3・最初の授業


 城に到着した俺たちは、城の兵士たちに案内され、それぞれ割与えられた個室に荷物を降ろした。

 これから城で暮らすに当たって、部屋が割り振られ、ここが生活の拠点になる。


 部屋は横並びで、シャオ、俺、ローラ、ファノンの順に並び、それぞれの部屋にはドアが設置され、気軽に行き来出来るようになっていた。

 しかも部屋は広い。ベッドもデカいし、調度品も高そうだ。それになんと風呂まで付いてる。

 

 「わぁ、すごーい……」

 「だな。こりゃスゲぇ、王城さまさまだぜ」

 「オフロもステキです……ああ、来てよかったぁ……」

 「あはは、ローラはオフロ好きだもんね~」


 それぞれの部屋の間取りは同じなので、最初に入ったシャオの部屋をみんなで見る。

 それに、どうせ部屋は繋がってるし、自由に行き来出来るしな。


 ちなみにローラは風呂好きだ。

 自宅に風呂はないが、城下町にある大衆浴場によく通っている。

 子供の頃は一緒に男湯に入ったりしたが、今は流石に一緒じゃない。当たり前だろバカ。


 「ねぇローラ、今日はいっしょにオフロ入ろうね」

 「え、どうしたんですか、ファノン?」

 「なんとなく~」

 

 微笑ましいね。

 よし、俺もテンション上がってるし、調子に乗るか。


 「じゃあシャオは俺と入るか。こんだけ広いと1人じゃ淋しいしな」

 「そうね……って、アホか!! そういうのは結婚するまでダメ!!」

 「え……」

 「あ、その……とにかくダメ!!」


 今のはどう言う意味だ?

 つまり、結婚すればオーケーってことか。そうだよな。


 「しゃ、シャオ……俺、頑張るから」

 「………うん」


 ああ、幸せすぎる。勇者でよかった。

 すると、その余韻をぶち壊すダンディボイスが。


 「失礼します。今日の予定は………どうされました?」

 「………別に」



 まぁいい。部屋は隣だし、イチャつくチャンスはいくらでもあるぜ。


 

 **********************



 本日1発目の授業は座学。

 俺たちは支給された制服に着替え、王城に併設されてる訓練場に向かった。

 訓練場には騎士や騎士候補生たちが木剣を振るったり、王国兵たちが体力作りのマラソンをしてる光景が見える。


 そんな光景を眺めつつ、俺たちは座学用の教室に入る。

 中は狭く、横長のテーブルが一台に、硬そうな椅子が四脚。それ以外には黒板と教卓しかなく、何ともまぁ殺風景だった。

 俺たちは椅子に座り、教師が来るのを待つ。


 「ねぇアーク、似合う~?」

 「ああ、可愛いぞファノン、よしよし」

 「んん~……」


 支給された制服は、騎士が着るようなピッチリした服で、俺はズボンだがシャオたちはミニスカートだった。これを考えたヤツは分かってるね。是非会って握手をしたい。

 ファノンをなで回してると、シャオとローラがジロリと見た。


 「アンタね……女の子の髪に気安く触れないでよ」

 「そうですよ、兄さん」


 怖い。

 余計な事を言うと怒られそうだったので、大人しく止める。


 「あん、わたしは別にいいのに~」

 「ダメ、そういうのは好きな人にやらせなさい。いいわね」

 「じゃあいいじゃん。わたしはアークが好きだもん」

 「そういう好きじゃなくて、その……愛するっていうか」

 

 姉妹は仲良しでいいね。

 俺も可愛いローラをチラリと見る。


 「…………何か?」


 ゴメン、まだ怖いです。

 ファノンの頭を撫でるのは、2人が見てない場所でやろう。

 すると、教師が部屋に入ってきた。


 「失礼します、遅れて申し訳ありません」


 入ってきたのは、同世代の少女だった。

 髪をお団子に纏めた、利発そうなメガネ少女だ。



 「私は王宮魔術師のナルフェ。皆様の専属教師を担当させて頂きます」



 **********************



 今日の授業は『魔王ブリガンダイン』と『八龍』の歴史。それと個々の《スキル》の勉強だ。

 かつての勇者パーティーのスキルは歴史に残っていて、それぞれの特性は伝えられている。


 「まず、魔王とは……数百年に一度出現する災害、と言われています」

 「災害?」

 「はい。出現時期などは全く読めず、現れる次期と同じく《勇者》が誕生すると言われています。我々王宮魔術師たちの意見では、『女神アスタルテ』が魔王の誕生と同時に地上の人間に《勇者》の力を与えてるのではないか、という意見が有力です」


 なるほど、女神様は大変だね。


 「八龍は、魔王誕生と同時に魔王の身体から分離し、魔王城の結界を張って各地へ飛んでいきます。その結界は非常に強固で、勇者の聖剣でも斬ることが出来ません。しかし八龍は魔王の一部でもあり倒すことにより魔王は弱体化するとも、八龍は結界維持の存在であり魔王の力を削ぐことが出来る存在とも言われてますが……実際は、倒した八龍は魔王に還るとも言われてまして、正直なところわかりません。つまり、八龍討伐は必然です」

 

 やっぱそうか。

 じゃあ、何体か倒したら魔王へ向かうってのは……ダメだよね。


 「八龍はモンスターの中でも最強の力を持っています。なので、勇者パーティーの皆様でないと倒せないでしょう」

 「あ、アタシたち……倒せるの?」

 「そのための座学であり、訓練です」

 「……なるほど」


 シャオは不安、ローラは納得って感じだ。

 不安なのは分かる。だって俺もだし。


 「皆さんには、自身の《スキル》の覚醒と使い方、そして使いこなすための訓練も行います。辛いですが……頑張って下さい」


 ナルフェの励まし、痛み入ります。

 そして、俺はちょっと気になったことを聞く。


 「あの、勇者パーティーって4人だけ? いくら強くっても、ちょっと不安が……」

 「その件ですが、何人か追加のメンバーが入ります。まずは皆さんの体調管理や怪我の治療を一手に引き受ける薬師ですね。現在、王宮の腕利き薬師を手配……」

 「ちょっと待った」


 俺はナルフェにストップをかける。

 薬師と聞いて、シャオたちもピンときたようだ。

 同行してくれるかどうか分からないが、どうせなら一緒がいい。


 「あのさ、薬師に心当たりがある。それに腕前もいいし……誘ってみてもいいかな」

 「……それは、皆様のお知り合いですか?」

 「はい。薬屋のお姉さんです。《薬の知識》のスキル持ちです」

 

 俺の答えをローラが捕捉する。

 危険な旅だ。だからこそ信頼できるフィオーレ姉さんに頼みたい。

 その気持ちは、みんな同じみたいだ。


 「……分かりました。ではお名前と住まいを、私の方で事情を説明し、お誘いしてみます」

 「頼む。あ、ムリに誘わないでな」

 「はい」


 多分……フィオーレ姉さんなら、来るって言いそうだ。

 それなら嬉しいし、俺も全力で守る。


 「それと、もう1人の追加メンバーですが……まだ確定ではないし、不安でもあります」

 「は? なにが?」

 「はい。実は、王宮魔術師たちが、伝承に伝わる魔術を使おうとして、現在陛下に使用の確認をしています」

 「伝承に伝わる魔術……ですか?」

 「はい」


 ローラが眉をひそめ、俺たちも顔を見合わせる。

 ナルフェはメガネを押し上げて言う。余り乗り気じゃなさそうに。



 「最後の仲間は………異世界から召喚します」

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