第42話
修学旅行1日目は沖縄の歴史を巡るルートとなっていたため、一名を除き成績上位者が揃うウチの班は学生らしい貴重な時間を過ごした。
俺ファーストと思われがちな心も、学習の機会を疎かにすることはない。
『だって、将来とぅくんとの子どもにいろいろ教えてあげるためには知識が必要でしょ?』
と、この理由だと俺ファーストって訳じゃないだろ?
昼ごはんは沖縄そばの定食。
沖縄そばと言えば沖縄料理の中でもメジャーな食べ物で、最近ではどこでも食べれるような食べ物だけど、現地のロケーションやみんなで食べる雰囲気で『おお! これが本場の味!』と思わず唸ってしまった。
そんな俺を心は微笑ましい者を見るような目で見て『息子もやっぱりかわいいよね』とまだ見ぬ将来の息子を俺に重ねていたらしい。
晩御飯をホテルの食堂で食べ終えると、この後の予定は21時までに風呂に入って22時に消灯だ。
現在の時刻は19時30分。
食堂から部屋に戻る途中で心と合流。当初ホテルのロビーでイチャイチャしたいと言っていた彼女だが、一般のお客さんに迷惑がかかると言う理由でウチの生徒はロビーの使用は禁止。それならば外に散歩という案もあったのだが、ホテルからの外出も禁止されている。
まあ、この辺は歴代の先輩達がいろいろとやらかしてきたのが原因だろう。
当然ながら異性の部屋に入ることもできないので、どこかないかと探した結果が売店の隣にあるベンチだ。
「とぅくん、ここじゃあさすがにとぅくん成分充電できないよ?」
周りにはウチの学校の生徒がチラホラといる。
「まあ、一緒にいるだけでも充電できるでしょ?」
「足りないよ? 全然足りないよ? ギュッとしてチュッとして———」
「———はい、そこまで。最近清楚なイメージ崩れてきてない?」
なにか聞いてはいけない擬音が聞こえてきそうだったので慌てて手で口を塞いだ。
「もう、とぅくん、と言うか男子は女子に夢見過ぎなんじゃない?」
まあ、確かに理想を描き過ぎてるところはあったかもしれないけど、今ではだいぶ現実に追いついてきてると思うよ?
「まあ、高校生らしくこのくらいにしておこう」
俺の膝の上に置かれていた小さな手をぎゅっと握ると、もぞもぞと指を動かして恋人繋ぎに移行してきた。
「ふふふん。帰ったらいっぱい可愛がってもらうからね?」
そっと耳元に口を近づけてささやくので背筋がゾワリとした。
「ほ、ほどほどでお願いします」
にぎにぎたと手遊びを始めた心にボソッと呟いておいた。自分で言っておいてなんだけどあまり意味のない言葉だからな。
「ほどほど? ん〜? 知らない言葉だね」
ニコニコと笑顔で返す彼女に、にぎにぎされていた手を解き両手をあげて降参する。
「あっ」
一瞬残念そうな表情をした彼女だったが、左手で腰を引き寄せてぎゅっと抱き寄せると惚けた表情で見上げてくる。
「そんな顔してもキスはだめだからな」
「も〜、生真面目なんだから。夕方の教室のカーテンに隠れてキスってシチュエーションもまだ叶えてもらってないのに」
口を尖らせて抗議されるが、さすがにそれは先生に見られたらアウトだろ? 他の生徒に見られてもアウトだよ?
「せっかくの沖縄なんだから旅行を楽しまなきゃ」
自然な動作で膝の上に乗ってきた心を隣に座り直させ頭を撫でると口を尖らせながらも嬉しそうに目は細める。
器用なやつめ。
「だって旅行はこれからとぅくんと2人でいろんなところ行くもん。沖縄を満喫するのはその時でいいでしょ? だから今は高校生のとぅくんを満喫するときなんだよ?」
勢いをつけ、再度膝の上に乗り直した彼女。ブレないと言っていいものか。でも高校時代の思い出もちゃんと作って欲しいからなぁ。
「ちょっとちょっとおふたりさん? ところ構わずイチャつくのはうらやま———、どうかと思うよ? ほらここっち。たまには女同士で赤裸々なトークに花を咲かせよう!」
売店から土産袋をぶら下げて出てきた井原に見つかった心が無理やり連れていかれる。
「いや〜、とぅくん! たすけて〜」
芝居がかった言い方に思わず苦笑いを浮かべる。
「俺との時間はこの先いっぱいあるから。たまには友情を育んでおいで」
「よくわかってるね、とうまっち! さあ、部屋に戻ってとうまっちの性癖でも暴露してもらおうか」
いや、そんなん誰得だよ?
「教えられないよ? わたしだけの秘密なんだから!」
待て待て心。
その言い方だと俺に特殊性癖があるって勘違いされるから。
必死に抵抗していた心だったが、途中で合流した武田と2人がかりで連れ去られて行った。
一抹の不安を覚えながらも俺も自分の部屋に戻ることにした。
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