第23話

 駅前のロータリー。


 事前に聞いていたナンバーの白と水色の車には、キャップにサングラス、ノースリーブにショートパンツ姿のかっこいいお姉さんが車の屋根に肘を置いて———


「あつっ!」


 しまらないなぁ。


「かほちゃん?」


 フーフーと肘を冷ましてる彼女に声をかけると、サングラスをズラして手をブンブンと振ってくれた。


「おはよう心。すぐにわかった?」


「あ〜、うん。わかりやすかったよ?」


 なにがとは言えないけどね?


「そ? とりあえず暑いから乗ってよ」


「ありがとう」


 助手席のドアを開き、わたしが頭をぶつけないようにさりげなくサポートしてくれるかほちゃん。


 これ、いつも彼氏さんにしてもらってるのかな?


 いろいろ参考になる話が聞けそうな予感。


「お願いします」


「はいは〜い。じゃあ行こうか」


 ホワイトムスクのにおいがする車内にはテンポのいい洋楽が流れ、目の前のエアコンの吹き出し口では飛行機のプロペラがクルクルと回っている。


「今日は急なお願いだったのに時間作ってもらってありがとうございます」


「ん〜? いいっていいって。かわいい妹分の頼みだもん。いくらでも時間作るよ」


 信号待ちで止まるとかほちゃんがじっくりとわたしに見てくる。


「どうしたの?」


 不思議に思い声をかけると慌てたように前を向きアクセルを踏む。


「ほんとにかわいいって言うか綺麗ね〜。うらやましい限りよ」


「あのね、かほちゃんにそう言ってもらえるのはすっごくうれしいけど、他の人が聞いたら『お前が言うな!』って言われると思うよ? かほちゃん、絶対に大学でモテてるでしょ? 実は去年のミスキャンパスです、って言われても納得しちゃうよ?」


 見た目はかっこいいというか綺麗なお姉さんなんだけど、どこか隙があると言うか抜けてると言うか、幼さを残した雰囲気のかほちゃんはモテる要素満載で、斗真くんが———、斗真くんが?


「ちょっと心? 突然怖い顔してどした?」


「うん? ちょっとかほちゃんに鼻の下伸ばしてデレデレしている斗真くん想像したらね?」


「ね? じゃないからっ! 前も言ったけどあの子に対して恋愛感情持ってないし、そのシチュエーションだと私悪くないよね?」


 まあ、それはそれなんだけど感情的にどうなのかって言うとね?


「まあ、そうなんですけど? ちなみにミスキャンパスは?」


「なってないよ? そもそもミスコンなんて出ないし。なにが悲しくてあんな人前で水着にならなきゃいけないのよ」


 アホらしいと呟いたかほちゃんの気持ち、よくわかる。


「やっぱり水着は好きな人だけに見せるために着るものだよね?」


「待って待って、圧が強い。まあ心にとっては斗真を悩殺するためのコスチュームかもしれないけど、一般的には水に入るためのものだからね?」

 

 おかしいな? 意見が合わない。


「かほちゃんだって彼氏にしか見せたくないでしょ?」


 なぜかズーンという効果音が似合いそうな雰囲気で落ち込むかほちゃん。


「えっと、かほちゃん?」


「まあね? よく言われるよ? 綺麗だとか高嶺の花だとか。でも、私そんなんじゃないんだよ? 中身は普通の女の子なんだよ?」


 突然取り乱したかほちゃん。聞くも涙、語るも涙。

 実は年齢=彼氏いない歴という超意外な彼女。これまでにもいい雰囲気になった人もいたらしいんだけど、毎回のように「俺なんかじゃキミと釣り合わない」みたいに言われてフラれる『THE負けヒロイン』と友達にはバカにされているらしい。


「すごいよね心は。何年もかけて自分磨いて。しっかりと外堀もコンクリートで固めて」


「ちょっと悪意がこもってないかな?」


 確かに小さい頃から自分磨きを怠ったことはないけど外堀をコンクリートでなんて固めてないよ?


「まあ、私の冴えない失恋バナシなんていいじゃない。今日も外堀埋めにきたんでしょ?」


「だから、言い方!」


 自嘲するようなかほちゃんに突っ込むとようやく普通に相手をしてくれた。


「はいはい。じゃあ面接頑張ってちょうだい」


 車は目的地のかほちゃんの自宅に到着。


 わたしはいまから市が洞FCのマネージャーになるため、かほちゃんのお父さんに面接を受けさせてもらう。

 

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