第24話

「こんにちは。市が洞高校2年の小倉心です。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます」


 リビングのテーブルを挟んだソファに座る中年の男性、斗真くんのチームのヘッドコーチで代表でもある柴田コーチに頭を下げる。


「久しぶりだなシン。じゃなくって心か。あんなにちっちゃかった子がこんなに美少女になって。なんて言うとセクハラか?」


「えっ? 覚えてるんですか?」


「ん? 当たり前だろ? とは言ってもコーチとしてじゃなくこいつの親としてな。うちの奥さんもしっかりと覚えてるぞ? 『かわいい妹ができたみたいでうれしい』とか、『いつもとうまばっかり!』ってヤキモチ妬いたり。小さい頃にうちに遊びに来たこともあるけど、さすがに覚えてないか?」


 あの頃、わたしは基本斗真くんにベッタリだった。でも入りたての頃はかほちゃんにも遊んでもらってたっけ。


「なんとなく覚えてます。あの角の公園で一緒にボール蹴ってた記憶があります」


「そうそう。ほんとはあの公園ボール遊び禁止でな。よく叱られてたよ」


「すみません。いま鮮明に思い出したことがあって、近所のおじいさんに怒られてるときにかほちゃんがずっとわたしの後ろに隠れていたことがありました」


 そっか、あれかほちゃんだったんだ。今思い出せてよかった。


「あのおじいちゃん苦手だったんだよ、って心? 顔、顔! 斗真には見せられない悪い顔してるよ?」


 誰のせいだろうね?


「もう日常茶飯事だったからな。懐かしいよ。でもすぐにいなくなっちゃって夏帆も落ち込んでてさ。とは言っても2、3年前か? 斗真の父ちゃんと飲んだ時に聞いてたんだよ。『しんちゃんのお姉ちゃんがウチの息子の嫁さんに来た』って。次はしんちゃんの番だなってさ」


「なにそれ! その話初耳なんだけど?」


 かほちゃんが驚きながらコーチに迫る。


「ん? そうか?」


「教えておいてよ〜、じゃあトレマの連絡来た時に気づいてたの?」


 がっくしと肩を落としながらコーチに確認するかほちゃん。


「いや、お前高校からトレマの申し出が来たとしか言わなかっただろ?」


「あ、そっか」


 昔話ばかりに花を咲かす訳にもいかないので、そろそろ本題に入らなきゃ。


「あの、それで今日お伺いしたのはお願いがあってのことなんですが」


 居住いを正して話を切り出した。


「わたしをFCのマネージャーとしてチームの一員に加えてもらえませんか?」


「うん。まあ、話は夏帆から聞いてたんだけど、部活は辞めたんだろ? 理由聞いていいか?」


 この質問は想定内。というかもっとも大事なことだと思う。部活とクラブチームだし、今までも関わりはなかったけど引き抜きとか言われて迷惑はかけられない。


「はい。嘘偽りのない話なんですけど、わたしは斗真くんのサポートができたらなと思って入部したんですが、肝心の斗真くんが入部しなくて。でも中途半端で辞めるのも申し訳ないと思って、最近の成績がベスト4が最高だったので、チームが県大会の決勝までいけるようになるまでは力になれるように頑張ろうと目標をたてました」


「あ〜、で今回目標達成できたからお役御免ってことか」


「はい。とりあえず部活での目標をクリアできたので本来の目的である彼のサポートをしたいと思いました」


「因みになんだけど、斗真とは付き合ってるのか?」


「非常に残念ながら、まだそこには至っておりません」


「お、おう。残念さが非常に伝わってきたわ」


 顔に出ていたなんて、わたしもまだまだ精進が足りないみたい。


「そっか。まあボランティアでやってくれるってのは下心があってもありがたい。ちなみに、斗真と他のメンバーとを区別せずに仕事できるか?」


「……し、仕事はきっちりできます。しかし、そこにかける愛情まではお約束できません。ですが、部活でもしっかり仕事はできていました」


 そこは自信を持って言える。


 今後の経験になると開き直って斗真くんに掛ける時間を割いてでも続けてたんだもん。


「その間はなによ?」


 かほちゃんが胸の内を見透かすかのように苦笑い。


「大丈夫、ちゃんと仕事はできるよ?」


「そっか。ウチはいま夏帆と父兄が手伝ってくれてるだけだから非常に助かる。けど、こんな美少女がマネージャーになると他のメンバーへの影響がなあ。う〜ん?」


 コーチが迷ってるのは色恋沙汰のことかな? それならはじめから斗真くんスキスキスタイルでいけば入り込む余地がないって思ってもらえるんじゃないかな?


「……試用期間設けていいか? とりあえずはみんなに紹介した上で事務的なことの手伝いからしてくれ。メンバーのモチベーション自体は間違いなく上がると思うんだ。問題なさそうなら夏帆と一緒にやってもらうって感じで。どうだ?」


 部活を辞めてきているってことを考えると断られることも考えていた。


 試してもらえるだけでも前進だよ。


「よろしくお願いします」


 ソファから立ち上がり深々と頭を下げた。




 

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