3・スキル


 大聖堂に集まったのは、80人ほどの子供達だ。

 10~20歳までの少年少女が集まり、《スキル降臨の儀式》を今か今かと待ち構えている。


 「く、ふぅぅ……。ローラ、緊張するなよ?」

 「兄さんに言われたくありませんね」


 ローラはクールな瞳で大聖堂の祭壇を眺めてる。


 「はぁぁぁ……。ファノン、落ち着いて。深呼吸よ」

 「あはは。お姉ちゃんがしなよ~」


 よし。シャオも同族だ。安心したぜ。

 《スキル降臨の儀式》は、この大聖堂の司祭によって行われる。

 司祭が代々受け継ぐスキル、《スキル降臨》の力で、俺たち1人1人に《女神アスタルテ》より贈られる《スキル》を覚醒させるのだ。


 「来た……!!」


 俺たちの前に、大司祭が現れる。

 年相応のオッサンで、柔らかな微笑を称えたまま告げる。


 「では、名を呼ばれた者は前へ。アーク!!」

 「は、はぃぃっ!?」


 しょっぱなから俺かよ!? 返事っつーか疑問符みたいな声が出ちまった!!

 大注目を浴びながら前に出る。やばい、心の準備が。

 俺は大司祭の前で跪く。


 「さぁ、目を閉じて……。《スキル》に心を委ねなさい」

 「……」


 俺の中に何かが流れ込んでくる。

 温かく、優しく、まるでぬるま湯みたいな何か。

 

 大司祭の手が淡く発光し、跪く俺の頭に触れた。


 「《女神アスタルテ》よ、彼の者に聖なる《スキル》を賜らん……!!」


 ドクンと、心臓が高鳴った。

 そして俺は理解した。


 「目覚めし《スキル》……『輝く盾』なり!!」


 大司祭に言われるまでもなくわかった。

 俺のスキル……『輝く盾』

 俺は立ち上がり、大司祭に一礼してローラの側に来た。


 「に、兄さん……。大丈夫ですか?」

 「ああ。健康そのものだ」

 「アーク、アンタの《スキル》って……?」

 「シャオ……、ごめん」

 「え……」

 「アーク~?」

 

 俺の《スキル》である『輝く盾』とは、その名の通り防御スキル。

 使ってはないが、スキルを得た途端に全て理解した。

 

 『輝く盾』は、4角形のガラス板のような盾を展開できる。

 大きさは2メートルほどが限度で、一度に展開できるのは3枚まで。

 強度はそこそこあるが、無敵の盾というワケではない。


 「コイツは……ハズレのスキルだ……」 



 俺はガックリと肩を落とした。



 **********************



 そこからさらに、俺を打ち砕くような光景が広がった。


 「目覚めし《スキル》……『斬姫王』なり!!」

 「え……」


 シャオのスキルは、大昔に存在した最強の剣士の使っていた《スキル》で、かの『勇者』の仲間として名を残した剣士の《スキル》らしい。

 もちろん大聖堂は混乱し、シャオは呆然としながら大聖堂の脇に立たされた。


 「お、お姉ちゃん。スゴい……」

 「あ、ああ。ははは……」

 

 俺は乾いた笑いが出ていた。そして、ファノンの番が来た。


 「目覚めし《スキル》……『神弓の担い手』なり」

 「う、うっそ~……!?」


 ファノンの《スキル》もとんでもなかった。

 こちらも『勇者』パーティーの一員であった弓士のスキルで、百発百中の命中精度を誇る最強の弓士の称号だそうだ。

 当然ながら、シャオの隣に案内されるファノン。


 「に、兄さん。ファノンまで……」

 「こりゃスゴいなんてモンじゃないな……」


 かつての『勇者』パーティの《スキル》が2つも現れるとは、これは偶然なのだろうか。

 俺の中に一抹の不安がよぎった。


 「ローラ、お前は……」

 「兄さん?」

 「……いや、その」

 

 胸騒ぎがし、ローラを呼び止めようとした。


 「次の者……ローラ」

 「はい。……行ってきます、兄さん」


 ローラが微笑み、祭壇に登る。

 そして、やはりイヤな予感は正しかった。


 「目覚めし《スキル》……『大魔術師の知識』なり」

 「……ありがとうございます」


 案の定。ローラも『勇者』パーティーの《スキル》だった。

 伝説の魔術師が使った《スキル》で、この世の全ての魔術を使用できるという能力だ。


 俺以外の3人が、まるで特別と言わんばかりに立たされている。

 そして全ての《スキル降臨の儀式》が終わり、大聖堂の扉が開かれた。


 「だ、だれだ?」


 この国の騎士団であろうか、鎧を纏った兵士に、まるで連行されているように1人の少年が連れられている。

 顔立ちはかなりのイケメンで、身長も高い。腰には立派な装飾の施された剣を差している。

 その少年はまるで引き寄せられるかのように、シャオたちの側に来た。


 「勇者ユウヤよ。彼女たちが『勇者』パーティのスキルの継承者だ」

 「はい。一目見て分かりました。この出会いはきっと運命なんだって」

 

 少年は微笑を浮かべ、シャオたちに並ぶ。

 シャオたちは理解不能といった顔で、俺を見ていた。

 そして、少年は大聖堂にいる俺たちを前に、とんでもないことを言い出した。


 「聞いてくれ、ボクは異世界から来た『勇者ユウヤ』だ!! この世界に現れた魔王を倒すためにやって来た!! 彼女たちに伝説のスキルが発現したのは偶然じゃない、この世界をボクと共に救えという《女神アスタルテ》の啓示なんだ!!」


 な、何言ってんだコイツ?

 魔王って、あの魔王か?

 勇者って、あの勇者?


 「ボクは宣言する!! 魔王城を守護する8体の龍を倒し、魔王を討ち取ると!! この世界の平和のために勇者として戦い、彼女たちと旅に出ると!!」

 「え、えぇ!? あ、アタシたち!?」

 「うっそ~!?」

 「そんな……ま、まさか。……兄さん」


 シャオたちは突然のことに仰天してた。

 まぁそうだよな、突然現れたイケメン勇者と魔王退治の旅に出るぜ!! なんて言われても思考が追いつかない。

 というか、この状況はマズい。勇者自身に演説させることで、シャオたちの逃げ場がなくなる。

 

 現に、大聖堂に子供達以外の人が集まってきてる。

 この勇者とやらが何かをしたのだろうか。


 「見てくれ、この『聖剣アンフィスバエナ』を!! 女神より賜りし聖剣を!!」


 勇者が腰から剣を抜き、刀身が黄金に発光した。

 あまりの神々しさに、俺も含めた全員が心奪われていた。


 「お、おぉぉ……これが勇者の聖剣……」

 「伝説の勇者パーティーの復活、そして魔王退治……」

 「魔王が復活しても、この勇者なら……!!」


 歓声が上がり、それが爆発的に連鎖する。

 これでシャオたちの逃げ場はなくなった。もしこの場で勇者の誘いを断れば、町の人々が許さないだろう。つまり、勇者は初めからその可能性を考えてここに来たんだ。

 シャオたちのスキルが発現したのは、勇者が啓示を受け取っていたと後から知った。

 だから、目立つように町を歩き、自身を注目させてこの大聖堂にやって来たんだ。



 全てを知ったのは、かなり後の方だった。

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