第28話

 夏休み最後の土曜日。


 柴田コーチの号令でユースチームでBBQが行われた。場所はコーチの自宅兼作業場。


「はいはい。準備手伝って〜」


 奥さんのあやさんとかほちゃんが2階の自宅から食材を運んでくれるのをバケツリレー方式で会場の作業場まで手渡ししていく。


「そろそろ焼き始めていいぞ」


 コーチの号令に食べ盛りのヤロー共が待ってましたとばかりに肉を


「こらっ、野菜も焼きなさい!」


さすがの恒例行事。


みんなの行動パターンなんてお見通しだ。


 実家でのBBQだと親父と兄貴のダブル奉行に加えて心がお世話をしてくれるから食べるだけでいいけれど、ここでは俺も働かざるを得ない。


「そういえば斗真。この前熱中症になったって聞いたけど大丈夫?」


「え? なんで夏帆ちゃん知ってるの?」


 トングをカシャカシャしていると大量の野菜を持った夏帆ちゃんが隣にきていた。


「ん? BBQで思い出した」


「いや、ちょっと会話が———って、なんでウチでBBQやるときになったって知ってるの? 俺言ったっけ?」


 練習外で怪我したとか体調崩したとかあれば報告して欲しいとは言われているけど、心の看病もあってか、翌日には良くなっていたので知らせてなかったはずだけど? ひょっとして親父からコーチに話したのか?


「ん? から聞いたよ?」


「心? 2人ともコミュ力高いのは知ってるけどそれにしても仲良くなり過ぎじゃない?」


 2人が連絡を取り合ってるのは知ってるけど、距離のつめ方半端ないな。

 やっぱりこれは心から詰め寄ったのか? 俺のときもからグイグイと距離つめてきたからな。

 

 知り合って間もなく始めた一人暮らしも『男の一人暮らし』だからと断っていたのに、


『お手伝いさんとでも思ってくださればいいですよ?』


っていいながらも、身体を密着させてくるしあ〜んって食べさせようとするし。


 彼女のコミュニケーションはときに振り切れた方法を取ることがある。


「ん〜? 斗真がコミュ力低いだけでしょ? はいっ」


「んぐっ」


 話に気を取られて疎かにしていた網の上の肉をひっくり返したところで夏帆ちゃんに生のキャベツを口に突っ込まれた。


「あははは。斗真まだ気が早いぞ」

「夏帆ちゃん。こっちも口にちょうだい!」


 人を使って笑いをとりやがって。これがコミュ力の差かよ!


 シャコシャコとキャベツを頬張っていると『カシュ』という音の後に「かぁ〜っ! うめぇ!」と耳元で喚き声。


「おう斗真、飲んでるか?」


「飲んでね〜よ。まあ、烏龍茶は飲んでるけど」


「そうか、飲んでるか? お〜い、みんな。斗真のやつが隠れて飲んでやがるぞ〜」


「「「なんだと??」」」


 この短時間にどんだけ飲んだ?


 明らかに酒臭いコーチが肩を組みながら絡んできた。


「ちょっ! 洒落にならん嘘は———」


 スパン!


「あぎゃ!」


「ごめんね斗真。これはこっちで回収するね」


 頭を抱えながら悶絶するコーチ。

それを見下ろす綾さん。


「あ、よろしくっす」


 ひしゃげた金物のトレイを持った綾さんが空いてる手でコーチの首根っこを掴んで回収していってくれた。


「相変わらず仲良しでしょ?」


 呆然と見送る俺の隣に夏帆ちゃんが苦笑いしながら座った。


「あれで?」


「そうよ? ねえ斗真。夫婦が長続きする秘訣って知ってる?」


「う〜ん? 思いやりとか?」


「うん。まあ、必要よね。ウチのお父さんが言うのはね?『妻の尻に軽く敷かれる』のが一番なんだって」


「あれで軽く?」


「軽く……だよ? 斗真も見に覚えあるんじゃない?」


 やれやれ。


 どれだけ仲良くなってるんだか。


「夫婦じゃないし、恋人同士でもないからな?」


 覚えがないとは言えない。


♢♢♢♢♢


 みんなの食欲が満たされていくと綾さんが手招きをしてきた。


「斗真食べ終わった?」


「はい。ごちそうさまでした」


「よしよし。じゃあちょっと一緒に昔を懐かしまない? じゃ〜ん!」


 綺麗に拭いたテーブルの上に置いたのは数冊のアルバム。


「キミたちが入ってきたのがこれね」


「うわ、懐かしい」


 はじめに見せてくれたのは小学2年生の入団式の後に撮った集合写真。数えてみると10人しかいない。


「うふふ。みんなかわいいでしょ?」


「いや、そう言われると恥ずかしい」


 この写真、確かに見た記憶はあるんだけど実家にはないんだよな。


「この年は途中で2人入ってきたのよね」


 そう言いながら見せてくれたのは———


「ほら、しんちゃん。斗真仲良しさんだったでしょ? 今度ね、ウチに戻ってきてくれるんだって」


 泣きべそをかきながら両親らしき人と写真に写るしんちゃん。


 色褪せていた記憶が鮮明に蘇るとともに、やっぱりと言うか、言い表せない気持ちが込み上げてきた。


 記憶通りのしんちゃんと、今より若い姿の見知った2人。


「心のお父さんと、お母さん」



 


 

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