第6話

 小倉心と湊蒼眞は幼馴染である。

 

 家はご近所だが家族ぐるみでの付き合いと言う程ではない。それでも幼稚園から高校まで一緒。美少女&イケメンの幼馴染と言うことで周りからは恋人認定されてるかと言えばそうでもない。

 なぜかと言えば心の蒼眞に対する態度は周りの男子より少し砕けた感じくらいにしか受け取れないものだったからだ。ほどほどに親しい友達?


 それもそのはず。蒼眞の初恋からの現在進行形で好きな人は心であるが、心の初恋から現在進行形で攻略中の相手は蒼眞ではないからだ。


 2人の初恋はほぼ同時期に訪れていた。小学校2年生。蒼眞は言わずと知れた心に。心の相手は自分を変えるきっかけをくれたチームメイトに。


 小さな頃の心は人見知りが激しく、普段は姉や蒼眞の影に隠れているようなおとなしい子どもだった。そんな心を心配したという建前でサッカー好きの父は心を近所のサッカーチームに入れることにした。


「行きたくない」


 送り迎えの度にそう呟く娘に父は、サッカーの楽しさや素晴らしさを理路整然と語っていたらしい。

 そんな父の講釈が実ったわけではなかったが、しばらくすると心は練習に行くのを楽しみになるようになった。

 徐々に明るくなっていく娘に父は『やはりサッカーは素晴らしい』と思ったらしいが、3年生に上がるとスパッとサッカーを辞め、家の手伝いを積極的にするようになった。そこには悩める妹に人生の先輩たる姉のアドバイスがあったらしい。


「いい心? 男の子のハートを掴むには胃袋も掴まなきゃいけないのよ!」


 絶賛片思い中の8つ年上の大好きな姉のアドバイスにしたがった心は、初恋を期に即花嫁修行に入ることにしたのだ。小学3年生のとる選択ではない。しかも初恋の相手は学校も違うため、唯一の繋がりだったクラブチームを辞めたのも自分磨きのためと微塵も後悔をしていなかった。


 勝負はここじゃない! お姉ちゃんみたいに高校生になってから!


 唯一の繋がりを失っても前向きにいられたのは、姉の片思いの相手が彼のお兄さんだったから。なので心は姉の恋も全力で応援した。


 中学生になるとしっかりと恋というものを自覚した蒼眞は、心との距離を詰めるべく『こーちゃん』から『心』へと呼び方を変えた。 


 名前呼びは特別! と思っていたのだが、この頃からじわじわとモテ出した蒼眞のことを意識した周りの女子は『蒼眞』と呼ぶようになり、自分たちのことも名前で呼ぶように言ってきた。


 周りを女子が囲むことが増えた蒼眞であったが、心のことは幼馴染で特別だと振る舞うようにしていた。


 同じく恋に生きる心はすでに『そうくん』から『湊くん』と呼ぶようになっていた。


「小倉さんって蒼眞と幼馴染なんだって?」


  中学生になるとそんなことを聞かれることが増えたが、心の答えは『小さい頃からの友達』だった。友達であることはかろうじて認めているらしいが、異性としては見ていないと言うことは親しい友人であれば簡単に見てとれた。


 距離を詰めたいが幼馴染という特別な関係を壊したくない蒼眞と、他の同級生よりは少し仲がいいレベルの認識の心。2人の距離はお互いが異性からモテ出してからもつかず離れず。


 心が告白されたと聞けば『ど、どうしたんだ?』と動揺しながら確認する蒼眞。

 蒼眞が告白されたと噂が出回り、心から何か聞かれるかとソワソワして待ってみるが、返ってきた反応は『へ〜。モテるんだね』と気にもしていない様子。


 きっと心はまだ恋愛には興味がないお子ちゃまなんだ。と自分に言い聞かせた蒼眞。


 勝負は高校生になってから!


 奇しくも同じ考えにいたった2人だったが、姉のゴールインによりフライングスタートを切ることになった心。


 高校入学わずかで注文の的になった2人。女子に囲まれてハーレムを形成する蒼眞と、ハーレムを隠れ蓑にしながらグイグイと本命に迫る心。


『あの2人、幼馴染なんだって』

『あ〜、いつも一緒にいるし付き合ってるんだよね〜』


 2人っきりでいることはないが噂だけが先行する。


 しかし、蒼眞以外の親しいものはみんな知っている。


『いや、心の本命別にいるよ⁈』


隠す気のない心と気付けない蒼眞。


 2人の関係が変わる日はくるのだろうか?



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