【route 3】
7ー2・危機一髪とユノの真実
ユノと出会い約1年。龍退治は順調に進んでいた。
残りの龍は3体。
相変わらず俺は便利な道具扱いだけど、ユノのおかげで絶望せずにすんだ。
ユノはよく働いてくれた。
最初は食事の支度もテントも組み立てられなかったが、教えるとすぐに覚え、料理の腕なんて俺より上手くなっている。
そして、ユノが加入して驚いたのが、龍以外の魔獣に一切襲われなくなったことだ。
どうやらユノのスキルはモンスターを寄せ付けないらしい。
シャオや勇者たちは喜び、ユノを正式にメンバーに迎え入れようとして勇者の部屋に呼ばれたが、ユノは一切拒否。
俺の傍から離れようとせずに、シャオたちから不況を買った。
だがユノはどうでもいいのか、変わらずに俺の傍にいる。
5匹目の黒龍を倒し、王国へ帰還する途中の町でのことだった。
勇者たちは町に遊びに出掛け、俺とユノは買い物をする。
いつもの補給物資の買い物で、いつも通りに終わらせた。
俺の日課に加わったのは、買い物後のユノとのひととき。
「お疲れユノ。何か食べるか?」
買い物袋を両手に抱え、俺が聞く。
ユノは小さい袋を両手で持ち、ぷるぷると首を振る。
相変わらず無口だが、表情はかなり柔らかくなった。
「遠慮すんな。ほら、クレープが売ってる。食べようぜ」
屋台のクレープ屋でフルーツクレープを買い、ユノの持つ袋を奪い取る。
ユノは大きなクレープを困ったように持ち、俺を見た。
「ほら、食えって。美味いぞ」
「······うん。いただきます」
パクリと一口。
ユノの顔は歓喜が溢れ、嬉しそうに俺を見る。
俺も嬉しくなり笑うと、ユノがクレープを俺の口に運んで来た。
「······アークさんも、はい」
「お、おぉ」
俺も齧ると、ふわりと柔らかいクリームと果実の瑞々しさが口に広がる。
恥ずかしいなこりゃ。だがそれがいい。
「美味いな、こりゃ美味い」
「······よかった」
なんだろう、ものすごく照れる。
俺はユノを支えにし、冒険を頑張っていた。
宿屋で勇者がシャオたちを抱く間に、俺とユノは旅の支度を整え早めに床につく。
部屋は節約のため一緒で、1つのベッドに寄り添うように寝る。
女神に誓うが手を出してない。
そもそも、不思議とユノにそんな感情は抱かなかった。失礼かもしれないが。
顔を洗い普通の服を着て髪を梳かしたユノは間違いなく可愛い。
どうして奴隷になったのか聞いても、覚えてないとしか言わない。
ユノの傍にいるだけで、隣の部屋から聞こえるシャオたちの甘い声は俺の頭を素通りしていく。
まるで女神みたいな微笑を称え、ユノは言う。
「あの……手を貸してください」
「またか?……ほら」
「……はい」
ユノは寝るとき、必ず俺の手を取る。
俺はユノと向かい合い、右手をユノの顔に持っていく。
その手をユノは両手で握り、ゆっくりと目を閉じた。
俺も眠気が来たので目を閉じる。
すると、ユノの声が聞こえた気がした。
「修······ム······イ······ル」
俺の意識は、闇に包まれた。
********************
王国へ帰還し、6匹目の龍が見つかるまで待機する。
勇者たちは城でゴージャスな生活を送り、シャオたちは早くも王妃として振る舞い始めたとか。
俺はユノと自宅へ。
親父も母さんも最初は驚いたが、すぐに馴染んだ。
まるで新しい娘のように接し、ユノも2人に懐いている。
家族で食事をし、ベッドへ。
ローラの部屋があったのに、ユノは相変わらず俺の傍に来た。
仕方なくベッドに空きを作り入れると、再びユノが言う。
「アークさん、手を貸して下さい。これが最後です。そしてこれを持ってて下さい」
「最後? なんだよこれ……?」
「お守りです。アークさんに持っていて欲しいんです」
ユノがくれたのは小さな袋。
中には透明な石が入っていた。
これまでにも何度かあった。
ベッドに入りユノに手を貸すと、いつの間にか眠っている。
俺はいつも通りに手を貸すと、やっぱり眠くなってきた。
ユノは何かをブツブツ呟くが、何を言ってるのか分からない。
「プ······更······ン······了」
やはり、気がつくと朝だった。
********************
俺はユノとデートしたり、親父たちと食事したりして休みを満喫していた。
そして、ついに6匹目の緑龍が見つかった。
驚くことに6匹目の緑龍と7匹目の白龍は同時に発見されたので、緑龍を討伐したらそのまま白龍の巣へ向かうことになった。
俺は支度をしていつもの馬車へ。
ユノも当然一緒だ。正直なところ家にいて欲しいけど。
勇者とシャオたちは俺と殆ど話さない。
事務的な会話はするが、それすら面倒くさいという感じだった。
緑龍の住処に向かうと、馬車の中は相変わらず勇者ラブの会話が繰り広げられていた。
「アークさん、辛い?」
「え?」
「彼女たち、許せない?」
まるで見透かすような眼差し。
その質問は俺の心を探るようで、俺はその瞳に吸い込まれそうな気がした。
シャオたちを許せない気持ちは確かにある。
だけど、俺は諦めきれない。小さい頃からずっと一緒だったのに、ぽっと出の勇者に全て奪われたことを認められないのかもしれない。
我ながら現実を見ていない。勇者が現れて1年にもなるのに。
俺は俯いていると、ユノが言う。
「アークさん、緑龍を倒したら大事なお話があります」
「話? 今じゃダメなのか?」
「はい。2人きりでお願いします」
いつになく真剣なユノ。
俺は首を傾げつつ、緑龍の住処へ向かう。
緑龍の住処は小さな森を抜けた先にある岩石地帯で、森の中はユノのスキルで魔獣は現れないはずだった。
そう、魔獣は。
「な、な、な······なんで、緑龍が⁉」
だからこそ、森の中に緑龍が居るなんて考えもしなかった。
********************
俺は馬車を止め、叫んだ。
「緑龍だ‼ 降りろっ‼」
勇者たちはようやく気付き外を見る。
目の前に居たのはガマガエルに翼が生えた化物。
口を大きく開け、何かを放とうとしている。
「盾よっ‼」
俺は3枚の盾を展開し、馬車を守るように前に並べる。
だが、龍の前には無意味だ。精々時間稼ぎ。
だからこそ俺はユノを抱きしめ、馬車から飛び降りようとして……聞いた。
「アーク、そのままだっ‼」
【ルート3】**********************
やかましい。
とにかくユノだけは守ってみせる!!
「ユノっ‼」
「アークさんっ」
次の瞬間、緑龍のブレスが俺とユノを襲い、俺の盾が粉砕される。
俺は直前にユノを抱きかかえ、全力で横っ飛びをして藪に飛び込んだ。
「ぐ、うぅぅッ!!」
「ユウヤッ!!」
「ファノン!! 援護を!!」
「りょ、りょうか~いっ!!」
勇者は馬車の中でギリギリ聖剣を抜き、黄金のオーラでブレスを相殺した。
先に馬車から出たファノンが矢を放ち、ローラが魔術で緑龍の動きを止める。
シャオと勇者の同時斬撃で、緑龍は両断された。
「いって……ユノ、無事か?」
「は、はい……」
なんとか、ユノを守れたか。
**********************
「どういうつもり……!!」
「な、なにがだよ」
「分からないのですか? 何故ユウヤの指示を無視したのです?」
「そ、それは……ユノもいたし、俺の盾じゃ緑龍のブレスは防げないし……」
俺は現在、怒りのシャオとローラに詰め寄られていた。
勇者は少し怪我をしたらしく、フィオーレ姉さんが手当してる。
「ユウヤ~……へいき?」
「大丈夫だよファノン、ありがとう」
「ユウヤくん、ムチャしないで下さい……」
「いいんだフィオーレ。アークも突然だったし、仕方ないよ」
「でもユウヤ、一歩間違えれば」
「いいんだ。アーク、気にしないでくれ。キミの判断は間違ってない」
「す、すまん……」
「ユウヤ、この人は使えません。解雇して新しい人を雇った方がいいです」
「そうよ!! 全く……役に立たない盾なんて必要ないわ!!」
ローラとシャオが俺の解雇を求めてる。
仕方ないよな……いざって時の盾なのに。
「ダメです」
「は?」
「な、なによ」
意外なことに、ユノがシャオたちに立ちはだかる。
殆ど喋ったことのないシャオとユノだけに、いきなりのことで驚いていた。
「アークさんはこの旅に必要です。だから、連れて行って下さい」
「そ、それを決めるのはユウヤよ!!」
「そうです。ですが、必要な時に役に立たないのなら、考えなくてはいけませんよね?」
シャオとローラの視線は勇者へ。
そして、ユノと勇者の視線がぶつかった。
「……だ、ダメだ。アークは絶対に連れて行く。この旅に……必要だ!!」
ユノを見た途端、ユウヤは強く言う。
「え、ちょ、ユウヤ!?」
「何を言ってるんですか!?」
「ゆ、ユウヤ~?」
「い、いきなりどうしたんですか?」
勇者はシャオたちに厳しい視線を向け、きっぱり言った。
「アークは必要なんだ、絶対に」
「で、でも、使えない」
「黙れ!!」
突然の怒声に、ユノを除いた全員が驚いた。
こんな声を出した勇者は初めて見た。
「ご、ゴメン。とにかく帰ろう、道具も食材もなくなっちゃったし、急いで町に戻ろう」
俺たちはボーゼンとし、慌てて勇者の後を追った。
**********************
町に到着した俺達は、すぐに別れた。
シャオたちは勇者と宿屋へ、俺とユノはとりあえず馬車と旅道具を揃えるために道具屋へ向かった。
馬車は町長に頼むとすぐに代わりを手配してくれて、俺とユノは道具屋に買い物に来ていた。
テントやカバンを買い直し、薬草類や食材、鍋や食器などを買い直す。
買い物が終わる頃には日も沈み、夜になっていた。
「ユノ、どっかでメシ食うか? どうせシャオたちは酒場で飲み食いしてるだろうしな」
「えっと、いいんですか? 早く帰らないと」
「別にいいだろ。どうせ俺たちの事なんて気にしてないって」
「······はい。じゃあ······食べちゃいましょうか」
ユノはイタズラっぽく笑う。
もしあの時勇者の言葉を信じていたら、ユノは死んでたかもしれない。
改めて思う。守れて良かった。
俺とユノは、近くの酒場に入り食事をする。
ユノは意外と大食いで、俺といる時は遠慮しつつもたくさん食べていた。
ちなみに夕食は、俺が炒め物定食でユノは肉丼。
勇者たちの前では絶対に食べないメニューだ。
「······おいしいです」
「そうか、いっぱい食えよ」
「はい。ありがとうございます♪」
ユノと食事を終え、宿へ。
宿屋一階の酒場では、勇者たちが飲んでいた。
「ユウヤ、もう大丈夫なの?」
「あぁ······怒鳴って悪かったね」
「そんなことはいいです。体調に問題ないんですね?」
「もちろん。健康そのものさ」
「ユウヤ〜っ」
「おっと、ファノン······酔ってるのかい?」
「飲み過ぎよファノンちゃん。後で酔い覚ましをあげるわ」
シャオたちは俺たちに気付くが無視。
勇者に会釈し、そのまま宿の部屋に荷物を運ぶ。
一番安い部屋は狭く、荷物を置くと歩くスペースの確保が難しい。
「ふぅ······なんか、いろいろあって疲れたぜ」
「······アークさん」
「ん? あぁ、大事な話があるんだっけ」
「はい。とても大事な話です。アークさんのこれからに関わる、大事な話······」
「······ユノ?」
ユノはベッドサイドに座る。
俺も自然と隣に座った。
「アークさん、私の話を信じてくれますか?」
「······当たり前だろ? 俺がユノを疑うはずない」
「ありがとうございます······」
「で、どんな話なんだ?」
俺はユノの真剣さをわかっていたが、軽い気持ちで聞いた。
「私の正体について、それと······勇者ユウヤについてです」
ユノの眼は、真っ直ぐだった。
********************
「ゆ、ユノの正体って······ユノはユノだろ?」
「そうですね。ですが、可笑しいとは思いませんか? 勇者であるユウヤが、アークさんのサポートという理由だけで、私のような奴隷を買うでしょうか」
「······」
確かに。
俺のサポートと言うのも不自由だ。
それに、もしサポートが必要なら、奴隷ではなく城から連れてくればいい。
何も、町で衝動買いしたような奴隷を連れてくるのは不自然だ。
「答えは簡単です。ユウヤが私を買うように、私が仕向けたのです」
「······え⁉」
「それも全てアークさん、貴方に会うためでした」
「ど、どういう······意味が」
「全ては、異世界人の召喚が始まりでした」
「ユノ······?」
ユノは俺を真っ直ぐ見て言う。
俺はユノの眼から目が離せなかった。
「私の名は《女神アスタルテ》 この地上を造りし女神です」
今夜は、長くなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます