6・赤龍
火山に向かって馬車を走らせること数時間。
いい感じに日が傾いてきたので、今日は街道沿いの大きな木の下で野営をすることになった。
「さぁ、料理なら私に任せてね。戦えないぶん、みんなの健康管理はまかせてちょうだい」
フィオーレ姉さんが燃えている。
確かに、フィオーレ姉さんの料理は絶品だ。俺たちは何度もお世話になってるから安心して任せられる。
「じゃあ、俺とシャオはテントを組み立てる。ローラとショウコはフィオーレ姉さんの手伝いで、ファノンとナルフェは燃えそうな木を探してくれ」
ふふ、どうよ俺の指示は。
「わかりました。ではファノンさん、行きましょう」
「おっけ~」
「フィオーレ姉さん、手伝います」
「実はあたし、家の事情で料理は得意なんですよ」
「ありがとう、ローラちゃん、ショウコちゃん」
ローラとショウコとフィオーレ姉さんは、馬車に積んであった簡易テーブルを広げ、その上にまな板や包丁などの調理器具を準備してる。
ショウコは家の事情……なんでも、父母が忙しいとかで、家では1人で自炊することが多かったようだ。その時に、兄の分も一緒に作ってたらしい。
俺はテントの前に、馬車に積んでいたかまど用の石を積んでおき、テントと格闘し始めたシャオの元へ。
テントの組み方や野営の仕方は、ナルフェの授業で習っているから問題ない。
「シャオ、こっちのロープ頼む」
「おっけ」
シャオとのコンビネーションで、テントを2つ準備する。
女性5人用でテント2つ。俺は馬車の中で寝る。
「アーク~~~っ!!」
「お、来たか」
ファノンたちが薪を抱えて帰ってきた。
俺は聖剣で木をカットし、燃えやすいようにかまどにくべる。
「………聖剣で薪割り」
「い、いいだろ別に。これメッチャ切れるし、それよりナルフェ、火を頼む」
「はい。では」
ナルフェが人差し指を立てると、その先から火の玉がボワッと現れる。
そのままぺいっと薪に火の玉を投げると、薪は勢いよく燃えだした。
「う~ん、魔術って便利ねぇ」
「確かに。火打ち石や火薬が必要ないな」
「この程度でしたら、訓練次第で誰でも出来ますよ。よかったら教えましょうか?」
「マジ!? いいね、俺に教えてくれよ」
「あ、アタシも!!」
「わたしも~」
調理組以外はもう仕事が終わったようなもんだ。
すると、ショウコとローラからキツいお声が。
「ちょっとアーク、ヒマなら食器を準備して!!」
「シャオさんとファノンも、盛り付けを手伝って下さい」
怒られてしまった。
ショウコもずいぶんと馴染んだな。最初は俺たちに距離があったけど、一緒に訓練したりお茶したりを重ねて、今じゃ呼び捨てで呼び合う仲にまでなった。
一緒に過ごす内にわかったことがある。
ショウコは甘い物が大好きで、城下町のお菓子屋に連れて行ったら、すっごく目を輝かせていた。
お土産にケーキを買い、シャオたちとお茶したときはホントに幸せそうだったっけ。
それと、けっこう負けず嫌いだ。
ショウコのスキルは盾で、直接戦闘はしないことになってるが、いざという時のために護身程度の剣術は習っている。
そして俺やシャオと軽く模擬戦をしたんだが、ショウコは当然ながら勝てるはずがない。それなのに、ショウコがぶっ倒れるまで模擬戦に付き合った。
「もう一回、もう一回!! 次は絶対に勝つから!!」……なんて言いながら、ボロボロになるまで挑んで来る姿に、俺もシャオも驚いたぜ。
おっと、なんだかんだんで料理は完成した。
簡易テーブルに並んだ料理はどれも美味しそうだ。メインは肉野菜たっぷりのシチューに、シチューを付けて食べるようにパンがある。
「さぁ、食べようぜ」
みんなで食べる夕食は、最高に美味かった。
**********************
食事と後片付けが終わり、あとは就寝するだけ。
ナルフェがお湯を沸かし、女性陣たちはテントで身体を拭いている。
俺も湯を貰い、服を脱いで身体を拭く。
「はぁ……気持ちいい」
馬車には枕と毛布が準備してある。
身体を拭いたらさっさと寝ようと思ってると、馬車にナルフェが入ってきた。
「失礼します」
「なな、何だよ!?」
ビックリした。
俺は上半身裸だし、気配もなくナルフェが来たからちょっとビビった。
「いえ、1人では背中が拭けないと思いまして」
「い、いやいいよ別に」
「ダメです。では失礼して……」
「お、おい!!」
ナルフェは俺の手から手拭いを奪い、桶に入ったお湯に浸してしぼる。
俺は諦めて後ろを向いた。
「………」
「………」
ナルフェは無言で俺の背中を磨き、俺も何となく黙ってる。
なんか恥ずかしい……これがシャオだったらなぁ。
「シャオさんじゃなくてスミマセン。やはり、婚約者のシャオさんのほうが嬉しいですよね」
「は、はぁぁ? いや、別に……」
マジかよ、心が読まれたのかと思ったぞ。
「恐らく、こんな状況でシャオさんと2人だと、アークはきっと我慢出来ずにシャオさんを襲うでしょうね」
「そんなワケ…………あるか」
否定できない。
シャオは可愛いし、俺の告白を受けてくれた。
そういうことも期待するし、興味津々なのは間違いないけど……やっぱまだ早い。
「そういうのは、魔王を倒して結婚してからだ」
「そうですか……では、練習でもしますか?」
「は?……」
ナルフェは、俺の背中にしなだれかかる。
「な………なにしてんの?」
「練習です、いざという時に、失敗しないように……」
「し、失敗って、なんのだよ」
「もちろん………」
ナルフェは、俺の耳に吐息をかける。
背中には柔らかい2つの塊が潰れ、ぐにゅんと形を変える。
「なな……なる、ふぇ?」
「はい……」
「じょ、冗談は……」
「………」
なんだ、ナルフェは何を考えてる。
俺とシャオのことは知ってるはず、それなのになんでこんなマネを。
すると、ナルフェはパッと離れた。
「冗談です。どうでした? 少しはドキドキしました?」
「………」
俺は無言でナルフェを睨む。
「赤龍の住む火山までは10日、最短距離で火山を目指し赤龍を討伐、そして帰りは近くの村で補給をしてから王国へ帰還します。まだ先は長いのでゆっくり休んで下さいね」
そう言ってナルフェは馬車を出て行った。
いやマジで何だったんだ?
まぁいいや。とにかく今日は寝よう。
**********************
そして、やってきました火山。
火山の入口でもわかる、赤龍の気配がビンビンする。これも《勇者》のスキルのおかげなのかな。
「……みんな、気を引き締めろ」
俺の合図に、全員が頷く。
馬車は入口に置いて、火山の内部へ。
俺とシャオがオフェンス、ローラとファノンがサポート、ショウコがディフェンスで、フィオーレ姉さんが怪我をした場合の治療だ。
ショウコは盾を出し、フィオーレ姉さんとローラをメインで守る。
ファノンは赤龍の視界に入らないように、距離を取って弓の支援。
俺はメインオフェンスで、シャオは俺のアシストをしつつ赤龍に攻撃を仕掛ける。
何度も訓練したし、いつも通り行けばすぐに終わる。
俺はショウコに確認した。
「ショウコ、大丈夫か?」
「大丈夫だって、アークはあたしより危険なんだから、自分の心配をしなよ」
「そうだな……でも、気を付けろよ」
「うん、ありがとう」
にっこりと笑うショウコ。
どうやら、あんまり緊張してないようだ。
「シャオ、いけるか」
「当然、アタシの剣の錆にしてやるわ」
「ファノン、大丈夫か?」
「もっち~、訓練通り目を狙うからね」
「ローラ、お前は?」
「大丈夫です。赤龍は炎のブレスを吐くようです。氷属性で攻撃します」
「フィオーレ姉さん……」
「私は大丈夫、邪魔にならないようにショウコちゃんの傍にいるわ」
「ナルフェ」
「私もサポートしたいのですが……実は火属性しか使えないので」
「そ、そうか……」
なんとまぁ頼もしい、誰もビビってない。
もしかして、俺が1番心配してビビってた?
俺は自分を鼓舞し、あえて大声で気合いを入れる。
「さぁ……行くぜ!!」
**********************
「ショウコッ!! 盾を出して下がってろ!!」
「わかった、盾よ!!」
「くらえ、アイスニードルっ!!」
赤龍は真っ赤な体軀のオオトカゲだった。背中には翼が生え、手には鋭い爪が生えてる。
俺の指示でショウコは盾を出し、フィオーレ姉さんとローラを守る。そしてローラは氷の杭をいくつも出し、赤龍に向けて放った。
「ファノンっ!!」
「了解~っ!!」
ファノンが矢を放つと、凄い速度で赤龍の目に吸い込まれて視界を奪う。
身体に氷の杭がいくつも刺さり、目には矢が刺さった赤龍は、痛みからか身体をムチャクチャに捻り暴れる。
「シャオッ!!」
「ええ、合わせるっ!!」
俺とシャオは飛び出し、トドメの一撃を食らわせるための必殺連携技を使う。
「喰らえ、バッテンスラァァーーーッシュッ!!」
交差するように俺とシャオが飛び上がり、オオトカゲの首を両断した。
首の断面から血が噴き出し、赤龍は完全に死亡した。
「やったぜーーーッ!!」
「やったぁぁぁーーーッ!!」
俺とシャオは抱き合って喜ぶ。
ローラたちも抱き合い、それぞれが喜びを身体で表現してた。
「流石ですね、聖剣と太刀の連携技……技名はともかく、素晴らしい一撃でした」
ナルフェが感想を述べるけど、ちょっと引っかかる。
まぁいいや。とにかくこれで八龍の1匹は始末した。
残りは7匹……へへ、楽勝な気がするぜ。
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