第16話

 ざわざわ


 3本目前のインターバル。いや、2本目の終わり頃からグラウンドの周りの観戦者が一気に増えた。特に女子の比率が高く、ウチのメンバーたちも興奮を隠せない。


「やべー! やっぱ女子のレベルたけ〜な!」

「だなっ、マネさんだけじゃねえな!」


 最前列に陣取る見知った顔。朱莉、井原、武田が周囲の視線を集めている。


「あらら、心やっちゃってるわね」


「あははは。ほんとにとーまっちがいるのウケる」


「蒼眞くん、準備できたかなぁ」


 何気に1本目からいたくせに蒼眞がきたら最前列かよ。

朱莉が俺の視線に気づき軽く手を振ってくる。


「あんたのサポーター、なぜか敵ベンチに座ってるんだけど?」


「今日は敵だろ」


「あははは、ロミジュリみたいなことしてるね」


と井原が言えば、


「間違えたフリして伊里くんにタオル持ってくるかもしれないよ?」


と武田がしれっと言う。


「……楽しんでるようでなによりだけど、後で心に怒られておけよ〜」


 相手ベンチを指差すと、3人がつられて視線を向け———、勢いよく戻した。


 あの笑顔の心、怖いよな


「うわ〜、自分たちだけしゃべって! って顔してるよ」


「嫉妬! ここっちの笑顔こわっ!」


「蒼眞くん、まだかな〜」


 きゃいきゃいといつものメンバーが賑やかにしていると、ユニフォーム姿の蒼眞が小走りで現れた。


「きゃ〜! 蒼眞く〜ん!」


 私服姿の女の子から歓声が上がる。他校の生徒だろうか? そう言えば雑誌やらネットなどで県内の有力な選手の特集に取り上げられてるって自慢してたっけ。いつかの昼休みに蒼眞が心に雑誌見せてたな。


『すごいね』


の一言で片付けた後に、


『今日の晩ご飯のリクエストありますか? 一緒にお買い物行ってもらえますか?』


と上目遣いでお願いされたのを思い出す。


「わりぃ、待たせたな」


 3本目の準備のためグラウンドに出ると蒼眞が近寄ってきた。


「誰も待ってね〜よ、赤点ヤロー」


そばにいたチームメイト、蒼眞にとってはだが、みんなから邪険に扱われる。


「ひどっ! 久しぶりだってのにみんなひどくない?」


「ひどいのはお前の成績だろ? 5教科赤点って」


「それな。入学はサッカー推薦だったにしてもよく進級できたよな」


 それはほんとに朱莉たちの努力の賜物だ。蒼眞のじゃなくあいつらの、だ。こいつはホントにサッカー以外は集中力がないからな。今年度末もあれがあると思うと今から頭が痛くなる。


「それよりもお前」


 司が低い声で蒼眞に声をかける。


「ウチの虹色に手出してねぇだろうな?」


 シスコン全開で詰め寄る。


「俺なんかより先輩たちの方がすごいぞ?」


「その話、詳しく聞こうか?」


 ジロリと相手チームににらみを効かせる司。


「おーい、お前ら。さっさとポジションつけ。そろそろ始めるぞ」


 主審が時計を見ながらホイッスルをくわえた。


「おい蒼眞、逃げるなよ!」


「はいはい、後でな。じゃあ斗真」


 去り際に右拳を差し出されたのでコツンと合わせておいた。


「勝負だ」


 公式戦さながらの気合いの入った顔つき。


「主役は遅れてやってくる、か。嫌なやつめ」


 蒼眞の背中をみつめながら思わず呟いた。




 

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