第8話 王立魔法学校

 寮に行くと、待合室に姉が入ってきた。


「あら~。お爺さま。お母様。それにマリアンナちゃん。ご機嫌よう」


 生徒会の面々を引き連れて挨拶にきた。茶髪に茶色の瞳は父親似らしい。

 髪はクリンクリンに巻いてある。


「おお!シラユリ元気にしているようだな」

「まあ~!また一段ときれいになったわね」

「お母様、大丈夫ですよ。私がいる間はマリアンナちゃんには指一本触れさせませんわ」


 姉はとても頼りになった。ただ、生徒会の者からは嫌な空気が漂っている。

 教頭に感じた気配と同じ……。


 その日は家族4人で久々に近況を話し合った。姉は生徒会に入らない?と言ったがドキュメントが学校の雰囲気を知ってからでもいいのではないか、とやんわり断っていた。


 なんかシラユリ姉様の「チッ!」という舌打ちが聞こえたのですけど、きっと私の勘違いですわね。シラユリ姉様がそんなこと言うわけないもの。



 ~翌朝~


「それでは、お正月には帰ってくるのよ。ちょいちょい帰っていいのよ。チョビット辺境温泉に連れて行って欲しいしね」

「マリアンナの好きなものをたくさん用意しておくからの~」


 おい、ジジイ、姉にも何か言え。ああ、姉は生徒会か。ジジイとクドレイナは王都を去って行った。


 馬車を見送って、王立魔法学校に通学する。

 姉は生徒会があるから見送りに来ないで朝早くに出かけている。

 俺は3日遅れの入学を果たした。学校は違うけどね。


 事務室に自分のクラスを尋ねた。

 事務員に教室を案内してもらう。


「マリアンナさんは1年豚組ですね」


 ここは幼稚園か?


「優秀なクラスから馬組、鹿組、河馬かば組の順で各クラスは50名です。マリアンナさんは問題児ですから豚組ですね。あなたを入れて5名のクラスです。少数精鋭のいいクラスですよ~」


 事務員の口元が笑っている。

 ドアを開けると既に生徒と先生がいた。

 先生は爆乳だった。


「あ~ら!ようこそ。私はミラージュ・シンキロウといいます。あなたの担任ですよ。こちらにいらっしゃい。

 はい!みんな、こちらを向いて! 

 今日からこのクラスの仲間になるマリアンナ・イイナさんです。生徒会長のような清楚な子と違って入学式で魔道具をぶっ放した問題児で~す。

 国立初等科魔法学園の入学を拒否されましたが、親の力でここにきてます。みなさんの仲間になる資格は十分にありますよ。

 さあ、マリアンナさん、みんなに挨拶してください」


「マリアンナ・イイナでちゅ。なかよくちてくだたい」


 黒髪に黒の瞳でおかっぱ頭のマリアンナはあがってしまった。


 カミカミだ。


 黒髪は祖母のモンシロ似で、瞳は母のクドレイナ似だ。金髪がよかったのだけどなあ。日本男性は金髪女が好きなのだ。

 俺だけかも知れないが。


「お-! 姉ちゃんと違ってかわいいじゃないか」

「こらビリット、子供をからかってはいけません」


 7歳からみれば12歳~13歳の子どもは身長差だけでもかなり違う。普通なら怖いはずだ。だが俺は18歳のあんちゃんだ。気にしない。気にしないが、先生の爆乳には少しドキドキする。


「では、みなさん一人ずつ紹介してください」


「私はキレイナ・スマートよ。あなたと一緒で伯爵家だけどめかけの娘よ。」

「俺はビリット・ヤブレタだ。田舎男爵の六男だ」

「僕はヒンセイ・ナーシだよ。騎士爵家の三男だよ」

「私はカネヨ・コイシテですわ。庄屋の娘よ」


 なんか名前が適当だ。


 実はこのクラスに入ったことは運がよかった。この魔法学校で唯一の味方は彼らだけだったのだから。


 授業は、魔法理論、魔法実践、魔法倫理、魔道具理論及び実技、王国法、剣技の6教科である。


 このクラスはどの科目においても最後尾をめていた。

 男子が得意な剣は魔法学校ではあまり尊ばれない。腕に自信のある者は騎士学校に行くのだ。

 理論科目は高校受験に比べれば簡単なものだったが、俺は目立たないために適当に間違える。本当だぞ。


 姉のシラユリは毎日のように豚組に来た。


「私の妹をかわいがってくださいませ」

 と言っては菓子を置いていった。きっと我がクラスでの姉の好感度はうなぎ登りだ。


「会長、今日はいい天気ですね。帰りにレストランで紅茶でもいかかですか?」

 ビリットが話しかける。


「そうですわね、時間があれば今度御一緒したいのですが……またの機会に……ごきげんよう」


 撃沈。こんな感じで一年間は何事もなく過ぎた。

 姉は卒業式の前日に私の部屋を訪ねてきた。


「あら、お一人。評判のケーキがあったので一緒に食べようと思って買ってきましたわ。紅茶を入れましょう」


「はいありがとうございます。お姉様が卒業したらとても寂しいですわ。これからのことを考えたら憂鬱ゆううつになります。私、お姉様に守られていたから学校や生徒会のこととかよく知らないのです。お姉様が入学してからのことを教えてくださいませ。これからお姉様のようにがんばりたいので参考にしたいのです」


「たいした話ではありませんけど、そうですね。ケーキを食べ終わる頃には、私の懸念は片付くので話しても仕方ないことですが、これが最後ですから、お話しましょう」


「私は入学早々この学校にあった生徒会の闇と戦いましたの。当時の生徒会長以下生徒会執行部を糾弾しました。表番長とか裏番長というものが存在していたのでその方たちには誠心誠意対応して生徒会の準構成員として更正していただきました。教師も従来の考えにとらわれすぎていたので、生徒会長として一人一人とお話合いなどをして私を理解していただきました。私はこの学校を生徒会と共によくしていきたかったのです。


ただ心残りがあるのは、一年生のときから生徒会長をしてたので生徒会役員も準構成員も全員同級生なのです。彼らは私といっしょに卒業してしまうのです。私の影響力が及ばないので心配でしたが、もうすぐ終わるので後のことは新しい生徒会にまかせようと思います。私が入学する前の校風にしてもいいですし、彼らの自由を認めましょう。

 あら、お湯が沸いたわ。さあ、ケーキを食べましょうか」


 シラユリ姉様の専属メイドがケーキと紅茶を入れてくれた。


「お姉様この子私と同じおかっぱなのですね」


「そうね。いつもあなたを思っていたいからおかっぱにしているのよ」


「嬉しいですわ」


 お姉様とてもうれしそう。私もいっしょにお茶できてとてもうれしい。


「ドンドンドン!!!!」

「お~い、マリアンナ!!シラユリ先輩が来ているんだって、入るぞ!!」


「ビリット、ドアを叩いてすぐに入らないでくださいませ。お姉様と楽しい食事タイムですのよ。ほんと、乱暴なんだから」


「あ、ごめん、先輩、僕は寂しいです。先輩が卒業するなんて。どうしても先輩に僕の気持ちを聞いて欲しくて!」

「私たちも~」


 豚組全員来るなよ。


「ビリット、もう、しょうがないわね。それじゃみんなで食べようか」


「私、2つしか買ってきませんでしたの。それにこの状態では食べられませんわ。ビリット君が飛び込んだ勢いでケーキが潰れてしまいましたから」


「先輩みんなで騒ぎましょうよ」


「そうですわね。あ、私、制服の寝押しをするのを忘れてましたわ。

 みなさんどうぞこのまま楽しんでくださいませ。

 では、みなさんごきげんよう」


 翌日姉は卒業していった。


 卒業前には王国始まって以来最速の13歳で紋様が現れ、この国最高位の特級魔道士になっていた。

 そして魔道士将校として軍に入隊した。

 軍でも飛び級して入隊時から少佐だった。

 5月には中佐に昇進し、6月には大佐に昇進した。

 前例のない昇進の早さらしい。

 伯爵家を継ぐ気あるのかしら?




 今日から二年生になった。

 また豚組とのお気楽な1年間が始まる。と思っていた。


「あれ、ミラージュ先生転校したの!」


 教頭が校長に就任した。

 これまで抑圧された欲望を解き放って行動した。

 目がいやらしい。


 新生徒会の面々が1人ずつ学校から消えていった。

 豚組の担任はなんと校長になった。


 前校長は40歳間近というのになぜか急に縁談がもちあがり結婚退職した。


 そして生徒会は校長が指名する形に変った。




 ◆シラユリ専属メイドの視点◆


 私はお腹が空いていた。もう何日食べてないだろう。目の前に見るからに裕福な女が木陰で昼食をしている。


 彼女のまわりには沢山の生徒が集まっている。生徒会という者たちらしい。どうでもいい。彼女のランチボックスには余るほどのサンドイッチが入れてある。それを取り巻きに与えている。一つくらいもらってもバチは当たらない。


 木陰の後ろからサンドイッチめがけて透明な手を差し入れる。女と目があった。終わりだ。貴族のランチを盗もうとしたのだ。殺されても文句いえない。


「あら、あなた、その髪型めずらしいですわね。これが食べたいの?いいわ。でも条件があるわよ。風呂に入って着替えてくれる。臭うからね。イレキさんこの子を頼むわ」


 私は綺麗にしてもらってサンドイッチをもらった。それからシラユリ様に魔法を教えてもらえて、イレキ様から行儀作法を学んだ。それから私はどこへ行くときもシラユリ様の専属メイドとなった。


 メイドの条件は一つ黒く染めることとおかっぱであることだった。あのときはただカットすることができないから包丁で散切りにしただけなんだけど。




 ◆シラユリの視点◆


 木陰で昼食をしようとしたら少し臭い。後ろから臭ってくる。ランチボックスのサンドイッチが浮かんでいる。誰かの魔法かしら。重力を扱うなんて相当な魔力がないとできないことよ。


 犯人は汚い幼女だった。おかっぱが気になったものだからイレキに言って風呂に入れ服を着替えたら、そこそこ見られるような容姿となった。


 おかっぱにした面影がマリアンナに似ている。私の専属メイドにすることにした。髪を黒くに染めさせおかっぱのままで側に置いておく。彼女を見る度にマリアンナを思い出す。憎しみを忘れないため彼女はこれからも側に置いておくことにした。

 彼女の価値はそれだけだ。


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