第41話
「ふんふんふん ふんふんふん ふふふふふ〜ん」
早朝の兄貴の車の後部座席。
俺の肩に頭を預けながら「そうだ、京都にいこう!」みたいな鼻歌を歌うご機嫌な彼女。
「悪いね兄貴。平日の早朝なのに」
缶コーヒーを飲み終えた運転席の兄貴に声をかけた。
「おう、気にすんな。心のお願いでお前はただのオマケだからよ」
うひゃひゃひゃと下卑た笑いをする兄貴にイラっとしたので後で愛莉さんに「最近、家族より心優先してない?」とメッセージ入れておこうと決意した。
みー最優先は仕方ないとしても義妹を優先してると指摘されれば『兄貴ラブ』の愛莉さんが黙っているわけない。
みーが幼稚園に上がる頃には2人目が欲しいと言っていたが、案外予定より繰り上がる可能性もあるな。
時刻は6:30。
俺たちは集合場所であるセントレアに向かっている最中だ。
「むふふ、とぅくんとの旅行。ホテルはどんな感じかな? ウチのベッドよりは小さいだろうけど2人一緒に寝れるかな? あ、でも小さければぎゅっとくっ付いて寝ればいいだけだね」
キラキラとした目で期待に満ちた表情。
「いや、修学旅行だから。部屋だって別だからね? 4人部屋だから蒼眞とだけ交代って訳にはいかないからね?」
「も〜、現実的すぎるよとぅくん。それくらいわたしにもわかってるからね? 旅行中は学習の一環らしくよそゆきの真面目モードだから」
プクっと頬を膨らませながら抗議。
「う〜ん? まあ、そう?」
いろいろと前科持ちの彼女だが、学習の一環だと理解しているなら大丈夫かな?
二泊三日の沖縄への修学旅行。
6人組の班は蒼眞たちとくっつきあっさりと決まった。まあ、一部の男子は綺麗どころが集中したウチの班に不満を漏らしていたみたいだが、同じ班になれたからってワンチャンあるわけでもないし、しっかりと見ていた女子から反感を買って男子オンリーの班が出来上がることになっていた。
「ああ、心。もう同棲してるんだから旅行中暴走しないようにな?」
バックミラー越しに兄貴が俺と同じような懸念を口にする。
「お義兄さん? さすがにわたしだってそんなにバカじゃないよ? ちゃ〜んとバレないように手を繋ぐし、バレないところでキスするし、バレないところで———」
「いや、わかってねぇじゃん」
すかさずツッコミが入る。
「……冗談だからね?」
「心が言うと冗談に聞こえねぇって。本当に斗真絡みだと暴走するからな。斗真、流されないようにしろよ」
「わかってるって。普段の学校生活だって問題になるようなことはしてないから」
「そりゃ今は家に帰ればずっと一緒だからな。でも旅行中は夜別々だろ? 心の禁断症状が出ないか心配だ」
「いやいや。一緒に暮らし出してからまだひと月も経ってないし。それまでは夜別々だったんだから心だって大丈夫だって」
隣にピッタリとくっついている心を見ると、充電中と言わんばかりに俺の感触を楽しんでいるようだ。
「このひと月でタガが外れただろ? 流れを堰き止めるのは大変なんだぞ?」
先人の言葉を聞き、妙に納得する自分がいた。
♢♢♢♢♢
「おーす」
「おっす斗真。随分と早かったみたいだな」
「あ〜、兄貴に送ってもらったんだけど仕事があるから早めに出てきたんだよ」
「あ〜、なるほど。そういうはぁぁ〜〜、あ、わりぃ」
話の途中で蒼眞が豪快にあくびをした。
「まあ、朝早かったから……だよな?」
「……う、まあ、そうだな」
「ちなみに今週の当番は?」
「……翠。けど、旅行中はなしってことになってる」
そりゃそうか。
修学旅行なんて一大イベントだから独り占めはズルいってことか? でもまだ文化祭も体育祭もあるからイベントごとに分けるのもありのような気がするけどなあ。
「おはよう斗真。朝、送ってもらったって?」
「おっす朱莉。兄貴にオマケで送ってもらった」
「おまけ? どこかに行くついでってこと?」
俺の言葉に疑問をもった朱莉が珍しくかわいい仕草で首をコテンと倒して聞いてくる。
「……心を送るついでだよ」
蒼眞と結ばれたことで朱莉にも変化があったのだろうか? こころなしか雰囲気が柔らかくなったような気がする。
ぼすん
そんなことを思っていたら背中に勢いよく誰かが突っ込んできた。
「……うわきもの発見」
振り向いた俺に上目遣いで抗議する心。
「いや、浮気なんてあり得ないし」
「ほんとに? じゃあ、その証拠みせて?」
家にいるときのノリで背伸びをする心。
「おーい、心。ここ空港。そういうのはお家帰るまで我慢しようね」
苦笑いをする朱莉が背中にくっついている心をペリっと剥がした。
まだ始まってもいない修学旅行。
何事もなく終わってくれと祈るばかりだ。
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