第12話

 夏休みが目前となってきた7月上旬。職員室前に張り出された期末テストの順位を蒼眞と確認していると、背後からトントンと肩を叩かれた。


「ん? ああ、武田か」


「どうも」


「おっ、どうした翠。いやに不機嫌そうだけど」


「……まあ、別に不機嫌ってわけじゃないんだけどね? ちょっと納得いかないって言うか」


「ああ、わかる。これだよな」


「ん? どれだ?」


 わからないといった様子の蒼眞だが、武田は俺の冗談をしっかりと理解している。


「確かにも納得できないけど、それは今に始まったことじゃないよね? 納得いかないのはその隣の隣だよ」


 パシんと俺の手を弾き目的の名前を指し示す。


「1位の舞青ちゃんはいつものことでしょ? まあ、いまだにあのキャラで毎回1位は納得できないよ? 2位の心はいつものことだし? 問題はその隣! なんで私たちの間に伊里くんが入ってるの!」


「あはははは。本人もびっくり」

 

 これは嘘でもなんでもなく今まさに驚いてる最中だ。

 去年の最高順位は21位。今回は20位までに入れればいいな〜、なんて俺は思ってたんだけどね。


「当然だよ? だって斗真くん頑張ってたもん」


 いつの間にか武田の背後に腕組みドヤ顔の心。


「そりゃ、毎晩一緒に勉強してるって自慢されてたけどね? まさかこんな結果出すなんて思わないよ。も〜! 蒼眞くん。次回は私と一緒に勉強しようね!」


 突然話を振られた蒼眞は「えっ?」と困惑な表情を浮かべている。


 武田の恨み言のような呟きは聞き取ることはできてなかった蒼眞はただ勉強というキーワードが引っかかっていたみたいだ。


 今回の期末テストは来年の受験に備え出した心の影響で、テスト期間前からいい準備ができていた。


「わからないことはなんでも聞いてください!」


 と、視力がいい心がどこからか取り出した伊達メガネをクイクイと直しながら『聞いて聞いて』と期待の眼差しを向けるなか、なるべく迷惑をかけないように頑張った成果が学年3位という結果になって現れた。


 去年は1位井原2位心3位武田が安定の上位陣だった訳だが、そこに俺が割り込んだ。ちなみに蒼眞の名前はここにない。貼り出されているのは各学年総合30位まで。なんなら100位までにも名前はない。

 面倒見のいい武田が懇切丁寧に勉強を教えれば蒼眞の成績は上がるだろうが、その場合彼女の成績に影響が出そうな気がしないでもない。

 それにしても、と武田を見る。長い髪を一つにまとめた日本美人とでも言うのか。美少女がでてくるようなゲームなら必ずいそうな主人公を甲斐甲斐しくお世話するお姉さんタイプ。さぞやメガネ姿も板につきそうだ、と見ているとドンっとわき腹を突かれた。


「斗真くん? 翠ちゃんのこと、見過ぎじゃありませんか? なんですか? バブみを感じるってやつですか?」


 いつの間にか俺の背後をとっていた心がジト目で問い詰めてくる。


「まてまてバブみってなんだよ? ただ単に武田が勉強を見てくれるんだったら蒼眞もブービーから昇格できるかもって思っただけだよ。だってコイツ、インハイ予選前だっていうのに補習で練習出れないんだろ?」


「うぐっ! やめろ斗真! クリティカルに傷をエグるな!」


 胸を押さえて大袈裟に倒れ込む蒼眞に、心は冷たい視線を向ける。


「試験前のミーティングでもちゃんと説明はしましたし、今に始まったことではありませんからね。エースの自覚が足りないとしか言いようがありません」


「お、おう」


 あまり見ることのできない完全に呆れモードの心。仲のいい武田でさえ後ずさる程強烈だ。


「……全くもって弁解の余地もねぇ。せっかく心が骨折ってトレマも組んでくれたって言うのによぉ」


 弱々しく呟く蒼眞。


「全く。湊くんがどうしてもっていうから先方にも無理言って時間とってもらったんだからね? 翠ちゃん、次回からお世話してもらえる? わたしは斗真くんのお世話で手一杯だから」


 いまは伊達メガネないだろ? ってツッコンだ方がいいか? そのクイクイって仕草気に入ってるんだろ?


「うんっ! それは任せておいて。まあ伊里くんの勉強のお世話はいらないだろうけどね?」


 にやにやと可愛らしいものを見るような眼差しを向ける武田。


「それも含めてなのっ!」


 多分からかってるわけではない武田に、心は恥ずかしそうに語気を強めて返した。

 


 






 

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