第45話

 学校行事にもお構いなくリーグ戦は組み込まれているわけで、たまたま運良くウチの学校の修学旅行と体育祭の間にリーグ戦が予定されていた。

 県リーグは4部制で構成され、ウチは3部に所属している。

 心が加入前からリーグ戦は始まっていたわけだが、幸運の女神が降臨したかのように加入後は連勝街道まっしぐらである。

 16チーム中の5位まで上昇。2部昇格の3位との勝ち点差は4。4位とは勝ち点差1と初の2部昇格が現実味を帯びてきた。


 上にあがるにはもう1試合も落とすことはできないのだが、次の試合は柴田コーチをはじめ他のコーチも用事で不在。街クラあるあるである。

 幸か不幸か次はアウェイなので会場準備は不用、試合に必要なものは父兄に協力してもらい車で運んでもらった。


 さて、肝心な試合だ。


 柴田コーチは親父さんの七回忌だとかで不在なので夏帆ちゃんも不在。マネージャーとして心がベンチに入っているのはわかるのだが……。


「なあ心。その懐かしのデカいサングラスなんでかけてるの?」


 スタッフジャージに身を包んだ心は謎の美少女と囁かれていた頃の怪しげなサングラスをかけている。


「斗真くん? いまのわたしはとぅくんの彼女の心じゃなく監督代理なの」


 クイッと顔を上げた心のサングラスがキランと輝く。ちょっと偉ぶっているつもりだろうか? 腕まで組んで斜に構えている。

 本人はカッコつけてるつもりなのかもしれないが、組んだ腕の上で胸が強調されているので無言で腕を降ろさせた。


「集合」


 試合前のアップを終えると心から声がかかりベンチ前に集まった。


「コーチから今日のスタメンと試合展開によってのメンバーチェンジの指示はもらってます」


 裏返してあった作戦盤をくるりとひっくり返してスタメン発表。最近では定番化されてきた4-2-3-1でメンバーもいつも通り。


「スカウティングはわたしがしてきました。相手チームは左サイドはスピードで縦突破。右サイドはアーリークロスを多様してきます」


 この辺は昨日までにこれまでの相手チームの映像を見てきたのでチーム内でも認識している。


「ウチもサイドのスピードでは負けてません。ね?」


 心の満面の笑みを受け右サイドに入る2人が顔を赤らめながらも頷く。


「真ん中も競り合いで負けなければクロスは脅威じゃありません」


 俺の方を見ながら心がにっこり。


「いつも通りのことをやりましょう。わたしに一勝プレゼントしてください」


「っし、美少女に勝利を捧げてやるぜ! 斗真の彼女だけどよっ!」

「やるぜっ! いいとこ見せてNTR狙いだぜ!」

「小倉さんっ、斗真より活躍したらデートしてくれっ!」


 それぞれやる気を出してくれてるみたいだし、心も狙ってモチベーション上げてくれてるようだがワンチャンもないと言うことだけはわからせておかないとな。



 試合序盤はお互い様子見で無理な仕掛けはせずにパスを回してポゼッション維持する。


 どこかでくさびの縦パス入れてとりあえずシュートを打って主導権欲しいな。

 ウチのワントップに対して向こうのディフェンスは3バックで、しっかりと守られている感じだ。


「中村くんっ!」


 ベンチから心がトップ下に入っている中村真司なかむらしんじに両手を使ってトップを追い越す動きをしろと指示を出す。


 グイっと親指を立てて了解した真司がポジションを1列上げてシャドーストライカー気味に振る舞い出すと相手の守備にズレが生じてきた。

 真司との距離が空いてきたので俺自身もポジションを少し前に移動し縦パスを狙う。


 前半終了間際、ベンチを見ると心と目が合う。俺の意図を感じてくれていたらしく両手を外に広げるような動きをしたので、左手を軽く上げて了承と返した。


「司っ!」


 遠目からのミドルをキャッチした司に足元へのパスを要求し、相手をブロックしながら反転。サイドいっぱいにポジションしていた右サイドにグラウンダーで速いパスを出すと、ぽっかりと空いたスペースに綺麗に通った。


 真司を上げ相手の意識を中央に集めていたので、絞り気味にしていた相手のサイドの選手は対応が後手後手になっている。


 心の術中に見事にハマった相手の守備の綻びをついた真司がサイドからの折り返しをダイレクトでゴールに突き刺して先制。


「やったっ!」


 ベンチで心が両手を上げて喜んでいる。


「やったぜ小倉さん!」


 ベンチに駆け寄った真司が勢いよく心に抱きつこうとしていたので寸前で首根っこを捕まえてやった。


「ナイッシュー真司」


 首を掴まれたまま振り返った真司に労いの言葉をかけてやる。


「ま、まて斗真! ほんとに抱きつくつもりは———」

「いえ〜い、心ちゃん!」


 真司を捕まえていると、他のメンバーがベンチに駆け寄りここぞとばかりに触れようとするので蹴散らしながらポジションに戻ろうとすると、後ろからうれしそうな彼女の声が聞こえる。


「ふふっ、とぅくんが嫉妬してる」


 思っている以上に俺は嫉妬深いのかもしれない。


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