11・ショウコの思い
黒龍の討伐が終わり、王国へ帰還した。
それから休暇を満喫しつつ、腕が鈍らないように城の訓練場で鍛錬をしてる時のことだった。
「アーク、ちょっといい?」
「おう、どうしたショウコ?」
ショウコはこの世界に来て半年以上経過してる。シャオたちともかなり打ち解け、昔からの親友のような態度だ。現に、一緒に買い物に行ったり、男子禁制のお泊まり会やお茶会を繰り返して仲を深めてる。
そんなショウコに、俺は呼び止められた。
「あのさ、ちょっと付き合ってほしいんだけど……いい?」
「ああいいぜ。どこだ?」
「城下町。今夜さ、シャオの家でお泊まりするんだけど、夜食をお土産に買っていこうと思ってね」
「へぇ~………」
「あ、アークはダメ。あたしたち女子だけで楽しむんだから」
「へいへい、わかってますって」
ショウコからのお誘いはけっこうある。
とは言っても、シャオたちと買い物する時の荷物持ちだったり、新作スイーツを食べに行くから付き合えだの、男と女というよりは男友達みたいなノリだった。
俺もショウコには女を意識するより、友達を意識してる。
「じゃあ、シャワー浴びて城の前に集合ね」
「了解、後でな」
だから……ショウコの気持ちが、この時はわからなかった。
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ショウコと待ち合わせした場所に、俺は急いで行った。
シャワーを浴びて着替え、腰には聖剣を差している。
「あ、来た来た」
「悪い……って言うか、男の俺よりシャワーが早いってどうよ?」
「う、うっさいな、いーでしょ別に。あたしは臭くないですよーだ」
「お、おう……って、近いって」
「なーに照れてんのよ。んふふ」
ショウコは明るくなった。きっとこの性格が本来のショウコなんだろう。
俺たちに敬語は使わなくなったし、最初の頃の遠慮もなくなった。
「じゃあ行こっか。まずはカフェでお茶しましょ」
「ああ。って、夜食は?」
「まーずーはーお茶!! 訓練で疲れたし、甘いモノ食べたい」
「わーったよ。俺がおごってやるよ」
「わぁ、さっすがアーク!!」
するとショウコは、俺の腕に絡みついてきた。
ふわんと、柔らかい感触が二の腕に伝わる。
「お、おい」
「ふふ、照れてるの?……シャオといっぱいしてるクセに」
「んなっ!?」
「あははっ!! じゃあ行こっか」
ショウコに腕を引かれ、俺たちは町へ繰り出した。
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カフェでお茶をして、洋服屋でショッピング、小物屋でアクセサリーを見て、クレープ屋でクレープを食べる。そしてショウコがこの半年で見つけ通った行きつけの洋菓子屋で、夜食のマフィンを買う。まるでシャオと過ごすデートコースのようなルートだった。
そして夕方になり、そろそろ帰ろうという時だった。
「ねぇアーク、ちょっと寄り道していい?」
「いいけど……夕食まで時間がないぜ。シャオは遅れるとうるさいぞ~?」
「……ちょっとだけ、ね?」
「……あ、ああ」
何故か、その笑顔は悲しく見えた。
ちなみに今日はシャオの家でショウコは食事をする。俺は自宅で母さんや親父と食べてそのまま家に泊まる。ローラやフィオーレ姉さんもシャオの家だ。
ショウコに連れられ、城下町が見下ろせる高台へやって来た。ショウコは何も言わず、そのまま近くの柵に手を掛ける。
「………」
「………」
俺は、来るべき時が来たと予感した。
「アーク………正直に答えて」
「………ああ」
これは、俺の責任じゃない。
だけど、きっと俺が向き合って答えなくちゃいけない。
「あたしはさ………元の世界に帰れるの?」
**********************
「………今の時点では、帰る方法は見つかってない」
「………そっか、まぁ……そんな予感はしてた」
ショウコの背後から、その表情は見えない。
その顔を見るのが怖かった。だから少しだけ安心した自分が許せなかった。
「で、でも!! 理論はあるんだ!! この世界とショウコの世界に穴を開けて繋げれば……」
「どうやって?」
「そ、それは……」
「……アーク、言ったよね。全てが終わったら帰すって……あれって、嘘だったの?」
「ち、違う!! 俺は……俺は、お前を」
俺はショウコを、傷付けたくなかった。
ちがう、傷付いたショウコを慰めるため、安心させるために嘘を付いた。その事実が今のショウコを苦しめてる。そんな嘘を付いた俺をショウコが責めている。
「私にも家族が居るの。お母さんとお父さん、そしてユウヤお兄ちゃん………もう、会えないのかな……」
「………っ」
俺に何かを言う資格はない。
召喚したのは城の魔術師とナルフェだ。だけど、それを止めることも出来たが止めなかった。異世界召喚で来た人間がどのような存在か、少なからず興味はあった。
ショウコにだって家族は居る。もし俺がショウコの世界に召喚されたら………シャオやローラ、ファノンやフィオーレ姉さんと二度と会えなくなったら……考えただけでも恐ろしい。
そんな経験を、ショウコに俺たちは課している。ショウコは何も言わないが、もしかして俺たちを恨んでるんじゃないか。
するとショウコは振り返る。
「あははははっ!! まさかアーク……あたしが恨んでるとか考えてる?」
「……え」
「あのね、別にアークを恨んでないし、この世界に来たコトも後悔してないよ」
晴れやかな笑顔だった。
俺はそのことが信じられず、思わずショウコを見つめた。
「確かに、最初は帰りたかったし絶望した。だけど……今はこっちの世界が楽しいの。パソコンもスマホもないし、ゲームや映画もない……だけど、今はこっちの世界があたしの故郷だって言える」
「………ショウコ?」
「あたしが聞きたかったのは、帰る手段があるかないか。ヘンに希望を持つのはいやだし、はっきりしたかったの」
「で、でも、家族が居るって……」
「いいの、どうせ帰ってもお父さんお母さんはあたしに興味ないし、ユウヤお兄ちゃんは優しいけど代わる代わる女の子を取り替えては連れ込むヤリチンだし。こっちのが楽しいわ」
「で、でもよ」
「いーの!! この半年間で手に入れた物は、あっちの世界に帰ることより大事なモノなの。だから……あたしはこの世界で生きていく」
強い瞳だった。
決意を込めた眼差しが俺を射貫く。
「話はおしまい!! シャオの家に行こうっ!!」
「……ああ、わかった」
「ふふ、ねぇアーク」
「ん?」
ショウコは俺に近づき、顔を俺の耳元に寄せた。
「魔王を倒したら……あたしもお嫁さんにしてね」
「………は?」
「なーんてねっ!!」
ショウコは、走りながら階段を降りていった。
「………適わない、か」
謝ることも、許して貰うこともなかった。
ショウコは、この世界で生きることを選択した。だったら俺は、ショウコが生きていく世界を守る。
俺はそう考え、ショウコを追って階段を降りた。
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