第13話
陽が傾いても暑さが和らぐことはない平日の19時。近所の中学校を借りてのナイター練習は始まってもいないのに額にジンワリと汗をかいている。
「お〜い、集合。練習前にミーティングするぞ」
「は〜い、暑い日が続いてるからみんな水分と塩分の摂取はこまめにね。あと急な話なんだけど今週の土曜日、トレマが入りました」
タブレットを操作しながら柴田コーチの横で話をしているのは
ハーフアップにまとめた髪を揺らしながらも胸元は微動だにしないスレンダーボディ。だからであろう、胸元が開いたタンクトップを着ていても父親が顔をしかめるだけでみんなさほど気にしていない。そのかわりと言ってはなんだがピタっとしたショートパンツから伸びるスラっとした生足には一見の価値が———、そう考えているとなぜか悪寒がした。おかしい、猛暑のはずが冷や汗まで出てきた。
「ちょっと斗真、顔悪いけど大丈夫?」
身震いしていると夏帆さんが覗きこんできた。
「だ、大丈夫だからあまり近づかないで。あとイケメンじゃない自覚はあるけどナチュラルに悪口言うのはやめて」
グイグイ来そうな雰囲気だったので左手で制するとペットボトルでポンと額を叩かれて離れてくれた。
「ほれっ、飲んでおきなさい。土曜日はキミの高校で試合なんだから、しっかりと女子にアピールしないとね」
「……まじ?」
「やっぱり聞いてなかった。いま説明したばっかりでしょ? ちょっと休んでおく?」
「あ〜、いやすんません。大丈夫。だけどウチの高校と? 一応県内の強豪校だよ? よくトレマなんて受けてくれたね?」
「違うよ? 向こうからオファーがあったの。可愛らしい声のマネージャーさんだったよ? たしか……そう、小倉さん!」
予想通りで頭が痛くなってくる。インハイ前の大事な時期じゃ……いや、まてよ? ウチとやって自信つけさすのが目的か?
「向こうのエース様たっての希望だって。偉くなったものねソーマも」
「あ〜、蒼眞の。うん? 蒼眞?」
「どうしたの?」
「あ〜、いやね。土曜日でしょ? あいつその日は補習だったような気がね?」
5教科オール赤点のやつへの特別な補習があったはず。
「え〜? 自分で希望しておいて? ひょっとして斗真も補習?」
「赤点なんて一つもないけど?」
「はぁ〜、相変わらずおバカさんなのね、あの子。サッカーなければどこの高校もいけなかったんじゃない? 斗真の高校進学校でしょ?」
「一応ね、一応」
「ひょっとして連絡してきてくれたマネージャーさんは蒼眞の彼女?」
「は? 違うし」
「あ、そ、そう? ちょっとなんでそんなに怒るのよ?」
「は? いや、別に怒ってないけど?」
指摘されて思わず語気が強まっていたことに気付かされた。いかんいかん平常心。
「ホントに? まあいいわ。当日いろいろと聞かせてもらうから!」
「いや、トレマだろ」
他人の恋バナ、それも弟分の恋バナの気配を感じた夏帆ちゃんを尻目にみんなの練習の輪に加わっていった。
♢♢♢♢♢
「おかえりなさい、斗真くん」
「ただいま心」
練習が終わり部屋に戻ると、いつものように心がエプロン姿で出迎えてくれた。
「今日トレマのこと聞いた。蒼眞が言い出したんだって? インハイ予選前だし強豪校とやった方がよくない?」
いろんな思惑があるのかもしれないし、格上とやれるのはウチとしてはメリットだけど、学校の方になんかメリットあるのか?
「えっ? FCだって十分に実力あると思いますよ? 両チームをよくみてるのでわかりますが、ちょっと斗真くんはFCを過小評価し過ぎじゃないですか? この前だってプリンス参戦してるチームと引き分けてましたよね? あそこは攻撃力がウリで無得点だった試合の方が少ないくらいですよ?」
「いやいや、あの試合だってゴール前に貼り付けにされていただろ? 絶対に点が獲れるチームなんてないってことだ」
思い出したくもないあのゲーム。元々ウチはカウンター主体のチームだけどあの試合、ウチのポゼッション20%もなかったんじゃないか?
「確かにそうかもしれませんが……、まあいいです。とりあえず土曜日はよろしくお願いします」
「こちらこそ。いつものクセで俺の応援しないようにな」
多少の不安はあるが冗談半分でかけた言葉に、心はニッコリとしただけで返事はしてくれなかった。
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