第27話
夏休みも終盤を迎えた何もない1日。
隣にはご機嫌な様子の心とその腕の中にはすやすやと眠るみー。
「な、なあ心。そろそろ代わろうか? ほら、寝てる子は重たいって言うしそろそろ疲れたでしょ?」
みーが軽いことなんて百も承知だが、ショッピングモール内をかれこれ20分以上は抱っこのまま歩き回っている。
「えっ? 羽根のように軽いみ〜ちゃんですよ? それにこんなことで疲れたなんて言ってたらお姉ちゃんに申し訳ないです」
予想通りと言うか、こんな感じでさっきから全くみーを手放そうとしてくれない。
「それに、いま動かしたら起きちゃいますよ? 見てくださいこの天使の寝顔を」
左手でしっかりと心の服を握るみー。そのちっちゃい手を愛おしそうにぷにぷにする心。
その光景は周りからも注目を集めている。
「あら〜、若いママね〜」
「赤ちゃんもママもかわいい〜」
「あらぁ? いつの間に子ども産んだの?」
最後の言葉がやけに聞いたことのある声だと振り返ると大きなつばの帽子に大きなサングラスをかけたモデルのような女性がいた。
「ん? ひょっとして雨宮先輩ですか?」
「はい。雨宮先輩ですよ〜」
サングラスをはずしながら心の隣に立つ先輩。
美少女が揃ったことで周りからの注目度が急上昇したのだが、みーがいることでいつもとは違う癒しのオーラを感じる。
「きゃ〜、すっごくかわいい子ね。2人の子?」
寝てるみーに配慮してくれているのか小さな声で話しかけてくれたのだが、耳元でヒソヒソと話すものだから身体が密着している。
「いやいや、な訳ないでしょ。姪っ子ですよ」
「あら〜、どっちの?」
「両方のです。近いので離れてくださいねっ!」
そう言いながら雨宮先輩を押しのけるように間に入ってきた心。
「両方? 両方って心ちゃんと斗真くん?」
「そうですね。ウチの兄貴と心のお姉さんの子どもなんで」
「実質わたしたちの子どもみたいなものですけどね」
みーを抱っこしながらなぜかドヤ顔の心。
「ふぇ? えっと、じゃあ2人は兄妹ってこと?」
「いや、お姉ちゃんが結婚しただけなので兄妹にはならないです。まあ、実質家族ですけどね?」
まあ、実質家族には同意だけど。
俺と心に姻族関係があるわけではないけど、兄貴たちにはあるわけで、全く無関係とは言えないしウチの場合は両親たちも元々の知り合いなので他所と比べても良好な関係だと思う。
兄貴は心を実の妹のように可愛がっているし、愛莉さんも俺のことを実の弟のように思いやってくれていると思う。
「なるほどぉ。2人の仲が良いのは家族だからなのねぇ」
にこにこと話しているわりには棘があると言うか攻撃的に見えるのは俺だけだろうか?
「そうです。家族です。まあ、夫婦と言っても過言ではないかもしれないですけどね?」
ね? と言いながら俺を見るのはやめてくれない? さすがに同意できない———けど、客観的に見ると夫婦と言えなくもって、そんなことあるかー!
「う〜ん? まあ心ちゃんが一方的にそう思ってるだけみたいだけどね? それで2人で子守デートしてるの?」
「子守デートって初めて聞くワードですけど? たまに兄貴たちがデートできるようにウチの両親だったり、心の両親だったり、俺たちだったりでみーを預かってるんです」
「たまには気晴らししてもらいたいですからね。でもお姉ちゃんたちも離れ離れになるのは心配らしいのでこうしてダブルデートしてます」
「あ〜、デートは否定しないんだぁ。でも心ちゃん。自分がどれだけ有名か自覚した方がいいよぉ? ほらっ」
そう言いながら雨宮先輩はスマホを見せてきた。
『衝撃! あの小倉心に隠し子!』
『彼氏の噂は前々からあったが子どもまで!』
先輩のクラスのグループラインで話題急上昇。
「うふふ、好都合です。さすがに隠し子は面倒なことになりかねないので否定しておきますけどね」
妖艶に笑う彼女になぜか冷や汗がでてきた。
「あらあらぁ。斗真くんも大変ねぇ」
一部で心の恋人が蒼眞か俺という噂があるのは知っているがこれは放置しておいていい案件なのか?
「なあ心?」
「はい、好都合です。今までも変に言い寄られたことはありますし、こう言った噂があるとそういった人が減りますからね」
「ちょっと俺の思考読むのやめてくれる?」
「斗真くんはわかりやすいですからね」
そんな俺たちのやり取りを見ていた雨宮先輩はおかしそうにクスクスと笑っている。
「先輩?」
「ん〜? 仲良しさんだなぁと思ってねぇ。うん? あっ、つーくん、こっちよ〜」
突然背後に手を振り出した先輩。
「探したよ虹色。せめて携帯出て———って斗真か? ってまさかお前の子か?」
先輩と一緒に来ていたらしいシスコンが姉と同じことを言っていることに思わず笑えてきた。
「おい、斗真質問に答えろよ」
「うん。わたしたちの子だよ?」
「姪が抜けてるぞ?」
噂を広めたいのか、心がワザと言葉足らずの説明をするからしっかりと補足しておいた。
なお、心はかわいらしく頬を膨らませていた。
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