16・偽りの勇者ユウヤ、その一生


 ボクの名前は|笠間裕也(かさまゆうや)。


 現在、高校2年生の17歳。

 自分で言うのも何だけど運動神経もいいし、女子生徒からもモテる。

 それに在席してるサッカー部ではエースでもあるし、勉強の成績も常にトップ。

 非の打ち所のない完璧超人だ。なーんてね。


 クラスではトップカーストの位置に君臨し、同じサッカー部に所属する仲間やクラスでも美人の女子生徒とツルんでいる。

 女子3人、男子3人のグループは同学年グループではトップレベルだ。


 ボクの父親は病院を経営し、母も有名な外科医として何度もテレビに出たことがある。

 おかげで小さい頃からお金に苦労したことはないし、それを目当てで群がる輩も確かに存在した。


 そんなボクは、欲望に忠実だ。

 欲しい物は何でも手に入れるし、強引な手も使う。

 それが物であれ人であれ、ボクの手に入らなかった物はない。


 現に、ボクがツルんでる女子3人も、ボクが手に入れたオモチャの1つだ。

 1人はボクの容姿に惹かれ、もう1人はお金に惹かれ、最後の1人は将来に惹かれた。

 ちょっと甘い声で囁やけばすぐにヤレる。3人は自分が本命だと思ってるが、甘い声で股を開くような女が本命のワケない。

 ま、別に本命がいるわけでもないけどね。


 そんなボクでも、なかなか手に入らない物がある。



 それは·········スリル。

 


 ダベって遊んで女抱いて、そんな代わり映えのない毎日では味わえないスリル。

 別に犯罪やクスリをしたいワケじゃない。

 そこまでの狂気ではなく、現実離れしたスリル。


 そう、ゲームのような世界。

 ボクの知恵、身体能力、容姿、設定なんて、まるでゲームの主人公のような立ち位置じゃないか。


 まぁ、現実世界じゃあり得ないのは分かってる。

 だからこそ、一度は夢見た。



 ま、ホントに行けるなんて思わなかったけどね。



 ********************



 朝起きて、パジャマのまま朝御飯を食べた。

 顔を洗って歯を磨き、制服に着替えるため部屋に戻る。

 制服に着替え、充電したスマホをポケットに入れ、部活用のユニフォームとスパイクの入ったカバンを掴み、部屋を出た。




 部屋を出た先は、異世界だった。




 「······え?」

  

 さすがに唖然としたよ。

 ドアを開けたら、得体の知れない広い空間だ。

 石造りの大きな広間に、足元は意味の分からない魔法陣が描かれ、手に握ったはずのドアノブの感触がない。


 そして何より驚いたのは、ボクの身体が黄金に輝いていたことだ。

 ぬるま湯が噴出してるような、オーラとでも言うのだろうか。

 まるでボクの身体の中に、強大なエネルギーが入り込み、それが溢れ出てきてるような、不思議な感覚だ。


 慌てて振り向くけど、自分の部屋はなかった。

 得体の知れない黄金のオーラが消えると、お伽話に出てくるようなローブを被った何人かが、突然ボクに対して頭を下げた。


 「勇者様······この国をお救い下さい‼」

 


 正直に言う。ボクはこの時点で興奮してた。



 ********************

 



 「······つまり、ボクは《勇者》で、この世界を脅かす《魔王ブリガンダイン》を倒すために呼ばれた······ってこと?」

 「その通りだ、勇者殿」


 ボクは現在、ブルム王国の城の謁見の間で、王様と向かい合っている。

 この世界の現状と、ボクがここに呼ばれた理由を聞かされていた。


 あの黄金のオーラは、どうやら《勇者》というスキルらしい。

 この世界に来たボクの中に入り込んだ、この世界最強のスキルだとか。


 ボクが呼ばれた理由。まぁ要は······「魔王退治してくれ勇者様‼ 呼ぶことは出来たけど帰る方法はない、その代わり魔王退治したら一生生活を保証する。それと王様にしてあげる‼」······って感じか。


 「わかった、いいよ。魔王を倒そうか」


 ボクの態度が気に触ったのか、騎士らしきオジサンが言う。


 「勇者殿······相手はこのブルム王国の王、些か態度という物が」

 「気に触ったかな? じゃあ謝るよ。それで、魔王はどこ? それにこういうのって素手じゃないだろ? 伝説の武器とかないのかい?」

 「·········勇者殿」


 おっと、騎士の声が低くなった。

 ボクも少し興奮してるみたいだ。自重しよう。


 「勇者殿。魔王は自身の眷属を8体生み出し、魔王城を守護する結界を張らせております。まずは8龍を討伐し、魔王城への道を開くべきかと」

 「なるほど。そりゃ面白い」

 「それと、龍は8体。さすがの勇者殿でも、お一人では厳しいかと。そこで魔王討伐の仲間を」

 「いいね。それでどんな子だい?」

 「は。それでは騎士団からよりすぐりの精鋭を選び、勇者殿の補佐として」

 「ちょっと待った」

 「はい?」

 

 イヤな予感がするな。

 騎士団って言ったら男だろ? 

 まさか、ムサイおじさんと旅しろってんじゃないだろうな。


 「あの、さ。補佐はまだいいや。とりあえず、もっといろいろ教えて欲しいな」

 「······わかりました。では、王宮魔術師を手配しますので、部屋でお待ち下さい。魔王についての知識と、聖剣について学んで頂きます」

 「ああ、わかったよ」

 

 こうしてボクは城の部屋に案内された。

 部屋は豪華でベッドも広い。机やソファーなんかも高級感溢れてるし、調度品もキラキラしてる。

 椅子に座っていると、1人の少女が入ってきた。


 「失礼します勇者様。私は王宮魔術師のナルフェ、勇者様の専属教師を担当させて頂きます」

 「······ああ、宜しくね」


 いいね、かなりの美少女だ。

 歳は同じくらいでスタイルもいい。これは是非味わいたい。

 だけど、まずは知らなきゃいけないことが山ほどある。


 ナルフェから教わったのは、《スキル》という特殊能力。そして、この世界を作った《女神アスタルテ》

 スキルは、この世界では誰もが持つ当たり前の能力らしい。

 驚いたのは、召喚の儀式を行ったのは、今回が初めてということ。それと、かつての勇者の仲間が持つ《スキル》は、勇者の誕生と共に現れるということだ。

 つまり、ボクが現れたことで勇者パーティーの《スキル》は誰かに現れたということだ。


 「確かに。この世界に来たとき、女神アスタルテから啓示を受けた。かつての勇者パーティーの《スキル》を持つ仲間を探せ、とね」

 「そ、それは本当ですか⁉」


 もちろんウソだ。

 けど、これでむさ苦しいオッサンと旅することは避けられる。

 

 それにしても、《勇者》のスキルか······。

 じゃあ|これも勇者の力なのか(・・・・・・・・・・)?


 「なぁナルフェ······もっと教えてくれないか?」

 「······え、あ」

 「この世界のこと、聖剣のこと、魔王のこと、そして······キミのこと」

 「·········あ、は、は······い、いえ、今日はここまでにしましょう。ではまた明日にっ‼」


 ナルフェは顔を真っ赤にして走り去った。残念。 

 でも、これで分かった。ボクのスキルは2つある。


 《勇者》と、《魅惑の瞳》


 よくわからないけど、これは使える。

 どうやらボクの瞳を見た者を、虜に出来るようだ。

 だけど、一度見ただけじゃ弱い。何度か魅せる必要がある。


 正直なところ、《勇者》よりも《魅惑の瞳》のほうがしっくり来る。むしろ、勇者のスキルは違和感を感じる。なんでだ?


 「く、くく······これが、ボクの望んでたスリルか」


 魔王を倒せば王の椅子。

 この瞳を使えば、ハーレムだって不可能じゃない。

 

 不思議と帰りたいとは思わなかった。

 むしろ、この世界をボクのモノにしてやりたくなった。



 「くくく、これじゃボクが《魔王》じゃないか」



 ********************



 次の日。

 案内されたのは、城の地下宝物庫だった。

 どうやらここに聖剣が眠ってるらしい。


 頑丈な鉄のドアが開かれた先、台座に刺さってる1本の剣があった。

 だが、錆びてボロボロ、どう見ても聖剣というより朽ちた剣だ。

  

 「勇者殿、聖剣を手に」

 「······はい」


 騎士団長がボクを促す。

 正直、あんなボロ剣を触りたくない。

 手が切れて破傷風になったらどうするんだ。


 ボクはイヤそうな顔を悟られないように剣の柄を握り、引き抜いた。

 そして、驚いたよ。



 「お、ぉぉぉっ⁉」



 剣が黄金に輝き、姿が変わった。

 錆びてボロボロの剣は、輝くような銀の刀身に、装飾の施された柄と鍔に生まれ変わった。

 ま、聖剣だしテンプレだな。


 「おお、聖剣が······‼」

 「美しい、あれが『聖剣アンフィスバエナ』‼」

 「勇者、あれが勇者の剣‼」


 みんな騒いでる。

 ま、当然だよね。でも、なんだろうか?


 「······ん?」



 柄を握る手が、ピリピリした。



 ********************



 剣を抜いた後は、勉強の時間。

 国の歴史や文化などを学び、この世界の常識を知る。


 ナルフェは昨日のことを気にしてるのか、顔が赤い。

 ボクは《魅惑の瞳》を発動させたまま勉強した。

 そして、チャンスはようやく来た。


 「ナルフェ、こっちを向いて······」

 「······だ、ダメです勇者様、見ないで······」

 「ダメ、こっちを向いて」

 「······あ」


 ボクはナルフェの顔を掴み、優しく目を合わせる。

 ナルフェの顔は赤みが増し、とろけるように細められた。


 「ナルフェ、キミのことを教えてくれ······」

 「······はい、勇者さま······」


 

 さて、今日の勉強はここまで。あとはベッドだな。



 ********************



 それから1ヶ月、ボクは城で生活した。

 かつての勇者パーティーが使ったスキルを持つ継承者を探してるらしく、その間にボクは自身のスキルを磨いた。


 《勇者》のスキルは身体能力増加と、聖剣による黄金のオーラの攻撃の二つ。

 これは鍛えなくても強い。一度城の外で全力で放ったが、広範囲に渡って地形が変わってしまった。


 なのでボクは《魅惑の瞳》を鍛える。

 最初はナルフェを実験台にしていろいろ試した。

 ○操られている間の記憶が残ること。

 ○ボクの意思で自由に解除出来ること。

 ○解除した瞬間に操られていた間の記憶が戻ること

 ○記憶や感情の操作が出来ること。


 など、これは洗脳に近い能力だ。

 城のメイドや若くて可愛い王宮魔術師なんかを片っ端から食い、ボクは能力をモノにした。

 何人か妊娠したが、城下町で暴漢に襲われたという記憶を刷り込んで誤魔化した。

 さすがに旅すらしてないのにパパになるのはゴメンだ。

 ナルフェも妊娠し、王宮魔術師から外され実家に帰っちゃったしね。


 そして、ついに見つかった。

 勇者パーティーのスキルを持つ、旅の仲間が。


 まぁ、むさ苦しいオッサンと旅するよりは、若いほうがいい。

 《スキル継承の儀式》は対象が子供だし、若い女の子がいれば御の字だ。


 だけど、女神様はボクの味方らしいね。


 「勇者ユウヤよ。彼女たちが『勇者』パーティのスキルの継承者だ」

 「はい。一目見て分かりました。この出会いはきっと運命なんだって」


 本当にそう思ったよ。

 金髪の美少女姉妹、黒髪ロングの美少女。

 まさかこんなにも食べ応えのありそうな美少女たちが、勇者パーティーのスキル持ちだなんてね。


 だけど、ボクは見た。

 美少女3人の視線は、ボクではない誰かを見てるのが。

 ボクよりも年下の少年を見てるのがわかった。

 

 なるほどね。

 どうやらテンプレの展開らしい。

 あの少年は幼なじみと言ったところだろうか。少なくとも、彼女たちの関係者なのは間違いない。

 だったら、ここで言っておくか。


 「聞いてくれ、ボクは異世界から来た『勇者ユウヤ』だ!! この世界に現れた魔王を倒すためにやって来た!! 彼女たちに伝説のスキルが発現したのは偶然じゃない、この世界をボクと共に救えという《女神アスタルテ》の啓示なんだ!!」


 彼女たちの逃げ道を塞ぐ。

 ボクと旅をしなければならないと、周囲に知らしめる。


 「ボクは宣言する!! 魔王城を守護する8体の龍を倒し、魔王を討ち取ると!! この世界の平和のために勇者として戦い、彼女たちと旅に出ると!!」

 「え、えぇ!? あ、アタシたち!?」

 「うっそ~!?」

 「そんな……ま、まさか。……兄さん」


 案の定、困惑してる。

 だけどもう遅いよ?

 大聖堂の外にも、観客は揃った。


 「見てくれ、この『聖剣アンフィスバエナ』を!! 女神より賜りし聖剣を!!」


 ボクは聖剣を掴み、発光させる。

 ピリピリと手が痛むが、今は耐える。


 「お、おぉぉ……これが勇者の聖剣……」

 「伝説の勇者パーティーの復活、そして魔王退治……」

 「魔王が復活しても、この勇者なら……!!」


 

 さて、これで準備は整ったね。



 ********************



 騎士団長が少女たちに、現状を話している。

 少女たちのスキルは、かつて魔王を討伐した勇者パーティーの物であり、魔王を討伐するために力を貸して欲しいと。

 

 「·····つまり、アタシたちに力を付けろと、そんで勇者サマの旅に同行しろってこと?」

 「お、おねえちゃ〜ん。わたし、こんなスキル要らないよ〜」


 金髪ポニーテールのシャオが苛立ち、金髪ツインテールのファノンがシャオの影に隠れる。


 「話は理解出来ましたが、私たちはただの平民です。強力なスキルが発現しようと、勇者様のパーティーなら、優秀な方がいくらでも居るのでは? それこそ騎士団の中にでも」


 黒髪ロングのローラが言う。

 どう見ても乗り気じゃないね。むしろ明確な拒否だ。

 でも、こんなチャンスを諦めるワケないだろ?


 

 「無理を承知で頼む。キミたちは、ボクの運命の人たちなんだ」



 ボクは、《魅惑の瞳》を全開にして話しかけた。


 「······っ、そ、そうだとしても、関係、ないし」

 「······う、うん」

 「······も、申し訳、ないですが」


 くくく、効いてる効いてる。

 目を逸らしたけどもう遅いよ。

 一度この目を見たら、術中に嵌ったも同然。

 ボクへの好意を植え付けたから、あとはじっくり育てるだけ。


 「そ、そうだ。アーク、アークが行くなら······」

 「う、うん。アークが、いれば」

 「そう、ですね。兄さん······」

 「へぇ、アーク、ね」


 どうやら、彼女たちの支えの少年らしい。

 ボクは目を解除して彼女たちに向き合う。


 「とりあえず、外に出ようか」

 

 アークとやらが外に居るのは把握済みさ。

 彼女たちはボクから離れるように外へ。

 すると、案の定だね。

 

 「兄さん、待っててくれたんですね」

 「あの、アーク······」

 「アーク〜っ」


 アークはじゃれつくファノンの頭をなでてる。

 どうやらよほど懐かれてるようだ。ふん、気に食わないね。

 騎士団長の話だと、このアークのスキルは《輝く盾》だったな。······丁度いい。


 「キミがアークか。ちょうどいい、キミに頼みがある」

 「······勇者サマが俺みたいな平民に頼みですか?」

 「ふふ、そう自分を卑下しないでくれ。キミのスキルである《輝く盾》は、なかなか便利なスキルだ。良かったら8龍退治に同行してくれないか?」

 「······え?」


 盾。いいね、ピッタリじゃないか。

 決めた。コイツはボロボロになるまで使ってやる。

 シャオたちをコイツの前で寝取ってやる。


 「兄さん、私からもお願いします」

 「お願い、アーク。アタシたちだけじゃ不安なの、いくら強いスキルでも、どうなるかわからないから······」

 「アーク、お願い〜っ‼」

 「みんな······」


 やはり、アークはシャオたちの特別らしい。


 「わかった。俺も同行させてもらうよ」

 「よし決まりだ。ではこれから1ヶ月、城でスキルを磨く訓練に参加してもらう」


 

 さぁて、タップリと|洗脳(くんれん)してやるか。



 ********************



 シャオたちのスキル発現の訓練は、ボクが自ら指導した。


 まぁ簡単だった。

 洗脳もかけ放題だったし、毎日目を合わせて洗脳をかけたからね。

 それでも意外なことに、城の誰よりも強い意思を持っていた。



 「シャオ、良かったらボクの部屋に来ないか?」

 「······っ‼ ご、ゴメン、今日は、帰るね」

 「そう? 遠慮しなくてもいいのに」

 「う、ううん、また今度ね······っ」



 「ファノン、調子はどう?」

 「う、うん。ユウヤのおかげで武具は出せたし、弓の使い方もバッチリ〜」

 「そう。困ったことはない?」

 「う、うん。ゴメン、おねえちゃんの部屋に行くから、またねっ‼」



 「ローラ、だいぶ上達したね。もう立派な魔術師だ」

 「あ······ありがとう、ございます」

 「良かったらボクの部屋に来るかい? 前の王宮魔術師が置いて行った魔術書があるんだけど」

 「······いえ、遠慮しておきます。では」



 と、常に《魅了の瞳》を開けた状態なのに、彼女たちは抵抗する。

 アークは騎士団の訓練に放り込んであるから、シャオたちとは一切会えないはずなのに。



 ここは1つ、荒療治と行くかな。



 ********************



 ボクたち5人は国の外へ来ていた。

 目的は、実際のモンスター退治と連携の訓練。


 ボクが最前線、ファノンが中距離援護、ローラは後方魔術支援、そしてシャオが前線中距離。ようはファノンとローラの護衛であり、ボクのアシストだ。


 そして今回、新たな女性が着いてきた。


 「ごめんねフィオ姉、危ないのに〜」

 「いいのよファノンちゃん。私は薬師だから。それに、みんなが心配だしね」

 

 ゆるふわ金髪ウェーブのフィオーレ。

 薬師が同行するって聞いたけど、まさかシャオたちの推薦で、こんな美少女がくるとは。

 しかも同級生で、このスタイルだ。

 当然ながら、《魅惑の瞳》で挨拶する。


 「ありがとうフィオーレ。助かるよ」

 「う、うん。······あはは、照れるわねぇ」


 よし、種蒔き完了。

 あとはじっくりと育てて実らせるだけ。


 とりあえず、何体か雑魚モンスターを狩る。

 今の彼女たちでは楽勝レベル。もちろん傷1つ追わずに戦闘は終わる。

 さて、ここからだな。


 「よし、あそこの林へ入ろう」

 

 ボクが先頭を歩くから、みんなは当然着いてくる。

 さて、ここからが本番だ。


 「な、ねぇユウヤ······ここは、マズいわよ」

 「同感です、イヤな感じが······」

 「ふぃ、フィオねぇ〜」

 「だ、大丈夫よファノンちゃん。ユウヤがいるから」


 お、フィオーレも呼び捨てになったか。

 どうやら精神的に不安だと、洗脳がかかりやすいようだな。


 そして、ついに来た。



 『グゥルルルルルル······』



 獰猛なモンスターの唸り声。

 来た来た、コイツを待ってたんだ。


 「な、なに······⁉」

 「ユウヤ、逃げましょう⁉」

 「ユウヤぁ〜っ‼」

 「ゆ、ユウヤ、怖い······」


 いいね、恐怖がブレンドされていい感じになってる。

 当然だけど、ボクは魅了の瞳でみんなを見る。


 「大丈夫、ボクがいる‼」


 聖剣を抜いて構える。

 そして、のっしのっしとヤツは現れた。


 『グァォォォォォォォォっ‼』


 現れたのは、ベヒーモスという化物。

 ここはベヒーモスの巣で、王国が立ち入り禁止してる場所だ。


 「みんなっ、ボクから離れるなよっ‼」


 魅了の瞳、全開。

 さて、まずはこの雑魚を始末する。


 「ゴールデンスラッシュ‼」


 黄金のオーラがベヒーモスを両断。消滅した。


 「ふぅ······。みんな、平気かい?」

 

 ありゃ、みんな腰抜かしてる。

 まぁしょうがないか。どんなに強力なスキルを持っていても、少し前まで平民だった彼女たちに、ベヒーモスは強烈すぎた。


 「立てるかい?」

 「う、うん。ありがとう、ユウヤ」

 「その、ありがとうございます。ユウヤ」

 「ユウヤ、スゴくカッコよかったわ。ありがとう」

 「はは。みんな無事でよかった。······ファノン?」

 「······うぅ〜」


 あらら。ファノンの股間から湯気が立っている。

 それに涙目。ヤバい、今すぐ部屋に連れ込んでメチャクチャにしたい。

 

 「······ほら、乗って」

 「で、でも。汚いよ」

 「いいから、ほら」

 「······うん。ごめんね」  

 「違うって。こういうときは「ありがとう」だろ?」

 「ユウヤ······。うん、ありがとう」


 チッ、汚いけど仕方ない。

 これで洗脳はほぼ完璧。みんなの心はボクの物。



 あとは、アークを忘れさせるだけだ。



 ********************



 翌日から、シャオたちは変わった。

 ボクから一歩引いたような態度は消え、ずっと昔からの親友のように接してくるようになった。

 試しにシャオを部屋に誘ってみると。


 「シャオ、よかったら部屋に来るかい?」

 「ば、バーカ‼ そういうのはまだ早いっての‼」

 「あはは、じゃあ何時ならいいんだい?」

 「う······と、とにかくまだダーメっ‼ このスケベっ‼」


 明確な拒否ではない。

 ローラやファノンも似たような反応だし、もう魅了の瞳は必要ないくらい洗脳出来た。


 そして嬉しいことに、フィオーレが旅に同行してくれる。

 薬師として同行すると、自ら申し出て来た。

 当たり前だが、ボクは許可した。


 

 それから旅の出発まで、シャオたちと過ごした。



 ********************

 


 そして、出発の日の朝。

 シャオたちの心はもうボクの物と言っても過言ではない。

 

 城の前の広場に、勇者パーティー専用の馬車が停まっている。

 その近くに、王国兵が装備する鎧と剣を纏ったアークがいた。

 

 その目はわかるよ。

 シャオとローラの距離が、近いからだろう?

 

 「あ、久しぶりアーク、ちょっとは強くなった?」

 「さぁ、どうだろうな」


 そっけないねぇ。気になってしょうがないんだろ?

 そして、キョロキョロと辺りを見る。


 「ファノンなら、フィオーレ姉さんを迎えに行ってますよ」

 「え、何で⁉」

 「フィオーレは薬師として旅に同行するのさ。回復薬のエキスパートがパーティーには必要だからね」

 「あ、そ」


 くくく、何を考えてるのかすぐに読める。

 どうせ「呼び捨てかよ」とでも思ってるんだろ?


 「ねぇユウヤ。最初の目的地は?」

 「最初は赤龍の巣を目指そう。シャオ、ローラ、頼りにしてるよ」

 「任せて下さいユウヤ。私の魔術で、貴方をサポートします」

 「あ、アタシだって強くなったもん‼」

 「ははは、頼りにしてるよ2人とも」


 ボクは2人の肩を叩いて激励する。

 アークの表情が驚きに変わる。実に楽しい。


 「お〜いユウヤ〜っ‼」

 「遅れてすみませ〜ん」


 ファノンとフィオーレが来た。

 ファノンはボクにじゃれつく。かつてアークにしてたように。


 「ねぇユウヤ、フィオーレ姉さんを連れて来たよ」

 「ああ。ありがとうファノン」

 「えっへへ〜」


 ボクはファノンの頭を優しくなでる。

 ファノンは嬉しそうに笑い、アークの方なんて見やしない。


 「アークくん」

 「あ、フィオーレ姉さん。姉さんも旅に」

 「荷物をお願いしていいですか? 馬車がありますので」

 「え、あ、うん」


 フィオーレの荷物を受け取ったアークは、馬車に荷物を積む。


 「何だよ、これ」


 聞こえてるよ、アーク。

 1ヶ月前とはまるで違う。ローラたちの位置はかつてのアークがいたポジションだ。


 「さぁ出発しよう。アーク、御者は出来るね?」

 「え? あ、ああ」


 アークの役目は雑用係、そして御者と緊急時の盾。 

 ま、可愛い彼女たちを譲ってくれた礼に、命くらいは守ってやろう。

 緊急時には役目を全うしてもらうけどね。


 「最初の目的地は赤龍の巣だ。王都の南にある火山へ向かおう‼」

 「オッケー、アタシの剣を見せてあげる。任せてよユウヤ‼」

 「どんな敵でも魔術で吹き飛ばして見せます。見てて下さいユウヤ」

 「あたしの矢は絶対命中〜っ‼ ユウヤのアシストはお任せ〜っ‼」

 「薬に関しては私にお任せ下さい。ユウヤにそんな心配はなさそうですけどね」


 ボクたちは馬車に乗り込む。

 すると、誰がボクの隣に座るか揉めはじめた。

 アークは半分放心状態で御者席に座り、火山に向けて馬を走らせた。



 これは、「初めて」を頂くまでもう少しかな。



 ********************



 やって来たのは赤龍の巣。というか火山。

 ここに赤龍がいるらしいが、普通にモンスターもいた。


 「アーク、盾っ‼」

 「た、たた、盾よっ‼」


 苛ついたようなシャオの声。

 案の定、使えないアークにみんな苛ついてる、


 相手は二足歩行の赤いブタ。名前はレッドオーク。

 手には棍棒を持ち、がむしゃらに振り回している。


 「アーク邪魔っ‼ どいてっ‼」

 「わ、悪いっ」


 ファノンの弓の斜線上にアークは立っていたようで、聞いたことのないようなファノンの怒号でその場から離れる。


 「ユウヤっ‼ お願いっ‼」

 「兄さん、どいて下さいって言ってるでしょう、邪魔ですっ‼」


 アークは連携の訓練生なんてしていないし、この結果は当然だろう。

 むしろ、こうなることをボクは知っていた。


 「ユウヤっ‼ トドメですっ‼」

 「おォォォォっ‼」


 聖剣の一撃が、オークを縦に両断。

 相変わらず聖剣を使うと手がピリピリする。


 「ナイスユウヤ‼ さっすがね‼」

 「それに比べて······、兄さん‼ 貴方は何をしてるんですか‼ 戦闘もロクに出来ないのに、前に出ないで下さい‼」

 「もぅアーク、うっざいよ〜?」

 「わ······悪い」


 なんか憐れになってきた。

 ま、ここは利用させてもらうけどね。


 「アーク、怖いのは分かるけど、力を抜いて戦うんだ。ガチガチのままだと、イザというときに動けないからね」

 「ああ······ありがとう」

 「ユウヤさん、怪我はありませんか?」

 「平気だよフィオーレ。ありがとう」


 さて、火山の最奥に赤龍はいる。

 正直、聖剣とボクの敵じゃないけどね。


 そして、赤龍は現れた。

 真っ赤な体躯に大きな翼、鋭い爪に太い手足。予想通りの化物だ。


 「さぁ、勇者ユウヤの聖剣、見せてやるっ‼」


 ボクは飛び出し、シャオも続く。

 ローラは呪文を詠唱し、ファノンは矢を番え構える。

 フィオーレは岩場に隠れ、怪我をしてもいいように薬を準備していた。


 そしてアークは······恐怖で足を竦ませていた。

 そんなアークを見た赤龍は、口から真っ赤なブレスを吐き出す。

 見殺しにしてもいいけど、アークはまだ利用出来る。

 それに、これは絶好のチャンスだ。


 「マズいっ‼ アーク、盾を出せっ‼」


 ボクの指示。

 しかしアークは動けない。これでいい。


 「クソっ‼ はぁぁぁっ‼」


 ボクはブレスの前に割り込む。

 そして、思わず声に出してしまった。




 「|これで彼女たちは(・・・・・・・・)|ボクのモノだよ(・・・・・・・)」





 ニヤリと笑い、聖剣でブレスを弾く。

 聞こえてくるのは、シャオたちの叫び。

 

 「ユウヤっ‼」

 「ユウヤっ、避けて下さいっ‼」

 「ユウヤぁ〜っ‼」

 「ユウヤさんっ‼」


 だけど、赤龍のブレスは意外と熱くて重い。

 少しマズいかなと思ったけど、背中が温かくなるのを感じると物凄い力が溢れてきた。

 ボクはそのまま剣を振るった。


 「はぁぁぁぁっ‼ ゴールデンスラッシュっ‼」


 聖剣が莫大な閃光を放ち、まるで刃のように放出され、赤龍の身体を両断した。



 8龍の1体、赤龍は討伐された。



 ********************


 

 

 「しゃ、シャオ」

 「こんのっ、役立たずっ‼」

 「っ⁉」


 おお痛そう。まさかグーで殴るなんてね。

 アークはそのまま仰向けで倒れる。


 「ユウヤは、ユウヤは勇者なのよ⁉ ユウヤに何かあったらどうすんのよっ‼」

 「その通りです。兄さん、なぜ盾を出さなかったのですか?」

 「そ、それは」

 「ホンっとうっざい〜っ‼」

 「ユウヤくん、怪我はないですか⁉」


 さて、ここまで責められればもう安心だろう。


 「みんな、アークを責めないでくれ」

 「で、でもコイツは‼」

 「いいんだ。赤龍は強かった。ボクも恐怖を感じた、でも、仲間を守るためなら動くことが出来た。アーク、怪我はないかい?」

 「······」


 アーク、キミはもう彼女たちの心から消えた。

 ボクが洗脳を解かない限り、もう彼女たちはキミを許さないだろうね。


 「さぁ、帰ろう。王国に帰還して次の龍を倒しに行こう


 ボクたちは近くの町で一泊し、次の日に王国へ帰還する。

 よし、今日は勝負を掛ける。



 彼女たち4人、そろそろ味わおうかね。



 ********************

 


 食事が終わり、当たり前のように彼女たちはボクの部屋へ集まった。

 

 「みんな、大事な話がある」


 シャオはジュースを飲む手を止め、ローラは魔術書を読むのを止め、ファノンはベッドで転がるのを止め、フィオーレは薬草をすり潰す手を止めた。


 「どうしたの? 大事な話?」

 「ああ。赤龍を討伐したからあと龍は七体。今日戦ってわかったけど、龍はボクの敵じゃない。きっと魔王も」

 「そ〜だよ〜っ‼ ユウヤは最強だし〜」

 「うん。だから、これからのことを話したい。キミたちに」

 「私たち······ですか?」

 「そう。ボクは魔王を討伐した暁に、ブルム王国の国王になることが決まってる」

 「そうですね。ユウヤが王様かぁ······」


 さてアーク、キミに恨みはない。

 でも、敢えて言わせてもらう。ゴメンね。



 「ボクが国王になったら、キミたち4人を妻として迎えたい」



 ま、当然だけど4人とも了解してくれた。



 ********************



 この日の夜。4人の初めてを頂く。

 全員が生娘で、どれも味わい深い身体をしてる。

 

 これならいくらでも楽しめる。

 王になって傍に置いておけば、好きな時に抱ける。

 

 アークもバカなヤツだよ。

 こんな上玉を抱かずに置くだけ置いて、誰も食べずに眺めるだけなんてね。


 ま、もう遅いよ。

 これで洗脳を解いたらどんな反応をするだろうか。

 シャオはアークを愛してたし、ローラもずっと好きみたいな感じだった。

 ファノンはまだ自覚がないようだけど気にしてたし、フィオーレも心から愛してるようだった。


 洗脳を解いて耳元で言ってやりたい衝動に駆られる。

 愛するアークを裏切って、ボクに身体を捧げてくれてありがとうってね······。


 

 こうしてボクは、アークの幼なじみたちを寝取ってやった。


 

 ********************



 ブルム王国へ帰還し、アーク以外は城へ向かう。

 赤龍の討伐を報告すると、王様や王妃様は大喜び。

 次の龍を探し出すまでの間、のんびりすることになった。


 シャオたちは自宅に帰ろうとしなかった。

 ボクへの依存心を上げてあるから、ボク以外はどうでもいい存在になっている。


 城の自室に彼女たちを招き、朝から晩までタップリ交わる。

 味わい初めたばかり、まだまだこれからだ。


 「ねぇユウヤ、誰が第一王妃になるの?」


 シャオが裸でボクにしなだれかかりながら質問する。

 というか、全員が裸だけどね。

  

 「それはわたしでしょ〜?」

 「ち、違います、私です‼」

 「あらあら? てっきり私かと思ったけどねぇ?」


 裸の美少女たちが、ボクを取り合う。

 なんて美しい光景だろう。何度もしたのに、息子が硬くなる。


 「まぁまぁ、誰が一番とかじゃない。みんなが王妃ってことが大事なんだよ」

 

 ボクは4人纏めてベッドに引きずり込み、全員を愛した。


 ヤバいな。洗脳を解いてみたい。

 アークのことを思い出させたら、どうなるんだ?

 愛するアークじゃなく、ボクにタップリ抱かれたなんて知ったら、彼女たちはどういう反応をするんだ?


 ゴクリと唾を飲み込む。

 ボクはこのとき、どんな顔をしてたのだろう。


 「ユウヤ?」

 「·········なに?」

 「なんか、楽しそう」



 シャオの言葉に、ボクは背筋がゾクリとした。



 ********************



 性に溺れながら過ごすこと数日。次の獲物である青龍が見つかった。

 ボクはこの間もシャオたちを抱き、城にいたメイドや若い魔術師なんかも虜にして遊んでいた。

 

 シャオたちはまだまだ楽しめる。

 時間を掛けてゆっくりたっぷり味わおう。

 

 王様たちに挨拶をして町に買い物をしてから向かう。

 集合場所は町の広場で、アークが馬車を用意して待っているハズだ。

 一応、個別行動の予定だったんだけど……。


 「………で、なんでみんな着いてくるんだ?」

 「ま、いいでしょ? せっかくだしユウヤと町を歩きたいし」

 「そーそー。えっへへ~」

 「旅に必要な道具はアークさんが準備してるので、個人の物を買いましょう」

 「そうね。私も行きつけの道具屋さんで、薬草の採取キットを買いたいなぁ」

 「………そうだね」


 ウザいな。

 コイツらの身体は好みだが、性格はうっとうしい。

 旅が終わって挙式を挙げたら、奴隷みたいな性格にしてボクに逆らえないように調教してやる。


 「じゃあみんなで行こうか」


 全く不本意だが、5人で町を歩く。

 せっかく1人になれると思ったのに、クソ。


 「ねぇユウヤ、アタシ、新しいリボンが欲しいな」

 「はは、買ってあげ…………」


 ボクの動きが止まった。

 冗談抜きで、電流が身体を駆け抜けた。

 心臓を中心に電気が走り、肉体が硬直した。


 「ユウヤ? どうしたんですか?」

 「ユウヤ~?」


 ローラとファノンが何か言ってるが、ボクの耳には入ってこない。

 ボクの目は、1人の少女に釘付けだった。


 「………奴隷ですか? ユウヤ」

 

 ボクの視線の先には、薄汚い奴隷の少女。

 奴隷商人だろうか、男に連れられ建物の中へ連れて行かれる寸前だった。

 断言する。少女はボクを見ていた。


 「ちょっ、ユウヤ!?」


 ボクは走り出し、少女の手を掴んでいた。

 奴隷商人はボンヤリしたようにボクを見る。


 「あ、あの……この子は?」

 「ああ、奴隷? だよ。うん、買うかい?」

 「え、ええ」

 「えっと……あれ、この子はいくらだっけ?」

 

 奴隷商人は首をかしげながら少女をみてる。

 まるで身に覚えがないような仕草で、少女を見た。


 「えっと……10万でいいよ。うん」

 「は、はい」

 「ちょっとユウヤ!! どうしたのよ!!」


 シャオが何か言ってるがどうでもいい。

 ボクはお金を払い、少女を買った。

 少女の手を引き、シャオたちの元へ。


 「ユウヤ、どうしたのですか? そんな小汚い子を買って……」

 「え、ええと……。うん、アークの補佐に付けようと思って。1人じゃ大変だろうしね」

 「そうなんですか? なにも奴隷じゃ無くてもねぇ……」


 わからない。

 何故こんな薄汚い少女を買ってしまったんだ?

 胸の奥が、心臓が、身体の全てが揺さぶられるような感覚に、抗えなかった。


 「と、とにかく行こう」


 ボクは少女の手を引きながら歩き出した。

 少女は何かをブツブツ呟いていたが、特に気にしなかった。




 「…………修正プログラム起動」



 **********************



 少女はユノと言うらしい。

 何度か話しかけたが、一切ボクと目を合わせなかった。

 それどころか、アークに懐きシャオたちとも殆ど喋らない。

 

 あの時、ボクを襲った感覚は何だったのだろうか。

 気にはなるが、あの時以外一切同じ感覚は来なかった。


 そしてユノが加入して約1年。

 龍も残り3体となり、相変わらず城でシャオたちを抱いていた。

 正直なところ、飽きてきた。


 そこでボクは面白いことを思いついた。


 全ての龍を倒し、魔王を倒すまでシャオたちを食べ続け、魔王との戦いで洗脳を解く。

 アークの存在を思い出させ、たっぷりとボクに抱かれたことを思い出させてから葬るのだ。

 もちろん、魔王のせいに見せかけて。


 とりあえず王になれば、妃なんていくらでも見つけられる。

 国民には、妃たちは名誉の死を遂げたと伝えればいい。


 そして、6匹目の緑龍と、7匹目の白龍が同時に見つかった。

 流れとしては、まず緑龍を葬り、そのまま白龍を葬る。

 そして最後の紫龍を葬れば、魔王城の結界が開かれる。


 そして緑龍の元に向かう最中に、それは起きた。



 「緑龍だっ!! 降りろっ!!」



 アークの叫び。

 普段はまるでどうでもいいが、今回は別だ。

 何故なら、馬車の窓から見える緑龍は、ブレスを吐く体勢に入っていた。

 

 「盾よっ!!」


 アークが盾を展開し、ユノを抱えて飛び降りようとしてる。

 マズいな、こっちはようやく馬車のドアを開いた所だ。

 仕方ない。アークはここで切り捨てるか。

 

 「アーク、そのままだっ‼」


 ボクはアークに向かって叫ぶ。

 アークは信じられないようにボクを見る。おっと、つい笑みが。


 ボクたちは馬車を降り、ボクは聖剣を発光させて緑龍に斬りかかる。

 緑龍のブレスは馬車を粉砕し、アークたちも吹っ飛んだ。

 アークたちに向かってブレスを吐いた緑龍は隙だらけ。

 そのまま一刀両断。緑龍を討伐した。


 「いやぁ驚いたよ。まさかここに緑龍がいるとは」

 「でもラッキーじゃん。町から近い森だし、馬車がなくても歩いて帰れるしね」

 「はい。これで残りは2体。あと少しですね」

 「よ〜し、町に帰って祝勝会だね‼」

 「ふふ、荷物は無くなりましたが、問題ないですね」


 シャオたちも怪我はない。まぁどうでもいいけど。

 すると、近くで悲鳴が上がった。


 「ゆ、の············ユノォォォォっ‼」


 そちらを見ると、血溜まりに沈むユノが居た。

 腹部に大きな木片が突き刺さり、どう見ても致命傷だ。


 「フィオーレ姉さん‼ くすり、薬をくれ‼ ユノが死んじまうっ‼」


 バカだな。薬でどうにかなるワケが無い。

 それに、薬なんてブレスで吹っ飛んだろうが。

 血溜まりに沈むユノを見て、ボクは思った。


 「あちゃ〜、残念だけどもうムリね。アーク、ちゃんと埋めてから来なさいよ」

 「ユウヤ、町へ帰りましょう。今から帰れば夕方には着くでしょうしね」

 「な〜んかお腹減ったぁ〜、ご飯にしよ?」

 「しかし、食材も全て無くなりましたし、早く帰るしかないですね」


 やっぱり感じない。

 ユノはただの奴隷少女だったようだ。


 「……う〜ん。今の彼女には何も感じないな? まぁいいか。アーク、先に戻ってるから気の済むまでお別れしてくれ。それじゃ」


 取りあえず、近くの町に帰ろう。

 荷物は全部ダメになったけど、この場所で緑龍が現れたのはラッキーと考えておこう。

 次の白龍の巣まで近いし、ここから町まで歩けば夕方には着く。

 ボクたちはアークを残し、町まで歩き出した。



 さて、さっさと帰ってシャオたちを抱こう。



 **********************



 宿屋に併設されてる酒場で食事を楽しみ、この町の冒険者たちと酒を飲む。

 途中、帰ってきたアークがヒドい顔をしてたけど、まぁどうでもいい。

 

 その日の夜。

 アークのすすり泣く声をBGMに、シャオたちを抱く。

 いい加減に飽きてきたけど、隣で泣いてるアークが聞いてると思うと興奮した。


 そして次の日の朝。

  

 「おはよ~……」

 「おはようファノン。ほら着替えて」

 「は~い。あさごはん~……」


 ボクは着替えて装備を身につけ、腰のベルトに『聖剣アンフィスバエナ』を差して気が付いた。


 「………ん?」

 「どうしたんですか、ユウヤ?」

 「あ、いや……なんでもない」



 聖剣が、いつもより重く感じた。



 **********************



 完全におかしいと感じたのは、白龍を退治してからだった。


 「何だ、コレは……」

 「ユウヤ?」

 「どうしたんですか?」


 シャオたちの声は耳に入らない。

 聖剣がどんどん重くなり、切れ味も鈍くなる。

 黄金の発光が弱くなり、柄の部分を持つとバチバチ痺れた。

 

 まるで聖剣が、ボクを拒んでいるようだった。


 「そんなバカな、ボクは勇者だぞ?」

 

 ボクは自分に言い聞かせた。

 その後も聖剣の重さはヒドくなる一方だった。

 紫龍との戦いでは、持ち上げるのさえ困難を極め、シャオたちのサポートでなんとか勝利を収めた。

 そして、魔王城の封印が解けたことで、魔王城の封印も解けたはずだ。

 

 王様に頼み、国の兵士を動かすことにする。

 魔王城にはモンスターが溢れ、どうしてもボクたちだけでは相手が出来ない。

 なので、国の兵士たちにモンスターを引きつけてもらい、ボクたち勇者パーティーが魔王と一騎打ちで倒すというシンプルな作戦だった。


 それから決戦の日まで、シャオたちと鋭気を養う。

 王になったら新しい妃を探しておこうと決意し、最後の最後までたっぷりと味わった。


 そして決戦の日。

 国民を集め、決起の挨拶をボクがする事になった。

 たっぷり休んだし、身体の調子もバッチリだ。

 

 出兵のため、騎士団と王国兵と志願兵が城の前の広場に集まる。

 ボクたちは城のバルコニーで、国民を前に演説した。


 『諸君!! これより王国軍は魔王城に向けて進軍する。そして、ボクがこの手で魔王を討ち取る!!」


 我ながら絶好調だ。

 未来の王の姿を見せつける。


  『魔王を倒したら、ボクはこの国のため、そして彼女たちのために出来る事を考えた。それは……、この国の王になること。そして、彼女たち4人を妻に迎え、この国のために生涯を捧げようと思う!!」


 ま、ウソでもそう言っておかないとな。

 シャオたちは名誉の戦死を遂げる予定だ。


 

 『アタシは、ユウヤに出会って変わった……、強くなれた。だから愛するユウヤと一緒に、命を掛けて戦い、共にある事を誓う!!』


 『あ、あたしも~っ!! ユウヤがだ~い好きっ!!』


 『私もです。ユウヤさんのために戦います!!』


 『私の想いは、ユウヤさんと共にあります。戦う力がなくても、心は傍に』



 くっさいセリフだ。鳥肌が立つ。

 まぁ、抱き心地は悪くなかったし、そこそこ楽しかった。

 最後に、ボクは何とか聖剣を抜いて国民に見せつけるように掲げた。



 「……っ!?」



 今までにない痛みが、聖剣を伝わってボクに襲い掛かった。



 **********************

 


 ボクは、この世界に来て勇者だって言われてた。

 現に8匹の龍だって倒したし、聖剣は黄金に輝いていた。

 だけど、どうして……どうしてなんだ?


 「くそ、何で、何でだよ!! なんで聖剣がこんなに重いんだ!!」

 「落ち着いてユウヤ、このままじゃ」

 「黙れ!!」


 剣が鉄の塊のように重かった。

 刀身は黒く錆び付き、柄からは高圧電流が流れてる。

 剣を離さなかったのは、ボクの意地だ。


 勇者親衛隊とかいう連中は皆殺しにされ、シャオたちがボクを守る。

 だけど、少しずつ押されていった。

 

 「ゆ、勇者様は何を!? どうして戦わないんだ!!」

 「おい、聖剣の色が黒くなってる……、どういうことだ」

 「ま、まさか、勇者ユウヤは……」

 

 そんな声が聞こえ、ボクは初めて気が付いた。

 後方でモンスターと戦っていた兵士たちが集まってる。

 そして、その中心にいるのが、あのアークだった。


 『ハハハハハハッ!! 愚かな人間たちよ、このような偽りの勇者で、本当に我を倒せると思ったか!!』


 偽りの勇者。

 薄々気が付いていた。もしかしてボクは勇者じゃ無いのでは、と。

 よりにもよって魔王に指摘され、ボクの目から涙が零れた。


 「い、偽りの勇者って……、どういうこと!?」

 「そ、そんなわけないよ~!! ユウヤは聖剣に選ばれた勇者なんだから~!!」

 「皆さん!! 魔王の言葉に耳を傾けてはいけません!!」

 「ユウヤさん、早く魔王を……」


 なんでだ、なんでこうなった。

 このままじゃマズい。殺される。


 「う、うぅぅ……、うぁぁ……!!」


 ボクは勇者。

 この物語の主人公。

 魔王をやっつける、みんなのヒーロー。

 

 これこそボクが望んでたスリル。

 この状況から逆転して、ボクはホントの勇者になる。

 さぁ聖剣よ。ボクにチカラを。



 「ぼ、ボクは勇者なんだ!! 選ばれた勇者なんだ!! 女神に愛された、聖剣の使い手の、ゆ、ゆ……勇者なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」



 さぁ、聖剣よ。ボクニ……チカラヲ……!!



 『下らん。偽りに相応しい愚かな人間よ』











 ………ナニカガ、ボクノナカデ、クダケチッタ。



 **********************

 


 アレ、ココハドコ?



 「ほにゃらげ?……ふげげ?」



 クライ……マルデ、ロウゴク?



 「哀れだ、実に哀れだ……。こんな姿になって……」

 「団長、元勇者はもう……」

 「ああ。精神が崩壊してる。魔術でも薬でも治らん、勇者アークの慈悲により、誇り高き英雄として終わらせる」

 


 ユウシャ…………アーク?



 「ふがぎゃぎゃ!? ほぎゃぎゃーーっ!!」



 ユウシャハ………ボク、ダ!!



 「押さえろ、一撃で終わらせる」

 「は」



 イヤダ、イヤダ、イヤダ……。



 「さらばだ、元勇者ユウヤよ。8龍を屠りし貴殿は、確かに勇者であった」











 ア…………。



 **********************




 ブルム王国王都ファビヨン。

 王家の人間しか知らない地下の墓地。

 そこに、1人の人間が眠っている。


 決して語られる事なく、偽りの勇者と呼ばれた異世界の人間。

 8龍を屠りし英雄として、その名は墓石に刻まれる。


 


 偽りの勇者ユウヤここに眠る──────

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