第19話
照りつける日差しの中、蒼眞たちが視界に入れば声をかけるかくらいの認識でプールサイドを歩く。隣には男女問わずの視線を受けている心。
若い男どもは惚けた顔で見続け、隣の俺の顔を見て舌打ちをする。まあ、気持ちはわからなくもないけどされる側のこちらとしては居た堪れない。
そんな心は周りの視線など気にならない様子。全身で「離しません!」という意思をあらわにして俺の左腕を拘束している。
怪我の功名というか、拘束とは言い得て妙な言い回しで、俺の意思で腕を動かそうものなら、周りの男どもに隣の天使が不埒な目で見られてしまう。
「あ、のさ。心」
「どうしました斗真くん。あ、そろそろ水に入りますか?」
「……そうしようか」
「はい。ちなみに準備運動はしましたか?」
「ん〜? まだ、だな」
「じゃあ、しっかりとしないとですね」
目論見通り離れてくれた心だが、彼女の一挙手一投足に視線が集まる。幸いなことにパーカーと腰に巻かれたパレオのおかげで露出面積は少ないが、時折隙間から覗く素肌がヤケにエロく感じる。
「斗真くん?」
勘の鋭い彼女のこと、不埒な考えをしていたことを気づかれてしまったのかもしれない。
「あ、いや、どうした?」
明らかに挙動不審になった俺にスッと顔を近づける。
「……後で全部見てくださいね?」
「〜〜〜ぐわっ! はあはあ」
「どうかしましたか?」
胸を押さえ早まる鼓動を落ち着かせようとする俺を下から覗き込む心。
その角度! いや、パーカーの下は水着だってわかってるけど! 谷間! 見えてるから! って見せてるのか!
本能に抗えずパーカーの隙間から双丘を見てしまう。
「もう、斗真くんはえっちですね」
わざとらしく胸元を左手で隠すがチャックは上げてくれない。
「心?」
鋼の精神で視線を心の顔に。
「あ、かわいい」
やっぱりと言うか、本人にも攻め過ぎた意識はあったらしく赤い顔で目を背けられた。
「ちょっ、と今は見ないでください!」
口元をむにむにと整えてようとしているが、気を抜くとニヤけ顔になってしまうようだ。
「恥ずかしがるくらいならやらなきゃいいのに。自分でもやり過ぎたって後悔しているんだろ?」
「違います! ……斗真くんがいきなりかわいいとか言うからですよぉ。もぉ、ばか。不意打ちは卑怯です」
「かわいいなんて言われ慣れてるだろ」
「斗真くんと他の人では攻撃力が違うんです。ちゃんと自覚してください!」
「そんなもんかねぇ?」
「じゃあ逆に聞きますが、朱莉ちゃんが斗真くんにかっこいいって言うのとわたしが言うのでは違いませんか?」
自分で聞いておきながらも不安そうな表情。
「前提として朱莉はそんなこと口が裂けても言わないけど、あいつに言われたら鳥肌もんだろうな」
「ごめんなさい、選択肢を間違えました。う〜ん、そうですね、では虹色先輩とわたしでは———」
「先輩に言われてもからかわれてるとしか、ってかそんなこと誰も言わないから想像つかないって。でも、そうだな。心に言われるのはうれしいな」
心と違って俺が容姿で褒められることは滅多にない。あったとしても雨宮先輩か森島くらいがからかい半分で言ってくるくらいだ。
「そ、そうですか? でもわたしの場合は本気で言ってますからね? 誰よりもその、斗真くんがか、かっこい〜って」
「なんだこのかわいい生き物は!」
自分で言っておきながら真っ赤な顔を小さな手で覆い回れ右。
「だからぁ、かわいいはなしっ! もう、とぅ……まくん、は守りの人なんですから攻撃力はそこそこでお願いします」
なんだろ? いつもの心とは違う何か違和感みたいなものを感じる。幼いと言うか甘えるような口調と変な間のあった呼び方。
違和感はあるんだけど不思議と懐かしいような———。
「あ、いたいた。やっと見つけたぞ2人とも」
思い出そうと記憶を辿っているところで背後から蒼眞の声が。
振り返ると息を切らせる蒼眞と申し訳なさそうに苦笑いする朱莉たち。
「ごめんね。ちょっと迷子になってたの」
「見つけれて良かった。さ、泳ごうぜ」
プールサイドに立ち満面の笑みの蒼眞を、心は背後から突き落とした。
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