【route 2】

13-2・さらばユウヤ


 城へ帰った俺は、今度は連行されて謁見の間へ。

 謁見の間は王様と王妃様が並んで座っていた。

 何故か疲れたような顔をしてる。なんだろう?


 俺は跪き、腰に差した『聖剣アンフィスバエナ』を地面に置く。

 

 「顔を上げよ、真なる勇者よ」


 低いダークボイス。 

 王様は歳を重ねたナイスミドルで、お声もステキだった。


 ……あれ、よく見たらシャオたちが壁際に並んで立ってる。

 怪我らしい怪我はしてるようには見えない。

 

 だけど、俺を見る視線は真っ直ぐだった。

 ふん。妙な期待を込めた目で見るんじゃねぇよ。


 俺は顔を上げて王様と向きあう。


 「勇者アーク。此度は魔王討伐ご苦労であった。報告にはあったが、そなたに直接聞きたいことがいくつかあるのだ」

 「はい、何なりと」


 よし。こんな時のためのシナリオも出来上がってる。

 まさか《女神アスタルテ》が地上に降りて、俺とユウヤのスキルを入れ替えたなんて言っても信じてもらえないだろうしね。


 「まず、《勇者》とは何だ? 魔王の話では、勇者ユウヤは偽者ということだが」

 「はい。実は《女神アスタルテ》から神託がございました。本来は《勇者》のスキルは私の物になるはずでしたが、異世界召喚の儀式により現れたユウヤが、そのスキルを継承してしまったということです。もちろん、本来の所有者ではないユウヤに勇者の力は扱えず、徐々に力を失ったと言うことであります」

 「なんと······⁉」


 王様もびっくり仰天だ。

 王妃様もシャオたちも驚いてる。いい気味だぜ。


 「その証拠に、勇者のスキルである『|聖鎧化(せいがいか)』をユウヤは扱えません。私が勇者である証拠でもあります」


 俺は立ち上がり、アンフィスバエナの力を開放する。

 黄金の全身鎧を纏い、背中には天使の翼が広がった。


 「お、おぉぉ‼ これこそ勇者の姿‼ 伝承に存在した黄金の騎士······‼」


 王様が立ち上がり感動してる。

 目にはうっすら涙が······どんだけー。


 俺は鎧を解除し、再び跪く。


 「勇者アークよ。貴殿こそ真の勇者である‼」

 「ありがとうございます。光栄でございます」

 「······して、元勇者ユウヤの処遇だが」


 シャオたちの身体が、面白いように跳ねた。


 「魔王の呪いだろうか言動は支離滅裂、薬や魔術は一切効かぬし、所構わず粗相をする。しかも暴れまわるから地下の牢獄で拘束しているが。どうしようかの?」


 あんだけパーならもう始末したほうがいい。

 生き地獄を味わうのも面白そうだけど、思考が正常じゃないならぶん殴っても嗤ってそうだ。

 復讐するにしても言葉も通じなさそうだしな。少し悔やまれる。


 勇者の力を返して貰った時点でもう用は無い。

 生かしておいても手が掛かるし、それっぽく言ってみよう。


 「……お言葉ながら、勇者ユウヤはある意味被害者であります。異世界へ連れてこられ、本心でなく勇者のスキルを与えられ、言われるがまま戦いそして倒れた。勇者として誇り高く戦った戦士として、ここは決断すべきかと」

 「……決断、とは?」

 「両腕を失った今、補助なしでは生きられない身体。しかも勇者という立場であった以上、表に出す訳にも行きますまい。なら、誇り高い死を与えるか、このまま地下で狂い死にするまで生かすか······」

 

 ここまで言ったのに、シャオたちからは何もない。

 少しはユウヤを養護するかと思ったけど、それもなかった。

 俺としてはこのまま生かして、シャオたちに死ぬまで介護させてもいいと思ったけどな。


 「勇者アークよ。貴殿の意見はわかった。確かに、勇者ユウヤは国のためを思い戦ったのは事実。天の《女神アスタルテ》の元へ送り、地上のブルム王国でその勇姿を讃えよう」


 おいふざけんな、ユウヤが行くのは地獄だ。

 ユノの元になんか行かせてやるかクソッたれ。

 


 【分岐・ルート2】**********************



 これは後日の話だ。

 ユウヤは秘密裏に、騎士団長自らユウヤの首を刎ねた。

 ユウヤは王族の墓地に埋葬され、8龍を屠った英雄として讃えられたそうな。



 とまあそんな後日談はどうでもいい。

 真の問題はここからだ。


 「さて、勇者アークよ。魔王討伐の祝賀会を開催しようと思う。出席してくれるな?」

 「はい。ありがとうございます」

 「それと褒美を出そう。望むものはあるか?」

 「······では、僅かで構わないので、領地を頂ければと」

 「ほう? どこだ?」

 「緑龍の巣の近くにある小さな森です。その森を私の領地として管理させて頂けないでしょうか」


 ユノを埋葬した森。

 出来ることなら、森を整備して立派な墓を建てたい。

 

 「ふむ、そんな場所でよいのか? 望むなら王の椅子でも構わんぞ?」

 「い、いえ、流石にそれは······」

 「ハッハッハ、この話はまた今度だ。聞いた通りの謙虚さだな」

 

 また今度って、おい。

 まぁそんな予感はしてたけどな。

 そして、ついに来た。



 「では、勇者パーティー、彼女たちは如何する?」



 **********************

 


 俺の答えは決まっていた。


 どうでもいい。つまり、勝手にしやがれ。

 俺は思いついたことを、適当に言い並べる。


 「勇者の妃と公言した以上彼女たちは既に未亡人という扱いでしょう。元勇者が居ない今、報奨金を支払い開放するのが宜しいかと」


 つまり、金をやるからさっさと城から出てけ。

 俺は一切シャオたちを見ずに淡々と告げる。


 「確かに。このまま勇者アークの妃にと考えたが……その考えはないのか?」

 

 当たり前だ。

 ユノを切り捨てたコイツらに情なんて………ない。

 シャオたちを信じろというユノの言葉。それだけは信じない。


 「あり得ません。斬姫王シャオとはかつて婚姻を約束した仲でしたが一方的に解消され、妹のファノンには拒絶、薬師フィオーレは私を道具扱いし、義妹のローラには兄妹ではないと突き放されました。正直な所、同じ空気を吸うのも嫌悪しております」


 シャオたちの顔が青くなる。

 当たり前だろうが。俺が勇者だからって擦り寄って来たら、俺は何をするかわからねーぞ。

 俺の怒気を感じたのか、王様は言う。


 「そ、そうか。では話は以上だ。祝賀会は豪勢に行うので2日後に行う。それまで王宮でくつろぐがよい」

 「お言葉ですが······実家に帰っても宜しいでしょうか。父母に報告したいことが山ほどありますので」

 「そうか、それもいいだろう。なら、2日後に使いを出す。それまでゆっくり休み、今後の事を考えるがよい」


 こうして俺は一礼し、謁見の間を後にした。

 最後までシャオたちに向くことなく、城を出ようと謁見の間出る。

 そして、騎士団長に話しかけられた。


 「勇者アーク、お話がございます」

 「……なんでしょうか」

 「はい。勇者パーティーの4人のことですが……」

 「結構です。その話に欠片の興味も沸きません」

 「い、いえ、大事なことなのであります。実は……」

 「ではまた。祝賀会の時に」


 俺を引き留める騎士団長を無視し、俺は城を出た。

 クソ、なんだよ。何が勇者パーティーだよ。

  

 途中、慣れ親しんだ町の人に囲まれたり、少年たちにからかわれ跪かれたりして遊びながら戻った。

 挨拶に行ったシャオとファノンの両親や、フィオーレの両親に頭を下げられたりしながら、ようやく実家に戻ってきた。


 親父は笑顔で迎え、母さんは涙を流して抱きしめてくれた。

 祝賀会のある日まで家にいると言ったら、すごく喜んでくれた。


 母さんが張り切って料理をしてる時、ドアが開く。


 「あ······その、ただいま帰りました」  



 1年ぶりに……ローラが帰って来た。

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