13ー1・さらばユウヤ

 

 城へ帰った俺は、今度は連行されて謁見の間へ。

 謁見の間は王様と王妃様が並んで座っていた。

 何故か疲れたような顔をしてる。なんだろう?


 俺は跪き、腰に差した『聖剣アンフィスバエナ』を地面に置く。

 

 「顔を上げよ、真なる勇者よ」


 低いダークボイス。 

 王様は歳を重ねたナイスミドルで、お声もステキだった。


 ……あれ、よく見たらシャオたちが壁際に並んで立ってる。

 怪我らしい怪我はしてるようには見えない。

 

 だけど、俺を見る視線は真っ直ぐだった。

 ふん。妙な期待を込めた目で見るんじゃねぇよ。

 俺は顔を上げて王様と向きあう。


 「勇者アーク。此度は魔王討伐ご苦労であった。報告にはあったが、そなたに直接聞きたいことがいくつかあるのだ」

 「はい、何なりと」


 よし。こんな時のためのシナリオも出来上がってる。

 まさか《女神アスタルテ》が地上に降りて、俺とユウヤのスキルを入れ替えたなんて言っても信じてもらえないだろうしね。


 「まず、《勇者》とは何だ? 魔王の話では、勇者ユウヤは偽者ということだが」

 「はい。実は《女神アスタルテ》から神託がございました。本来は《勇者》のスキルは私の物になるはずでしたが、異世界召喚の儀式により現れたユウヤが、そのスキルを継承してしまったということです。もちろん、本来の所有者ではないユウヤに勇者の力は扱えず、徐々に力を失ったと言うことであります」

 「なんと······⁉」


 王様もびっくり仰天だ。

 王妃様もシャオたちも驚いてる。いい気味だぜ。


 「その証拠に、勇者のスキルである『|聖鎧化(せいがいか)』をユウヤは扱えません。私が勇者である証拠でもあります」


 俺は立ち上がり、アンフィスバエナの力を開放する。

 黄金の全身鎧を纏い、背中には天使の翼が広がった。


 「お、おぉぉ‼ これこそ勇者の姿‼ 伝承に存在した黄金の騎士······‼」


 王様が立ち上がり感動してる。

 目にはうっすら涙が······どんだけー。


 俺は鎧を解除し、再び跪く。


 「勇者アークよ。貴殿こそ真の勇者である‼」

 「ありがとうございます。光栄でございます」

 「······して、元勇者ユウヤの処遇だが」


 シャオたちの身体が、面白いように跳ねた。


 「魔王の呪いだろうか言動は支離滅裂、薬や魔術は一切効かぬし、所構わず粗相をする。しかも暴れまわるから地下の牢獄で拘束しているが。どうしようかの?」


 あんだけパーならもう始末したほうがいい。

 生き地獄を味わうのも面白そうだけど、思考が正常じゃないならぶん殴っても嗤ってそうだ。

 復讐するにしても言葉も通じなさそうだしな。少し悔やまれる。


 勇者の力を返して貰った時点でもう用は無い。

 まぁ感謝してる事もあるし、それっぽく言ってみよう。


 「……お言葉ながら、勇者ユウヤはある意味被害者であります。異世界へ連れてこられ、本心でなく勇者のスキルを与えられ、言われるがまま戦いそして倒れた。勇者として誇り高く戦った戦士として、ここは決断すべきかと」

 「……決断、とは?」

 「両腕を失った今、補助なしでは生きられない身体。しかも勇者という立場であった以上、表に出す訳にも行きますまい。なら、誇り高い死を与えるか、このまま地下で狂い死にするまで生かすか······」

 

 ここまで言ったのに、シャオたちからは何もない。

 少しはユウヤを養護するかと思ったけど、それもなかった。

 俺としてはこのまま生かして、シャオたちに死ぬまで介護させてもいいと思ったけどな。

 この采配は、俺からの慈悲だ。


 「勇者アークよ。貴殿の意見はわかった。確かに、勇者ユウヤは国のためを思い戦ったのは事実。天の《女神アスタルテ》の元へ送り、地上のブルム王国でその勇姿を讃えよう」


 おいふざけんな、ユウヤが行くのは地獄だ。

 ユノの元になんか行かせてやるかクソッたれ。

 処刑するなら俺の手でやってやるよ。


 「さて、勇者アークよ。魔王討伐の祝賀会を開催しようと思う。出席してくれるな?」

 「はい。ありがとうございます」

 「それと褒美を出そう。望むものはあるか?」

 「······では、領土を頂ければと」

 「ほう? どこだ?」

 「緑龍の巣の近くにある小さな森です。その森を私の領地として管理させて頂けないでしょうか」


 ユノを埋葬した森。

 出来ることなら、森を整備して立派な墓を建てたい。

 

 「ふむ、そんな場所でよいのか? 望むなら王の椅子でも構わんぞ?」

 「い、いえ、流石にそれは······」

 「ハッハッハ。この話はまた今度だ。聞いた通りの謙虚さだな」

 

 また今度って、おい。

 まぁそんな予感はしてたけどな。

 そして、ついに来た。



 「では、勇者パーティー、彼女たちは如何する?」



 ********************

 


 コイツらの立場は勇者ユウヤの妃たち。

 しかも、国民の前であれだけ存在をアピールした。


 現に、城下町ではシャオたちの噂が広がっていた。

 元勇者ユウヤの妃、ニセ勇者の妃、勇者パーティーの英雄など。

 妃云々は置いても、シャオたちの戦闘能力の高さは国中が知っている。


 本来なら、多額の報奨金を与えて、これからも国の為に尽くしてくれとお願いすることであろう。

 ユウヤが死んだ今、俺の嫁にしろ言う可能性もあるかもしれない。


 だが、俺は赦さない。

 期待の籠もった目で見るコイツらに、慈悲を与えない。

 俺とシャオたちの全てが壊れ狂った今に、未来なんて無い。


 ユノ、これが俺の判断だ。

 俺はシャオたちを信じるよ。

 俺がする決断を受け入れてくれるって。


 これが俺の選択だ。

 

 「勇者パーティーは、それぞれが伝説級のスキルを持つ一騎当千の戦士。このまま城で召し抱え、それぞれの戦場で活躍してもらうのが宜しいかと」

 

 シャオたちは、まっすぐ俺を見ていた。

 目は見開かれ、驚きに満ちていた。

 目が覚めるの意味は結局わからない。もしかしてユウヤという酒に酔っていたとか、そういう意味なのかもしれない。

 

 目が覚めただろうけど、俺はとっくに冷めている。

 これからの俺の未来に、シャオたちはいない。

 だから、生かしつつ殺してやる。

 これが俺の復讐だ。

 

 「ほう、戦場とな?」

 「はい。魔王は討伐されましたが、まだまだモンスターは溢れています。それに、龍が住んでいた巣には、危険なモンスターも集まっていると聞きます。彼女たちの力が役に立つでしょう」

 

 そう。龍の住んでいた巣には、危険なモンスターが集まってる。

 俺たちが龍を倒したあと、ワラワラと集まってきたが、俺たちは龍退治を優先したので、王国兵士たちに任せていたのだ。

 旅の途中でも聞いたが、けっこうな被害が出てるらしい。


 「……そうですね。斬姫王シャオなど、モンスターが多い魔王城周辺に配属するのはどうでしょう? あそこは魔王が暴れた影響か、モンスターが多い地域でありますし」

 「う、うむ。そうだな」


 あそこは現在、大型モンスターの巣になってる。

 俺がいたからモンスターは集まらなかったが、俺が国に帰還した途端にモンスターが集まりだしたそうだ。

 シャオなら戦えるだろうな。何だかんだで強いし。


 「そして、魔術師ローラは多彩な魔術を操ることが出来ますので、8龍の住処に現れる魔獣退治を専門に、各地で要請があれば派遣しましょう。それ以外では城で魔術師の指導をさせるのはいかがでしょうか?」

 「そ、そうだな。いい案だ」


 ローラはいろんな属性を操れる魔術師だ。

 それぞれの特性に合った魔術でモンスターを倒せるだろう。

 頭もいいし、兵士たちのサポートにうってつけだ。

 ま、精々頑張れや。


 「弓士ファノンは……そうですね、白龍の巣に送りましょう。あそこはワイバーンの住処が多いので、弓を操る彼女の腕は絶対に役立ちます」

 「う、む」


 白龍の巣はワイバーンという中型の飛行モンスターの巣になってると聞いた。

 白龍自体は勇者の黄金のオーラで両断したけど、ワイバーンはシカトして帰ってきたからな。

 白龍が居なくなって、ワイバーンは激的に増えてるらしいし、遠距離狙撃で使えるファノンにうってつけの舞台だ。


 「最後に、薬師フィオーレは軍医として疫病の多い地域や各地の防衛基地に配属させましょう。きっと素晴らしい活躍が出来る事でしょうね」

 「………わかった」


 特に、黒龍の巣の近くにあった集落は、疫病に悩まされていた。黒龍は毒を操る龍だったからか、その影響だろう。

 シャオたちは町に入ることすらせず、買い物を俺に任せて離れた場所で野営をしてやがった。

 ユノは病で苦しむ人たちを見て、悲痛な表情だったのを覚えてる。


 ここまで言うと、シャオたちは青を通り越して真っ白な顔をしていた。

 何を期待してたのかは知らんが、まさか俺に何かを期待してたのか?

 王様がシャオたちを見て確認する。


 「と、言うわけだが……勇者パーティーよ、国のために頼むぞ」


 これが俺の制裁だ。

 赦すことはない。俺の傍に来ることも許さない。

 その力を持って、死ぬまで戦ってろ。


 王様はシャオたちが断るとは考えていない。

 そりゃそうだ。婚約者のユウヤがダメになったからって、じゃあ平民に戻りますなんて都合のいいことは赦されない。

 

 俺は間違いなく無表情だった。

 シャオたちに情は無い。他人の視線で見た。

 

 「あ、アーク、その」

 「あの、アーク……」

 「に、にいさ……」

 「アーク、くん……」

 

 完全無視。俺は王様に言う。


 「元勇者ユウヤは、私が地獄……いえ、《女神アスタルテ》の元へ送らせていただきます。共に旅をした仲間として、友として、この手で終わらせて頂きます」

 「……うむ。わかった」


 王様は騎士の1人を呼び、何かを呟く。

 そしてその騎士が俺の元に来ると、敬礼した。


 「地下牢へご案内します。こちらです」


 俺は騎士に案内され謁見の間を出ようとした。

 すると、4人が王様の許可をもらい、俺の傍へ。


 「あ、アーク。アタシたち、その、謝りたいの」

 「いいよ別に。それより一緒に来るか? これからユウヤの処刑だ。シャオは危険モンスターの巣に行くし、後を追わないように気を付けろよ?」

 「に、兄さん。その、私……間違ってました」

 「そうか。じゃあ頑張れよ。これから忙しくなるからな。ちゃんと母さんに挨拶して行けよ? これから国中の危険地帯に行くんだからな」

 「あ、アーク、アークはどうするの……わたし、その」

 「俺は領土を貰ってのんびりするかなぁ。それよりファノン、ワイバーンは肉食だから食われるなよ?」

 「アークくん、私はその、ユウヤのことは」

 「フィオーレ姉さん、疫病には気を付けてね。まぁスキルがあれば解毒剤は作れるから死にはしないだろうけど」

 

 俺はシャオたちに笑顔で答えた。

 シャオたちを見たが、全員がガックリと項垂れていた。

 自分たちのしたことを悔やみ、もう戻れないことを嘆きつつ残りの人生を生きていけ。



 ざまぁみやがれ。せいぜい楽しくやれ。



 ********************



 騎士に案内された地下牢は、石造りに頑丈な鉄格子が設置された、ザ・地下牢って感じの場所だった。

 その地下牢の最奥地に、大きな鉄の扉が見える。


 騎士が看守に指示し、鍵を開ける。

 重たそうな鉄の扉がゆっくり開かれ、そこにヤツはいた。


 「ぷぎゅ? ぷぎゅぎゅ……ぶぐぃーーーっ!!」


 臭い。

 十字架に張り付けられ、クソと小便を垂れ流してる。

 目はグルグル、ヨダレはだらだら、鼻水に涙を流したヤバい奴がそこにいた。

 そして、なぜかボコボコに殴られた後があった。


 俺は看守と騎士にお願いする。


 「……あの、2人にしてください」

 「え、し、しかし……」

 「お願いします」


 俺の表情で何かを悟ったのか、騎士と看守は出て行った。

 重い扉も閉められ、密室に2人……だが、クセェ!!

 クソ。っていうかホントにクソったれだな。


 「よう、気分はどうだ」

 「ぶきゅぶきゅ?」

 「そうか。最高か」


 ダメだ。言葉が通じない。

 もういいや、勝手に言わせて貰おう。


 「ユウヤ、元はと言えば全ての原因は城の連中にある。お前を呼び出したりしなければ、こんなことにはならなかった。だけど、お前がシャオたちに目を付けなければ、こんなことには……」


 もう遅い。

 でも、1つだけ感謝してることがある。


 「それでも、ユノに会わせてくれたことは感謝してる。勇者のスキルを移し替えるために、いずれは俺に接触してただろうけど、あの時からユノに出会わなかったら、俺はここまでやってこれなかった」


 俺はアンフィスバエナを抜く。

 シャオたちを寝取られたこと、そしてユノを見捨てたことは許せない。

 だけど、ユノとの出会いをくれたのはユウヤだ。


 そう考えて剣を構えると、不思議と憎しみが薄らいだ。



 「さようならユウヤ、死んだらユノの所じゃない、故郷に帰れるといいな……」



 俺は剣を振り、ユウヤの首を切断した。

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