8・ファノンとお風呂


 青龍瞬殺。

 青龍は汚い沼に生息してたカエルで、余りの気持ち悪さに俺以外誰も戦おうとしなかった。なので現れた瞬間に黄金のオーラで消滅させた。

 つまり俺とのタイマン、はっきり言って龍なんて雑魚だ。俺の敵じゃないし、出てきたら瞬殺する自身がある。

 王国へ帰還したら、次の龍が見つかるまで待機。

 自宅へ帰ったり、討伐の報奨金で買い物に出たりと、みんな忙しい。



 そして俺は、ファノンと一緒に買い物をしていた。

 

 

 **********************


 

 「それでね、今日はここのフルーツパフェが食べたかったの」

 「なんだ、シャオたちと来なかったのか?」

 「ううん、アークと来たかったの~っ!!」

 「おっと、ははは、仕方ないなぁ」

 「えへへ~」


 つまり、俺に奢って欲しいと。

 そんなニュアンスが込められてる気がするが、そうじゃなくても俺はファノンにご馳走するだろう。それほどファノンは可愛いし、俺にとって大事な2人目の妹だ。


 「じゃあ、パフェを食べたら買い物に行こう。何か欲しいモノあるか?」

 「う~んとね~……あ、髪留めが欲しいな」

 「ははは、じゃあ買おう。龍討伐のプレゼントだ」

 「でも、退治したのはアークだよ?」

 「そんなのいいんだよ。俺がファノンに買ってやりたいんだ」

 「う~ん……あ、じゃあ、わたしもアークにプレゼントしてあげる!!」

 「お、そりゃ嬉しいな。何をくれるんだ?」

 「それを一緒に考えよう!!」


 そんな話をしながら喫茶店に入る。

 お目当てはもちろんパフェ。何でも、この辺りじゃ滅多に採れない果物を使った、1日20食限定のパフェだそうだ。

 ファノンは青龍退治に出発する前に予約を入れ、今日になってやっと食べるチャンスが来たそうだ。


 「アークなら龍なんて楽勝だと思ったし、この日に予約を入れて正解だったよ~」

 「ははは、さすがファノンだ。俺の事よくわかってるじゃないか」

 「うん。アークのことなら何でも知ってるよ。だって……大好きだもん」

 「そっか、俺もファノンは大好きだぞ」

 「……それって、どっちの意味で?」

 「ん?」

 「好きって……お姉ちゃんに向けるような好き? それとも、妹として好き?」

 「ファノン?」

 「……えへへ。何でもない」


 ファノンは少し淋しそうに笑った……気がする。

 パフェをつつく手は休まず動くし、1口食べるごとに顔は綻ぶ。だけど、淋しそうに笑った顔は見間違いじゃない。それくらい俺にだってわかる。



 そんなファノンの横顔を見ながら、俺もパフェをつついた。



 **********************



 それからファノンと町で買い物をした。

 ファノン行きつけの雑貨店で買い物をしたり、シャオとよく来る道具屋を物色したり、ローラと一緒に食べたクレープ屋でクリームタップリのクレープを食べたり、俺とファノンはデートを満喫した。


 「そういえば、2人きりって久し振りだな」

 「そうだね。いつもお姉ちゃんと一緒だし、居ないときはローラが一緒だから」

 「ああ、でも……たまにはいいな」

 「……うん」


 まただ。また悲しそうに微笑んだ。

 こんな表情はファノンらしくない。いつも元気で、みんなを笑顔で癒やしてくれるファノンが、こんな表情をするなんて………可能性としては、俺のせいだろうか。


 「アーク、今日はどっちに帰るの?」

 「……今日はローラの部屋でショウコがお泊まりするから、俺は城に帰るよ」

 「じゃあわたしも行く。アークと一緒にお泊まりする!!」

 「おお、じゃあ一緒に行くか」

 「うん!!」


 俺とファノンは手を繋いで歩き出した。

 俺と勇者パーティーのみんなは、城への出入りを自由に許可されてる。しかも自室も自由に寝泊まりしていいので、俺たちは王宮暮らしを満喫していた。

 夕食なども申請すれば持ってきてくれるが、俺はあまり好まない。だって味付けは濃いし油たっぷりだし、旅の途中で食べるフィオーレ姉さんの管理された料理の方が何倍も美味い。それに家に帰れば母さんがオムライスを作ってくれるし。

 だから、王宮料理はみんなで集まった時しか食べない。

 今日の夕食は、城下町で買ったホットサンドや煮物だ。ホットサンドは炙ったパンに肉や野菜を挟んだ物で、煮物は煮込んで味付けした野菜や魚などのスープだ。


 「うんま~っ!!」

 「ああ、この野菜と魚の煮物なんて初めてだけど、かなり美味いな」

 「うぅん~……」


 ファノンは余韻に浸ってる。

 この煮物は初めて買った。だって食べ歩きには向かないし、簡易的な食べ物だったらホットサンドやホットドッグを選ぶ。夕食代わりということで買ったが、これは大当たりだ。


 「ふぅ……ごちそうさま」

 「ごちそうさま~」


 食事が終わり、暫し一服する。

 ファノンは俺のベッドでコロコロ転がり、シーツや毛布をメチャクチャにした。シャオもだけど、どうしてこの姉妹は人のベッドを台無しにするんだろう。可愛いからいいけど。


 「あ、風呂入れてくる」

 「うん」

 「お前はどうする?」

 「……いい、後で」

 「そっか」


 俺は湯を張り、入浴の準備をする。

 お湯が溜まるのを確認し、ファノンに一言告げて脱衣所へ来た。

 服を脱ぎ浴室へ向かい、身体を洗って湯船に浸かる。


 「はぁ~………」


 広い浴槽は足を伸ばしても余裕がある。入ろうと思えば10人同時に入ってもなお余裕だろう。

 そんな浴室が、俺たち全員の部屋に付いている。さすが王城だぜ。


 「…………ファノン」


 ファノンの様子が変だった。

 たぶん、俺はその理由がわかってる。そして答えも出てる。

 シャオに告白して結婚を申し込んだ。そして受け入れてくれた。勇者としての立場なら可能かもしれない夢が、現実になる可能性も同時に出てきた。

 もし俺が平民のままだったら、あり得ないだろう。だけど今なら実現できる。

 その答えは、きっと醜い答えなんだ。だけど夢を見てしまった以上、実現が可能な以上、諦めることは悪い事なのだろうか?


 「………」


 脱衣所から人の気配がする。

 そして、ドアが静かに開かれた。


 「アーク、きちゃった」



 予想通り、ファノンがやって来た。



 **********************



 「ファノ…………ん」


 予想外だったのは、ファノンが一糸纏わぬ姿だったことだ。

 てっきりタオルを巻いてくると思ったが、そのタオルすら持っていない。見せつけるように裸体を差し出し、両手を後ろで組んでいる。

 俺はその姿から目が離せなかった。少女と思っていたファノンは、しっかりと女になっていた。


 「え、えへへ……恥ずかしいね」

 「そ、そう……だな」

 「あの、背中……ながしてあげる」

 「う、うん……おねがい、します」


 俺はタオルを巻き、ファノンを見ないように洗い場へ。

 もう手遅れに近いが、桶を逆さにして座り、一部を見られないように前にかがむ。


 「じゃあ洗うね」

 「ああ、頼む」


 わしわしとスポンジで背中を洗うファノン。

 シャオより力が弱いが、それが何とも気持ちいい。


 「アーク、わたし……アークが好きだよ」 

 「……俺もだよ、ファノン」

 「それって……どっちの意味で? お姉ちゃんに結婚を申し込んだみたいに?」

 「……」

 「わたし、ナルフェと同じだよ。でも……すっと前からアークが好きだったの。アークがお姉ちゃんしか見てなくて、わたしを妹としか見てなくても………」

 「ファノン、それは違う」

 「……え?」

 「俺はちゃんと、ファノンを女として見てる。女として俺を見てるファノンが、俺は好きだ」

 

 ファノンの手が止まった。

 

 「最低かも知れないけどさ、俺はみんなが好きだ。シャオ、ファノン、ローラ、フィオーレ姉さん……ずっとみんなと一緒だったらって、夢見てた。だけどそんなのムリだ、だから1番好きだったシャオを見てたんだ」

 「アーク……」

 「でも、もう不可能じゃない。俺は勇者として魔王を討伐する。そしてみんなを迎えたい………それが、今の気持ちだ」


 ワガママな欲望。ハーレムの夢。立場が理解出来たからこそ、手を伸ばせる夢。それが俺の求める大事なモノだ。


 「ファノン、愛してる。俺と……結婚してくれ」

 「………はい」


 俺は裸ということも忘れ、立ち上がり正面からファノンを見た。

 ファノンも立ち上がり、俺の告白を受けて頷いてくれる。


 「えへへ……」

 「な、なんか照れるな……あ」

 「あ、おっきい」


 お互い素っ裸。しかも俺はヤバいことになってる。

 ファノンにもメッチャ見られたし……恥ずかしい。


 「え、えっと、アークが望むなら……いいよ?」

 「………」


 おい、どういうことだ。理性が崩壊するぞ?

 ダメだ、俺の初めてはシャオに、いやでもここ行かねばファノンに恥をかかせることになる。誘われたのなら行かねば男が廃る。

 よし行けアーク、男を魅せろ、お初を頂きに参りましょう。


 「ふぁ、ファノンっ!!」

 「わわわっ」






 「…………………何をしてるのかしら?」






 シュンッと、息子が小さくなった。



 **********************



 シャオが乱入し、俺はボコボコにされた。


 「ファノン、アークの最初はその……アタシのだから」

 「う、うん。ごめんなさい、お姉ちゃん」

 「いいの、でも……ありがとね」

 「えへへ……」


 美しい姉妹愛じゃのう。眼福じゃ。

 さて、ボコボコにされてベッドで寝転がる俺は、そのまま闇の彼方へ意識を飛ばしますかね。



 さっさと龍を退治して、平和な世界で行きたいもんだぜ。

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