12・後始末


 地上に戻った俺は鎧を解除する。

 すると、名も知らぬ副官が装飾の施された鞘を差し出した。

 どうやらユウヤが投げ捨てた鞘を拾って持ってきたらしい。


 「どうぞ、勇者様」

 「ありがとう」


 アンフィスバエナを鞘に収め、愛用してた鉄の剣を副官に渡し、周囲を見渡す。

 どうやら満場一致で俺の指示待ちらしい。よし、やってやるか。


 「まずは負傷兵の手当を。それから動かせそうな者から近くの町へ移動、それ以外は仲間を弔ってやってくれ。くれぐれも丁重に。それと、|元(・)勇者とその妃たちは優先して手当してやってくれ」

 「は、畏まりました」

 「あと、騎士団と志願兵たちのリーダーを集めてくれ、話がしたい」

 「は、畏まりました」


 実は出兵までの1週間、俺は自宅でできる限りの勉強をしていた。

 こんな時のために。……大成功だぜ。

 

 そして騎士団長と志願兵・王国兵士のリーダーが俺の側に来た。

 全員が40過ぎのオッサンで、兜を脱いで俺に跪いた。


 「勇者アーク殿。お見事でした」

 「まさか志願兵の中に真の勇者がいたとは。気が付きませんでした」

 「いやはは、参ったな。こんなの見せられちゃたまんねーぜ」


 志願兵のオッサンはどうやら傭兵ギルドの長らしい。

 砕けた言葉遣いに王国兵士と騎士団が反応したが、とりあえず矛を収めてもらい、これからの話を……。


 「あ」

 「アレは、元勇者ですな」

 「どうやら、魔王と対峙したショックで呪われたようです」

 「あちゃー、可哀想だが、もうダメだな」


 担架で運ばれるのは、元勇者ユウヤだった。

 その有様は、余りにもヒドく憐れだった。



 「うにゃうぽぼ? おぼろべべにゅあ!?……ほげげーー?」



 意味不明な言葉を紡ぎ、大便と小便を漏らしている。

 首はガクガク動き、眼球はグルングルン回り、鼻水とヨダレ、涙を流しながらひたすら狂っていた。

 どうやら暴れるらしく、両腕を失っているが担架にベルトでがっちり固定され運ばれていく。


 「もうダメだな……」


 俺は呟く。

 あれがユノが言っていた「ばぐ」だろうか?

 思考や運動能力に障害って言ってたけどありゃヒドすぎる。俺なら死ぬね。


 そして、担架で運ばれる勇者の妃たち。

 俺の近くを通過していくが、元勇者の介護要員に興味はない。

 それに、どうやら気を失ってるらしい。


 「では勇者様、これからのことですが」

 「はい。まずは仲間を弔ってご家族に報告と返還を。戦死者の家族にはたっぷり見舞金を支払って下さい。そして動けない重傷者はここでできる限り治療して、動けるようになったら王都か近隣の町まで運んで下さい。作業が終わったら王都へ帰還します。えっと、間違いがあったら指摘をお願いします」

 「いえ、完璧です。強いて挙げるなら、勇者様には一刻も早く帰還して頂きたい。王への報告もありますし、魔王討伐の凱旋式も行わなければ」

 「いや、怪我人や負傷した人達を放ってはおけません。俺は最後でいいです」

 「し、しかし」

 「とにかく、まずは仲間を弔いましょう」

 「そ、それは兵士の仕事です!! 勇者様がやることでは……」

 「それは違います。国のため家族のために命を掛けて戦った彼らこそ、真の勇者だと俺は思います。俺はただ聖剣に選ばれて魔王を倒しただけですから」

 

 ちょっとカッコ付けすぎたかな。

 騎士団長も王国兵の団長も驚いてるし。

 ギルド長はヒュゥと口笛を鳴らした。


 「その謙虚で思いやりのある振る舞い……感服いたしました」

 「へっ、じゃあオレもやるか。おい勇者様よ、仲間を早く弔ってやろうぜ」

 「はい!!」



 ギルド長に肩を叩かれ、俺は仲間の弔いに向かった。



 **********************



 幸いなことに、被害者は全体の2割もいなかった。

 遺体を布で包み、名札を付けて馬車に積み込み、順に王都へ運ぶ。

 家族に報告し、そのまま墓地へ埋葬する。

 兵士たちは順に王都へ帰還し、それぞれに報奨金がたっぷりと支払われた。


 俺は自分で言った通り、最後に帰還した。

 騎士団長やギルド長は多忙だったので、先に王都へ帰還して、その後の指揮を取ってもらっている。


 俺が王都へ帰還したのは、魔王討伐から7日後。

 まず俺が向かったのは、家族のところだった。

 

 ビビったのは、国へ帰還したとたん国民から熱狂的な声援を浴びたことだ。正直かなり恥ずかしかった。

 そのまま王城へ向かい、すぐにUターン。

 人目を避けて自宅へ向かう。

 一緒に来た騎士団たちは、まず王様にと言っていたが、家族に無事を知らせてからすぐに戻ると言って出てきた。追っかけられたけど、勇者の身体能力なら撒くのは容易い。

 そして、自宅に入るなり親父たちは驚いていた。


 「おお、アーク。お前ってヤツは······」

 「アーク、素晴らしい子よ。まさか貴方が真の勇者だったなんて······」

 「親父、母さん、ただいま」


 俺は2人と包容し、事実を少し脚色して話した。

 勇者は勇者の資格を失い、魔王の呪いを受けて再起不能。次に選ばれた勇者の俺が魔王を屠った。まぁそんな感じでいいだろ。


 「よくやった。お前はオレの誇りだ」

 「本当にそうね。でも、こんなところへ来ていいの?」

 「あー、実は帰って来たばかりでさ、最初は城へ向かったんだけど、抜け出して来ちゃった」

 

 あははと笑い言うと、2人は驚いていた。

 王様に失礼があっては行けない、すぐに戻れとか言われちゃったよ。

 確かにそうかもだけど、俺としては親父たちも王様と変わらないくらい大事なんだよな。

 

 「あ、あの。······ローラは?」

 「え、帰って来てないの? 1週間も前に王都へ帰ってるはずだけど」

 「······ええ、見てないわ」

 

 母さんは悲痛な表情を浮かべる。

 正直どうでも良かったが、この表情は見たくない。


 「わかった、見かけたら帰るように言うよ。それとそろそろ行く。また来るから美味いモン用意しといて」

 「ふふ、わかったわ。アークの大好物を用意しとくわね」

 「あんまムリするな、また来いよ‼」

 「当たり前だろ、ここは俺の家だしな‼」


 家を出て、シャオとフィオーレの家にも挨拶に行く。

 案の定、奴らは帰っていないようだ。


  

 俺は再び、城へ向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る