4・異世界の勇者
まず気になったのは、「異世界」ってなんだ?
世界ってことは、この世界。「異」ってことは、異なる世界ってことか?
「あの、ナルフェ先生。異世界とは一体······?」
あ、ローラが俺の気持ちを代弁してくれた。
確かに、考えるんじゃなくて、自分で言えばいいよね。
「異世界とは、ここではない世界です。つまり······別世界ですね」
「な、なるほど······別世界」
「え〜? ホントにわかったの、ローラ」
「し、失礼な。そういうファノンはどうなんですか?」
「しらな〜い。とにかく、仲間が増えるって考えればいいでしょ〜?」
「そうですね。その考えで構いません」
あらら。ファノンに諭された。
まぁいいや。仲間が増えるって思えばいいよね。
そして、次の話はスキル。
個々の特性であるスキルのお勉強だ。
「まず勇者の能力ですが、至ってシンプルです。黄金のオーラによる強化と、聖剣の使用が可能になります」
「······それだけですか?」
「はい。ですが、シンプルな力ほど強力です」
シンプルすぎるだろ。
なんだよ黄金のオーラって。それに聖剣は道具だろ?
スキルと何の関係が?······まぁいいや。
「次は《斬姫王》です。こちらは、全てを両断する
「······こっちもシンプルね」
シャオも苦笑してる。
身体能力増加付とはいえ、シャオは剣なんて握ったことすらない。
これからの鍛錬に期待するしかないね。
「次は《大魔術師の知識》ですが、人間が生み出した全ての魔術を扱えます。しかも精神力の消費ゼロの効果付きです。全ての魔術師が羨むスキルですね」
「は、はぁ······」
ナルフェ先生はキラキラしながら話してるけど、ローラはピンと来ないようだ。
まぁ魔術なんて使ったことはないし、当たり前か。
「最後は《神弓の担い手》ですが。こちらは専用の弓である『フェイルノート』を生み出せます。能力は百発百中で、射程距離もかなり長いです」
「か、かなり長い? どのくらい?」
まぁそんなことだと思ったよ。
ファノンは困惑してる。そりゃそうだ、かなり長いなんて説明、おざなりすぎる。
「ひとまず、こんなところですね。何か質問は?」
質問······シンプルすぎて逆にない。
「······ないようですね。では今日はここまで。お昼を食べたら訓練場へ集合して下さい。まずはスキルの覚醒から始めます」
こうして、午前中の座学は終了した。
********************
訓練場に併設された王国兵たちの食堂でお昼を食べる。
俺とシャオは肉丼、ローラはサンドイッチ、ファノンはフルーツパイを頼んで食べた。
「ファノン、それっておやつじゃね?」
「美味しいからいいの〜」
「ねぇファノン、少しちょうだい」
「いいよ。はい、お姉ちゃん」
「さんきゅ〜」
姉妹仲は良好だ。
フルーツパイを千切ってシャオの口に運ぶファノンは可愛い。
「なあ、異世界だっけ? どう思う?」
「······さぁ。異世界だか何だか知らないけど、呼ばれた方はかわいそうね」
「確かに。いきなり呼ばれて「戦え‼」なんて言われても······」
「ま、その時は俺らでフォローしてやろうぜ」
「そうね。それでさ、男と女のどっちだと思う?」
「わたしは女の子だと思うな〜」
「俺も」
「······兄さん?」
お昼は終わり、俺達は訓練場へ向かう。
********************
午後の訓練。今日はスキルの覚醒だ。
教師は変わらずナルフェ先生だが、服装は動きやすいシャツと短パンに変わっている。
ローブの上からじゃ分からなかったけど、かなりスタイルがいい。
「では、スキルの覚醒を行います。勇者様」
「は、はい。あのー、できればアークって呼んでくれないですかね。様付けはちょっとやりにくいんで……」
「……わかりました。ではアーク、前に」
「は、はい」
いきなり呼び捨てかーい。
まぁいいか。俺が言ったんだしね。
「では目を閉じて……」
「はい」
「力を抜いて……」
「はい」
「貴方の中に眠る、《勇者》を……黄金の力をイメージして……」
「………」
なんかいい匂いする。
たぶんだけど、ナルフェがメッチャ接近してるんだと思う。
確かに、この香りは黄金の香りだ……いいね。
「お………おぉぉ、おぉぉぉっ!?」
身体が急に熱くなってきた。
ジュワリと、ぬるま湯が噴き出すような感じだ。目を開けると、黄金の力がギュインギュインと音を立てて俺の全身を覆っていた。
すぐにコツをつかめた。解除して……再びファイヤ!!
「すごい……まさか、一回で……」
「いやぁ、ナルフェのおかげだよ」
主に香りのね。
こんなこと絶対に言えないけど。
「じゃ、次はシャオたちだな」
**********************
まぁ、そう簡単にスキルは発動できない。
シャオとファノンは失敗、ローラは簡単な魔術をいくつか発動できた。
まだまだこれからだ。
翌日。シャオたちは訓練、俺は城の地下へ案内された。
どうやら聖剣をくれるらしい。正直かなり楽しみだった。
そして、聖剣が安置されてる地下室への扉が開く。
「……え」
そこには、錆びてボロッちい剣が1本、台座に刺さっていた。
おいおい、聖剣ってキラキラしたイメージだったのに。
「では勇者殿、聖剣を手に」
「はーい……」
持ち手も錆びてボロボロだ、手袋借りれないかな?
「じゃ、行きます」
手袋を諦め聖剣を掴む。
「……え、うそ……お、おぉぉぉっ!?」
俺の掴んだ聖剣が黄金に輝き、姿を変える。
刀身は銀色に、柄や鐔が黄金に変わった。
まるで、身体の一部のようにしっくりと来る。これが聖剣か……ぼろっちいとか言って申し訳ないです。
「おぉ……あれが『聖剣アンフィスバエナ』の真の姿……美しい」
騎士団長が見惚れてる。
確かに美しいな、そこは共感できる。
貰った鞘に聖剣を収め、シャオたちと合流する。
シャオたちは聖剣に驚いていたが、それより驚いたのが、シャオとファノンが持っていた武器だ。
どうやらスキルを覚醒させたようで、専用武具を使えるようになった。
あとは本格的な訓練が始まる。
それに合わせて教師も替わり、俺とシャオは騎士団長自ら剣を習い、ローラは引き続きナルフェ、ファノンは騎士団の弓士から弓の使い方を習い、ひたすら的に当てる訓練をすることに。
これからの予定を確認し、今日はお開きとなるが、最後にナルフェからこんな事を聞いた。
「勇者殿。実は昨夜、陛下から異世界召喚の儀式の許可が下りました。現在準備をしてますので、明日の夜に召喚を行います。ぜひ皆様でお立ち会い下さい」
やっぱ展開早くね?
**********************
次の日の夜。俺たち勇者パーティーは、城の地下室に来ていた。
石造りの怪しい部屋に、床には奇っ怪な魔方陣が刻まれてる。
周囲には怪しいローブを着た魔術師が集まり、その中にはナルフェもいた。
「勇者様、これより儀式を始めます……では、血をいただけますか?」
「…………はい?」
「勇者様の血液です。異世界への扉を開けるのに必要なのです……」
「…………」
聞いてないわーい。
なんだよ血液って、どんだけ出せばいいんだよ。
「アーク、手ぇ出して」
「え」
「ローラ、ファノン」
「はい」
「は~い」
「ちょ、お前ら!?」
ローラとファノンが俺を拘束し、シャオの手には太刀が握られていた。
こいつら、知ってやがったな!?
「だいじょうぶだいじょうぶ。スパッといくから」
「それヤバいだろ!?」
「兄さん、ほんのちょっとだけですから」
「ゴメンねアーク、あとでお菓子あげるね」
「ちょ、マジで……いっでぇぇぇぇぇっ!?」
「あ、けっこう深いわね……まぁいいでしょ」
「シャオてめぇぇぇぇぇっ!?」
「ご、ごめんごめん。じゃあその、お詫びに一緒にオフロ入ったげるからさ」
「許す。そのかわりタオルなしな」
「はぁぁっ!?」
「決定な。あーいてーいてー」
ナルフェが俺とシャオのやり取りを無視して俺の手から零れる血を瓶に入れる。
斬られた箇所に血止め薬を塗り、ローラが包帯を巻いてくれた。
「では、儀式を始めます……」
「シャオ、終わったら風呂な。あー楽しみだぜ」
「う、うぅぅ~……わ、わかったわよ。そのかわり、ヘンなことはしないからね」
「ヘンなことって?」
「と、とにかく、今は儀式を見てなさいっての!!」
シャオとの風呂のが遥かにに大事だ。
ナルフェたち魔術師が魔方陣を包囲し、あーだこーだ呪文を唱えてる。
その光景は不気味の一言で、こんなんで異世界から召喚されるとは思えない。むしろ邪悪な魔王でも復活させてんのかって感じの儀式だ。
「来たれ……来たれ……勇者の血をもって命ずる。異世界の門よ開け……!!」
すると、魔方陣が発光した。
ここまで来ると、俺たちにも分かった。
「な、なんだ……」
「まさか、本当に……」
「兄さんの血で……」
「わ~お……」
魔方陣が最大の発光を見せ、魔術師たちが吹っ飛ばされた。
そして……魔方陣の中央に、人が1人倒れていた。
「………う、うぅ」
倒れていたのは……女の子。
歳は俺やシャオと同じくらいだろうか、見慣れぬ服を着てる。
少し癖の付いた黒髪は長く、背中の中程までありそうだ。
「う。う~ん……あれ、なにこれ?」
身体を起こし、少女は辺りを見回す。
顔はかなり可愛い。はっきり言って俺の好みだ。
「え、あれ? お、お兄ちゃん? ユウヤお兄ちゃん?」
ユウヤ? 誰だ? それにお兄ちゃんだって?
ナルフェが少女に近づき、手をさしのべる。
「失礼ですが、お名前をお聞かせ願えますか?」
少女はナルフェの手を無意識に取り、立ち上がりつつ名乗る。
「か、|笠間翔子(かさましょうこ)……です。あの、ユウヤお兄ちゃんは?」
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