第17話
「やべえなあいつ。1人で最終ライン掻き乱してくれやがって」
3本目も半分が終わった頃、ほぼメンバーチェンジのない俺たちの疲労はピークを迎えようとしていた。それに対して強豪校である相手は蒼眞含めてメンバーをガラっと入れ替えていた。
「これがスタメンなんだろうな。とりあえずトータルで1-1だ。切り替えていこうぜ」
元チームメイトである蒼眞の今の実力を見誤ったとでも言っておこうかな。前線と中盤を行き来していた蒼眞のマークの受け渡しがうまくいかず、見事にラインブレイクされ、司にいたっては前に出たところ屈辱の股抜きで躱されて楽々とゴールを決められた。
ゴール後の観客の沸きように改めてアウェイだと思い知らされた。
「司、プレーでやり返すぞ」
「わかってる!」
さっきからポジショニングが前がかりになっている司に声をかけるが、やはりご立腹みたいだ。
♢♢♢♢♢
試合はそのままトータルスコア1-1で終了。勢いに乗った相手チームの猛攻をなんとか凌ぎ切ったと言っていいのかわからないが、キーパーを含めた全員が交代したあちらさんからしてみれば結果は二の次だったに違いない。
試合後、どこかに遊びに行こうぜと声をかけてきた蒼眞だったが、司に拉致されていった。雨宮先輩が森島と朱莉たちハーレム軍団と捜索隊を結成してどこかへと消えていった。
俺はといえば1人さみしく帰宅している。正直に言えば心からお誘いがあるかな〜と思っていたのだが
『用事があるので少し帰宅が遅くなります。夕飯の時間は遅れないように帰りますので待っていてください』
と連絡があった。まあ、インハイ前のトレマ後だから今日の試合の分析とか手伝ってるのかもしれない。
自宅に戻り洗濯物をカゴに入れ、朝、心が干してくれていた洗濯物を取り込む。畳み方は心式。口には出さないが違う畳み方をしていると直されている。基本、この部屋で心の目が行き届いてないところはなく、俺が配置を間違えると無言で直されている。食器棚や洗面台、靴箱にいたるところまで見る人によっては同棲カップルの部屋のように見えるらしい。実際、愛莉さんには「お友達呼べないね」と笑われたくらいだ。学生の一人暮らしで学校に近いと溜まり場にされやすいとも聞くし、誰かを呼ぶ予定はないかな。
1人分の洗濯物を片付けるとすでにやることがない。掃除は行き届いているし、飯は『待て』だ。
「ほんと、心には頭が上がらないな」
彼女の厚意に甘え過ぎてはいけないと思いつつも現状を変えることができない俺。
「な〜んで昔のことに囚われてるかなぁ」
幼い頃、突然いなくなって初恋のあの子。強がって「またね」なんて言ったけど、ホントは嫌だと泣き叫びたいくらいだった。
「またね、か」
本名すらわからない彼女。
愛莉さんには『運命なら会えるんじゃないかな?』なんて言われたけど、現実はそんなに甘くないでしょ?
あの頃の写真も何度か見返したけど、なぜかしんちゃんの顔がよくわかる写真がない。
「もっと写真あったはずなんだけどな」
誰かが意図的に隠蔽でもしてるんじゃないかと疑ってしまうほどだ。
記憶の中には顔も声もはっきりと残っている。ただし幼い頃の彼女だから現在はどんな姿かはわからない。
それでも……
「上目遣いで見られると、被るのはなんでかな?」
心としんちゃん。名前の違う別人のはず。だけどなぜか心に上目遣いで見られるとあの頃のしんちゃんの姿と被る。しかも、甘えられている時は顕著だ。
心は美少女。しんちゃんもかわいかった。甘える心は幼く見える。それが原因なんだと、そう思っていたけど———。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます