16・偽りの勇者ユウヤ、その一生
ボクの名前は|笠間裕也(かさまゆうや)。
現在、高校2年生の17歳。
自分で言うのも何だけど運動神経もいいし、女子生徒からもモテる。
それに在席してるサッカー部ではエースでもあるし、勉強の成績も常にトップ。
非の打ち所のない完璧超人だ。なーんてね。
クラスではトップカーストの位置に君臨し、同じサッカー部に所属する仲間やクラスでも美人の女子生徒とツルんでいる。
女子3人、男子3人のグループは同学年グループではトップレベルだ。
ボクの父親は病院を経営し、母も有名な外科医として何度もテレビに出たことがある。
おかげで小さい頃からお金に苦労したことはないし、それを目当てで群がる輩も確かに存在した。
そんなボクは、欲望に忠実だ。
欲しい物は何でも手に入れるし、強引な手も使う。
それが物であれ人であれ、ボクの手に入らなかった物はない。
現に、ボクがツルんでる女子3人も、ボクが手に入れたオモチャの1つだ。
1人はボクの容姿に惹かれ、もう1人はお金に惹かれ、最後の1人は将来に惹かれた。
ちょっと甘い声で囁やけばすぐにヤレる。3人は自分が本命だと思ってるが、甘い声で股を開くような女が本命のワケない。
ま、別に本命がいるわけでもないけどね。
そんなボクでも、なかなか手に入らない物がある。
それは·········スリル。
ダベって遊んで女抱いて、そんな代わり映えのない毎日では味わえないスリル。
別に犯罪やクスリをしたいワケじゃない。
そこまでの狂気ではなく、現実離れしたスリル。
そう、ゲームのような世界。
ボクの知恵、身体能力、容姿、設定なんて、まるでゲームの主人公のような立ち位置じゃないか。
まぁ、現実世界じゃあり得ないのは分かってる。
だからこそ、一度は夢見た。
ま、ホントに行けるなんて思わなかったけどね。
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朝起きて、パジャマのまま朝御飯を食べた。
顔を洗って歯を磨き、制服に着替えるため部屋に戻る。
制服に着替え、充電したスマホをポケットに入れ、部活用のユニフォームとスパイクの入ったカバンを掴み、部屋を出た。
部屋を出た先は、異世界だった。
「······え?」
さすがに唖然としたよ。
ドアを開けたら、得体の知れない広い空間だ。
石造りの大きな広間に、足元は意味の分からない魔法陣が描かれ、手に握ったはずのドアノブの感触がない。
そして何より驚いたのは、ボクの身体が黄金に輝いていたことだ。
ぬるま湯が噴出してるような、オーラとでも言うのだろうか。
まるでボクの身体の中に、強大なエネルギーが入り込み、それが溢れ出てきてるような、不思議な感覚だ。
慌てて振り向くけど、自分の部屋はなかった。
得体の知れない黄金のオーラが消えると、お伽話に出てくるようなローブを被った何人かが、突然ボクに対して頭を下げた。
「勇者様······この国をお救い下さい‼」
正直に言う。ボクはこの時点で興奮してた。
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「······つまり、ボクは《勇者》で、この世界を脅かす《魔王ブリガンダイン》を倒すために呼ばれた······ってこと?」
「その通りだ、勇者殿」
ボクは現在、ブルム王国の城の謁見の間で、王様と向かい合っている。
この世界の現状と、ボクがここに呼ばれた理由を聞かされていた。
あの黄金のオーラは、どうやら《勇者》というスキルらしい。
この世界に来たボクの中に入り込んだ、この世界最強のスキルだとか。
ボクが呼ばれた理由。まぁ要は······「魔王退治してくれ勇者様‼ 呼ぶことは出来たけど帰る方法はない、その代わり魔王退治したら一生生活を保証する。それと王様にしてあげる‼」······って感じか。
「わかった、いいよ。魔王を倒そうか」
ボクの態度が気に触ったのか、騎士らしきオジサンが言う。
「勇者殿······相手はこのブルム王国の王、些か態度という物が」
「気に触ったかな? じゃあ謝るよ。それで、魔王はどこ? それにこういうのって素手じゃないだろ? 伝説の武器とかないのかい?」
「·········勇者殿」
おっと、騎士の声が低くなった。
ボクも少し興奮してるみたいだ。自重しよう。
「勇者殿。魔王は自身の眷属を8体生み出し、魔王城を守護する結界を張らせております。まずは8龍を討伐し、魔王城への道を開くべきかと」
「なるほど。そりゃ面白い」
「それと、龍は8体。さすがの勇者殿でも、お一人では厳しいかと。そこで魔王討伐の仲間を」
「いいね。それでどんな子だい?」
「は。それでは騎士団からよりすぐりの精鋭を選び、勇者殿の補佐として」
「ちょっと待った」
「はい?」
イヤな予感がするな。
騎士団って言ったら男だろ?
まさか、ムサイおじさんと旅しろってんじゃないだろうな。
「あの、さ。補佐はまだいいや。とりあえず、もっといろいろ教えて欲しいな」
「······わかりました。では、王宮魔術師を手配しますので、部屋でお待ち下さい。魔王についての知識と、聖剣について学んで頂きます」
「ああ、わかったよ」
こうしてボクは城の部屋に案内された。
部屋は豪華でベッドも広い。机やソファーなんかも高級感溢れてるし、調度品もキラキラしてる。
椅子に座っていると、1人の少女が入ってきた。
「失礼します勇者様。私は王宮魔術師のナルフェ、勇者様の専属教師を担当させて頂きます」
「······ああ、宜しくね」
いいね、かなりの美少女だ。
歳は同じくらいでスタイルもいい。これは是非味わいたい。
だけど、まずは知らなきゃいけないことが山ほどある。
ナルフェから教わったのは、《スキル》という特殊能力。そして、この世界を作った《女神アスタルテ》
スキルは、この世界では誰もが持つ当たり前の能力らしい。
驚いたのは、召喚の儀式を行ったのは、今回が初めてということ。それと、かつての勇者の仲間が持つ《スキル》は、勇者の誕生と共に現れるということだ。
つまり、ボクが現れたことで勇者パーティーの《スキル》は誰かに現れたということだ。
「確かに。この世界に来たとき、女神アスタルテから啓示を受けた。かつての勇者パーティーの《スキル》を持つ仲間を探せ、とね」
「そ、それは本当ですか⁉」
もちろんウソだ。
けど、これでむさ苦しいオッサンと旅することは避けられる。
それにしても、《勇者》のスキルか······。
じゃあ|これも勇者の力なのか(・・・・・・・・・・)?
「なぁナルフェ······もっと教えてくれないか?」
「······え、あ」
「この世界のこと、聖剣のこと、魔王のこと、そして······キミのこと」
「·········あ、は、は······い、いえ、今日はここまでにしましょう。ではまた明日にっ‼」
ナルフェは顔を真っ赤にして走り去った。残念。
でも、これで分かった。ボクのスキルは2つある。
《勇者》と、《魅惑の瞳》
よくわからないけど、これは使える。
どうやらボクの瞳を見た者を、虜に出来るようだ。
だけど、一度見ただけじゃ弱い。何度か魅せる必要がある。
正直なところ、《勇者》よりも《魅惑の瞳》のほうがしっくり来る。むしろ、勇者のスキルは違和感を感じる。なんでだ?
「く、くく······これが、ボクの望んでたスリルか」
魔王を倒せば王の椅子。
この瞳を使えば、ハーレムだって不可能じゃない。
不思議と帰りたいとは思わなかった。
むしろ、この世界をボクのモノにしてやりたくなった。
「くくく、これじゃボクが《魔王》じゃないか」
********************
次の日。
案内されたのは、城の地下宝物庫だった。
どうやらここに聖剣が眠ってるらしい。
頑丈な鉄のドアが開かれた先、台座に刺さってる1本の剣があった。
だが、錆びてボロボロ、どう見ても聖剣というより朽ちた剣だ。
「勇者殿、聖剣を手に」
「······はい」
騎士団長がボクを促す。
正直、あんなボロ剣を触りたくない。
手が切れて破傷風になったらどうするんだ。
ボクはイヤそうな顔を悟られないように剣の柄を握り、引き抜いた。
そして、驚いたよ。
「お、ぉぉぉっ⁉」
剣が黄金に輝き、姿が変わった。
錆びてボロボロの剣は、輝くような銀の刀身に、装飾の施された柄と鍔に生まれ変わった。
ま、聖剣だしテンプレだな。
「おお、聖剣が······‼」
「美しい、あれが『聖剣アンフィスバエナ』‼」
「勇者、あれが勇者の剣‼」
みんな騒いでる。
ま、当然だよね。でも、なんだろうか?
「······ん?」
柄を握る手が、ピリピリした。
********************
剣を抜いた後は、勉強の時間。
国の歴史や文化などを学び、この世界の常識を知る。
ナルフェは昨日のことを気にしてるのか、顔が赤い。
ボクは《魅惑の瞳》を発動させたまま勉強した。
そして、チャンスはようやく来た。
「ナルフェ、こっちを向いて······」
「······だ、ダメです勇者様、見ないで······」
「ダメ、こっちを向いて」
「······あ」
ボクはナルフェの顔を掴み、優しく目を合わせる。
ナルフェの顔は赤みが増し、とろけるように細められた。
「ナルフェ、キミのことを教えてくれ······」
「······はい、勇者さま······」
さて、今日の勉強はここまで。あとはベッドだな。
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それから1ヶ月、ボクは城で生活した。
かつての勇者パーティーが使ったスキルを持つ継承者を探してるらしく、その間にボクは自身のスキルを磨いた。
《勇者》のスキルは身体能力増加と、聖剣による黄金のオーラの攻撃の二つ。
これは鍛えなくても強い。一度城の外で全力で放ったが、広範囲に渡って地形が変わってしまった。
なのでボクは《魅惑の瞳》を鍛える。
最初はナルフェを実験台にしていろいろ試した。
○操られている間の記憶が残ること。
○ボクの意思で自由に解除出来ること。
○解除した瞬間に操られていた間の記憶が戻ること
○記憶や感情の操作が出来ること。
など、これは洗脳に近い能力だ。
城のメイドや若くて可愛い王宮魔術師なんかを片っ端から食い、ボクは能力をモノにした。
何人か妊娠したが、城下町で暴漢に襲われたという記憶を刷り込んで誤魔化した。
さすがに旅すらしてないのにパパになるのはゴメンだ。
ナルフェも妊娠し、王宮魔術師から外され実家に帰っちゃったしね。
そして、ついに見つかった。
勇者パーティーのスキルを持つ、旅の仲間が。
まぁ、むさ苦しいオッサンと旅するよりは、若いほうがいい。
《スキル継承の儀式》は対象が子供だし、若い女の子がいれば御の字だ。
だけど、女神様はボクの味方らしいね。
「勇者ユウヤよ。彼女たちが『勇者』パーティのスキルの継承者だ」
「はい。一目見て分かりました。この出会いはきっと運命なんだって」
本当にそう思ったよ。
金髪の美少女姉妹、黒髪ロングの美少女。
まさかこんなにも食べ応えのありそうな美少女たちが、勇者パーティーのスキル持ちだなんてね。
だけど、ボクは見た。
美少女3人の視線は、ボクではない誰かを見てるのが。
ボクよりも年下の少年を見てるのがわかった。
なるほどね。
どうやらテンプレの展開らしい。
あの少年は幼なじみと言ったところだろうか。少なくとも、彼女たちの関係者なのは間違いない。
だったら、ここで言っておくか。
「聞いてくれ、ボクは異世界から来た『勇者ユウヤ』だ!! この世界に現れた魔王を倒すためにやって来た!! 彼女たちに伝説のスキルが発現したのは偶然じゃない、この世界をボクと共に救えという《女神アスタルテ》の啓示なんだ!!」
彼女たちの逃げ道を塞ぐ。
ボクと旅をしなければならないと、周囲に知らしめる。
「ボクは宣言する!! 魔王城を守護する8体の龍を倒し、魔王を討ち取ると!! この世界の平和のために勇者として戦い、彼女たちと旅に出ると!!」
「え、えぇ!? あ、アタシたち!?」
「うっそ~!?」
「そんな……ま、まさか。……兄さん」
案の定、困惑してる。
だけどもう遅いよ?
大聖堂の外にも、観客は揃った。
「見てくれ、この『聖剣アンフィスバエナ』を!! 女神より賜りし聖剣を!!」
ボクは聖剣を掴み、発光させる。
ピリピリと手が痛むが、今は耐える。
「お、おぉぉ……これが勇者の聖剣……」
「伝説の勇者パーティーの復活、そして魔王退治……」
「魔王が復活しても、この勇者なら……!!」
さて、これで準備は整ったね。
********************
騎士団長が少女たちに、現状を話している。
少女たちのスキルは、かつて魔王を討伐した勇者パーティーの物であり、魔王を討伐するために力を貸して欲しいと。
「·····つまり、アタシたちに力を付けろと、そんで勇者サマの旅に同行しろってこと?」
「お、おねえちゃ〜ん。わたし、こんなスキル要らないよ〜」
金髪ポニーテールのシャオが苛立ち、金髪ツインテールのファノンがシャオの影に隠れる。
「話は理解出来ましたが、私たちはただの平民です。強力なスキルが発現しようと、勇者様のパーティーなら、優秀な方がいくらでも居るのでは? それこそ騎士団の中にでも」
黒髪ロングのローラが言う。
どう見ても乗り気じゃないね。むしろ明確な拒否だ。
でも、こんなチャンスを諦めるワケないだろ?
「無理を承知で頼む。キミたちは、ボクの運命の人たちなんだ」
ボクは、《魅惑の瞳》を全開にして話しかけた。
「······っ、そ、そうだとしても、関係、ないし」
「······う、うん」
「······も、申し訳、ないですが」
くくく、効いてる効いてる。
目を逸らしたけどもう遅いよ。
一度この目を見たら、術中に嵌ったも同然。
ボクへの好意を植え付けたから、あとはじっくり育てるだけ。
「そ、そうだ。アーク、アークが行くなら······」
「う、うん。アークが、いれば」
「そう、ですね。兄さん······」
「へぇ、アーク、ね」
どうやら、彼女たちの支えの少年らしい。
ボクは目を解除して彼女たちに向き合う。
「とりあえず、外に出ようか」
アークとやらが外に居るのは把握済みさ。
彼女たちはボクから離れるように外へ。
すると、案の定だね。
「兄さん、待っててくれたんですね」
「あの、アーク······」
「アーク〜っ」
アークはじゃれつくファノンの頭をなでてる。
どうやらよほど懐かれてるようだ。ふん、気に食わないね。
騎士団長の話だと、このアークのスキルは《輝く盾》だったな。······丁度いい。
「キミがアークか。ちょうどいい、キミに頼みがある」
「······勇者サマが俺みたいな平民に頼みですか?」
「ふふ、そう自分を卑下しないでくれ。キミのスキルである《輝く盾》は、なかなか便利なスキルだ。良かったら8龍退治に同行してくれないか?」
「······え?」
盾。いいね、ピッタリじゃないか。
決めた。コイツはボロボロになるまで使ってやる。
シャオたちをコイツの前で寝取ってやる。
「兄さん、私からもお願いします」
「お願い、アーク。アタシたちだけじゃ不安なの、いくら強いスキルでも、どうなるかわからないから······」
「アーク、お願い〜っ‼」
「みんな······」
やはり、アークはシャオたちの特別らしい。
「わかった。俺も同行させてもらうよ」
「よし決まりだ。ではこれから1ヶ月、城でスキルを磨く訓練に参加してもらう」
さぁて、タップリと|洗脳(くんれん)してやるか。
********************
シャオたちのスキル発現の訓練は、ボクが自ら指導した。
まぁ簡単だった。
洗脳もかけ放題だったし、毎日目を合わせて洗脳をかけたからね。
それでも意外なことに、城の誰よりも強い意思を持っていた。
「シャオ、良かったらボクの部屋に来ないか?」
「······っ‼ ご、ゴメン、今日は、帰るね」
「そう? 遠慮しなくてもいいのに」
「う、ううん、また今度ね······っ」
「ファノン、調子はどう?」
「う、うん。ユウヤのおかげで武具は出せたし、弓の使い方もバッチリ〜」
「そう。困ったことはない?」
「う、うん。ゴメン、おねえちゃんの部屋に行くから、またねっ‼」
「ローラ、だいぶ上達したね。もう立派な魔術師だ」
「あ······ありがとう、ございます」
「良かったらボクの部屋に来るかい? 前の王宮魔術師が置いて行った魔術書があるんだけど」
「······いえ、遠慮しておきます。では」
と、常に《魅了の瞳》を開けた状態なのに、彼女たちは抵抗する。
アークは騎士団の訓練に放り込んであるから、シャオたちとは一切会えないはずなのに。
ここは1つ、荒療治と行くかな。
********************
ボクたち5人は国の外へ来ていた。
目的は、実際のモンスター退治と連携の訓練。
ボクが最前線、ファノンが中距離援護、ローラは後方魔術支援、そしてシャオが前線中距離。ようはファノンとローラの護衛であり、ボクのアシストだ。
そして今回、新たな女性が着いてきた。
「ごめんねフィオ姉、危ないのに〜」
「いいのよファノンちゃん。私は薬師だから。それに、みんなが心配だしね」
ゆるふわ金髪ウェーブのフィオーレ。
薬師が同行するって聞いたけど、まさかシャオたちの推薦で、こんな美少女がくるとは。
しかも同級生で、このスタイルだ。
当然ながら、《魅惑の瞳》で挨拶する。
「ありがとうフィオーレ。助かるよ」
「う、うん。······あはは、照れるわねぇ」
よし、種蒔き完了。
あとはじっくりと育てて実らせるだけ。
とりあえず、何体か雑魚モンスターを狩る。
今の彼女たちでは楽勝レベル。もちろん傷1つ追わずに戦闘は終わる。
さて、ここからだな。
「よし、あそこの林へ入ろう」
ボクが先頭を歩くから、みんなは当然着いてくる。
さて、ここからが本番だ。
「な、ねぇユウヤ······ここは、マズいわよ」
「同感です、イヤな感じが······」
「ふぃ、フィオねぇ〜」
「だ、大丈夫よファノンちゃん。ユウヤがいるから」
お、フィオーレも呼び捨てになったか。
どうやら精神的に不安だと、洗脳がかかりやすいようだな。
そして、ついに来た。
『グゥルルルルルル······』
獰猛なモンスターの唸り声。
来た来た、コイツを待ってたんだ。
「な、なに······⁉」
「ユウヤ、逃げましょう⁉」
「ユウヤぁ〜っ‼」
「ゆ、ユウヤ、怖い······」
いいね、恐怖がブレンドされていい感じになってる。
当然だけど、ボクは魅了の瞳でみんなを見る。
「大丈夫、ボクがいる‼」
聖剣を抜いて構える。
そして、のっしのっしとヤツは現れた。
『グァォォォォォォォォっ‼』
現れたのは、ベヒーモスという化物。
ここはベヒーモスの巣で、王国が立ち入り禁止してる場所だ。
「みんなっ、ボクから離れるなよっ‼」
魅了の瞳、全開。
さて、まずはこの雑魚を始末する。
「ゴールデンスラッシュ‼」
黄金のオーラがベヒーモスを両断。消滅した。
「ふぅ······。みんな、平気かい?」
ありゃ、みんな腰抜かしてる。
まぁしょうがないか。どんなに強力なスキルを持っていても、少し前まで平民だった彼女たちに、ベヒーモスは強烈すぎた。
「立てるかい?」
「う、うん。ありがとう、ユウヤ」
「その、ありがとうございます。ユウヤ」
「ユウヤ、スゴくカッコよかったわ。ありがとう」
「はは。みんな無事でよかった。······ファノン?」
「······うぅ〜」
あらら。ファノンの股間から湯気が立っている。
それに涙目。ヤバい、今すぐ部屋に連れ込んでメチャクチャにしたい。
「······ほら、乗って」
「で、でも。汚いよ」
「いいから、ほら」
「······うん。ごめんね」
「違うって。こういうときは「ありがとう」だろ?」
「ユウヤ······。うん、ありがとう」
チッ、汚いけど仕方ない。
これで洗脳はほぼ完璧。みんなの心はボクの物。
あとは、アークを忘れさせるだけだ。
********************
翌日から、シャオたちは変わった。
ボクから一歩引いたような態度は消え、ずっと昔からの親友のように接してくるようになった。
試しにシャオを部屋に誘ってみると。
「シャオ、よかったら部屋に来るかい?」
「ば、バーカ‼ そういうのはまだ早いっての‼」
「あはは、じゃあ何時ならいいんだい?」
「う······と、とにかくまだダーメっ‼ このスケベっ‼」
明確な拒否ではない。
ローラやファノンも似たような反応だし、もう魅了の瞳は必要ないくらい洗脳出来た。
そして嬉しいことに、フィオーレが旅に同行してくれる。
薬師として同行すると、自ら申し出て来た。
当たり前だが、ボクは許可した。
それから旅の出発まで、シャオたちと過ごした。
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そして、出発の日の朝。
シャオたちの心はもうボクの物と言っても過言ではない。
城の前の広場に、勇者パーティー専用の馬車が停まっている。
その近くに、王国兵が装備する鎧と剣を纏ったアークがいた。
その目はわかるよ。
シャオとローラの距離が、近いからだろう?
「あ、久しぶりアーク、ちょっとは強くなった?」
「さぁ、どうだろうな」
そっけないねぇ。気になってしょうがないんだろ?
そして、キョロキョロと辺りを見る。
「ファノンなら、フィオーレ姉さんを迎えに行ってますよ」
「え、何で⁉」
「フィオーレは薬師として旅に同行するのさ。回復薬のエキスパートがパーティーには必要だからね」
「あ、そ」
くくく、何を考えてるのかすぐに読める。
どうせ「呼び捨てかよ」とでも思ってるんだろ?
「ねぇユウヤ。最初の目的地は?」
「最初は赤龍の巣を目指そう。シャオ、ローラ、頼りにしてるよ」
「任せて下さいユウヤ。私の魔術で、貴方をサポートします」
「あ、アタシだって強くなったもん‼」
「ははは、頼りにしてるよ2人とも」
ボクは2人の肩を叩いて激励する。
アークの表情が驚きに変わる。実に楽しい。
「お〜いユウヤ〜っ‼」
「遅れてすみませ〜ん」
ファノンとフィオーレが来た。
ファノンはボクにじゃれつく。かつてアークにしてたように。
「ねぇユウヤ、フィオーレ姉さんを連れて来たよ」
「ああ。ありがとうファノン」
「えっへへ〜」
ボクはファノンの頭を優しくなでる。
ファノンは嬉しそうに笑い、アークの方なんて見やしない。
「アークくん」
「あ、フィオーレ姉さん。姉さんも旅に」
「荷物をお願いしていいですか? 馬車がありますので」
「え、あ、うん」
フィオーレの荷物を受け取ったアークは、馬車に荷物を積む。
「何だよ、これ」
聞こえてるよ、アーク。
1ヶ月前とはまるで違う。ローラたちの位置はかつてのアークがいたポジションだ。
「さぁ出発しよう。アーク、御者は出来るね?」
「え? あ、ああ」
アークの役目は雑用係、そして御者と緊急時の盾。
ま、可愛い彼女たちを譲ってくれた礼に、命くらいは守ってやろう。
緊急時には役目を全うしてもらうけどね。
「最初の目的地は赤龍の巣だ。王都の南にある火山へ向かおう‼」
「オッケー、アタシの剣を見せてあげる。任せてよユウヤ‼」
「どんな敵でも魔術で吹き飛ばして見せます。見てて下さいユウヤ」
「あたしの矢は絶対命中〜っ‼ ユウヤのアシストはお任せ〜っ‼」
「薬に関しては私にお任せ下さい。ユウヤにそんな心配はなさそうですけどね」
ボクたちは馬車に乗り込む。
すると、誰がボクの隣に座るか揉めはじめた。
アークは半分放心状態で御者席に座り、火山に向けて馬を走らせた。
これは、「初めて」を頂くまでもう少しかな。
********************
やって来たのは赤龍の巣。というか火山。
ここに赤龍がいるらしいが、普通にモンスターもいた。
「アーク、盾っ‼」
「た、たた、盾よっ‼」
苛ついたようなシャオの声。
案の定、使えないアークにみんな苛ついてる、
相手は二足歩行の赤いブタ。名前はレッドオーク。
手には棍棒を持ち、がむしゃらに振り回している。
「アーク邪魔っ‼ どいてっ‼」
「わ、悪いっ」
ファノンの弓の斜線上にアークは立っていたようで、聞いたことのないようなファノンの怒号でその場から離れる。
「ユウヤっ‼ お願いっ‼」
「兄さん、どいて下さいって言ってるでしょう、邪魔ですっ‼」
アークは連携の訓練生なんてしていないし、この結果は当然だろう。
むしろ、こうなることをボクは知っていた。
「ユウヤっ‼ トドメですっ‼」
「おォォォォっ‼」
聖剣の一撃が、オークを縦に両断。
相変わらず聖剣を使うと手がピリピリする。
「ナイスユウヤ‼ さっすがね‼」
「それに比べて······、兄さん‼ 貴方は何をしてるんですか‼ 戦闘もロクに出来ないのに、前に出ないで下さい‼」
「もぅアーク、うっざいよ〜?」
「わ······悪い」
なんか憐れになってきた。
ま、ここは利用させてもらうけどね。
「アーク、怖いのは分かるけど、力を抜いて戦うんだ。ガチガチのままだと、イザというときに動けないからね」
「ああ······ありがとう」
「ユウヤさん、怪我はありませんか?」
「平気だよフィオーレ。ありがとう」
さて、火山の最奥に赤龍はいる。
正直、聖剣とボクの敵じゃないけどね。
そして、赤龍は現れた。
真っ赤な体躯に大きな翼、鋭い爪に太い手足。予想通りの化物だ。
「さぁ、勇者ユウヤの聖剣、見せてやるっ‼」
ボクは飛び出し、シャオも続く。
ローラは呪文を詠唱し、ファノンは矢を番え構える。
フィオーレは岩場に隠れ、怪我をしてもいいように薬を準備していた。
そしてアークは······恐怖で足を竦ませていた。
そんなアークを見た赤龍は、口から真っ赤なブレスを吐き出す。
見殺しにしてもいいけど、アークはまだ利用出来る。
それに、これは絶好のチャンスだ。
「マズいっ‼ アーク、盾を出せっ‼」
ボクの指示。
しかしアークは動けない。これでいい。
「クソっ‼ はぁぁぁっ‼」
ボクはブレスの前に割り込む。
そして、思わず声に出してしまった。
「|これで彼女たちは(・・・・・・・・)|ボクのモノだよ(・・・・・・・)」
ニヤリと笑い、聖剣でブレスを弾く。
聞こえてくるのは、シャオたちの叫び。
「ユウヤっ‼」
「ユウヤっ、避けて下さいっ‼」
「ユウヤぁ〜っ‼」
「ユウヤさんっ‼」
だけど、赤龍のブレスは意外と熱くて重い。
少しマズいかなと思ったけど、背中が温かくなるのを感じると物凄い力が溢れてきた。
ボクはそのまま剣を振るった。
「はぁぁぁぁっ‼ ゴールデンスラッシュっ‼」
聖剣が莫大な閃光を放ち、まるで刃のように放出され、赤龍の身体を両断した。
8龍の1体、赤龍は討伐された。
********************
「しゃ、シャオ」
「こんのっ、役立たずっ‼」
「っ⁉」
おお痛そう。まさかグーで殴るなんてね。
アークはそのまま仰向けで倒れる。
「ユウヤは、ユウヤは勇者なのよ⁉ ユウヤに何かあったらどうすんのよっ‼」
「その通りです。兄さん、なぜ盾を出さなかったのですか?」
「そ、それは」
「ホンっとうっざい〜っ‼」
「ユウヤくん、怪我はないですか⁉」
さて、ここまで責められればもう安心だろう。
「みんな、アークを責めないでくれ」
「で、でもコイツは‼」
「いいんだ。赤龍は強かった。ボクも恐怖を感じた、でも、仲間を守るためなら動くことが出来た。アーク、怪我はないかい?」
「······」
アーク、キミはもう彼女たちの心から消えた。
ボクが洗脳を解かない限り、もう彼女たちはキミを許さないだろうね。
「さぁ、帰ろう。王国に帰還して次の龍を倒しに行こう
ボクたちは近くの町で一泊し、次の日に王国へ帰還する。
よし、今日は勝負を掛ける。
彼女たち4人、そろそろ味わおうかね。
********************
食事が終わり、当たり前のように彼女たちはボクの部屋へ集まった。
「みんな、大事な話がある」
シャオはジュースを飲む手を止め、ローラは魔術書を読むのを止め、ファノンはベッドで転がるのを止め、フィオーレは薬草をすり潰す手を止めた。
「どうしたの? 大事な話?」
「ああ。赤龍を討伐したからあと龍は七体。今日戦ってわかったけど、龍はボクの敵じゃない。きっと魔王も」
「そ〜だよ〜っ‼ ユウヤは最強だし〜」
「うん。だから、これからのことを話したい。キミたちに」
「私たち······ですか?」
「そう。ボクは魔王を討伐した暁に、ブルム王国の国王になることが決まってる」
「そうですね。ユウヤが王様かぁ······」
さてアーク、キミに恨みはない。
でも、敢えて言わせてもらう。ゴメンね。
「ボクが国王になったら、キミたち4人を妻として迎えたい」
ま、当然だけど4人とも了解してくれた。
********************
この日の夜。4人の初めてを頂く。
全員が生娘で、どれも味わい深い身体をしてる。
これならいくらでも楽しめる。
王になって傍に置いておけば、好きな時に抱ける。
アークもバカなヤツだよ。
こんな上玉を抱かずに置くだけ置いて、誰も食べずに眺めるだけなんてね。
ま、もう遅いよ。
これで洗脳を解いたらどんな反応をするだろうか。
シャオはアークを愛してたし、ローラもずっと好きみたいな感じだった。
ファノンはまだ自覚がないようだけど気にしてたし、フィオーレも心から愛してるようだった。
洗脳を解いて耳元で言ってやりたい衝動に駆られる。
愛するアークを裏切って、ボクに身体を捧げてくれてありがとうってね······。
こうしてボクは、アークの幼なじみたちを寝取ってやった。
********************
ブルム王国へ帰還し、アーク以外は城へ向かう。
赤龍の討伐を報告すると、王様や王妃様は大喜び。
次の龍を探し出すまでの間、のんびりすることになった。
シャオたちは自宅に帰ろうとしなかった。
ボクへの依存心を上げてあるから、ボク以外はどうでもいい存在になっている。
城の自室に彼女たちを招き、朝から晩までタップリ交わる。
味わい初めたばかり、まだまだこれからだ。
「ねぇユウヤ、誰が第一王妃になるの?」
シャオが裸でボクにしなだれかかりながら質問する。
というか、全員が裸だけどね。
「それはわたしでしょ〜?」
「ち、違います、私です‼」
「あらあら? てっきり私かと思ったけどねぇ?」
裸の美少女たちが、ボクを取り合う。
なんて美しい光景だろう。何度もしたのに、息子が硬くなる。
「まぁまぁ、誰が一番とかじゃない。みんなが王妃ってことが大事なんだよ」
ボクは4人纏めてベッドに引きずり込み、全員を愛した。
ヤバいな。洗脳を解いてみたい。
アークのことを思い出させたら、どうなるんだ?
愛するアークじゃなく、ボクにタップリ抱かれたなんて知ったら、彼女たちはどういう反応をするんだ?
ゴクリと唾を飲み込む。
ボクはこのとき、どんな顔をしてたのだろう。
「ユウヤ?」
「·········なに?」
「なんか、楽しそう」
シャオの言葉に、ボクは背筋がゾクリとした。
********************
性に溺れながら過ごすこと数日。次の獲物である青龍が見つかった。
ボクはこの間もシャオたちを抱き、城にいたメイドや若い魔術師なんかも虜にして遊んでいた。
シャオたちはまだまだ楽しめる。
時間を掛けてゆっくりたっぷり味わおう。
王様たちに挨拶をして町に買い物をしてから向かう。
集合場所は町の広場で、アークが馬車を用意して待っているハズだ。
一応、個別行動の予定だったんだけど……。
「………で、なんでみんな着いてくるんだ?」
「ま、いいでしょ? せっかくだしユウヤと町を歩きたいし」
「そーそー。えっへへ~」
「旅に必要な道具はアークさんが準備してるので、個人の物を買いましょう」
「そうね。私も行きつけの道具屋さんで、薬草の採取キットを買いたいなぁ」
「………そうだね」
ウザいな。
コイツらの身体は好みだが、性格はうっとうしい。
旅が終わって挙式を挙げたら、奴隷みたいな性格にしてボクに逆らえないように調教してやる。
「じゃあみんなで行こうか」
全く不本意だが、5人で町を歩く。
せっかく1人になれると思ったのに、クソ。
「ねぇユウヤ、アタシ、新しいリボンが欲しいな」
「はは、買ってあげ…………」
ボクの動きが止まった。
冗談抜きで、電流が身体を駆け抜けた。
心臓を中心に電気が走り、肉体が硬直した。
「ユウヤ? どうしたんですか?」
「ユウヤ~?」
ローラとファノンが何か言ってるが、ボクの耳には入ってこない。
ボクの目は、1人の少女に釘付けだった。
「………奴隷ですか? ユウヤ」
ボクの視線の先には、薄汚い奴隷の少女。
奴隷商人だろうか、男に連れられ建物の中へ連れて行かれる寸前だった。
断言する。少女はボクを見ていた。
「ちょっ、ユウヤ!?」
ボクは走り出し、少女の手を掴んでいた。
奴隷商人はボンヤリしたようにボクを見る。
「あ、あの……この子は?」
「ああ、奴隷? だよ。うん、買うかい?」
「え、ええ」
「えっと……あれ、この子はいくらだっけ?」
奴隷商人は首をかしげながら少女をみてる。
まるで身に覚えがないような仕草で、少女を見た。
「えっと……10万でいいよ。うん」
「は、はい」
「ちょっとユウヤ!! どうしたのよ!!」
シャオが何か言ってるがどうでもいい。
ボクはお金を払い、少女を買った。
少女の手を引き、シャオたちの元へ。
「ユウヤ、どうしたのですか? そんな小汚い子を買って……」
「え、ええと……。うん、アークの補佐に付けようと思って。1人じゃ大変だろうしね」
「そうなんですか? なにも奴隷じゃ無くてもねぇ……」
わからない。
何故こんな薄汚い少女を買ってしまったんだ?
胸の奥が、心臓が、身体の全てが揺さぶられるような感覚に、抗えなかった。
「と、とにかく行こう」
ボクは少女の手を引きながら歩き出した。
少女は何かをブツブツ呟いていたが、特に気にしなかった。
「…………修正プログラム起動」
**********************
少女はユノと言うらしい。
何度か話しかけたが、一切ボクと目を合わせなかった。
それどころか、アークに懐きシャオたちとも殆ど喋らない。
あの時、ボクを襲った感覚は何だったのだろうか。
気にはなるが、あの時以外一切同じ感覚は来なかった。
そしてユノが加入して約1年。
龍も残り3体となり、相変わらず城でシャオたちを抱いていた。
正直なところ、飽きてきた。
そこでボクは面白いことを思いついた。
全ての龍を倒し、魔王を倒すまでシャオたちを食べ続け、魔王との戦いで洗脳を解く。
アークの存在を思い出させ、たっぷりとボクに抱かれたことを思い出させてから葬るのだ。
もちろん、魔王のせいに見せかけて。
とりあえず王になれば、妃なんていくらでも見つけられる。
国民には、妃たちは名誉の死を遂げたと伝えればいい。
そして、6匹目の緑龍と、7匹目の白龍が同時に見つかった。
流れとしては、まず緑龍を葬り、そのまま白龍を葬る。
そして最後の紫龍を葬れば、魔王城の結界が開かれる。
そして緑龍の元に向かう最中に、それは起きた。
「緑龍だっ!! 降りろっ!!」
アークの叫び。
普段はまるでどうでもいいが、今回は別だ。
何故なら、馬車の窓から見える緑龍は、ブレスを吐く体勢に入っていた。
「盾よっ!!」
アークが盾を展開し、ユノを抱えて飛び降りようとしてる。
マズいな、こっちはようやく馬車のドアを開いた所だ。
仕方ない。アークはここで切り捨てるか。
「アーク、そのままだっ‼」
ボクはアークに向かって叫ぶ。
アークは信じられないようにボクを見る。おっと、つい笑みが。
ボクたちは馬車を降り、ボクは聖剣を発光させて緑龍に斬りかかる。
緑龍のブレスは馬車を粉砕し、アークたちも吹っ飛んだ。
アークたちに向かってブレスを吐いた緑龍は隙だらけ。
そのまま一刀両断。緑龍を討伐した。
「いやぁ驚いたよ。まさかここに緑龍がいるとは」
「でもラッキーじゃん。町から近い森だし、馬車がなくても歩いて帰れるしね」
「はい。これで残りは2体。あと少しですね」
「よ〜し、町に帰って祝勝会だね‼」
「ふふ、荷物は無くなりましたが、問題ないですね」
シャオたちも怪我はない。まぁどうでもいいけど。
すると、近くで悲鳴が上がった。
「ゆ、の············ユノォォォォっ‼」
そちらを見ると、血溜まりに沈むユノが居た。
腹部に大きな木片が突き刺さり、どう見ても致命傷だ。
「フィオーレ姉さん‼ くすり、薬をくれ‼ ユノが死んじまうっ‼」
バカだな。薬でどうにかなるワケが無い。
それに、薬なんてブレスで吹っ飛んだろうが。
血溜まりに沈むユノを見て、ボクは思った。
「あちゃ〜、残念だけどもうムリね。アーク、ちゃんと埋めてから来なさいよ」
「ユウヤ、町へ帰りましょう。今から帰れば夕方には着くでしょうしね」
「な〜んかお腹減ったぁ〜、ご飯にしよ?」
「しかし、食材も全て無くなりましたし、早く帰るしかないですね」
やっぱり感じない。
ユノはただの奴隷少女だったようだ。
「……う〜ん。今の彼女には何も感じないな? まぁいいか。アーク、先に戻ってるから気の済むまでお別れしてくれ。それじゃ」
取りあえず、近くの町に帰ろう。
荷物は全部ダメになったけど、この場所で緑龍が現れたのはラッキーと考えておこう。
次の白龍の巣まで近いし、ここから町まで歩けば夕方には着く。
ボクたちはアークを残し、町まで歩き出した。
さて、さっさと帰ってシャオたちを抱こう。
**********************
宿屋に併設されてる酒場で食事を楽しみ、この町の冒険者たちと酒を飲む。
途中、帰ってきたアークがヒドい顔をしてたけど、まぁどうでもいい。
その日の夜。
アークのすすり泣く声をBGMに、シャオたちを抱く。
いい加減に飽きてきたけど、隣で泣いてるアークが聞いてると思うと興奮した。
そして次の日の朝。
「おはよ~……」
「おはようファノン。ほら着替えて」
「は~い。あさごはん~……」
ボクは着替えて装備を身につけ、腰のベルトに『聖剣アンフィスバエナ』を差して気が付いた。
「………ん?」
「どうしたんですか、ユウヤ?」
「あ、いや……なんでもない」
聖剣が、いつもより重く感じた。
**********************
完全におかしいと感じたのは、白龍を退治してからだった。
「何だ、コレは……」
「ユウヤ?」
「どうしたんですか?」
シャオたちの声は耳に入らない。
聖剣がどんどん重くなり、切れ味も鈍くなる。
黄金の発光が弱くなり、柄の部分を持つとバチバチ痺れた。
まるで聖剣が、ボクを拒んでいるようだった。
「そんなバカな、ボクは勇者だぞ?」
ボクは自分に言い聞かせた。
その後も聖剣の重さはヒドくなる一方だった。
紫龍との戦いでは、持ち上げるのさえ困難を極め、シャオたちのサポートでなんとか勝利を収めた。
そして、魔王城の封印が解けたことで、魔王城の封印も解けたはずだ。
王様に頼み、国の兵士を動かすことにする。
魔王城にはモンスターが溢れ、どうしてもボクたちだけでは相手が出来ない。
なので、国の兵士たちにモンスターを引きつけてもらい、ボクたち勇者パーティーが魔王と一騎打ちで倒すというシンプルな作戦だった。
それから決戦の日まで、シャオたちと鋭気を養う。
王になったら新しい妃を探しておこうと決意し、最後の最後までたっぷりと味わった。
そして決戦の日。
国民を集め、決起の挨拶をボクがする事になった。
たっぷり休んだし、身体の調子もバッチリだ。
出兵のため、騎士団と王国兵と志願兵が城の前の広場に集まる。
ボクたちは城のバルコニーで、国民を前に演説した。
『諸君!! これより王国軍は魔王城に向けて進軍する。そして、ボクがこの手で魔王を討ち取る!!」
我ながら絶好調だ。
未来の王の姿を見せつける。
『魔王を倒したら、ボクはこの国のため、そして彼女たちのために出来る事を考えた。それは……、この国の王になること。そして、彼女たち4人を妻に迎え、この国のために生涯を捧げようと思う!!」
ま、ウソでもそう言っておかないとな。
シャオたちは名誉の戦死を遂げる予定だ。
『アタシは、ユウヤに出会って変わった……、強くなれた。だから愛するユウヤと一緒に、命を掛けて戦い、共にある事を誓う!!』
『あ、あたしも~っ!! ユウヤがだ~い好きっ!!』
『私もです。ユウヤさんのために戦います!!』
『私の想いは、ユウヤさんと共にあります。戦う力がなくても、心は傍に』
くっさいセリフだ。鳥肌が立つ。
まぁ、抱き心地は悪くなかったし、そこそこ楽しかった。
最後に、ボクは何とか聖剣を抜いて国民に見せつけるように掲げた。
「……っ!?」
今までにない痛みが、聖剣を伝わってボクに襲い掛かった。
**********************
ボクは、この世界に来て勇者だって言われてた。
現に8匹の龍だって倒したし、聖剣は黄金に輝いていた。
だけど、どうして……どうしてなんだ?
「くそ、何で、何でだよ!! なんで聖剣がこんなに重いんだ!!」
「落ち着いてユウヤ、このままじゃ」
「黙れ!!」
剣が鉄の塊のように重かった。
刀身は黒く錆び付き、柄からは高圧電流が流れてる。
剣を離さなかったのは、ボクの意地だ。
勇者親衛隊とかいう連中は皆殺しにされ、シャオたちがボクを守る。
だけど、少しずつ押されていった。
「ゆ、勇者様は何を!? どうして戦わないんだ!!」
「おい、聖剣の色が黒くなってる……、どういうことだ」
「ま、まさか、勇者ユウヤは……」
そんな声が聞こえ、ボクは初めて気が付いた。
後方でモンスターと戦っていた兵士たちが集まってる。
そして、その中心にいるのが、あのアークだった。
『ハハハハハハッ!! 愚かな人間たちよ、このような偽りの勇者で、本当に我を倒せると思ったか!!』
偽りの勇者。
薄々気が付いていた。もしかしてボクは勇者じゃ無いのでは、と。
よりにもよって魔王に指摘され、ボクの目から涙が零れた。
「い、偽りの勇者って……、どういうこと!?」
「そ、そんなわけないよ~!! ユウヤは聖剣に選ばれた勇者なんだから~!!」
「皆さん!! 魔王の言葉に耳を傾けてはいけません!!」
「ユウヤさん、早く魔王を……」
なんでだ、なんでこうなった。
このままじゃマズい。殺される。
「う、うぅぅ……、うぁぁ……!!」
ボクは勇者。
この物語の主人公。
魔王をやっつける、みんなのヒーロー。
これこそボクが望んでたスリル。
この状況から逆転して、ボクはホントの勇者になる。
さぁ聖剣よ。ボクにチカラを。
「ぼ、ボクは勇者なんだ!! 選ばれた勇者なんだ!! 女神に愛された、聖剣の使い手の、ゆ、ゆ……勇者なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
さぁ、聖剣よ。ボクニ……チカラヲ……!!
『下らん。偽りに相応しい愚かな人間よ』
………ナニカガ、ボクノナカデ、クダケチッタ。
**********************
アレ、ココハドコ?
「ほにゃらげ?……ふげげ?」
クライ……マルデ、ロウゴク?
「哀れだ、実に哀れだ……。こんな姿になって……」
「団長、元勇者はもう……」
「ああ。精神が崩壊してる。魔術でも薬でも治らん、勇者アークの慈悲により、誇り高き英雄として終わらせる」
ユウシャ…………アーク?
「ふがぎゃぎゃ!? ほぎゃぎゃーーっ!!」
ユウシャハ………ボク、ダ!!
「押さえろ、一撃で終わらせる」
「は」
イヤダ、イヤダ、イヤダ……。
「さらばだ、元勇者ユウヤよ。8龍を屠りし貴殿は、確かに勇者であった」
ア…………。
**********************
ブルム王国王都ファビヨン。
王家の人間しか知らない地下の墓地。
そこに、1人の人間が眠っている。
決して語られる事なく、偽りの勇者と呼ばれた異世界の人間。
8龍を屠りし英雄として、その名は墓石に刻まれる。
偽りの勇者ユウヤここに眠る──────
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