【Last episode】

さざなみのワルツ、愛する者たちに平和の花束を

 この世界に存在する魔王、そして、それを倒すために選ばれた勇者アーク。

 幼馴染みのシャオ、その妹ファノン、俺の義妹ローラ、近所の薬屋のお姉さんフィオーレ、異世界から召喚された少女ショウコをメンバーに加え、俺たちは魔王討伐に出向いた。

 

 魔王を討伐するには、魔王城の封印を守る八龍を倒さないといけない。

 そして、俺たち……いや、俺ことアークは、運命の出会いをした。


 奴隷の少女ユノ。

 彼女はきっと、この世界に現れた女神……そんな風に感じた。

 

 仲間たちと協力して八龍を倒し、魔王も討伐した。

 世界は、救われた。

 勇者アークと、その仲間たちに救われた。

 

 誰もがアークを、仲間たちを称えた。

 莫大な財宝、地位、名誉、望む物はなんでも与えられた。

 だが、アークや仲間たちは、そんな物を望まなかった。


 望んだのは、平和な生活。

 愛する者たちと、静かで平穏な生活があれば、十分だった。


 海に近い場所に屋敷を建て、喧噪から離れた場所で静かな生活を始めた。

 そこそこ栄えた港町で買い物したり、海で遊んだり、国王や騎士団長からモンスター退治の依頼を受けて倒しに行ったり……とても平和な暮らしだった。


 数年はのんびりして、ほとぼりがさめたら町に戻ろう。

 これは、少し長めの休暇だ。


 ◇◇◇◇◇◇


 海から近い屋敷の朝は早い。


「アークさん、朝ごはんですよ」

「ん……ああ、うん」


 可愛らしい女の子の声……ユノだ。

 ベッドから起きない俺を、優しく揺すって起こそうとしている……ちょっとだけユノを困らせたくて、俺はまだ寝たふりをする。


「もう、アークさん。ご飯が冷めちゃいます!」

「ユノ、兄さんはこうやって起こすんです……兄さん!! 起きなさい!!」

「うっっわ!? ちょ、ローラぁ~」


 ローラが、毛布を引っぺがす。

 ユノは困ったようにワタワタし、ローラは腕を組んで仁王立ちだ。


「もう、魔王を倒してからたるんでます!! いずれは王国に戻るんですから、しっかりしてください!!」

「わかったわかった。ローラはかわいいなぁ」

「……ばか!!」


 顔を赤くしたローラは行ってしまった。

 そう、ここに住んでるのは休暇みたいなモンだ。王国内では歩くだけで囲まれてチヤホヤされる。魔王を倒した勇者とその一行の名は、有名になりすぎたのだ。

 だから、この海辺の近くに家を建てて、数年はゆっくりする。もちろん、その後のことを考えて勉強などはしてる。


 俺は勇者として、王国の重要なポストに就くだろう。他のメンバーも、それ相応のポストが約束されている。

 ここに住んでることは、騎士団長や王様、国のお偉いさんくらいしか知らない。魔王討伐の報酬として、『仲間たちとしばらく静養を兼ねた静かな生活』を望んだから、ここに住んでいるのだ。

 家族たちには手紙を出してるし、近くにはそこそこ栄えた港町があるので不便はしていない。お金もたんまりあるし、毎日楽しく暮らしている。


「アークさん、ご飯たべよ」

「ああ、行こうかユノ」


 そして、ユノ。

 将来を誓い合った、俺のフィアンセ。

 仲間たちも認めている……というか、みんなも俺の嫁になるとか言ってるんだよな。しかもユノまで楽しそうに、「みなさん、ずっと一緒にいれますね」なんて言ってるし。


 まぁ、それでもいい。

 今は、この平和なひとときを楽しもう。


 ◇◇◇◇◇◇


 仲間たちと、少し遅めの朝食だ。


「ったく、遅いのよアーク。スープを温めなおしたわ」

「わ、悪かったよシャオ」

「でもでも、温め直したのショウコだよ~?」

「う、うっさいわよファノン!! アタシは料理苦手なの!!」

「はいはい、今度教えてあげるよシャオ、フィオーレと一緒にね」

「うふふ、任せてシャオちゃん♪」

「う……お、お願いします」


 シャオが騒ぎ、ファノンがツッコみ、ショウコとフィオーレ姉さんが笑う。

 これも、いつもの光景だ。

 

「ところで、今日のみなさんの予定は?」


 ローラが、みんなに確認する。


「アタシはファノンと一緒に釣りの予定!!」

「えへへ、いい釣り場をお姉ちゃんが見つけたの!!」


 シャオとファノンは釣り。


「わたしはローラと町で買い物かな、昨日約束したもんね」

「ええ。フィオーレ姉さんは?」

「わたしはお部屋のお掃除かしら」


 ショウコとローラは買い物、フィオーレ姉さんは掃除。


「私は、海辺の散歩をします」

「じゃあ俺も、ユノと一緒に行くよ」


 今日も、すっごく平和だった。


 ◇◇◇◇◇◇


 砂浜を、ユノと一緒に歩いた。

 天気もよく、白い砂浜がキラキラと輝いている。

 温かい風が優しく吹き、俺とユノの身体をなでた。


「気持ちいいですね……」

「ああ……」


 平和な世界が、こうも温かいとは。

 隣を歩くユノはクスクス笑う。


「ど、どうした?」

「いえ……アークさんや、みなさんに出会えて幸せだな、って」

「なんだよいきなり?」

「……なんとなく、そう思ったんです」

「……」


 空を見上げると、白い鳥が優雅に泳ぐように飛んでいた。


「俺も、幸せだよ……」

「………ふふっ」

「ユノ?……お、おいっ?」


 ユノは、サンダルを脱ぎ捨てて、波打ち際でクルクルと踊り出した。



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 俺は、その白さに……美しさに、見とれていた。

 さざなみが跳ね、ユノが踊り、白い鳥が飛んでいく。

 まるで、1枚の絵画を見てるような……。


「アークさん、気持ちいいですよ」

「………ああ」


 この光景は、俺だけが見れる絵画だ。

 タイトルは『さざなみのワルツ』……ちょっとクサいかな?


「アークさん、私は幸せです……アークさんに、出会えてよかった」

「俺もだよ。俺も……ユノに出会えてよかった」


 俺は靴を脱ぎ、波打ち際に入る。

 さざなみが俺の足を打つが、とても心地よい。


「ユノ、もっともっと幸せに……いや、俺が幸せにする」

「……はい、アークさん」


 俺はユノの手を取る。

 ユノは、俺の手を握り返す。

 ゆっくりと、ステップを刻み、海辺のダンスパーティーが始まった。


 白い鳥が群れで飛び、まるで白い花束のように見えた。




 勇者にみんな寝取られたけど諦めずに戦おう。きっと最後は俺が勝つ。




 ────完────

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勇者にみんな寝取られたけど諦めずに戦おう。きっと最後は俺が勝つ。 さとう @satou5832

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