第27話 各国首脳の思惑

 ~その頃王都では~



 ドキュメント王がインキナ共和国大統領に直通電話をした。


「大統領府ではそのようなことは聞いておりません。

 そんなことをする訳ないではありませんか。

 我国はアーメリア王国とは末永くよろしくお願いします、と指輪交換した仲ですよ。ははは。貴国が攻撃されたならいつでも派兵することもやぶさかではありませんぞ。

 変な言いがかりは両国の信頼を裏切るものです。

 コーヒーが冷めてしまうので、これで失礼」


「ガチャ」



 ~2分後~


「ドキュンメト王、誠に申し訳ありません。

 国境沿いのタップリ・ビッターレ辺境伯が貴国に侵攻したようです。

 我々は一切関知しておりません。至急討伐に向かっています。

 しかし我国の軍隊が貴国に進軍するとフタマタ商業国家が我国に侵攻するおそれがあります。

 神聖キツソウ国の軍隊も国境沿いに軍隊を進軍しているようですから、国境沿いにて待機しております。そちらでタップリ・ビッターレ辺境伯軍を国境近くまで押し戻してください。その後はこちらの軍で総攻撃を仕掛けます。

 今回のタップリ・ビッターレ辺境伯の進軍は決して我国の総意ではありません。

 両国の友好にバンザ~イ!」


「ガチャ」



「くそふざけた野郎だぜ。おい!プリット大将、どうすんだ!前も後ろも敵だらけだ。こりゃ詰んだかな?」


「貴族軍の援軍が到着するまで最低1週間はかかります。それまで王都はもちますまい。ここに至ってはいたしかたありません。姫様の力を借りるほかありません。姫様に連絡しましょう」


「お前、マリアンナは全能じゃないぜ。攻撃中は背中が隙だらけになる。敵にだって魔法使いはいる。魔力が底なしといっても疲れないわけではないのだぞ。

 敵にマリアンナほどの能力があるとは思えないが、だからといって多人数で攻撃されれば万が一がある。

 それにシラユリのこともある。

 俺の大事な娘を前戦に行かせというのか」


「でありますが、我国が滅亡すれば姫様の御身が心配です」

「わかった。くれぐれも王女として参戦させないように。兵士が恐縮してしまったら元も子もない。いいか、危なくなったら必ず避難させるようにしろ」


「恐縮です」




 ~インキナ共和国大統領府~


「大統領、アーメリア王国国王から緊急回線に電話です」

「何!腰巾着国の王からでんわ~!でんわ。なんちゃって」

「大統領ご存じないのですか、あそこはクーデターで前王が処刑され、今はドキュメント1世が統治しています」

「そうなのか。他国に興味ないので忘れておった」


「大統領はお姉ちゃんばかり興味を示さないで、もうちょっと外交にもお気遣いください」


 大統領とドキュメント王の会話が終わった。

「あいつ、とんでもないやつだったぞ。被害妄想も甚だしい。俺の軍隊が侵攻した、って文句言いやがった。適当に聞いてたしなめておいてやったぞ。田舎者には紳士の話し方というものを教えてやるのが目上の者としての務めだからな。

 おい補佐官もうあの男との電話はすぐに繋ぐな。コーヒーが冷めてしまったわい」


「そこの、お・ね・え・ちゃん。コーヒーのおかわりちょうだ~い」



 ~1分後~


「大統領!大変です!」

「どうした。トロイナ大統領補佐官」


「あ~れ~。この手はこっち。いや~ん」


「スカートの中は天国かな極楽浄土かな~」


「天国をお楽しみのところ大変申し上げにくいのですが、タップリ・ビッターレ辺境伯がアーメリア王国に侵攻しました。すでに国境を越えたようです」


「はあ~!俺は何も聞いてないぞ!!」

「軍本部に問い合わせましたが、将軍をはじめ皆この事実に右往左往しております」

「わかった。とりあえず至急アーメリア王国国王に電話する」

「至急緊急回線を開け!」


 ~5分後~


 緊急電話を終えた。

「おい、トロイナ、軍部に電話しろ、あいつら、ちゃんと押さえとけよ~こっちにも予定ちゅうもんがあるんじゃ。ぼけ」


「ヒラヒラポン大将を出せ」


「大統領この度の件に関しては私は何も聞いておりませんので……」


「寝言は寝て言え。お前、各貴族の監視をしていなかったのか。

 あの国にはまだ手を出すなと言ったろ。

 今あそこを併合してみろダンタリア帝国と直接国境を接することになるぞ。

 ダンタリア帝国だけじゃない。キャデタリ皇国とセマイナ独裁国家とも接するぞ。それだけじゃない。

 そうなったら軍費がどれだけ必要になると思っている。


 フタマタ商業国家と神聖キツソウ国があそこを攻めないのも同じ理由からだぞ。

 二国とはまだ調整途中だ。

 今はアーメリア王国を併合して得る金銭より増加する軍費の方がはるかに上回るからどこも侵攻しないで、むしろ友好国として接してることぐらいわかってるだろ」


「あ~。俺が大統領のときに。大変なことになった。ビッターレめ。予定が狂うじゃないか」


「でもまあ、ピンチはチャンスか」


「ビッターレ辺境伯領に20万の軍を送れ。準備はできてるはずだ。予定が2週間早くなっただけだ」


「ペンペン草も生えないようにしてやれ」

「フタマタ商業国家との国境線を解放しろ。やつらとは直通回線で話しをつける」


 平和な国を作るには血のにじむ努力が必要になるが、戦争になるのは一瞬だな。


「また沢山の血が流れるのか。

 なあ、おやじ、俺はおやじのようになりたくないな。

 おやじのように戦争にあけくれて、しまいには暗殺されやがって。

 おねえちゃんを追いかけるほうが俺には似合っているる

 インキナ共和国大統領は壁にかかる父親の肖像画と会話していた。



 ~10分後~


「インキナ共和国大統領ノヨルワ・モシヌオだ。最高指導者殿に繋いでくれ」

「申し訳ない。我国のバカが勝手にアーメリア王国に侵攻してしまった。国境は開放しているから、予定どおり援軍を頼む」

「バカはどこにでもいますわ。わかりました。すぐ準備しますわ」

「ガチャ」



 ~15分後~


「インキナ共和国大統領ノヨルワ・モシヌオだ。国王に繋いでくれ」

「申し訳ない。我国のバカが勝手にアーメリア王国に侵攻してしまった。国境は開放しているから、予定どおり援軍を頼む」


「お前のところはバカしかないのか。2週間後という意味がわからないのか。算数から教え直しとけ。フタマタとの国境は話ついてるのだろうな。そうか、それならいい。すぐに派兵する」


「ガチャ」

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