6・ユノ


 王国へ帰還し、勇者たちは城へ。

 俺は城へは入れてもらえず、1人で自宅に帰って来た。


 家には母さん。つまり、ローラの実の母親がいた。

 俺が帰って来たことに驚き、ローラのことを聞く。


 「母さん、実は······」

 「·········そう」


 俺は真実を告げる。

 ローラは勇者の嫁になり、恐らくは帰ってこないだろうと。

 そして、シャオたちも全員が嫁となったと告げた。


 俺はフィオーレとシャオの家に出向き、それぞれの両親に挨拶をした。

 俺の話を聞いて憐れんだのか、何度も頭を下げられた。


 そして夕方。

 親父が帰宅し、母さんの手料理と酒で乾杯する。

 ローラがいない夕食は久しぶりで、不思議なくらい悲しくなかった。


 そして数日後。

 王の使いとやらが家に来て、出発の日を知らせに来た。


 ローラは一度も帰ってこなかった。

 恐らく気持ちは既に時期王妃で、平民の暮らしに戻るつもりはないのだろう。


 出発の朝。

 城の前の広場に行くと、見知った馬車があった。

 家に来た王の使いが、城に馬車を取りに来いと言ったからだ。

 旅に使った馬車は整備がされ、内装も少し広くなっていた。


 「久しぶり。また頼むぞ」


 俺は馬をなでると、馬は嬉しそうに鳴いた。

 待ち合わせは町の中央広場で、勇者たちは自身に必要な小物や道具などを買いに出かけてるらしい。


 そして、勇者パーティーがやって来た。

 それぞれが自分の荷物である小さなカバンを持ち、勇者にあれこれ話しかけてる。


 だが、勇者は見たことのない女の子を連れていた。

 馬車の前に立っていた俺に、挨拶もせずに言う。


 「アーク、この子をキミの補佐に。1人じゃ大変だろうし、買ってきたんだ」


 勇者がにこやかに言うが、俺は驚いた。

 

 「ど、奴隷······?」


 そう、少女は奴隷だった。

 ボロ切れのような服を着て、無表情で俺を見る。

 何でだろう。城には人材がいないのか?


 「ここに来るまでに奴隷商館の前で見つけてね。何故か気になったんで買ってきたのさ。あぁ安心してくれ、手は出さないから」

 

 当たり前だ。

 少女は14〜5歳ほどだろうか、ローラたちと同い年くらい。

 伸びっぱなしの髪はくすんだ銀色で、顔立ちは汚れでよくわからない。

 そして、全くの無表情だった。


 少女はユウヤに手を引かれていたが、シャオが無理矢理その手を離す。


 「ちょっと、汚い手でユウヤに触れないでよ」

 「·········はい」


 少女はペコリと頭を下げる。

 おいおい、その子じゃなくて勇者が掴んでたんだろうが。目がおかしいのか?

 するとシャオが嫌悪感を出して言う。

 

 「ふん。アーク、ちゃんと面倒見なさいよ、ユウヤに近付けたり触らせないでね」

 「······わかったよ」


 シャオは子供好きだったのに、こんなこと言うとは思わなかった。

 俺の知ってるシャオは、もういないようだ。


 「さて、次は青龍の巣に向かおう。アーク、頼むよ」

 「······ああ」


 シャオたちは俺を無視して馬車へ乗り込むが、俺はローラを呼び止めた。

  

 「ローラ」

 「何か」

 「······親父と母さん、心配してたぞ」

 「それで?」


 ローラは鼻で笑い、馬車へ。

 残された俺は、一人ため息を吐く。

 そして、クイクイと袖を引かれた。


 「······ん?」

 「······」


 少女は馬車をゆっくり指差す。

 どうやら運転しろと言ってるらしい。


 俺は御者席に座ると、隣に少女が座った。

 馬車を走らせると、聞き取りにくいが聞こえてくる。


 「ねぇユウヤ、何であんな汚い子を? アイツの補佐ならもっとまともな奴隷でもいいんじゃない? それこそ城から連れてくれば」

 「いや、う〜ん。何故かな······。その、奴隷商館の中に連れて行かれるあの子を見た途端、気付いたら手を握っていた。何かに揺さぶれたような……う~ん?」

 「なにそれ〜?」

 「ユウヤ、貴方は誰でもいいのですか?」

 「ち、違うよローラ、そういうんじゃないって‼」

 「じゃあどんなことでしょうかね〜、ユウヤさ〜ん?」

 「ふぃ、フィオーレ?」


 何やら騒いでいるがどうでもいい。

 この数日で俺の心はだいぶ落ち着いた。

 シャオたちにはまだ情が残っているし、諦めきれない気持ちもある。

 だけど、どうしようもない。


 「······」

 「ん?」


 少女がじっと俺を見る。何だよ?

 

 「あ、そうだ。俺はアーク、お前は?」 

 「·········ユノ」

 「ユノか。よろしくな」

 「······」


 ユノは無表情で頷く。

 俺は御者席に置いたカバンから、瓶に入ったフルーツジュースを取り出し、ユノに渡した。

 ずっと座りっぱなしだと喉が乾くし、何本か買ってカバンに入れて置いたのだ。

 ちょっとヌルいのは勘弁してくれ。


 「ほら、美味いぞ」

 「······」


 ユノは瓶の蓋を空け、中の液体のニオイをかぐ。

 そしてゆっくりと瓶を傾け、中の液体を飲む。


 「······っ‼」

 「はは、全部飲んでいいぞ」


 ユノは一気にジュースを飲み干した。

 俺はカバンから清潔な布を取り出し、ユノの顔を拭いてやる。


 「ほら、キレイに······おぉ」


 俺は驚いた。

 ユノは普通に可愛かった。

 そして、にっこりと笑う。


 「ありがとう。アークさん」


 こうして、俺とユノは出逢った。

 この時は、まだ知らなかった。




 ユノとの出会いが、俺の|冒険(うんめい)を変えたことに。

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