19・祝賀会と宴、これからの未来


 騎士団長と話して自宅に帰宅。

 2階に上がると、ローラの部屋から複数の気配がした。

 

 まぁわかっていたが、確認する。

 部屋のドアをノックすると、ローラがドアを開けた。


 「に、兄さん? お帰りでしたか」

 「ああ。何やってんだ、4人揃って」


 そう。ローラの部屋にはシャオとファノンとフィオーレ姉さんがいた。

 どうもお茶をしてるらしく、多分だけど反省会でもしてるんだろう。

 丁度いいや、少し話をさせて貰うか。


 「なぁ、少しいいか? 話しておきたいことがある」

 「は、はい。どうぞ」


 ローラの部屋に入ると、いい匂いがした。

 ハーブティーだろうか、ハッカのような甘い香り。


 「あ、アーク······」

 「えと、その」

 「アークくん、その······どうぞ」


 当然ながらぎこちない。

 ローラはお茶を淹れに下に降りてったし。

 フィオーレ姉さんがクッションを薦めたので、遠慮なく座る。


 シャオとファノンはローラのベッドをグチャグチャにしながら寝転がり、フィオーレ姉さんはクッションに座ってる。位置的にローラはその隣で、小さなテーブルには4つのカップとお茶菓子のクッキーが置かれていた。

 ローラが帰ってくると、テーブルの上にカップを置く。


 「どうぞ。寝付きが良くなるハーブティーです」

 「サンキュ·········お、うまいな」

 

 スゥっと喉を流れる爽快感。

 こりゃ美味いな。確かに寝る前に飲むといいかも。

 

 と、お茶は置いといて、話をする。

 全員が俺の挙動を見ていた。ったく、普通にしろよ······無理か。

 俺はカップを置いて話し始めた。

 

 「あのさ、これからみんなはどうするんだ?」

 「これから······?」

 「ああ」


 騎士団長も言ってたけど、元勇者ユウヤの妃と国民に認知されてる今、よく思わないヤツも出てくる。

 だけど、シャオたちの実力は国民全てが知っている。


 シャオはスキルによる大太刀に剣技があれば、騎士団で最強の戦士になれるだろう。

 もちろん、良からぬことを言われるのを覚悟でだが。


 ローラは、魔術師としては王国最高レベルの実力だ。

 魔術の指導員として残留すれば将来は安泰、給料もたくさん出るだろうし、いいこと尽くしだ。


 ファノンは弓兵だ。

 シャオと同じく戦場で活躍出来るだろう。

 だけど、ファノンは元々は争いを好まない性格だし、兵士として残るとは考えられない。


 フィオーレ姉さんは薬師だ。

 王国にも専属の薬師はいるけど、勇者パーティーの薬師だったし高待遇で迎えられるのは間違いない。

 実家の薬屋もあるし、将来に不自由はしないだろう。


 「アタシは······もう戦いたくない。そもそも、こんなスキル要らないし、みんながなんて言おうが、アタシにとってはハズレスキルよ」

 「わたしも〜······どこかで静かに暮らしたい。このまま王国にいたら、ヘンなことでからかわれそうだし······」

 「私は······シャオさんと同じです。この国や世界のために戦いましたが、もう懲り懲りです。実は、近所のおばさんたちが、私達の噂をしてるのを聞いてしまいました······ニセ勇者の妃たちだって」

 「私も言われたわ。だけど仕方ないわね。事実だし······」


 ま、近所のおばさんはそう言うネタが好きだしな。

 それに、やっぱりシャオたちは戦いを続ける気はなさそうだ。


 だから俺は提案する。

 まぁ念の為だ。


 「俺は多分、貴族になる。騎士団長の話だと、俺の希望通り緑龍の巣周辺の地域を賜ることになる。そこの近くの町に屋敷を構えて、領地経営を学ぶよ」


 4人には伝わっていた。

 そこは、ユノの墓がある地域。

 

 「お前たちも良かったら来いよ。王国ほど栄えてないけど王国よりは居心地がいいと思う。それに、ユノの墓参りくらいはしてもらわないとな。まぁ強制はしない。たぶん明日の祝賀会で、お前らには貴族からのお誘いがあるだろうしな。選択肢の1つにでも入れといてくれ」


 4人は驚いていた。

 まさか、こうなるとは考えていなかったらしい。

 

 「アーク······いい、の?」

 「ああ。シャオが望むならな。ローラ、お前は?」

 「わ、私は······兄さんの傍に居たいです。それに······ユノにちゃんと謝りたい」

 「わ、わたしも〜っ‼ ユノに謝りたい〜っ」

 「私もよ。謝りたいし、ちゃんとお話したいわ······」


 もちろん、嫁にするとかじゃない。

 そこまで考えてないし、和解しただけで好意ではない。

 屋敷を構えたら近くに家を建てて住んでもらう。

 

 「明日、祝賀会で王様から言われると思う。まだお前たちは勇者パーティーの一員だし、その後どうするかも聞かれるはず。その時まで考えておいてくれ」

 

 一応、時間は与える。

 俺は親父と母さんも説得して連れて行きたい。

 親父は大工だけど畑仕事もしてみたいって言ってたし、母さんも花壇を作りたいって言ってたことがあるしな。


 俺は立ち上がり、ローラの部屋を後にする。

 もう遅いし、そろそろ寝よう。

  


 明日は祝賀会······何気に緊張するぜ。



 ********************



 祝賀会当日の朝。

 朝食を終え、城から数人の騎士が迎えに来た。

 外には立派な馬車が停まっていて、どうやら俺とローラたちを乗せていくらしい。

 こんな平民街に立派な馬車は似合わない。それこそ悪目立ちしている。


 俺とローラは外に出ると、丁度シャオたちも出てきた。

 そのまま5人で馬車に乗り、城へ向かう。


 城に到着すると、俺とシャオたちは別れた。

 シャオたちはドレス合わせ、俺は衣装合わせを済ませる。


 祝賀会はお昼から、そして夜は晩餐会が開かれる。

 ブルム王国の貴族や領主たちが集まり、魔王討伐を祝うのだ。


 俺は騎士服をもっと煌びやかにしたような衣装に着替え、腰にはアンフィスバエナを差し、ポケットにはお守り石を入れる。

 そろそろ祝賀会が始まる………ヤバい、緊張してきた。


 「勇者アーク様。お時間です。会場へご案内いたします」

 「は、はは、い」

 

 騎士団長が自ら案内してくれるらしい。

 俺の緊張を感じたのか、優しく微笑んで言う。


 「勇者殿、落ち着いて下さい。この祝賀会は勇者殿を称える祝い。特別な作法など必要ありません、普段通りでいいのです」

 「そ、そうですか?」

 「はい。勇者殿には勲章と領地が授与されます。授与式が終われば、あとは立食パーティーですので」

 「は、はい……」


 騎士団長の笑顔は癒やされる。

 なんだかんだでこの人には世話になってるな。



 そして、騎士団長と一緒に城のパーティーホールへ入った。



 **********************



 パーティーホールは煌びやかで、平民の俺には場違いな美しさだった。

 シャオたちは先に入っていたのか、キレイなドレス姿で前にいた。


 そして、勲章の授与式。

 俺は王様の前に跪き、王様がなにやら難しい話をする。

 まぁ要約すると、「魔王退治ごくろーさん。お礼にキミが欲しがってた領地と爵位をあげる、そんで、これからもブルム王国の勇者としてがんばってくれたまえ!!」……って感じの話だ。

 

 とにかく、辺境の地とはいえこれで俺も貴族。

 早めに引っ越ししてユノの墓を整備しなきゃな。


 授与式は終わり、立食パーティーの時間に。

 わかってはいたけど、他の貴族たちからの挨拶がスゴい。

 おかげでメシが全然食えない。豚の丸焼きなんて初めて見たのに。


 シャオたちも男性貴族に囲まれてる。

 どうやらユウヤの件があっても、シャオたちの存在は魅力的らしい。

 他の貴族の領土にスカウトされれば、そのまま行くかもな。


 まぁ、俺としても強制はしない。

 いい条件なら受けるべきだし、和解はしたからあとはシャオたちの人生だ。

 まぁユノの墓参りくらいはしてもらいたいがな。


 挨拶が終わる頃には、食事も殆ど終わっていた。

 豚の丸焼きは無残な骨に変わり、結局あんまり食べれなかった。

 

 パーティーが終わり、暫く休んだら晩餐会。

 どうやら俺やシャオたちが全く食べれなかったのを見越してか、晩餐会の時間は2時間後になった。


 それまでは控え室で寛ぐ。

 シャオたちはお色直しで、俺はそのままソファに座る。



 そしてソファでボケッとしていると、晩餐会の時間になった。



 **********************



 晩餐会は、王様と王妃様、俺とシャオたち。

 長テーブルにそれぞれが座り、コース料理でもてなされた。

 

 オードブルから始まり、スープに魚料理……うん、美味いけど緊張する。

 シャオたちを憎んでた時は、王様と対峙しても何とも思わなかったけど、普通に考えたら平民の俺がこの国の王様とメシを食うなんてあり得ない。

 シャオたちは特に緊張してるように見えないし、なんだか俺だけ恥ずかしい。

 スープなんて音を立てて啜っちまって、1人で慌ててたしよ。


 そして、王様の話は龍のことから始まり、魔王のことやユウヤのことになった。

 8龍の風貌やそれぞれの能力を記録のために話したり、そもそも異世界召喚をしたからニセ勇者が生まれたから、二度と召喚をしないと約束したり。

 デザートが来る頃にはシャオたちの話になった。


 「して、勇者パーティーの諸君、これからどうするのだ? もしよかったらこのまま仕えないか?」

 「ありがたいお話ですが、遠慮させて頂きます」

 「私もです」

 「わ、わたしも」

 「私もでございます」


 なんと4人とも拒否。

 王様からの誘いなんて滅多に無いぞ? 


 「ほう。では、これからどうするのだ?」

 「はい。私たち4人は、勇者アークの領地へ移住します。この国には世話になりましたが……元勇者ユウヤの妃として好奇の目で見られるのが耐えられませんので……」

 「王様のご厚意には感謝いたします。私たちの故郷はここ、ブルム王国王都ファビヨンです」

 「そ、そうで~す」

 「この王国にお世話になったことは忘れません。誠にありがとうございます」

 「そうか。残念だが……うむ、勇者パーティーの諸君。キミ達の活躍に感謝する」


 ちなみにシャオたちにはたっぷりと報奨金が支払われた。

 それこそ、10年は遊んで暮らせるほどの。


 「勇者アークよ、勇者として領主として、そして貴族として……活躍を期待してる」

 「ありがとうございます」


 王様の説明では、危険なモンスターが現れたら勇者として討伐を頼むこともあるそうだ。

 領主としては緑龍の巣近くの町に屋敷を構え、町の発展や維持に尽くすこと、そして貴族として社交界などの付き合いをこなしたりすることなど、かなり忙しくなりそうだ。


 俺としてはユノの墓の近くに住みたいだけだが、そう上手くはいかないな。

 だけどユノから貰った勇者のスキルの力で手に入れた物だ。やり甲斐はある。


 数日休んだら、俺とシャオたちは緑龍の巣の近くの町……テオの町と言うらしい、に出発する。

 そこで、新しい生活が始まる。


 到着したら、やることはたくさんある。

 町の住人に挨拶もしなくちゃいけないし、地理も把握しなくちゃいけない。

 領主として勉強不足だし、こればかりは勇者のスキルは役に立たない。

 


 でもまずは……みんなでユノに会いに行こう。

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