第11話

 ブーメランを回避できほっとひと息。海パンに合いそうなラッシュガードを見に行こうとすると「えっ?」という小さな声が聞こえた。


「斗真くんにラッシュガードはいりませんよね?」


「その肉体美、披露しなくてどう……、そうですね。皆さんに見せる必要はありませんね。わかりました、わたしだけの特権ということで。お任せください。斗真くんに似合うものを見繕ってさしあげます」


 1人納得顔の心がスタスタと売り場に向かう。


「どうしましたか斗真くん? 行きますよ」


 たまに暴走しかける彼女を心配しながらも、この後の試練に身震いしながら売り場を歩いた。


♢♢♢♢♢


「さて、それではお待ちかねの女性用の売り場に行きましょうか」


 俺の買い物が終わりホクホク顔の彼女が俺の腕にスルリと細い腕を絡める。


「わたし、斗真くんに選んでもらえるの楽しみにしていたんですよ?」


「……心ならなんでも似合うから俺必要ないよね?」


「ありがとうございます。そう言ってもらえるのはとっても嬉しいですけど、大事なのは斗真くんのせいへ……、好みなんです。しっかりとアナタ色に染めてくださいね」


 あざとく上目遣いでのお願い。普段よりも攻撃力が増してやがる! しかも、今絶対に性癖って言おうとしたよな? 別に水着に癖はないからな?


 売り場を歩きながら気になったものを手に取り心のからだに合わせてみる。サイズはわからないので目算だ。

 大きく分けてビキニタイプにワンピースタイプ。その中でも細分化できるらしいが俺にはよくわからない。


「う〜ん? 水色もいいしピンクも似合う。白だと透けそうだしカラフルなのは俺の趣味じゃないしなぁ」


 マネキンに取っ替え引っ替え水着をあてていくこと数分。ここまで何着も見ているのに彼女の反応がないことに気づいた。


「?」


 じっと見ていると真っ赤な顔で目を見開いている彼女と目が合った。


「どうした?」


「ど、どうしたって? あんなに抵抗していたのにいざ来ると躊躇なくわたしの身体に水着あてて」


「あ〜、なんか結局逃げられないんだし、だったら心に一番似合うの見つけてやるって思ったら開き直っちゃって。わりっ、調子に乗って身体に当たっちゃってたか?」


 一応、気をつけていたつもりだけど、ひょっとして触って不快な思いでもさせてたか?


「い、いえっ! 触られてはいませんし、むしろ触っていただいて全然構わないんですけど、思っていた反応と違ってびっくりしてしまって……」


「それは揶揄えなくて残念って意味かな?」


 ジト目で顔を見ると目を逸らされた。


「……そんなことはありません。むしろウェルカムです。さぁ、続きをお願いします。それともそろそろ試着をしてきましょうか?」


 布面積の少ない白ビキニを手に取りながらイニシアチブを取り戻そうとしているのがバレバレだ。


「う〜ん? もう少し絞りたいかな。デザイン的にはビキニタイプでもいいんだけど布面積は多めでなるべくその、えろくならないもので」


 まあ、心は俺の彼女ではないので強制はできないが、できれば目立つのはやめて欲しい。とはいっても控えめに言ってもビーチに舞い降りた天使にはなるだろうからせめて上着は着てもらおう。

 

「くすくす。心配しなくてもといるときは上着を羽織りますよ?」


 何、その意味深な言い方。2人っきりだとどうするつもりなんだよ?


「じゃあ上着もセットで考えないとな、そうだなぁ、赤だと朱莉のイメージがあるし、青だと井原? 緑だと武田だろ? 白だと———って心?」


 さっきまでと表情が一変。ムスッとした表情でそっぽを向く。


「えっと、どうかしたか?」


「いいえ? どうもしませんよ?」


 明らかに『不機嫌です』と言わんばかりの態度。何か気に触ることをしたはず……、


「……あ〜、なるほど」


 失言に気づいたが、悪気があったわけではない。まあ、声に出したのは悪かったけど。


「ただみんなと被らない方がいいかなって思っただけで、心の方が似合わないって思った訳じゃないぞ? なんならこの赤のオフショルダーのビキニ。心のためにデザインされたんじゃないかってほど似合ってるし、この水色のホルダーネックの水着なんていつも以上に色気のある心になっちゃいそうで……って心?」


 あてていた水着を離してその顔を見ようとするが、鉄壁の両手が表情を隠している。

 でも、隠れていない真っ赤な耳とこれまでの付き合いの中で覚えた彼女の雰囲気から、オコ状態はすでに霧散されているのは明白だった。

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