第38話 新メンドウ大陸竜

 私は約束通り卵を魔道カバンに入れ、メンドウ山脈の頂上の火山に瞬間移動して卵を投げ入れた。


 生まれたばかりの大陸竜は亡くなったメンドウ大陸竜の2分の1の大きさだった。そのうちきっと大きくなる。


 私は子に『あなたの名は大陸竜メンドウよ。そしてあなたの寿命は100万年よ』と教え、母は”大陸竜大和やまと”と聞かれてもいないことを話した。


 一人で生きるの寂しいじゃないの。

 これから100万年も生きるのよ。

 たまにはお母さんのところに行きたいよね。


 瞬間移動に失敗すれば火山に放り込めず羽化しない。

 そうすると永遠に魔力を喪失した大陸になる。

 私自身、魔力が使えなくなってしまう。


 実はギリギリだったの。

 誤差はほんの少ししかなかった。欠伸あくびをする程度の時間だった。

 ほんの一瞬私の魔力が無くなって溶岩に向かって落下したのよ。

 覚悟したよ。とにかく間に合って良かった。


 それから私はフタマタナリキン号に瞬間移動し事の詳細を話した。

 明日にもアーメリア王国は神聖キツソウ国に進軍するとわかって慌ててお父さんに会いに行った。


 突然の転移に皆驚くより、放心していた。派兵だけは阻止し、詳しいことは後ほどと言ってフタマタナリキン号に戻り神聖キツソウ国の内情を聞いた。


 私はこの度のことを反省し、魔法の力を過信しないことにした。そして、他人に”のこのこ”付いて行かないことも。


 小さいとき”かあさん”にさんざん言われていたことを思い出した。

“知らない人に声をかけられても絶対について行ったらダメよ。“


 私たちはまだ、元神聖キツソウ国にいる。外交官が上船しているから賠償金と謝罪の交渉だ。

 だけど誰も来ない。各地の貴族が兵を起こし王都を目指したのだ。

 貴族間の争いは熾烈しれつを極め、神聖キツソウ国を死体の山に変えていった。

 頭一つ抜けた貴族がいなかったためいつまでたっても国がまとまらないのだ。

 前の王の直系は俺だとか、前々王の姉の子の腹違いの子だとか、前王の妹の夫だとか、よほど国王になりたいようだ。

 私は王女の立場でさえ投げ出したいのに。


 ドキュメントなんか俺本当は国王になりたくなかったんだ。

 気軽に暮らしたかったんだ。

 マリアンナ早く大きくなってくれ、儂はいつでも退位する。忙しすぎてクドレイナと“むふふん”する時間がない。


「まあ、あなた今すぐでもいいわよ」

「マリアンナが見ている」

「そういう教育も必要ですよ」

「いや、大人になってからでいい」


 食事中にやめてほしい。


 他国に干渉されてお城はボロボロで、年中侵攻されていつ死ぬかもわからないのに国王になりたいと思うことが私には理解できない。


 この国は新しい王が出るまで当分つぶし合いが続きそう。

 気長に待つしかない。

 船員と外交官を残して私たちはさっさと王都に帰ろう。


 私の11月は矢のように過ぎた。年末になろうというのに、また爺ちゃんたちの相手をさせられている。ちりめん問屋の爺ちゃんは相変わらず温泉についてくる。

 ドキュメントと薬風呂でいつも一緒だ。

 変な関係じゃないよね。

 お母さん悲しむよ。



 薬風呂では二人がいつものように何やら話している。


「国王様、どうもフタマタ商業国家で新たにダンジョンが発見されたようです。」

かしこまるなと言ったはずだぞ。ダンジョンが発見されることは普通のことではないか。我国も最近発見されたと報告があったぞ」


「それが、普通ならば、ダンジョンは冒険者ギルドが管理いたします。

 しかし軍が全面的に管理しておりまして、誰も近づくことはできません。

 それにすでに兵士が5万人入って全く外に出てきません。しかも武器も持って入っとるようです」


「それはおかしいな。他にはどうだ」


「各国も間者を放っておりますが、なにせ一度入ったきり誰も出てきません。何と戦っているのかわかりません。調べることさえできないのです」


「なにやらきな臭いな」


「影も監視しておるのですが、周囲2キロメートルは壁で囲まれておりまして蟻の入る隙間すきまもありません。姫様に頼るべきかとぎったのですが、ダンジョンの場所がわからないので転移できません。どうも何者かが指示をしているようで」


「シラユリか」


「まだわかりません」


「そうか。引き続き影に見張らすように」




 その頃男湯の脱衣所では……


「マリアンナお前11歳になったのに、なんで男風呂で着替えようとするんだ」


「ビリット、ごめんなさい。また間違っちゃった」


「いいかお前、もうお父さんとも一緒に入る年齢じゃないからな。早く出ていってくれ。俺も恥ずかしい」




 女湯では……


「いいわあ、いいわあ、シャンプーの泡、リンスの香り、これはメイド冥利みょうりに尽きるわ」

「コサミメイド長あまりシャンプー出さないでください。私たちの分がなくなります」

「メイド長の特権よ。メイド長になりたかったらいつでもかかってきなさい」

「副メイド長何か言ってください」

「私は、いいの。満足しているから。私の地位さえ安定していれば」

「あなたたち、順番は抜かしていいわ。私には挑戦しないで。メイド長に直接挑戦して!!」

「では私たちは新春入れ替え戦で、副メイド長に挑戦します」



 私はいつものとおりダンジョン35階層に転移して、ダンジョンオレンジジュースをごちそうした。


「ねえみんな、明日から正月明けまで休みだからダンジョン潜りをして、ダンジョンで正月を迎えない!!!

 今までいろいろあってゆっくりダンジョンで魔物狩りできなかったから、もう魔牛肉の在庫がないの。年末は年越しパーティーしたいじゃない。やっぱり最後は霜降り魔牛肉で締めくくらなくちゃあ。ねえそうしよう」


「いいんじゃない。先生独身だけど彼氏いないし。誰も誘ってくれそうにないし」

「カネヨ、何言ってるのあなたたちだって一緒じゃない」

「先生!キレイナ彼氏できたんですよ」


「え~、本当なの。ショック」

「先生、大丈夫ですよ。私達二人とも予定ないですから。ねえヒンセイ、いいよね♡」


「私は男よりも金です」

「カネヨらしいわ。先生どこに集合します?」

「そうね、明日朝一で魔法学院の校長室で会いましょう。マリアンナさん、私の働いている美姿も見れますわよ」


 何事もないまま夜がふけた。



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