第15話
わたしがチームに入った時、かほちゃんは小学5年生で数少ない女の子のメンバーのリーダー的な存在だった。まだチームはおろか、他人とコミュニケーションを取ることができなかったわたしに、斗真くん同様に手を差し伸べてくれていた。
「ちっちゃい頃からかわいかったけど、すっごい美人さんになったね」
「あ、ありがとう。でもかほちゃんに言われてもねぇ。かほちゃんこそ大人のお姉さんって感じの美人さんで斗真くんがデレデレするのも仕方ないなぁって」
「あれ? ひょっとして嫉妬されてる⁈ 待って待って、斗真なんて弟みたいなものだから。恋愛感情皆無だから」
両手をブンブンと振って否定するかほちゃん。美人なのにこどもっぽい仕草に思わず笑ってしまう。
「なに笑ってるのよしんちゃん。てかどこ見て笑ったコラっ」
サッと胸を隠して威嚇される。うん、そこは成長しなかったんだね。
「あの、しんちゃん呼びはやめて欲しいかな。斗真くんもわたしがしんちゃんって気づいてないから」
「は? あれだけ仲良かったのに気づいてないの?」
「ほらっ、わたしが辞めた時はまだ小さかったから」
「まあそうかもしれないけど、ひょっとして斗真に教えてないってことは訳あり?」
興味津々って感じで前のめりになるかほちゃん。
「あ〜、うん。話すと長くなっちゃうんだけど」
「わかった。試合の後、時間ある? ゆっくりじっくり話しましょ。これ、私のプライベート用の連絡先ね」
持っていた付箋にスラスラと連絡先を書いて渡された。
「晩ごはんの準備とかしないといけないからあまり遅くなるとちょっと」
「……ひょっとして一人暮らしの斗真のお世話してる感じ? 通い妻って感じ?」
ガシッと両手をつかまれ思わず後ずさる。
「えっ、と通い妻?」
「えっ? まさか同棲?
鼻息が荒い。
「ち、違うからっ、ちょっと落ち着こうかほちゃん!」
「これかっ! これを斗真は毎日!」
興奮したかほちゃんに両手でむにゅっと胸を鷲掴みされる。
「ひゃっ! ちょっ、ホントに待っ———」
「いたっ!」
後ろから飛んできたボールがかほちゃんの後頭部に当たり、涙目で振り返る。
「こらっ痴女! 仕事しろっ!」
ドリンクを持った斗真くんに叱られ、渋々といった感じでそれを受け取ると「また後でね」と言って離れていった。
「大丈夫だったか?」
心配そうに聞いてくる彼。
「か、感じてませんから!」
と、訳のわからない返答をしてしまった。
♢♢♢♢♢
トレマは30分×3の交代自由。1本目こちらは今日いるベストメンバー。初対決ということもあり序盤は慎重な入りでお互いにボールを回して隙あらばサイドからエグるといった似たような展開。結局、1本目はスコアレスドロー。
「だいたい相手の形はわかったか? 蒼眞がいなくてもレベルは高いから1対1で簡単に抜かれないように。ビルドアップはなるべくグラウンダーのパスで。パススピード意識しろよ」
エース不在の向こうはサイド攻撃主体で裏を狙われているので、こちらのサイドバックは自陣に貼り付け状態が続いていた。
「裏は任せていいから、サイドバックはもっと上がれよ」
キーパーの司は1本目、目立った活躍をするような機会がなく先輩に良いところを見せれなかったことに少し苛立っていた。
このシスコンめっ。
2本目はコーチの指示を遂行するようにパスはグラウンダーでスピード重視。俺は特に相手サイドバックの裏、コーナーフラッグを目掛けてサイドハーフを走らせた。
試合が動いたのは20分過ぎ。サイドハーフの苦し紛れのクロスが相手ディフェンダーに当たりコーナーを獲得。
「そろそろ獲ろうか」
最後尾から司のゲキが飛ぶ中、俺はペナルティの外でこぼれを狙うかのように振る舞う。
攻撃力の低いウチは得点の大半がセットプレー、特にコーナーからのものだ。俺がペナルティに入らないのもサインプレーの一種でたぶん心は何をしてくるかはわかって……、すごい期待をこめた眼差しで俺を見つめてるけど、今は敵同士だからな? まあ、黙ってくれてるならありがたいけどね?
ボールをセットしたキッカーにニアにいた味方が走り寄る。
「ショート!」
相手キーパーの指示でマンマークでついていたディフェンダーが思わず釣られる。ポジションが変わる中、ショートで出す素振りをしていたキッカーがキャンセル。助走をし直すため下がり寄って行った味方もそれに合わせて下がる。俺はキッカーが下がるのを合図にマーカーにわかるようにファーに流れるように身体を揺らし、マーカーが反応した瞬間、一気にニアに駆け出した。
「6番!」
慌てたマーカーが声を上げるがマンツーマンのため反応が鈍く、シュート性のグラウンダーのコーナーにキーパーの前でチョンと方向を変えることに成功。
「シッ!」
大半の予想を裏切る形で先制したウチがその後も相手の猛攻をしのぎ、2本目は俺たちが勝利した。
ちなみに得点が決まった時の相手ベンチ内では、監督に見えないところで心が両手で口を覆いながら喜びを隠しきれないでいた。
「こらっ、心ちゃん!」
結果、雨宮先輩から怒られていた。
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