それなのに一生懸命少女ががんばれってやってくれるのですよ。これが泣かずにいられますか。まかせてください。完璧にやりこなしてみせます」


「いいか必ず明日の午前中までマリアンナ上等兵の傍から離れるな。マリアンナ上等兵が遠慮して帰るとか仕事に行くとか言っても絶対に引き留めろ。成功したら“むふふ”なご褒美をやるが、失敗してみろ、お前はドンマイ川行きだからな」


「これを持っていけ。容姿と声を変える魔道具だ。効果は24時間だ」


「ねえ、ヤットコ、今日はデートの約束だったわよね。どうして私を指名したの。一緒にいられるのはうれしいけど土魔法が得意な人は他にもいるでしょう」


「カナ、すまない。俺はお前と一緒にいたかったんだがこの任務が成功したら大尉に昇進することになっているんだ。それと”むふふ”なご褒美が怖いから一緒に居て欲しい。それになんと大佐が結婚式の費用も出してくれるんだ。しかも新婚旅行付なんだぞ。成功したら明日の午後から全員1週間有給休暇を貰えるんだ。王都観光券と王都高級ホテル宿泊券に馬車レンタル券付だぞ。送迎は貴族用の馬車で小遣いも一人金貨2枚あるんだ。それに高級ブティクの洋服仕立券付だ。そしてなんと夜は王城で王家一族と食事会があるらしい。すごい料理にありつけるぞ。

 だから、この誓約書にサインしてくれ」


「サインしなかったらどうなるの」

「全員ドンマイ川に浮かぶな」



「楽しかったなあ~王都の旅」

「そうね。ヤットコ。私も楽しかったわ。3日目までね。王城は私たちが思っていたのと違っていたけどね。代々の王は国民が先という政治をしてきたけど、あれはないわ。継ぎぎだらけだもんね。どこのボロ家かと思ったわ。それに私は王城のトイレでマリアンナ上等兵に会うとは思わなかったわ」


「私、食事会があるから洗面所でお色直ししていたのよ。そしたらマリアンナ上等兵がきれいなドレスで化粧しているじゃない。後ろには巨乳の女性が付いてきてるのよ」


「まあ!あなたも食事会に呼ばれたの。このタッパーあなたにも渡しておくわ。日頃食べられない食事がでるらしいのよ。余ったらもったいないじゃない。そっとそれに入れてあとでゆっくり食べて!」


「ここで会ったのも何かの縁だからもう1個あ・げ・る。皆には内緒よ。それではマリアンナ上等兵、明日からもよろしく頼む」


 先輩として良いアドバイスができたわ。

 グッジョブ私。


「私そう言ってしまったのよ。食事会で王妃の隣に座った小さな女の子が白いタイツの足をぶらぶらさせて私を見てニコって微笑んでいるじゃない。理解できなかったわ。そう理解したくなかったの。私、人生詰んだと思ったわ。

 でも、食事会が終わって私たちに挨拶に来てくれて、


「先輩明日からもよろしくお願いします。でも私のこと秘密にしてくださいね」

 て言うじゃない。4人とも首を馬のように振るしかなかったわ。

 言えるわけないじゃない。


 誓約書に今回のことと王族のことを喋ったら心臓が溶けて死ぬと書いてあったわ。サインしなかったらドンマイ川の魚の餌よ。

 秘密にすればいいだけよ。ヤットコ大尉」

「そうだな。カナ少尉。幸せになろうな」



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