第5話
伊里斗真と柳沢朱莉は幼馴染である。
家はお隣さんで家族ぐるみでの付き合い、幼稚園から高校まで一緒。小学校の高学年くらいからは適度な距離感で接しているし、美少女とフツメンの組み合わせなので周りから恋人認定されることもない。
幼馴染だということはお互いに認めてるがラブコメチックな関係性はなく、斗真の初恋の相手はジュニア時代のチームメイトだし、朱莉の初恋の相手は斗真の兄の建志だ。
中学時代は特に距離が遠く、必要な会話くらいしかしていなかった。再度幼馴染らしくなったのは高校に入学してからだ。
斗真と違い中学でも美少女らしくモテていた朱莉だが恋愛にはあまり興味がなく、誰かと付き合うということはなかった。
そんな彼女が斗真と幼馴染らしくなったのは打算があったと言われても仕方がない理由がある。
高校の入学式が終わり教室に向かった彼女。その目に飛び込んできたのは爽やかな笑顔のイケメン。
一緒で恋に落ちた。
後になって考えてみると自分のチョロさ加減に驚くレベルだ。
放課後、クラスの男子に話しかけられるがそれとなくかわして廊下にでるとイケメンのクラスメイト、湊蒼眞が疎遠になっていた幼馴染の斗真と楽しそうに話をしていた。
斗真の友達⁈
クラスの違う斗真が蒼眞と話をしているということは入学前からの友達ってこと? 斗真が小学生の頃からクラブチームでサッカーをしているのは知っていた。ひょっとしてその関係?
考えるよりも即行動。それまでの関係性を無視し斗真に話しかけると、その背後に美少女を発見した。
小倉心。彼女もクラスメイトでさっきまで蒼眞と話をしていた人物だ。
「斗真。クラスは別々だけどあんたもこの高校だったんだね」
まずは何気ない会話から蒼眞を紹介してもらおうと斗真に近づくと、背後から心がスッと現れて朱莉と対峙した。
「はじめまして。確か同じクラスの柳沢朱莉さん。でしたよね? 斗真くん、彼女とはお知り合いですか?」
おとなしそうな美少女の印象が一変。朱莉の目には猫が毛を逆立てて『ミャー!』と威嚇しているようにも見えた。
「ええ柳沢よ。確か小倉さん? だっけ。よろしくね。えっと、斗真の彼女さんだったりするの?」
まあ、そんなことはないだろうと思いながらも彼女の反応からなんとなく察するものがある。
「なわけないだろ。まあ、知り合い……ああっ! 友達っ! 友達です!」
「……ともだちです、ね」
心の落ち込んだ様子に、朱莉は驚きを隠せない。
は、は〜ん。なるほどなるほど。こんなかわいい子が斗真のことをね〜。しかも斗真は全く気づいてないと。そしてイケメン君の方は彼女のことを気にしてるみたいね。ふ〜ん。私にもワンチャンありそうね
「そちらの人も斗真の友達? 確か同じクラスよね?」
「ああ。一緒のチームにいた蒼眞だ」
簡潔な説明。ちょっとは話を広げなさいよ!
「湊蒼眞だ。蒼眞でいいぜ。えっと名前は柳沢……」
「朱莉よ。わたしも朱莉でいいわ。斗真のチームメイトってことはサッカー? 部活に入るの?」
「ああ。そのためにここに来たからな。心も入るんだろ?」
「う〜ん? どうだろ?」
斗真の様子をチラチラと伺いながら言葉を濁す心だったが、朱莉はその期待に満ちた表情から斗真と一緒に入る気満々だと確信していた。
「2人はどんな関係? ひょっとして……」
「ああ、幼馴染だよ」
少し照れくさそうに答える蒼眞と、
「昔からの友達かな?」
特に気にする様子もなく答える心。
幼馴染は否定? 特別感を出したくないのかしら?
なんとなく2人の関係は理解した朱莉。
「蒼眞も小倉さんもこの後のカラオケは行くの?」
朱莉たちのクラスでは懇親会を兼ねて有志でカラオケに行こうという話しが出ていた。断る気でいた朱莉だが蒼眞がくるなら話は別だ。
「ああ。せっかくだから行くつもりだ。心は……。あれ? 心は?」
いつの間にか離れたところに移動していた斗真と心。蒼眞は気づいていなかったみたいだが、斗真がクラスメイトらしき女子に呼ばれたのに合わせて心が密着マークをしていたのだった。
「彼女は行かなさそうね。ね、蒼眞。とりあえずクラスに戻らない? 詳細聞いてないから置いてけぼりになっちゃうよ?」
「それもそうだな。心には後からラインでもすればいいか」
「ね、蒼眞。わたしクラスに知り合いいないし途中で逸れたりしたらこまるから連絡先交換しない?」
「お〜、いいぜ。じゃあこれ俺のIDな」
蒼眞のスマホに表示されたQRコードを読み取るとユニフォーム姿の蒼眞のアイコンが写し出された。
きっと心は行かないだろう。斗真のクラスでも集まりがあるならそちらに行きそうな勢いだ。
さっきからチラチラと蒼眞を見ている女子が目に付く。ライバルは多そうだが最大のライバルであろう心は気にしなくて良さそうだ。
「ほらほら。さっさと行きましょ」
心を見つめる蒼眞を促して教室に戻る朱莉。
アンタも頑張ってよ?
ココロのなかでそう斗真に言葉をかけた。
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