第9話 悪党シラユリ

 ◆ビリット・ヤブレタ視点◆


 マリアンナ・イイナが同級生となった。国立初等科魔法学園の入学式で暴れまくり入学を拒否され、親の力でここに入学したと聞いていたが、おかっぱ頭でキョロキョロしているし、カミカミだし、かわいいじゃないか。黒髪に黒の瞳は見たことない。あと数年もすればとびきりの美人になるぞ。


 生徒会長が毎日のように菓子包みをもってくる。俺の故郷は薬草の一大生産地だ。小さいときから母に薬となるものと毒になるものの教育を受けてきた。


 この菓子から臭う甘い香りは、普通ならば糖分のように思うが、俺の鼻はごまかせない。普段は無味無臭だが、砂糖と結合するとわずかだが独特の甘い匂いを出す。普通の者はわからない。これは遅効性の毒で中毒性のあるものだ。

 気がついたときには体はボロボロになって死を待つだけとなる恐ろしい毒だ。


 マリアンナがトイレに行くと言う。


「ちょっと教室の端で待っといてくれ。すぐ済ますから。みんな、ちょっといいか。生徒会長が持ってきた菓子だが、死に至る毒が入ってる。理由はわからないが、マリアンナが狙われている。小さいし、あいつのことを俺らが守ってやらないか」


「え~!ビリット、それは大事じゃない。先生に言いつけたら!」

「カネヨ、ダメだ、豚組の先生ならまだしも、他の先生は生徒会長の犬だ。たぶんマリアンナの悪い噂もでたらめだ」

「証拠の菓子があるんだから問題ないんじゃないの?」

「いやそれが、この毒は糖分と結合後30分以内に人体に入らない限り毒素が消滅するんだ。

 たぶん、この菓子は結合後25分は過ぎている。甘い香りが少なくなっている。軍が来たころには毒は消滅している。暗殺にはとても重宝される毒だ」


「ビリット、もう漏れるから私行くよ」

「カネヨすぐ追いかけてトイレに行ってくれ。油断はできない」

「すぐ追いかけるわ。私も漏れそうだから」


 今日も生徒会長は手土産てみやげの菓子をもってきた。俺は真っ先に受け取る。


「あ~。会長。いつもありがとうございます。

 マリアンナはいいなあ。こんなやさしいお姉さんがいて」


 俺に続いてヒンセイも


「も~このクラスは会長のファンだらけですよ」


「俺は会長の大ファンですよ」

「ありがとうございます。ビリット君。今度プディングケーキを作ってきますね」


 俺は会長が去ったあとでみんなを集めた。


「この菓子の毒の入手先を早く調べよう。会長は10年に一度傑出するかしないかの魔法使いだ。一歩間違うとこちらが消される。

 会長は危ない人だから、まず副会長の動向を探ろう」


 副会長の部屋に月2回猫耳少女が荷物を持って訪問していた。

 少女の後を付けると王都で一番の薬問屋に入っていった。

 だが1週間後、この薬問屋の主人は、ドンマイ川に浮かんでいた。


 生徒会もグルだ。

 もう教師も生徒会も信用できない。いや全員信用できない。

 豚組だけがマリアンナの味方だ。


 生徒会長が卒業した。王都の裏情報では”暗殺集団かげろう”が何者かに殲滅せんめつされたらしい。




 ◆姉シラユリ・イイナ視点◆


 私は4歳になった。

 父ゲリーが死んだ。

 父は私をこよなく愛してくれた。

 いつもいつかお前を王にしてやると言ってくれた。


 王国暦199年6月6日私は5歳になった。

 母は再婚しなかった。

 これで母に子はできない。

 イイナ伯爵家は男が生まれない家系であるため長女が爵位を継承する。夫となるものはすべて相続権のない入り婿だ。


 妹が生まれた。まずい。このままいけば私はイイナ伯爵家を継承できない。

 母は私の本当の母ではない。


 王国暦202年6月6日私は8歳になった。

 私は学園長から父ゲリーの真実を聞いた。

 学園長はいつでも私の力になるという。


 私は10年に一度出るか出ないかの素質があるとして4年生から開始することになった。すでに教師に学ぶことはなくなった。

 学園長はいつでも王立魔法学校に推薦できますと言った。

 このまま王都の王立魔法学校に行ってもいいけど、ここにいないと妹を始末できない。


 私は父ゲリー・イイナがダンタリア帝国との国境で紛争が起きたときに看護兵として派遣されていた元どこかの王の二番目の子サラダ・ハクサイを側室として生まれた。

 母サラダは田舎暮らしに耐えられず他界したと聞いた。


 母クドレイナ・イイナは元々父ゲリーとは恋愛感情はなかったようで、ゲリーの死後も独身を貫いている。


 そのままいけば私は伯爵家を継ぐことができた。なのに、なんで、どこで、種付けした!相手がわからない。


 どこの馬の骨と”チョメチョメ”した!生まれるのは必ず女の子だ。

 長女といっても私には母クドレイナ・イイナの血は入っていない。

 妹が生まれれば私の継承権が消滅する。

 妹がこの学園にいる間になんとかしなければいけない。


 妹は愚鈍であった。いつもヘラヘラして言葉も幼稚だ。3歳になったのに。

 貴族の子であればもう少し知性と品性というものがある。

 モンモモンモとしか言わない。喋れないのか?そんな子にイイナ伯爵家を継承させるわけにはいかない。

 いや、賢ければなおさらだ。


 マリアンナは桃が好きだ。7月生まれのせいか桃のなる季節には必ず自分の手で毎日桃を1つ採って食べる。

 私は妹のために桃を採るための踏み台を作ってやる。他の者から見れば姉が親切に台を作ったことになっている。


「これで、もう少し高い場所の桃が採れるね」


 妹は毎日踏み台を利用しなくてもいい場所から桃を採っている。


 私は4日前に朝早く起きて一つ目の枝と2つ目の枝に実っている桃を採っておいた。

 これでもう木に登るしかない。

 妹専属のメイドは決まっていない。今がチャンスだ。

 母の専属メイドのマーメイダのように年がら年中側にいられては殺害する機会がない。


 妹はいつものように踏み台に右足を掛け、一つ目の枝に左足を置き、2つ目の枝に右足を置いて採れる範囲の桃を採る。


 私は完璧を目指すため今朝早く起きて2つ目の枝にオリーブ油を塗っておいた。妹がいつものように右足を置く。


 私は馬小屋から妹の背中めがけて風魔法を当てる。妹の体が宙を舞った。メイドたちがあわてて走っていくが間に合わない。


 よし。私の計算では地上に頭から真っ逆さまに落ちて大怪我をするか死亡するはずだった。だが、おばかな妹は宙返りしたのだ。落ちた場所は草がボウボウ生えていた。前のめりで頭を打ったようだが命に別状はなかった。


 妹は人が違ったようにモンモモンモは言わなくなった。言葉を喋るようになった。自己主張するようになった。明るくなり、人に優しくなった。メイドたちの評判もいい。あいかわらず魔法の素質はないようだが。


「くそ~。あれからマーメイダがいつも妹に付き添っているから手を出せない」


 私は王立魔法学校に進級する話があった。いい話だがそれでは妹を始末するチャンスがなくなる。


「私は学園長とこの学園が好きです。ここで卒業させてください」と学園長には言っておいた。学園長は泣いて喜んだ。教師どもも泣いて喜んでいた。こんなクソ教師どものいる学園なんかさっさと卒業したいのだが妹と離れるわけにはいかない。


 妹が初等科魔法学園に入学することになった。

 妹には魔法の素質はない。苦し紛れに入学試験で慣れない魔道具を使用したせいで新入生用の校舎を全壊したようだ。

 学園長はカンカンになり、入学を拒否したが、なぜか王立魔法学校に入学することになった。


 私は王立魔法学校の最上級生になった。この学校の生徒を締めるため生徒会長をやっている。裏番も始末した。もう私に逆らう者はいない。私は陰の番長としてバレないように子分にカツアゲさせていた。おかげで金には困っていない。子分以外は私の正体に気づいている者はいない。教頭には生徒数人を充てがい買収した。もう私のしもべだ。


「教頭!私の靴をお嘗め」

「ありがとうございます。私はあなたの僕です。どんなことでも言いつけてください。ですがこの娘は飽きました。代わりの娘を回して頂けないでしょうか」

「それとあなたの妹ですが、あれは美人になりますよ。好みなんです。あれ一人で他の女が何人いようと釣り合いません。できればいただけないでしょうか」


「あの子はダメよ。あの子をボロボロにするのは私だから」


 いくら青田刈りといっても気持ち悪いやつだ。


「わかったわ。あなた、若いのが好きでしたわね。今年入学した平民の子がいるわ。明日お茶をすることになっているからその子で我慢しなさい。そのあと、好きにしたらいいわ。でも右足はだめよ。その子水虫だから。それとこれも渡しておくわ。私のことは秘密ですよ。もし喋ったら、わかっていますわよね」


「あなたさまには決して逆らいません。この薬さえ飲ませておけば私のことを世界一美しい男性と認識するのですから」


 これでこの学校も手に入れたわ。


「校長は女だから難しいけど、なんとかするわ。行き遅れてるから……まあ適当なやつを充てがうか……」


 妹に手土産と称して遅効性の毒を混ぜた菓子を毎日持参した。

 無味無臭の遅効性だからバレることはない。

 おかしい、半年経つのに妹は毎日ピンピンして通学している。


 あの薬屋私に偽物を掴ませたのか?寮ではドキュメントにやんわり断られたが、訪問ついでに生徒会に入るように勧めたが豚組の釣り同好会に入っているからできないと断られ、クラブ活動がない日に来てくれればいいと言えば、豚組と一緒の帰宅部なので行けないのですと言う。

 そこで夕食に招待しますわと言えば、すみません豚組と夜は食品ロス研究会で一緒に食事をしていますから行けないのです。

 では一緒に寝ながら語りませんことと言えば、豚組の人が交代で睡眠と幼児の寝相の回数を研究をしていて、いつも側にいるので行けないのですと返事をしてくる始末で、24時間豚組と一緒では手の打ちようがない。


 ここの魔法学校は外国人留学生が多い(アーメリア王国魔法学園が国家権力者・王族・有力貴族などの子息が箔を付けるため金銭の力による留学をしている)。


 私は生徒会のメンバーを同級の外国人留学生を中心に勧誘した。目的は将来のためだが、一応用心のために”生徒会入会申込書に署名と拇印をもらった。字が小さいので内容は読ませない。私が代わりに読んであげるのだ。適当に!朱肉がないから私が針でチョと刺して血を朱肉の代わりにしたら、ちょっとビックリしていたが、すぐに皆喜んでくれた。私の口で血を嘗めて止血してあげたのだ。これで誓約書の完成だ。妹にも同じことをしようと思い生徒会に誘ったのだが失敗した。魔道誓約書の作成には多量の魔力を消費するから最小限の制約しかできない。


 もう時間がない。妹のまわりは豚組のやつらがいつもたむろしている。

 こうなっては暗殺しかないか。


 金にものをいわせて王都で一番の暗殺集団”かげろう”に依頼した。彼らは秘密を絶対に守る。ちょっと危ない橋だが、背に腹は代えられない。どいつもこいつも依頼した翌日には王都のドンマイ川に浮かんでいる。


 とうとう私は卒業することになってしまった。妹を始末できなかった。

 なんとか妹が成人するまでに始末しよう。

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