終1・物語は続く、未来へ向かって

 

 祝賀会の当日。

 城のメイドが部屋に訪問し、祝賀会用の衣装を着ることに。

 メイドが部屋にやってきて少し緊張したが、やって来たのは恰幅のいいメイド長と、その補佐のおばさんメイドだった。現実は甘くないぜ。


 おばちゃんメイドが数人がかりで俺を着替えさせられる。

 そして準備が整うとカッコいい服を着たイケメン騎士に連れられいざ会場へ。

 すると、大勢の拍手で迎えられた。


 「勇者アーク、ばんざーい!!」

 「ばんざーい!!」

 「真の勇者アークだ!!」

 「おぉ、あれが『聖剣アンフィスバエナ』か!!」


 正直はずかしい。平民ナメんなよ?

 そして祝賀会が始まり、俺は貴族たちに囲まれ挨拶を受けた。

 挨拶をしてくる貴族たちは何故か「家の娘です。ぜひともご贔屓に」に的な物が多かったが、わからなくもない。だって勇者だしね。


 無難に挨拶し、豪華な料理に舌鼓を打つ。

 だけど、ユノの作った料理の方が100倍は美味い。

 

 そして、シャオたちが居ることに気が付いた。

 全員が華やかなドレスを着ているが、俺にはちっとも眩しく映らない。

 元勇者ユウヤの妃だからか、それとも8龍を屠った勇者パーティーだからか、意外なことに男に囲まれていた。

 聞こえてくる話の内容からするに、貴族に嫁がないか的な話が多かった。

 


 ま、どうでもいい。どーせ俺には関係ない。 



 チラチラ俺を見る視線は完全無視。

 俺たちの関係は、もう完全に終了した。

 俺は王様に挨拶する。


 「楽しんでいるか、勇者アーク」

 「はい。とても」


 王様は酒も入っているのか機嫌がいい。

 王妃様もニコニコしていた。


 「貴殿の望む土地だが、個人で所有するより、貴族として周辺の地域ごと治めて欲しいのだが、どうだ?」

 「貴族、ですか?」

 「ああ。勇者となれば、平民としての暮らしをさせるわけにもいかん。貴族として町を治め、ゆくゆくは王としてこの国を治めて欲しい」

 「王……」

 「もちろんすぐではない。私もまだ現役の王だからな」

 「………わかりました。王になるかは分かりませんが、貴族として、領主として、あの地域を所有させて頂きます」


 まぁ仕方ない。

 たぶん、「個人じゃダメ、領主になって周りの町ごとくれてやる。その代わりいつか王様になれよ」……ってことだよな。

 ま、これでユノの墓を守れるんなら仕方ないな。


 

 こうして、シャオたちとは一言も話さず祝賀会は終わった。



 **********************



 それから暫くして、シャオたちは俺の希望通りに各地へ配属された。


 結局、最後までアイツらとは顔を合わせなかった。

 正直どうでもよかったし、もう会うこともないだろう。

 

 その後、俺はユノの墓がある周辺の土地を管理する貴族になり、緑龍の住処の近くにある町に屋敷を構えた。

 墓を立派に建て直し、森をキレイに整備して《ユノの森》と名付けた。



 それから月日は流れ、俺が領主となって1年が経過した。



 勇者の治める町ということで、移住希望が殺到した。

 町は中規模の町だったが、どんどん拡張が始まり、町は日々成長してる。 

 それと、屋敷には親父と母さんも呼んで、一緒に暮らしてる。

 母さんもローラのことは吹っ切れたのか、毎日楽しそうだ。


 それからさらに1年後、風の噂に聞いた話だ。

 元勇者の妃たちは、それぞれの地域で大活躍してる。


 シャオは斬姫王シャオとして活躍。大型モンスターとの戦いで右腕と右足を失い、モンスターのブレスで全身を焼かれたらしい。

 なんとか一命を取り留めたがそれでも戦うことを辞めず、まるで赦しを乞うように大太刀を振るい続ける姿から味方からも恐れられてるそうだ。

 焼け爛れた身体に消失した右腕、鉄の義足を履いて残った左腕で大太刀を振るう姿は、その風貌からモンスターに間違われることも暫しあるそうだ。


 ローラは、魔術を駆使してモンスターが発生しやすい8龍の巣を回り、そこに現れる危険なモンスターを退治して回ってる。

 強力な魔術の使いすぎで10代で髪は真っ白になり、風貌も老婆のような姿になったらしい。

 影で女を捨てた魔術師として指差されているが、それでも要請があればどこへでも行くそうだ。

 悩みの種は腰痛だとか。


 ファノンは、ワイバーンとの戦闘で両足を食いちぎられ、車椅子性活を余儀なくされた。

 しかし、スキルのおかげで弓の腕は変わらないので、遠距離からの狙撃要因として活躍を続けてる。

 感情が無くなった人形みたいな狙撃手と言われ、誰にも心を開かない冷血感と言われてるそうだ。

 話しかけると死んだような目で睨まれるらしい。


 フィオーレは疫病の蔓延る農村や負傷兵の多い砦の衛生兵として活躍してる。

 疫病に冒され血反吐を吐きながら薬を作り、毎日が地獄らしい。

 それでもスキルのおかげで辛うじて死ぬコトはなく、薬で延命治療してるらしい。

 疫病に冒され皮膚や髪はボロボロになり、かつての美貌は既に消え失せているらしい。

 

 これは未来の話だが、全員が生涯独身を貫いたそうだ。

 ま、もう会うことはない。噂で聞くまで存在も忘れてたしな。



 そして………。

 


 **********************



 俺は1人、《ユノの森》に来ていた。

 貴族になって2年。18歳になった。


 「ユノ、今日は王都から来た貴族が挨拶に来たんだ」


 俺はユノの墓を磨く。

 貴族になって初めてしたことは、この森と墓の整備。

 立派な墓石を置き、森の手入れをした。


 おかげで、森には明るい日が差し込み、墓の周りは明るく照らされている。

 たくさんの花を植た。ユノが淋しくないように。

 ここにユノは居ないけど、ユノが生きた証が眠ってる。

 ユノは今頃何をしてるだろうか。俺の声が届いてるといいな。


 「………ユノ、俺さ、毎日が忙しいよ。貴族になって知ったけど、他の貴族って意外と気さくなんだ。それで…………ん?」


 誰か、人の気配がした。

 この森は立入禁止にしてあるから、人は来ないはず。

 森の入口に、立入禁止の看板が設置してあるしな。


 「あ、あの、すみません。ここって立入禁止……ですよね?」

 「………え」


 そこに居たのは、同い年くらいの少女。

 俺の姿が見えたからか、立入禁止なのをわかって入ったのを謝っていた。

 その装いは旅人だろうか、この辺りでは見ない顔だ。


 「その、キレイな森だったから思わず……それに、不思議と落ち着くんです……」

 「………」


 その少女は、キレイな銀髪をしていた。

 柔らかく温かい笑みを浮かべて、俺を見た。

 ドクンと俺の心臓が跳ね、少女を見つめ返していた。


 少女は俺の後ろにある墓に気が付く。


 「それって……お墓、ですか?」

 「………ああ、俺の……大事な人なんだ」


 フワリと、森の中を風が舞う。

 まるで、この瞬間を狙っていたかのように。


 「わぁ……」

 「おぉ……」


 少女の銀髪がなびき、日の光を浴びてキラキラ光る。

 風が吹いたおかげで、咲き誇る花の花びらが舞う。

 

 流れる銀髪を少女は押さえ、花吹雪を見て微笑んだ。

 何故だろう、俺は聞かなくちゃいけない。絶対に。



 「俺はアーク………キミの名前は?」



 これは、きっと運命だ。

 俺はずっと諦めずに戦って来た。

 そして最後、俺はようやく勝利を掴み、未来を掴んだ。

 

 ユノ、俺はこれからも前に進む。

 シャオたちとは別れたけど、俺の人生は続く。

 



 「私ですか? 私は·········」


 


 俺の物語は、これからも続いていく。

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