第37話
「ふ〜んふ〜んふんふん、ふ〜んふ〜んふ〜ん」
朝からご機嫌の心が鼻歌を歌いながら今朝使った食器を梱包している。
俺はそんなご機嫌な彼女を見ながら本を縛っては玄関に運んで行く。
今日は待ちに待った? 2人の新居に引越しの日。まあ、引越しとは言ってもすぐ隣の建物に移動するだけだし、今日までに少しづつ運んでもらっていたから午前中には荷物を出し終われそうだ。
ちなみに心の荷物はすでに新居に移動済みらしく、こうして俺の部屋の片付けを手伝ってくれている。
新居について一つと言うか心配事が多々あるる。
引越し前に一度内覧はさせてもらっているのだがそれ以降、今日まで一度も新居に入れてもらっていない。
心の荷物を運んだ際も業者にお願いするから手伝いはいらないと言われ、2LDKの部屋割りと家具の配置などは心が任せてと言い、俺に出番はなかった。
2階にある2部屋のうちのウォークインクローゼットのある方が心の部屋でもう1部屋が俺の部屋になるとは思うのだが『今のベッドはとぅくんの実家に送るよ』と言っていたのが気になる。
一応新居に必要な家具は一緒に見に行ったのだが、ベッドだけはなぜだか買わなかった。
まあ、チラチラと横目で見ていたのは気づいていたが、サプライズでなにかしたい思いがありそうなのでそのことについては特にツッコまなかった。
「おーい、斗真。玄関の荷物運んでいいやつか?」
「あ〜、うん。よろしく兄貴」
本日の引越しは伊里家、小倉家総出で行われており、親父と兄貴は作業着という気合いの入れようだ。
「せっかくのおやすみなのにありがとうございますお義兄さん」
「かわいい義妹の頼みだ。断れるわけないだろ?」
親指を立てた兄貴が心に笑顔で応えた。
「ほんとに兄貴は心に甘いからな」
「は? あったりまえだろ? 俺の優先順位は愛莉、みらい、心までだ。お前は圏外だからな」
「知ってたよ!」
シッシッと手を振りながら部屋を出ていく兄貴と入れ替わりで心の親父さんが入ってきた。
「ふぃ〜、暑いね。心、こっちに飲み物ある?」
首にかけたタオルで顔を拭きながら玄関にドカっと腰掛けた親父さん。
「こっちにはもうないよ。向こうにおいてあるでしょ?」
「あ〜、そっか。んじゃ向こうまで我慢するか」
「あ、じゃあ俺取ってきますよ」
手伝ってもらっておきながら俺はクーラーの効いた部屋で荷物の梱包だけで、荷物運びは親たちが暑い中やってくれている。
「はい、とぅくんはまだ行っちゃだめです」
立ちあがろうとする俺の腰に心がガッシリとしがみついた。
「いやいや。友さんだって疲れてるんだから休んでもらわなきゃ」
「大丈夫。いつも言ってるもん『まだまだ斗真には負けん!』ってね。そろそろとぅくんには敵わなくなってると思うんだけどね?」
「こらこら心。親の目の前でイチャつくのはやめなさい」
友さんが額に手を当てて天を仰いでいる。
心の親父さん、
「まだまだ友さんには敵わないって」
「スピード衰えてきたしフィジカルではもう敵わないけどね? それと斗真。そろそろお義父さんって呼んでくれてもいいんだぞ?」
なにやら期待の眼差しを向けられているようだけど俺たち高校生だからね?
「兄貴だって呼んでないじゃないですか」
「ケンは親子っていうより仲間って感じの方が強いからね。斗真ももっと頻繁に———」
「お・と・う・さ・ん?」
「お、おぅ?」
「とぅくんは学校に練習にバイトにわたしを甘やかすのに忙しいんです。気を使わせるようなことは言わないように」
「は、はい」
どこの家庭も女性の方が強いと言うことだろう。小倉家の序列で言えば友さんは最下位のようだ。
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