2・事の始まり
事の始まりは、かれこれ1年ほど前に遡る。
俺ことアークは15歳の平民。なんの変哲もないザ・平民だ。
ブルム大陸の王都ファビヨンの平民街。大工の親父と専業主婦の母の一般的な家族。それがこの究極の凡人平民アークである。
俺は凡人オブ凡人だが、周囲の環境は大変に素晴らしい物だった。
俺の朝は、義妹のローラの声で始まる。
「兄さん、朝です。起きて下さい」
「………」
「にーさーん? 起きないと~……」
「起きないと?」
「キ……って、起きてるじゃないですか!?」
「いやははは、ローラが起こしてくれるの待ってたんだよ。俺の朝の癒しだからな」
「ばばば、バカじゃないですか!? なにが癒しですか!! 朝ご飯出来てますから、さっさと降りてきて下さいっ!!」
ローラは、母さんの連れ子だ。
俺がまだ2歳の頃、親父が再婚した。
幼い俺には母親が必要だったらしく、同じく1歳のローラを連れた母さんと親父が出会いゴールイン。めでたく俺とローラは兄妹となった。
1歳や2歳なんて記憶にない。
なので、俺とローラは本当の兄妹といっても過言じゃない。
血が繋がっていない、それがどうしたって感じ。
とにかく、朝メシだ。
俺は階段を降りて席に座り、朝食を食べる。
親父はすでに仕事、母さんは近所のママ友の所へ行ってる。
「兄さん。今日は何の日かわかっていますね」
「わかってるよ、《スキル降臨の儀式》だろ?」
「はい。わかってるならいいです。食事が終わったら教会へ向かいましょう」
「ああ」
《スキル降臨の儀式》
それは、この世界に住む人間たちにとってある意味ターニングポイントとなる儀式だ。
この世界には《スキル》と呼ばれる能力が、1人1つ与えられる。
そのスキルを活かした仕事に就いたり、戦闘で使えるスキルなどだったら冒険者や傭兵になったりと様々で、俺の親父は《軽業師》というスキルのおかげで大工をやっている。
そして今日。俺とローラ、そして隣の家に住む幼なじみ姉妹は、スキルを貰う。
どんなスキルでも、きっと将来の役には立つと信じている。うん
「兄さん、緊張してますか?」
「べべべ、別に。スキルなんてどーでもいいし」
「ふふ、ウソばっかり」
ローラは微笑み、その笑顔に俺はドキッとする。
14歳のくせに豊満な身体、さらりとした長い黒髪、そして愛くるしい顔立ち。
俺みたいな平凡顔でなく、正真正銘の美少女だ。
「……なんですか。その顔は」
「え、何が?」
俺は誤魔化し、食事を終えてさっさと部屋に戻る。
適当に着替えを済ませ、ローラを連れて外へ出た。
「あら、アークくん、ローラちゃん」
「あ、フィオーレ姉さん。おはよっす」
「おはようございます、フィオーレ姉さん」
隣の薬屋の看板娘であるフィオーレ姉さんだ。
ゆるふわウェーブの金髪美女で、御年17歳の少女。俺より2つ年上だから姉さんと呼んでいる。
何より恐ろしいのは、胸部に2つのメロンが実っていることだ。
「アークくん、今日はスキル降臨の儀式の日……って、どうしたの?」
「あ、いえ。お構いなくっていだぁっ!?」
「兄さん。話はキチンと聞きましょう」
ローラのヤツ、俺の足を踏んづけやがった。
ちょっと胸を見てただけなのに。ちくしょう。
「え~と。そうそう、今日は待ちに待ったスキル降臨の儀式でしょ? 楽しみね」
「いや別に。どんなスキルでも俺は俺っすから」
「まぁ、かっこいい」
「へへへ」
ウソです。実は緊張してます。
ちなみにフィオーレ姉さんのスキルは《薬の知識》
モンスターや素材に触れればどんな物でも理解、使用が出来るという優れもので、姉さんは専ら薬屋のために使っていた。
その気になれば冒険者パーティーの薬剤師として活躍できる、レアスキルなのに。
「あ、アーク~っ!!」
フィオーレ姉さんと話をしていると、後ろから声が聞こえてきた。
「お、来たかシャオ、ファノン」
俺の家の隣から出てきたのは、俺とローラの幼なじみ姉妹。
金髪ポニーテールのシャオと、金髪ツインテールのファノンだ。
シャオは俺と同じ15歳、ファノンはローラと同じ14歳。この2人も兄妹みたいに小さな頃から一緒にいる、かけがえのない家族だ。
「えへへ~。ついに来たね~」
「ああ。去年は隣の区画の子供達で、今年は俺たちの区画だからな。いくら継承の儀式に時間が掛かるからって、町の区画ごとで区切るのはどうかと思うぜ……」
「仕方ないでしょ、そういうルールなんだから」
「はいはい、悪かったよシャオ」
ファノンはニコニコしながら俺にじゃれつく。
まだ未発達だがあるものはある。ふっくらプニプニ。
「こ、こらファノン、離れなさい」
「や~ん、お姉ちゃんのいじわる~」
「おいおいシャオ、そこはお前が反対側の腕を取るパターンだろ?」
「に、兄さん!! バカなこと言わないで下さい!!」
「うふふ。みんな仲良しでいいわねぇ」
ずっと一緒に居たからわかる。
俺はみんなが大事だし、本当に大好きだ。
ローラはカワイイ妹だし、ファノンは甘えん坊の妹、フィオーレ姉さんはちょっと抜けてるけど頼りがいのあるお姉さんだ。
そしてシャオは、俺の好きな人で……。
「なによアーク?」
「いや……。その、どんな《スキル》を貰えるかなって」
「ふ~ん。どんなのがいいの?」
「そうだな、将来に活かせる《スキル》だな。生産系や医療系とか」
「へぇ? 男の子は戦闘系の《スキル》をほしがるんじゃないの?」
「ばーか。戦闘系なんて貰っても使い道ないだろ? 俺は平和主義者だから、戦いとは無縁の生活をしたいんだよ」
「ふ~ん……。じゃあ、いい《スキル》が手に入ったら……、アークに養って貰おうかな」
シャオはニコリと笑い、俺を見つめる。
俺の心臓は、自分でも驚くぐらい高鳴った。
ローラとファノンはフィオーレ姉さんと話し込んでて聞いてない。今は俺とシャオだけの会話だ。
「……いいぞ」
「え?」
心臓が壊れそうなくらい高く鳴る。
俺はどんな顔をしてるのか、鏡でもないとわからないな。
だけど、言ってやる。
「まぁ、いい《スキル》が手に入ったら、その……お前を養ってやる」
「え……。えぇ!?」
「う、……まぁ考えておけよ!! ちくしょう!!」
言った。言ってやった。
告白というかプロポーズ……だよな?
いろんな段階を吹っ飛ばしてしまったが、キモチは伝えた。
「……ぷ、くくくっ、あははっ!! 本気なのアーク?」
「…………おう」
「そっかそっか。うふふ、あんたがアタシを養うって……。うん、いいかもね」
「え」
「期待してるわよ、旦那様!!」
シャオは俺の肩を叩くと、ローラたちの元へ行った。
「だ、だんなさま?……マジ?」
これは、つまりそういうことなのか?
プロポーズ成功。そして幼なじみの嫁をゲットしたということなのか?
「兄さん……。顔が気持ち悪いです」
「ろ、ローラ、今って夢か?」
「は?」
ローラの目は不審者を見る目だ。うん、これは現実だ。
「アーク~。お姉ちゃんが真っ赤な顔して」
「ふぁ、ファノン!! こっち来なさい!!」
ファノンの口を押さえたシャオが、フィオーレ姉さんの元にファノンを連行する。
うん、確かに顔が赤いな。
「ほらほら、そろそろ大聖堂へ向かわないと」
「あ、そうですね。行きましょうか、兄さん」
「お、おう」
「シャオさん、ファノン、行きましょう」
「は~い、ローラちゃん」
「う、うん」
こうして俺たちは、この国が信仰する《女神アスタルテ》の像が祭られてる大聖堂へ出発した。
俺の人生の絶頂期は、もしかしたらこの瞬間だったのかもしれない。
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