第2話
予定のない月曜日の放課後。
俺は素早く帰り支度を終えると「じゃあな」と蒼眞に軽くあいさつをして実家へと急いだ。
徒歩20分程度の道のりを足早に向かうと、15分後には実家に到着。ガチャリと玄関を開けるとそこには見慣れたローファーがキチンと揃えられていた。
「なんっだと!?」
1番に教室を出たというのに先を越されているだと?
「あら、斗真くんおかえり」
出迎えてくれたのは義姉の
「た、ただいま愛莉さん。こ、これっ!」
俺がローファーを指差してワナワナと震えていると、小首を傾げながらアゴに人差し指を当てて考える素ぶり。
「うん? ああ、なんであの子が先にいるのかってこと? さっきケンちゃんが仕事の途中で拾ってきたの。そういえばあの子、玄関に入った瞬間にドヤ顔してたわね?」
玄関でドヤ顔。教室では決して見ることのできないレア顔でありながらも、俺はその表情になんども敗北感に打ちのめされてきた。
「くそっ兄貴めっ!」
完全な八つ当たりだが直接の相手より、協力者である兄貴に向けて悪態をつく。
「あははは。ケンちゃんは女の子に甘いからね」
困ったように笑う義姉の愛莉さんは25才。有名大学を卒業後、即兄貴の元に嫁いできてくれた。
容姿端麗、成績優秀、高校時代はテニスでインターハイにも出たことがあるくらいにスポーツも万能。性格も温厚で思いやりもあるぱーふぇくとうーまん。
結婚が決まり愛莉さんがウチの実家に来てからしばらくのとき、兄貴との馴れ初めをノロケられたことがあるんだが、ウチの高校のOGでもある愛莉さんは1人で下校中に数人のガラの悪い輩にしつこくナンパされていたところを助けてもらったとか。
純情だった愛莉さんはコロッと兄貴に落ちてしまったらしい。
「それよりも斗真くん。そろそろ玄関上がったら?」
クスクスと笑いながらスリッパを用意してくれた愛莉さんに促されてリビングに行くと、そこには楽しげに「きゃ〜」と叫びながら歩く天使がいた。
「ただいま、み〜!」
膝立ちになり両手を広げておいでと促すと、笑顔で振り向いた「み〜」こと伊里みらい生後10ヶ月。
「はーい、みーちゃん。ぎゅ〜」
しかし、み〜の目の前にいる、こちらも見る人によっては天使だとか女神だとか形容される人物がみ〜の行く手を阻む。
「ふふん、ふふん。ぎゅ〜!」
その人物に抱きつきながら笑顔が眩い天使。
「おーい。みーちゃん。おにーちゃんが待ってるよ?」
愛莉さんが救いの手を差し伸べるべく愛娘に声をかけるが、耳元で「ぎゅ〜、ぎゅ〜」と連呼されているものだからみーには聞こえていない。
「う、うんっ。ちょっと小倉さん。ウチのみーを解放してもらえませんかね?」
その言葉を聞いた瞬間、小倉さんこと小倉心の目が細められた。
「あら、お帰りなさい斗真くん。随分とヨソヨソしい呼び方をしますけど、何か気に触ることでもしましたか?」
あざとく首を傾げながらこちらを見てくるが、俺から言わせてもらえば俺にだけ敬語を使う彼女の方がヨソヨソしい。
ただ、言葉遣いがヨソヨソしいだけで距離感はバグっているとしかいいようがないほど密着してこようとするのだが。
「とにかくみーを解放してくれよ。みーがこっちに来れなくて困ってるだろ?」
「……どこがですか?」
彼女が手を離してもみーは心に抱きついたままだ。
「おかしい……。まさか後ろ手におやつを隠し持って」
「そんなことしませんよ。ただ、みーちゃんが斗真くんよりも私の方が大好きなだけですよ?」
み〜の顔を覗き込みながら「ね〜」と声を掛けると、み〜からも「ね〜」と返事が返ってきた。
「はいはい。心そろそろみらいを解放してあげて。斗真くんもみらいと会うの楽しみにして毎週帰ってきてくれているんだから」
「……はーい」
旧姓、小倉愛莉さん。妹と違い俺にも優しいできた義姉。
解放されたみーに向かい「おいで〜」と両手を広げると「まま〜」と言いながら愛莉さんに抱きついた。
「うん? あー、みらいおねむさんだね。ごめんね斗真くん。ちょっと寝かしつけてくるね」
手慣れた様子でひょいっとみーを抱き上げると、愛莉さんはリビングから出て行ってしまった。
やり場のない俺の両手。
見かねた心がスススっと近寄って収まろうとするが、サッと回避をした。
「あ、あれ?」
「そんな照れるくらいならやらなきゃいいだろ」
真っ赤な顔をしながらも大胆な行動をする心。
俺をからかうにしてはちょっとやり過ぎてるような気がしてならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます