第29話 インキナ共和国と交渉

 戦争は終わった。


 ダンタリア帝国軍の残兵は1万人になっていた。

 辺境伯軍に至っては2千人しかいなかった。

 タップリ・ビッターレ辺境伯は真っ先に逃げ帰ったが、国境を越えたところでインキナ共和国軍に惨殺された。

 兵士はすべて即刻逮捕された。

 インキナ大統領はこの度の件を早く終わらせたいようだ。


 インキナ大統領は即座に停戦を公表し、あらためてアーメリア王国ドキュメント国王と友好国としての協定に調印した。

 辺境伯が行ったこととはいえ、協定では戦争賠償金としてインキナ共和国がアーメリア王国大判金貨1万枚を支払うことで双方が合意した。


 インキナ共和国にとってはたいした金ではないが、それでも相当な金額だ。

 日本円にしたら1千億円くらいだが貨幣交換に対する不平等協定があるためインキナ共和国の懐は痛まない。実質100億円程度だ。


 ダンタリア帝国は捕虜1万人の受取を拒否した。

『彼らは帝国軍人ではない。クーデターを起こして貴国に勝手に進軍した。捕虜はそちらの好きなようにされよ』と。


 帝国の民は疲弊している。帝国経済は軍事費が巨大なため決して豊ではない。

 そのうえ敗戦での支出は避けたいようだ。

 捕虜1万人は見捨てられた。


 アーメリア王国としても捕虜1万人を食べさすのは大変だ。

 苦肉の策として未開墾地で1年まじめに開墾をしたら人格を審査のうえアーメリア王国人として迎え入れた。

 どのみち彼らに帰る国はないのだから。本人が望めば軍人として迎え入れることもした。


 ただし、アーメリア王国人として迎えるにあたって魔道誓約書にサインをさせることに抜かりなかった。

 彼らはよく訓練されていてむしろアーメリア王国の兵士より優秀であった。


 戦後処理が終わり、アーメリア王国は次第に落ち着いてきた。

 王城ではコサミメイド長がマリアンナとトイレに入っていく姿が風物詩になっている。その度に、もう今度やったら首にするからね。と言っている。

 まんざらでもないのだろうか?


 そんな日々が流れていったが、マリアンナはあまり転移魔法を使わなくなった。

 どうも移転距離に少しずれが生じているらしい。

 今のところ特に問題にならない程度と言っていたが、他の優秀な魔道士もわずかながら違和感を感じ取っていた。


 水魔法を使う魔道士の水量が不安定になっているらしい。

 火炎魔法を使う魔道士も火炎の強さが安定しないと言っている。

 何かが起こっているが、日常生活はそのまま流れていく。

 マリアンナは魔素濃度が安定していないことに胸中がざわついていた。


 ドキュメント王はこの度のことを深く反省し、北方三国ともっと友好関係を深めることに専念した。

 王族はドキュメント・イイナ国王とクドレイナ・イイナ王妃、それとマリアンナ王女の3名しかいない。若いマリアンナは軍のジジイたちにも人気もありフル回転である。


 マリアンナは貴族との友好を深めるため慣れないダンスに参加したり、貴族との晩餐会に参加したりと大忙しであった。マリアンナはすでに11歳。

 黒髪はサラサラとして美しく、王と王妃のいいところだけを受け継いだ顔立ち、今はまだかわいい微乳だけど母親は爆乳だ。

 最低でも巨乳になると思われる。

 しかも次の王はマリアンナで決まっている。

 逆玉狙いの貴族はこぞって婚姻の申込みをした。


 マリアンナは北方三国との友好のための使節団として派遣された。隣国インキナ共和国では大統領自ら出迎えた。

 噂は大統領にも伝わっていた。


 彼女のお抱え魔道士の魔法はインキナ共和国にとっては驚異そのものであった。

 使節団には当然のように豚組も護衛として参加していた。


 大統領にはこの度の戦いの詳細が報告されていた。


 「アーメリア王国内の間者の報告によると、突然王女の回りを剣士と魔法使いが守るようにして現れ、魔法使いは詠唱を始めました。

 詠唱が終わるか終わらないかわからないほど短時間で魔物が出現し、各軍隊の後方から突進し、蹂躙していきました。


 王女は何もできないようですが、回りを警護する魔法使い二人のうち一人は特級魔道士と思われます。

 彼らは王女と必ず共に行動しています。

 王女は詠唱していませんでしたので魔法は使えないと思われます。


 ですが、自ら前戦に赴いて彼らに指示をしていました。

 王族が自ら最前線に行くことなど普通ありえません。

 しかもまだ少女です。すごいことです。


 そんな彼女の回りにはとんでもない魔法使いがいます。

 アーメリア王国と事を構えるのは得策でないと思われます」


 インキナ共和国の民は“悪魔の魔法使いを使役する狂女”と噂されたマリアンナを見ようと大統領府に詰めかけていた。みな怖い物見たさであったが、固唾かたずを呑んで彼女の姿を待っていた。


 マリアンナが壇上に上がろうとしたが、踏み台が高くて上がれなかった。

 大統領秘書官の爆乳お姉さんがマリアンナを抱えて踏み台に置いた。

 お姉さんの胸が背中に当たる。


 マリアンナが壇上に現れた。

 見るからに小さい子が「わたちは、あーめりあおうきょくの、まりあんな・いいな、ともうちまちゅ、ふちゅちゅかなものでちゅがりょうこくのかけはちとなればちゃいわいでちゅ」挨拶が終わるとしばらく静寂な時間が流れた。

 次の瞬間ワアーと歓声が響いた。


 きらきら光る黒髪は美くしく、引き込まれるような黒の瞳は人々の心を引きつけた。


 黒髪・黒瞳はこの大陸に200年間現れていない。

“悪魔の魔法使いを使役する狂女”など悪い噂だったと思うのだった。


 インキナ共和国民はカミカミの小さな天使に歓喜した。


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