第7話 初等科魔法学園

 魔法の訓練を地道にやってきたおかげですべての魔法を思い通りに使えるようになった。


 7歳になり今年の4月から国立初等科魔法学園の生徒となる。


 アーメリア王国は15歳で成人する。


 王立魔法学校は通常15歳で卒業するようになっている。

 12歳未満で入学した場合など一部の例外を除くと王立魔法学校ではどんなにすぐれていても飛び級はしない。魔法のみならず、精神性も学ぶためだ。

 15歳未満で卒業した者は成人とみなされ、官位に就くこともできる。


 お酒は15歳まで飲めないが10歳から働くことができる。労働基準法はないのだ。1日24時間働けます。


 なお、冒険者は自由業であるため10歳になれば誰でも銅貨1枚分の登録料を支払えばいい。登録料が安いのは貧乏人でも冒険者を目指しやすくするためだ。なにより依頼料のピンハネのほうがもうかるのだ。冒険者は多い方がいい。


冒険者はがんばり次第で金持ちになることもあれば、短い人生を終わることもある。


 卒業者のうち成績優秀者は王族や軍の官職に推挙される。

 最高学年の姉は成績優秀なため王都では青田刈りの名簿順位1位に記載されているらしい。


 4月8日が入学式なのは日本と同じだ。本年の3月31日までに満7歳なった子が対象だ。いい替えれば前年4月2日から翌年の4月1日まで生まれた子だ。


 魔法学園は5年間の学園生活で寮も完備している。

 俺は伯爵家の屋敷から馬車で10分の通学範囲内なので姉のように寮には入らない。


 入学式のあとに魔法適正試験があり、クラス分けがある。姉は適正試験で自分の身長と同じ大きさの火炎魔法を発動したことで四年生に飛び級したらしい。

 学園の入場門から30メートルの地点に的が準備されていた。ちょうど100メートル先くらいの校舎を背にするように配置されいる。


 魔法学園に体育館はない。魔法は各教室で学科を学び、実地は広場で行うため必要ないのだ。


 卒業すれば王立魔法学校に進学するか、冒険者になる。

 商人や職人になる者はそもそも魔法学園に入学しない。

 今のうちに過酷な環境に慣れる必要がある。


 そういう訳で、広場で入学式を終え、そのまま適正試験に移る。

 新入生50名がそれぞれ得意とする魔法を唱えている。


「妖艶なる天地の神々よ我が手に炎の生成を発動させん。ファイヤー」


 ほとんどの者はプラム程度の炎を発動させて10メートルほど先の50㎝の的に投げつけている。


 メロン程の大きさの火炎を発動させた者は的を破壊して、そのまま10メートルくらい進んでから火炎は消滅した。


 わあ~と父母の歓声があがった。どうやら今年のダークホースのようだ。


 水魔法を使う者は水鉄砲程度を発動させる者がほとんどだった。


 俺の順番が来た。いえ私の順番がきましたわ。


 今朝、朝食のときにジジイから、皆が驚くから火炎をとにかく小さく発動するようにと言われていたので、できるだけ圧縮してチェリーくらいの大きさのものを的に軽く置くように投げた。

 ちょっと小さくしすぎたか。クスッと笑い声がする。


「あ!詠唱を忘れてた」

 誰も気づいていない。

 助かった。


 炎は渦を巻きながら高速で回転しつつ拡大して的に到着する頃には10メートルくらいの大きさになって、そのまま的の後方に勢いをどんどん増して突進し校舎前のポプラの木を根こそぎ飛ばして、レンガ造りの学園の校舎に大穴を開けて崩壊させてしまった。

 今年度入学予定者の校舎が瓦礫がれきとなってしまった。


 先生が口をパクパクさせている。

 他の子は口ポッカン。

 学年主任のバッジを付けた教師がダッシュで来た。


「は~い、マリアンナちゃんはもういいですよ。試験終了」


 俺は他の魔法を披露する機会を失った。

 一時的に試験は中止となったがとりあえずクラス分けのために端折はしょって行われた。

 終了後すぐに、掲示板にクラス分けが張り出された。


 俺の名前はどこかな。


「お母さん、どこにも名前がないよ!」


 あの黒塗りはもしかしたら俺の名では?


 試験など建前で最初からクラス分けは決まっていたのではないかという疑問が湧いた。そういえば何てらコンテストなどは最初から優勝者は決まっているとか聞いたことがあるし、〇〇展とかは出品前から入賞者名簿が作成されているなど、事実かどうかは知らないが、よくあることらしい。


 メロン大の火炎を出した生徒は二年生に飛び級していた。彼は試験前に二年生の生徒に今年の入学者ですと紹介されていたのだ。この世界も同じか。


 どんなに目を懲らしてみても張り紙に俺の名前はない。

 黒塗りの一人分は誰?


「え~!落第なの!校舎壊したから!!」


 まだ入学してないのに落第ってどういうこと~。


「え~、マリアンナ・イイナさんと親御さんは至急学園長室にご来所ください」

 園内放送があった。


 学園長室では、ジジイと母のクドレイナと俺が学園長の対面に座った。


「伯爵様、大変申し上げにくいのですが、教育委員会とも相談して本学園ではお嬢様をお預かりしないことになりました。」


 破損した校舎の解体費用に関しては毎年伯爵様から多大な寄付を頂いていますので、当学園で負担いたしますので今回は頂きません。

 早急に新校舎を建築します。その分については必ずご寄付願います。


「解体費と新校舎建築費用はこちらでみよう。本人に悪気があったわけではないのでなんとかならんのか」

 ジジイが頼んでいる。


「そうですわ。私の子を入れない気なの?」


「家庭教師で済ませることもできるのだが、マリアンナには他の生徒との学園生活というものを送らせてやりたいのだ。どうしてもというのなら儂からおいに頼んでもいいが?」


「ちょ~っと待ってくださいね。国王様に直々ご連絡されると、私の首が飛んでしまいますわ。もう一度教育委員会に相談してみますね。もうしばらくお待ちください」


 ~10分後~


「あ、大丈夫です。他領の国立初等科魔法学園は全滅でしたが、王立魔法学校が受入れてくれました。私が特例待遇で飛び級したことにしておきましたから安心してください」


 なんか、入学を拒否られた。一所懸命手を抜いたんだけどなあ。

 学園長の話しっぷりからすると、詠唱しなかったため、魔法ではなく、不正に魔道具を使用して試験を受け、しかも建物と器物破壊をしたことになっている。合格させては他の生徒の示しにならないということだった。


 俺の学園生活は入学式で終わった。

 まだ7歳なんですけど。今年の7月7日の七夕(この世界にあるか知らんけど)の誕生日にやっと8歳になるんですけど。2年間私学に行くのかな?


 学園生活を楽しみにしていた。

 お姉さん先生を沢山たらし込んであんなことやこんなことをして薔薇のような学園生活を送るつもりだったのだ。


 学園長!!!お前はバレていないと思ってるだろうが、俺は全て知っているんだぞ。


 学園長が席を外したとき俺は「急急如律令……」式神を使い学園長の動向を知らせるようにお願いしていたのだ。


 リアルタイムで全てが映像と音声として頭に入る。

 俺は魔法使いなのか、陰陽師おんみょうじなのか、忍者なのか。どれでもない。俺は俺だ。


 この世界の魔法使いは長年詠唱に頼ったことでむしろ独創性を無くしてしまったのではないだろうか。



“プルル、ガチャ”


「あ、わたしー!教育委員会本部?本部教育委員長は在籍しているかしら?

 私~!ミランよ。イイナ伯爵領初等科魔法学園の学園長ミラン・シランよ!

 早く呼んでちょうだい!!ほんと使えないんだから」


「本部教育委員長に電話っす」


「このくそ忙しいときに誰からなの?」


「知らないっす。カナきり声のおばさんでしたよ」


「もしもし誰ですか。私は忙しいの。用事がないのならさっさと切ってちょうだい」


「あ、お母様~、あなたのいとしの娘ミランです。ほんとうにお母様の声はいつ聞いてもおきれいでうらやましいですわ」


 あの事務員使えね~。


「あら、ミランちゃん、どうしたの?」


「ちょっと問題が起こってしまいましたの。イイナ伯爵のバカ娘が入学試験に魔道具を使って校舎を破壊しましたの。超問題児なので入学を拒否したら、先代王の弟がなんとかしろというのです」


「そう、しょうがないわね。私もクビになりたくないし。他の地区の魔法学園に入れることもできますが、そんな面倒な子は王族に責任を持ってもらいましょう。王立魔法学校なら最終的な責任は王族が負うから、私たちに責任が及ぶことはないわ。そうね。入学基準は私のほうでなんとでもするから。とりあえず飛び級したことにしておいて!」


「お母様はいつもお優しくて、大好きママ」

「また遊びに行くから」


 ”ガチャ“


 「あの子いつも目上の人の対しては自分から先に魔道電話を切ってはいけないと教えていたのに先に切りやがった。こんな調子ではまだ私の地位は譲れないわね」


 「ふん!早く私に本部教育委員長の座を譲れよ!くそババア。厚化粧がキモいんだよ。」




 王国暦207年、姉は12歳になっていた。王立魔法学校の最上級生だ。しかも1年生から生徒会長をやっている。


 入学試験の翌日、王都に向かって早馬車をかける。俺はその場所がどこにあるのかその空間のイメージが分かれば何処でも転移できるようになっていた。正確な地図があればなおOKだ。


 しかし今回は転移魔法が使えない。魔法学校にお供もなしでいきなり3人が現れたら大騒ぎになってしまう。また入学拒否されたら学歴無しのプータローなってしまう。そういうわけで王都まで2日の距離を馬車を飛ばして……そして王立魔法学校に着いた。


 もう尻がビリビリで痔になるのではないかと心配になる。ジジイはさすが貴族。平気な顔している。いや放心しているだけか。クドレイナはすました顔をしているが髪はボサボサだ。


「そうね。髪型が崩れたわ。お色直しするから事務室の前で待っていてくださる?」


 と言ったその足で走ってトイレに飛び込んだ。俺も膀胱が破裂寸前だ。同じく飛び込んだ。ジジイのように男だったらあっちこっちで立ちションできるのだが……。あまり我慢すると膀胱炎になる。


「ブリブリ、ピリピリ、ピチャ」

 お母様、下痢だったのね。それは辛かったでしょうね。


 落ち着いたところで、事務室の受付にイイナ伯爵と名乗ると校長室に案内してくれた。

 三角眼鏡をかけた切れ長の目をした40歳前後の女性が校長だった。

 校長はソファに座るように手招いた。


 校長の後ろには身長150センチくらいの太っちょで脂汗臭そうな男が校長の耳元に聞こえるようにささやいた。


「例の問題児です」


 おい、聞こえてるぞ。なんで問題児なんだ。

 校長は続いて話し始めた。


「ドキュメント様は先代国王の弟君、現国王の叔父にあたられます。それに本部教育委員長からの強制、いえ推薦がありました。致し方ありませんが我が校に迎えることにしました。我が校のモットーは不平等・慈愛・人に迷惑かけないです。


お子様は建国以来初めて国立初等科魔法学園の入学を拒否、いえ全学年飛び級された問題児ですが、我が校においては慈愛の精神と物を壊さないで大切にすることを身につけていただきます」


 おいおい、俺は、入学試験を受けてただけだぞ。それにモットーが不平等って。まあなんだ、確かにこの世は貴族と平民があるから不平等か。日本も平等ではなかったしな。


「あなたのお姉様は生徒会長としてすばらしい活躍をされています。あなたも見習うことですね」


「儂の娘……孫を問題児だと!まあ多少問題はあるが、もう少しやんわりと言えないか」とジジイがつぶやいたが、クドレイナは何も言わない。顔を見ると、怒り狂っている。


温和おとなしく聞いてりゃあ……う!!う!!。私ちょとお色直しに行きますわ!」

 お母様ちょっと臭ってます……


「ここでは寮生活をしていただきます。それに学生の自立を目指していますから執事やメイドはご遠慮ください。帰りに事務室に寄って頂き、鍵をもらって寮長を訪ねてください。登校は明日からになります。くれぐれも問題を起こさないようにしてください」


 とりあえず入学できる。まあ8年間が3年間になっただけだ。俺は前世で12年間学生生活をやっていたから、三年制大学に入学したと思えばいい。


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