第11話 間話:魔法合戦
「教頭せんせ~」
「うぉ、し、シラユリ様、何でしょうか。そんな甘い声で。嫌な予感しかしませんが」
「たいしたことないわ。ちょとお願いがあるの」
「難しいことでなければいいですが」
「簡単なことよ。来週の参観日をやめて魔法合戦にしませんこと」
「父兄にはもう案内が終わってますから、無理ではないかと~」
「あら、あなた、私の靴は嘗められても、私の言うことは聞けないの?いいのよ。あなたの代わりはいくらでもいるから。私達の関係もこれでおしまいね」
「いえいえ。参観日で案内したのは間違っていました。訂正文を出します。来週は魔法合戦です。それでどのようなことをするのですか」
「ふふ、それは当日のお楽しみよ。マリアンナをけちょんけちょんに出来る日よ。王都スタジアムを予約してあるからそちらが会場よ。保護者に案内しておいて!一般客は無料でいいわ」
「わかりました。ご褒美はないのでしょうか?」
「あなた、独身でしたわよね。いい子を紹介してあげるわ。逢った日に結婚を約束しなさい。相手も喜んでくれるはずよ」
「美人でないと……」
「すこぶる美人よ。あなたもきっと満足するはずよ。相手にはこれを毎朝飲ませなさい。無味無臭だから気づかれることはないわ。いいこと3年分渡しておくから。忘れないようにね」
「これは、例の薬ですな。これで儂も
「校長にいますぐ報告しておいて!」
~5分後~
校長室からおぞましい声がする。野獣が絡まっている。
「あなた、私の理想よ。本当に私と結婚してくれるの。なぜ今まで気づかなかったのかしら。思い出せないわ。でも教頭がこんな美男子で若くて。今まで気づかなかったのかしら。理想の人よ」
「あー、理想の女性に出会いました。もちろん結婚しますよ。校長がこんなに若くて美人だったなんて。理想の人ですよ。なぜ今まで気づかなかったんだろう。思い出せない。しあわせだ」
~10分前~
「こうちょう~せんせ~」
「あら、シラユリさん、なんの御用かしら」
「これ、お土産です。飲んで痩せるダイエット食品です。しかも女性ホルモンを整えてくれるからもてますよ。今飲むと効果がすぐにでますよ。きっと最初に入ってくる男性は理想の方ですよ。これは毎日飲んでください。相手には絶対内緒ですよ」
「一応もらっておきますわ」
「では、これで失礼します」
「嬉しいわ。3年分もくれるなんて。シラユリさんはいい子だわ」
「コンコン」
「教頭です。入ります」
「なに!理想の人が来るのではなかったの?」
「入ります」
「あ~、素敵な人。教頭がこんなにステキだったなんて。あれ?教頭って誰だったかしら?」
「おー、すごい美人、俺の理想だ。結婚してくれ!」
「え~、いいの。もちろんOKよ」
「じゃ来春結婚しよう」
校長室ではおぞましいことが繰り広げられた。
~20分後~
「やってるわね。あ~見てるだけでおぞましい。吐きそう」
でもあの薬すごい効果ね~。
相手が理想の人に見えるだけではなく、相手が知ってる人間であっても過去の記憶をいいようにすり替えるのだから。
教頭にはマリアンナに見えているはずね。
言わなくてもわかるわよ。
あなたの妹を見るときの目。
おぞましいほどいやらしいのよ。
校長、あなたの好みも知ってるわ。
あなたにはきっとビリット君に見えているでしょうね。
いい年をして。
あなたが、こっそり教室の彼を見ているのを知ってるわよ」
これで一石二鳥ね。
来春には教頭が校長になるから卒業しても学校を私の自由に利用できわ。
「会場にお越しのみなさま、これより魔法合戦を行います。競技はクラス別対抗、学年選抜同士の魔法合戦となります。優勝するのはどこのクラスでしょうか。そしてどの学年が優勝するか楽しみです。その前に今日の前哨戦です。姉妹対決です。魔法で直接対決するわけではなく得意の魔法を皆さんの前で披露します。
それではシラユリさんとマリアンナさん中央台に来てください」
「おい、マリアンナ、お前聞いていた??」
「知らない。ビリット、初めて聞いたわ。どうしよう」
「シラユリのやつ大勢の前で恥をかかせるつもりだな。俺たちが一緒にいてやるからお前の好きな魔法を見せてやれ」
「わかった。がんばる」
豚組の面々は特級魔道士となったシラユリの魔法にはとてもかなわないだろうから、せめて自分たちが支えてやろうと一緒に壇上に上がった。そして一緒に泣いてやろうと思った。
「姉妹対決の前に審査方法ですが、お手元にある札を上げていただき、多い方の勝ちとします。シラユリ様がいいと思う人は白い札を、マリアンナさんがいいと思う人は赤い札を上げてください。今回は観客の皆様は一人1点とし、審査員は各自100点で10人の先生が審査員を務めます。審査委員長は教頭先生で300点保有してます」
「では、最初に生徒会長のシラユリ様の魔法からです。シラユリ様どうぞ」
審査員は拍手喝采。保護者も拍手喝采。一般客はシラユリのことをよく知らないのでまばらな拍手。
シラユリは得意の転移魔法でスタジアム内を転移してみせた。転移距離は200メートルくらいであろうか。転移した場所には牛がいた。シラユリは転移を繰り返し牛に剣を刺す。牛の断末魔の声が響く。審査員は大拍手をしている。その次には空に鳩を放つ。鳩に向かって火炎魔法をぶっ放す。鳩は丸焦げになって落ちてゆく。審査員は大拍手。イノシシが放たれる。シラユリはエアーカッターでイノシシを刻む。イノシシが断末魔の声をあげる。審査員は大拍手。
だが保護者と一般客は引いている。
観客は昨年の王都での広域火災のときにたまたま来ていたクシカツが転移魔法で救助をしているのを見ているから、クシカツより転移距離の短いシラユリの転移魔法を見ても何の感動もない。それよりも
「すばらしい魔法の数々でした。シラユリ様ありがとうございました。次はマリアンナさんです。ではどうぞ」
突然指名されたマリアンナはどの魔法をやっていいかわからなかった。人に見せるための魔法をしたことがなかったからだ。しかも目立つ魔法は禁じられている。やれることがあまりにもない。
「そうだ。小さかった夏の日に、”かあさん”が皆で花火をしようね。大きな花火は買えないけど、小さい花火でもみんなですると楽しいよ。といって父さんとかあさんと3人で花火大会をしたんだ。すぐに終わったけど楽しかった」
ビリットの合図で、ヒンセイがスタジアムの灯りを切る。会場は薄暗くなる。
マリアンナは小さな花火のように七色の火炎を出す。1か所、2カ所、3カ所。
観客は見ていた。3人の親子が仲睦まじく花火をしている姿を。豊ではないが親子の暖かい絆が見えた。そこに人がいるわけではないのにそう見えた。保護者も観客もまだ子供が小さかった頃を思い返していた。忘れていた感情がよみがえる。観客の目から涙が一すじ落ちる。
マリアンナの魔法が終わった。会場に灯りがともる。審査員はマリアンナの魔法に大ブーイング。
そこへ突然魔犬が飛び出した。
ビリットが魔犬を仕留めたが、子供が驚いて転けた。
膝から血を流して泣いている。
魔犬はシラユリがマリアンナを狙って放ったのだ。
マリアンナは子供のところに行き、「いちゃいのいちゃいのちょんじぇけー!」と唱えると子供は泣き止み、膝の血は止まった。
観客は拍手喝采した。
「さあ、いよいよ審査です。まず審査員からどうぞ」
「全員白です。1,300点。もう勝負ありましたね」
「一応、観客の点数を発表しましょう。集計は魔法学校野鳥の会が行います。ではみなさん札を上げてください」
「集計結果がでました。白123点、赤1724点」
「ただいま審査委員長よりこの勝負は無効と宣言されました。魔犬の侵入があったことでマリアンナさんに有利に働いたとの判断です」
会場は大ブーイング。
マリアンナが会場を去ると会場から拍手の嵐。
ドキュメントが声を出して泣いている。
“儂は感動した”
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます