12・御者の王妃


 緑龍は森林、白龍は海沿いのワイバーンの巣の近くと、2体同時に見つかった。

 なので、俺たちは緑龍を討伐後に近くの町で補給を済ませ、そのまま白龍を討伐するルートで進む事にした。

 まずは緑龍討伐のため、森林地帯に向かっていた。


 「ねぇアーク。もうすぐだね……」

 「ああ。もうすぐ……」

 

 森林地帯へ向かう馬車の中、俺たちはそれぞれ思い思いに過ごしていた。馬車は実用的でありながら、クッションやカーペットが敷かれ寝心地はバツグン。それに隣にはシャオとファノン。

 それに、どうやらシャオも同じ事を考えてるようだ。さすがは俺の嫁。

 

 「魔王……」

 「結婚式……あれ?」

 

 おかしいな。俺とシャオの意見は違う。

 まさか結婚式より先に魔王が来るなんて思わなかった。俺にとって魔王なんて通過点に過ぎない。それこそさっさと終わらせて結婚式を挙げたい。もちろん盛大に。


 「あのね……」

 「おいシャオ、魔王なんて俺にとっては通過点だ。むしろそこからが本番、結婚して早く一緒に暮らしたいんだよ」

 「………そ、それは……アタシだって」

 「………シャオ」

 「もう……バカ」


 可愛いなぁ……これが俺の嫁。

 身体の相性もバッチリだし、俺とシャオの子ならきっと可愛い子が生まれてくる。

 最近は夜の相手もしてくれる。最初は龍1体討伐後じゃないとダメだったが、俺がシャオのベッドに潜り込んだりすると拒否しない。一緒の風呂に入ったり、自宅でもした。


 「あの、兄さん……みんないる事を忘れないで下さい」

 「アーク~っ!! いちゃつき禁止~~~~~っ!!」

 「全く、羨ましいわねぇ……」

 「あはは、でも、あたしたちも愛してるんでしょ?」

 「あ、当たり前だっつーの!!」



 この時点で、俺はかなり幸せだった。



 **********************



 俺とシャオの愛のパワーに、龍の力なんて関係なかった。


 「行くぜシャオ!!」

 「ええっ!!」


 巨大なガマガエルに羽が生えた緑龍は、口から汚いブレスを吐こうとしていた。

 だが、ショウコが事前に盾を展開しフィオーレ姉さんたちと馬車をガード。その隙に俺とシャオは両サイドに回り込み剣を構えた。


 「超!! エックス~~~~ッ!! スラーーーーーッシュッ!!」


 交差する斬撃はガマガエルを両断した。

 被害、ダメージはゼロ。このまま同じ龍が100匹出てきても負ける気がしない。

 俺とシャオの連係攻撃に隙はない。まさに必殺技である。

 

 「よっしゃ勝利!!」

 

 全員で集まり、みんなの奮闘を称える。

 残りの龍は3匹。残りを倒せば魔王が現れ、俺たちの旅と戦いが終わる。

 幸せな未来まで、あと少し。俺がみんなと結婚する未来まで……もう少し。


 「よーし!! 町で補給したら白龍を倒すぜ!! そうすりゃ残りは2匹だ!!」

 「その後は……」

 「魔王、ですね。兄さん」

 「ああ。でも……このメンバーなら最強だ。負けるワケない」

 「だよね~っ!!」

 「あたしの盾なら、龍のブレスも防げるし……残り2体の龍も問題ないね」

 「あらら、ダメよショウコちゃん。油断は禁物よ?」

 「は、はい。スミマセン……」

 「皆様。お疲れ様でした。今日は近隣の町で宿泊、後日は補給、その後に出発となります。では馬車へ、出発します」


 ナルフェが予定を確認し、みんなが馬車に乗る。

 俺はナルフェに話があったので、そのまま御者席に座った。


 「アーク?」

 「以前の話……そろそろケリ付けようと思ってな」

 「……はい」



 馬車は、町に向かって出発した。


 

 **********************



 ナルフェの隣はけっこう揺れる。御者って辛いんだな。

 

 「実は……勇者アークを次期王に推す声が強くなってます。陛下にはご子息が居ないので、次期王の座に最も相応しいのは誰かという議論がありまして」

 「ま、マジかよ……?」

 「はい。アークは一般兵からメイドまで幅広く信頼され、陛下からの信頼も厚い……恐らく、今回の討伐が終わり帰還すれば、陛下から直々のお言葉があると思われます」

 「そ、そうか……」


 確かに、討伐報酬が入るたびに兵士や騎士を誘って町の酒場を借り切って飲み会したもんな。俺の奢りで。しかも住人も巻き込んで大騒ぎして怒られたっけ。

 メイドには町の評判のいいケーキ屋から差し入れのケーキを作って貰って届けさせたな……まぁ、部屋の掃除とか世話してもらってるし、俺なりの労りだったけど。


 「俺が王か……」

 「私は、アークが王ならきっと素晴らしい国になると思います」

 「そ、そうか?」

 「はい」


 ナルフェは真っ直ぐ前を見ていたが、その横顔は嬉しそうだった。

 俺も正直、そんな予感はしてた。だって王様に子供が居ないのは知ってたし、俺やシャオの婚約を聞いてすっごく喜んでたしな。

 だから、もし俺が王に指名されたら、受けるつもりでいた。

 もちろん大変なのはわかってる。だけど……シャオたちがいれば、きっとなんとかなる。それに……ナルフェもいる。


 「お前の言う通り……もし俺が王に指名されたら、受ける覚悟は出来てた」

 「………はい」

 「まぁ、俺1人じゃムリだし、シャオたちに手伝って貰わないと国は傾くだろうな」

 「ふふ、そうでしょうか?」

 「ああ。言っとくけど……お前も必要だ」

 「……え」

 「ナルフェ、俺はお前が欲しい。妻として、国を支える1人の柱として」

 「………」


 俺はナルフェと向かい合う。

 ナルフェに女として魅力を感じてるし、これから生きていく上でその力が必要とも感じてる。だけど1番は………可愛いから。


 「へへ……悪いな、白馬の王子じゃなくて。むしろこれじゃ御者の王妃だな」

 「……ふ、ふふふ……あははははっ!!」

 

 ナルフェは笑った。

 きっと白馬の王子なんていない、現実はこんなもんだ。

 幻想じゃない、現実の愛がここにある。


 「ナルフェ、これからもよろしくな」

 「はい、アーク」



 残りの龍は3匹。結婚式まで……あと少し。

 

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